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勇者の血を継ぐ者  作者: エコマスク
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【457.5話】 リリア達とドトルとスタバ

鈍く光るバイザー付きのヘルメットを被っているが、顎髭の似合うがっしりとした骨格、厚いアーマー、逞しい腕。良く鍛えられた体型の持ち主の好青年の姿が形作られた。

ドトルがリリア達の前にボワっと現れた。


「あ、あなたが声の主… と、冒険者…」

ドトルは目を見開いたり細めたりして自分の姿と辺りを見比べる。

「長くこの状態を維持できるわけではありません。先ほども言ったようにあなたは既に、この地上にはいるべき存在ではなくなっているのです」アンは少し俯き、フードの先を直した。

「俺もゾンビになって彷徨ったのか… 死んだんだな… スタバ… いや、お、おれ…おれは誰か襲ったのか?殺したのか?…」ドトルは自分の墓標を振り返りながら言う。

「彷徨っていたあなたをここにいる冒険者と仲間達でここに葬りました。ブロンドの彼女が浄化と鎮魂を行ったのです」アンがアリスを指さす。

「あ…あぁ… そ、そうか… 迷惑かけた… あんた、名前は…」

ドトルが言いかけるのをアンが被せる。

「スタバですね。残念ながらここには眠っていないようです。お互いにそれだけの強い想いがあったなら、ここで鎮魂された時に一緒になっているでしょう」アン。

「そ、それじゃ…スタバは… スタバは実はそれほど俺を…」

ドトルが言いかけた言葉に今度はアンが少し顔をあげかけた…

「そ、そんなことないよ!スタバはあなたのこと」

突然リリアの大声が響き始めたが、もちろんアリスが全力でリリアを制している。

「リリア、話しをややこしくしない!村に返すわよ!」

ペコやコトロがいないせいか珍しくアリスが結構マジな表情になっていて、リリアも勢いにびっくりしている。

村長は目を丸くしてリリアとアリスとルナのやり取りを見ている。

「… コホン… そういう捕らえ方もあるのですが… 今回はそういうケースではなくて、おそらく彷徨ううちに離れ離れになったケースだと思いますよ。ご安心を…」アンが優しく言葉をドトルに投げかける。

「お、おう…そうか…そうだよな。俺とスタバは幼馴染で… 俺はずっとあいつの傍にいたんだ…最後まで手を握り合って…」

「その想いもあり、恐らく…彼女の方があなたより先に… 彼女もそんなに遠くにはいないと思います。あなたの想いの一部を強くします。少し時間がかかるかも知れませんが、彼女の方であなたを見つけてくれる可能性も… 少しの間時間をくださいね」

