【448話】リリアは呼び込みたい
「お!来た来た!三両編成の馬車隊が来たよ。商人だね、商隊だよ」
リリアがゆるく曲がりくねる小路の先を指さしてニコニコと言う。
雑談をしていてリリア隊のメンバー、ティグレ隊のメンバーは皆顔を上げてリリアの指さす方向を見た。
森と草原のラインから馬車が抜け出てきてこちらに向かってきているのが見えた。
「本日最初の組が来たぜ」メンバーの誰かが背伸びをしながら言う。
リーヤ村の治安回復活動九日目
リーヤ村の周辺の魔物とゾンビ群を一掃。
その後リリア達はリーヤ村からプロセルの街に向かう道、海側、キシャス、ルーダ港から沿岸を回ってくる道からリーヤ村に入る分岐点まで、魔物を掃討して回った。
リーヤ村の周辺は安全になり、村外農場等に出られるようになったのだが、商人も旅人も全くと言って良い程、村を通過しなくなってしまった。
完全に危険で立ち寄れないと噂が立ってしまっているようだ。
特にゾンビやアンデッド群はゾンビ熱等を媒介して一晩にして大都市を死の街と化す脅威があり、王国では厳しく取り締まっている。
移動途中でゾンビ群に遭遇したと報告するだけで、魔導士の役人が呼ばれて徹底的に浄化の魔法をかけられ、調べを受ける場合も多々ある。
リーヤ村はゾンビ群に囲まれたと噂が立ち、人が近寄らなくなってしまったようだ。
リリア達はゾンビを一掃したのだが、村長に頼まれて、街道を徹底掃除して回った。
どの隊も大怪我や大事故をすることなく、任務を遂行できているのだが、肝心な商人達が全然村を訪れない。
取引はできず物品の不足が発生している。
宿屋の主人も完全にお手上げ状態だ。
リリア達は一隊は村の守備に残し、二隊は北側の街道の分岐、リリア達とティグレ隊は南側の街道の分岐でリーヤ村の治安回復を宣伝し、再び交易回復や旅行者に立ち寄ってもらうように声かけをすることになった。
正直、冒険者のやる事でもない気もするが、リーヤ村の活動は街からの依頼で結構良い日当になっている。
危険な地帯に踏み込んだり、命を晒して大型の魔物を退治することに比べたら、声掛けなどちょろい仕事であり、誰もリリア達の意見に反対する者もいなかった。
今朝からリリア隊とタイガーマンで構成されたティグレ隊でリーヤ盆地を出たところの三叉路でノンビリと往来街をしていた。
因みに今回の活動でリリア達はタイガーマンのティグレ隊か、オーガ、オークのディオログ隊と組むことが多い。
治癒術士が不足する中、魔力が使えない彼らをリリア隊はアリスとルナがサポートできる。
「お!来た来た!三両編成の馬車隊が来たよ。商人だね、商隊だよ」
リリアがゆるく曲がりくねる小路の先を指さしてニコニコと言う。
「一組目が来た」「やっと魔物以外にエンカウントできましたね」
皆馬車から出て来たり、草原から腰を上げる。
「ほらほら、皆愛想良く!バイヤーリ、あなた睨むと怖いから笑って、笑って」
リリアはニコニコしながらポンポンと手を叩いている。
商隊は接近してきたが、リリア達とある程度距離を詰めた場所で停車した。
そこからなかなか動き出さない。
「なんだよ、馬車が壊れたか?」
「なにチンタラしてやがる」
「早めのランチタイムでも始めたか?」
停車して動く様子の内商隊にタイガーマン達が言いたい放題。
「たぶん、こちらを警戒してしまってるようですよ」コトロが口を開く。
「それっぽいわね」アリスが微笑む。
「確かに、こんな場所で十人近い冒険者が屯していたら警戒されてもしかないかも」オフェリアが頷く。
「そっか… そうだね」リリアは皆を見回す。
草原のど真ん中の分岐点に馬車を停車させて、戦士や魔法使いがウロウロしているのだ、確かに警戒されても仕方がない。