アンは言いながら翳した手を少し複雑に糸でも巻き取る様な仕草をしてから手に持っていたカバーのかかった大鎌を地面に捨てると両手で掲げるように天に翳す。

リリアは目を凝らすがアンの両掌の中になにかがあるように見える。


墓が、森が、草木が、風がざわめき始めた感じがする。

フクロウがなき止み、木霊が枝影に身を潜める時のような気配。

リリア達が息を潜めて見守っていると夜空に何か流れて来た。

多少彷徨いながらもアンを目指して浮遊してきている様子。

アンは黙って両手を掲げており、浮遊して来た何かが接近した瞬間、片手を素早く動かして絡めとったようだ。

「こ、これってアンはスタバを呼び寄せてるの?」リリアがアリスに聞く。

「神聖魔法には無いもの。恐らくドトルの想いを強くして見つけやすくしてる。ただ、スタバ以外の何かも呼び寄せるようね」アリスが呟く。

ちょっと間を置きながら断続的に何かがアンに向かって飛来し、アンはそのたびに片手で何かを絡めとる様でもあった。

「よくわからん何かって結構飛んでるのね」リリアは不安がっている。

アン以外の皆は同じような気持ちであろう。


アンが何回か同じ動作を繰り返した後。

少し光を帯びた浮遊が星空の元、アンに向かって飛んできた。

「あなたがスタバ?ドトルはこちらです」

アンは動かしかけた手を躊躇させると宙に言葉を投げかけながら接近してきた何かを優しく手の中に迎え入れた。

「ドトル、あなたのパートナー、スタバを見つけました。さぁ… 主よ、あなたの娘…力を…」

アンは言うと呪文を唱えて両手をドトルに翳す。


大気が凝縮されうように何かが集まり、やがて淡い光の形を纏った。


鈍く光るアーマー姿のドトルと、女性用の革の鎧に身を包んだ女冒険者が空中に姿を現した。

「スタバ!」

「ド、ドトル!本当にドトルね!よかった!会えた!」

「スタバ!よかったぁ!会えたな!俺は心配したんだぜ!」

「ドトルの方が大怪我だったじゃない、心配したのは私のほうよ」

二人は再会を喜んで歓喜していたが、ドトルはすぐに悲し気になった。

「っと言う事は…やっぱりおまえも… いつ…どこで…」ドトル。

「そうね…私もよ… ゾンビに群がられるあなたを防いで…必死に闘ったけど記憶があるのはその辺までよ。その後の事は分からないけど…しばらくはあなたの気配を追ってたの… でも、こうしているのだから私も、もうゾンビ等では…」スタバ。

「そうか…そうか… でも、自由にはなれたんだな… すまなかった、本当にすまなかった… いつでも俺がおまえを守ると約束したのに… 守ってやれなかったよ… 本当にすまなかった…許してくれ…」ドトルはボロボロと涙をこぼし始めた。

「何言ってるの!十分よ!あなたはいつでも私のために十分戦ってくれたわ。ここまで二人で冒険してこれたじゃない!」スタバが微笑む。

「あぁ…それともう一言謝らなければいけない、おまえにも、おまえの両親にも」

「うふふ、別にサントマーゼル港で寝坊して船を逃したことも、売春宿で遊んだことも、ウェイトレスのお尻を見ていたことも、酔っぱらって路銀を落としたこともぜんぜん怒ってないよ」スタバが微笑む。

「や!それは… ま、まぁそんなことも… いや!売春宿はつい断り切れなくて客引きの女に誘われて入ったけど、あれは本当にカウンターまでで、彼女の手を振り払って逃げるように出て来たんだ。そしたらたまたまおまえが店の前にいて…」

「うふふ、そういうことにしてあげるわよ。ってか何も問題無いわ。何も謝る必要はないのよ、ドトル」スタバが微笑む。

「いや、そうじゃないんだ… 俺、実はおまえを冒険に誘ったこと… 俺はやっぱりおまえを誘うべきじゃなかったんじゃないか… あのままおまえは伯爵家の倅と結ばれていた方が今頃幸せになれてたんじゃないかと…」

スタバの表情はドトルの言葉に少し目を丸くしたが、すぐに微笑みに戻る。

「そんなことを?私ね、村を通る商人や冒険者見ながらね、ずっと、ジッグ川のはるか先、ビッグパーム山脈を越えた遠い先の景色、色んな国、色んな人を見てみたいと思ってたの。ドトルが私を連れ出してくれて嬉しかった。ドトルと一緒に旅が出来て楽しかった。ドトルと色んな場所に行けて幸せだったわよ」スタバが微笑む。

「だ、だけど俺と一緒に村を逃げ出したばかりに苦労の連続ばかりだっただろう」

「ま、誰かさんの相変わらずの無計画、無謀ぶりには驚いたけどね。無事に私も冒険者資格をとって、ドトルと一緒にクエストしながら流浪の旅、とっても楽しかった!」

「俺は学がないから、学が無い代わりにおまえだけは守り抜くと誓ったのにそれさえも…」

「何言ってるの!剣の腕と生活力頭脳は最高だったじゃない!格好良かったわよ。酒場の大喧嘩なんか痺れちゃった。いつでも守ってくれてわ」スタバが微笑む。

「結局最後がこれじゅぁよぉ… これなら…こんな事なら、スタバはあのバカ息子と結婚したほうが、今頃は領主の奥様で… これじゃぁ、あんまりじゃないか…親元にも帰れない、どこかの草葉の陰で… こんなことなら俺なんかと一緒にならければ… 俺は後悔してる。おまえにも悪い事をしたと思っている。俺は思い上がっていたんだ。おまえには寝床さえ与えてやれない日々もあったんだ… 俺を信じてついてきたおまえにも、愛娘を俺に奪われた両親にも申し訳が立たねえ…」ドトルは泣いている。

「実はね、あの日、ドトルが夜中に家に来て連れ出される前に、すでに私は伯爵の息子とは結婚しないってきっぱり言ってたの。私は好きな幼馴染がいて、その人にもう決めているからその人以外とは絶対に結婚するつもりないって… お父さんも、お母さんも嬉しそうに頷いてくれていたわ。おまえが本当に好きな男と結婚するのが父さんと母さんの一番の幸せだって。それで手を引かれた瞬間決めたの!お父さんもお母さんも、きっと分かってくれるって!私の選択を喜んでくれるって!だってあれしか方法はなかったわ。ドトルが私を連れ出してくれたのよ!私を自由な世界に連れて行ってくれたの!」スタバが微笑む。

「そ、それなら…それなら、おまえは許してくれんだな?後悔してないんだな?貧乏冒険者生活しながら、橋の下で寝たり、魔物に怯えながら野宿した日々、汚い魔物の死骸からアイテムを拾集めた日々を… 後悔していないんだな」ドトルが涙を流す。

「うふ、ドトルは何もわかってないわね。その代わり二人で馬車に揺られてゴールドハーピィ山脈越えの景色を眺めたじゃない。初めて見た海の感動!帆船に乗ってみた陸上の街の景色!二人ともゲロゲロだったけどね。ロズデン卿城の城壁と跳ね橋、シルバーバレーから眺めた夕日、私にはすっごい想いでばかりよ!ドトルには感謝しかないわね」スタバが微笑む。

「本当に後悔してないんだな… おまえはいつでもそうだったな。守られていたのは俺の方だったかもしれない。感謝を伝えるべきは俺の方だ」

「二人でやってきたのよ。どっちがどれだけ守るとか…男って見栄っ張りよねぇ」スタバが笑う。

「だいぶ想いが解けてきたみたいですね。条理にはあまり逆らえないものです。そろそろお覚悟のほどを」アンが口を開いた。

「あぁ、ありがとう。思い残すことはない…っと言いたいところだが…」ドトルが言う。

「故郷に戻るということでしょうか?スタバの事でしょうか?骸を探して一緒に故郷へ戻りたいといったこてでしょうか?」アン。

「いや、俺とスタバの骨が一緒に故郷に戻ったことを知られたら… カフオレ村の皆に迷惑がかかるんじゃなかな… できれば一緒にいれれば良いけどな」

「こうして一緒に居れるなら、私の亡骸は無理に探さなくても良いわ。果てた地で土に還る。この人の手を取った時に覚悟をしていたの。山に囲まれた静かな土地じゃない、ゆっくり休めそうよ」

アンは二人の言葉を聞いて静かに頷く。

「それより、実はスタバの両親に結婚報告をいつかしようと誓っていたんだが… こういうことになってな…」

「私達このまま一緒に居れるのかしら?できればお父さんとお母さんに幸せな結婚ができた報告を…」

二人がアンを見つめる。

「… よろしいですわ。難しい事ではございません。監視を付けましょう。案内人ではないのでご自分達の意思でご両親の夢に繋がるようにしてください。故郷まで戻り、ご両親が眠りつけばやり方は自然にわかると思います… 普段は監視をする役割なので少し強面ですが…悪意のある存在からもあなた達を守ってくれるでしょう。付き添いを終えたら消滅します。くれぐれも寄り道をせず、今回の目的以外の事をせず、ご両親に報告をしたら進むべき方向が見えてきます。この地にとどまらずいくべき場所に旅立ってください」アンは静かに言うと呪文を唱えた。

「あぁ!皆ありがとう!俺達を救ってくれて!思い残すことは何もない。俺達はいつだって二人で全力でやってこれた。これからだって平気だよ」

「ありがとう!これからもずっと一緒ね。一時はどうなるかとおもったけど、うふ。さぁ、ご両親に結婚報告よ!あの夜、窓から連れ出してくれた時みたいに私の手を取って」

ドトルとスタバは手を携えて大気中に溶け込んでいく。

「あぁ!報告が終わって俺達の旅の終着点には、きっとまたあの連中が待ってるぜ!そしたらもう一度皆に結婚祝いをさせてやる。今度は俺が皆を酔い潰してやるぜ」

二人の笑い合う声と姿が夜空に遠ざかっていく。


「さようならぁ!!あたし!絶対スタバを見つける!スタバを見つけてここに二人で眠ってもらうから!」

リリアが大きな声を上げる。


『故郷に帰ろう』

あの山を越え

緑の森を抜け

青い小川を渡り

故郷に帰ろう

朝霧の畑

母の呼ぶ声

忘れたはずの匂いが

胸にしみる夜

懐かしい 私の故郷に帰ろう

名前を呼ばれた あの場所へ

剣を置き 鎧を脱ぎ

もう一度 愛する人に会うために

懐かしい 私の故郷に帰ろう


リリアが声を張り上げて歌うとアリスとルナもそれに続く。

冒険者達には欠かせない唄。


アンは静かに、村長は男泣きをしながら二人を見送っていた。


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