「それなら… あしたとオフェリア、っとコトロで迎えにいってくるよ。皆ここで待っててね。ティグレ、顔が怖い、もっと愛想良く!ニコニコ!ニッコニコ!」
リリアは言うと商隊に向けて歩き始めた。
オフェリアを先頭にリリアとコトロが両手を振りながら商隊に接近すると案の定、向こうからも護衛が前面に出て来た。
はやり警戒されているようだ。
「おい!そこで止まれ!何者か!」
リリア達は言われるがままに足を止めて両手を振りながら大声で挨拶をする。
「今日もあなたに神のご加護がありますように!あたし達はプロセルの街から依頼されてこの先にあるリーヤ村で治安回復活動をしている冒険者よ。怪しいものではないの。この辺の魔物を掃除して回って往来の安全を確保しているの」
護衛達は顔を見合わせ馬車主たちと何か話し合っている。
「話はわかった。我々はパウロ・コートの街の商人ギルドに所属している者だ。ルーダ港からダニヤ王国のミンラディに向かっている。このまま進むから諸君はそのまま戻り、仲間達に道を空けるように伝えてくれ」
相手も理解は示してくれているが警戒を解くつもりはない様だ。
「大丈夫ですよ!あたし達はここを通る人達のために魔物を倒し、賊から交通の安全を守ってるの」リリアが言う。
「大丈夫って言われて素直に受け入れる人はいないわよ」オフェリアが苦笑いしている。
「わかった!ご苦労さん!だが余計な事はしてくれるな。我々の事は我々でやる。その先にいる連中を下がらせろ。これ以上は往来の妨害として後でプロセルの街に抗議を入れるぞ」護衛が言う。
「わかった!わかったわよ!でも、ちょっと聞きたいの?この先にリーヤ村ってあるの!最近まで魔物が多くて、商人が近寄らなくなっていて村の人が日用品に困っているの!安全になったから立ち寄って欲しいの!」リリアはニコニコと頼んでいる。
「リーヤ?ここから北の村だな。悪いがリーヤには行かない、俺達が向かうのは西だ、ダニヤの国境を越える」護衛。
「お願い!一泊でいいから立ち寄ってよ!緑に囲まれ静かで、空気は澄んで、水が綺麗、村の女子は愛想がいいわよ!それから…宿屋もある!村長さんは穏やかな人だし、村の人も協力的だし、とっても良い村だよ!」リリアが言う。
「要はどこにでもある特徴の無いド田舎の村なんだろう。こちらはこのまま西進する」
そこまで護衛が言うと操車席に座っていた商人が声をかけてきた。
「あなた達に利が巡りたることを!すまないな、我々の積み荷は雑貨ではない。今日中に国境を越えてダニヤ側の村に入らなければならないのだ、先を急ぐ。雑貨を積んで戻ることになったらリーヤ村に立ち寄ることを検討する、今は通してくれ」
「今日一泊で…」
コトロが言いかけるリリアの手を引く。
「あの様子では立ち寄りません。しつこくして印象を損ねても本末転倒ですよ。ここは安全に立ち寄れることだけ伝えて送り出しましょう」コトロが言う。
「うーん… しかたないかぁ… 戻ろうか…」
リリア達は仲間の場所に戻る。
「スケジュールがあって立ち寄れないみたいだよ。道を空けてくれって」リリアが仲間に説明する。
「馬車は道路脇にあるからこのままでいいだろう」ティグレ。
「そうだね、全員が道から離れればいいでしょ」
リリアは言うと、全員道から離れる。
商人達の馬車が早足でリリア達の前を通っていく。
「皆!ニコニコして!第一印象は大事だよ!ほら、ニコニコっと!ティグレ隊の皆!顔が怖い、笑って笑って!… リーヤ村はこの先の北の村です!とっても安全で静養できる静かな村です!特産品は… えー… ジャガイモの畑がいっぱいありました!今度は是非お立ち寄りを!」
リリアは通過する馬車にニコニコと手を振る。
馬車主たちも笑顔で手を振りつつも結構足早に通り過ぎて行った。
「あなた何を話してたの?メッチャ警戒されてたじゃん」ペコがリリアに言う。
「普通にリーヤ村に立ち寄ってくれって伝えただけだよ」リリア。
「リリアの話す内容ではなく、普通に警戒されますよ。あのままダニヤに向かうと言っていましたから」コトロが苦笑いしている。
馬車は小さくなり、やがて西側の森の中に消えて行った。
午後の日差しはだいぶ傾いている。
本日は最初の商隊の後はパラパラと旅人や商人が通ったが、誰もリーヤ村には立ち寄らなかった。
リーヤ村の治安が低下する前から南側の道ではかなり治安が悪くなっていたようで、それが噂になってしまっていたようだ。
今日であった商人達も旅行者も、そもそもここからリーヤ盆地と連山を抜ける経路を計画していないようで、計画を変更してまで立ち寄る者はいなかった。
「そもそも、私達みたいな冒険者が安全になりましたって言ったところで信用しないよね。私でも計画を変更してまで信用しないよ」ペコが言う。
「しかないです。まぁ、私達がここで何人かに安全アピールをしたことで、次は立ち寄ってくれる、安全になったと酒場で噂を広めてくれることを期待しましょう」コトロ。
「やってくる奴より、魔物を相手する数の方が多かったな、まぁ体が鈍らなくていいけどよ」
「明日もやるのか?なんか時間潰しをもってくるか」
「酒とBBQ道具でも持ってくるか」
皆サバサバと勝手な事を言っている。
まぁ、リーヤ村に商人が来るか来ないかとか、正直皆にとってはどうでもよい感じ。
「もうそろそろ帰り始めようよ。遅くなると村に帰る前に日没になるわよ」
オフェリアが言うのに対してリリアが応えかけた時に商隊が西の森から現れた。
「そうだね、そろそろ… って商隊が来たよ、ほら、せめてこれを今日のラストにしようよ」
リリアが指を差すのでみると確かに森の間から馬車が見え始めた。
「お!結構本格的な長距離馬車じゃない?期待できるよ?」リリア。
「何に期待するわけ?見向きもされないんじゃ規模感なんて無意味じゃん」ペコが笑う。
「一台、二台… まだ続きますね。おぉ、大きな商人ギルドでしょうか?」
「五台、六…七台… これは一発当てたかな?」リリアはテンションが上がっている。
見ていると次々と馬車が森に通る道から現れる。
「あぁ、立派だと持ったら北キャラバン連合の隊ですよ、大きすぎますね… 諦めましょう」コトロ。
様子を見ていたティグレ達は帰り支度を始めた。
「これを案内できたらすごいよ!勇者決定!英雄扱いだよ!」リリア。
「絶対に無理です。ってか話も聞かれないですよ」コトロが苦笑いしている。
「いやいや、話すだけ話してみようよ!時間が時間だし案外宿泊してくれるかもよ! って… あれ?皆帰っちゃうの?」
リリアが皆を振り返ると皆は帰り支度をしている。
「俺達は先に帰ってるぞ。風呂が混むし、おまえらはゆっくりと帰ってくればいいぜ」
ティグレ隊はさっさと馬車に乗り込んで出発していく。
「リリア、私達はちょっと離れた場所で見守ってあげるから、納得するまでがんばってみて」
ペコ達も出発準備をして馬車を動かす。
ルナはリリアの心配をしてくれているっぽいが、ペコ達に促されて馬車に乗り込んだ。
「まったく…やってみないとわからにじゃない… ねぇ、ダカット… はぁあんたもそんな事言うの?… なんだよ!馬鹿にすんな!生意気なんだよ!… ダカットのボケ!消え失せろ!」
ダカットの大方皆の意見と同じだったらしく、リリアはダカットを馬車の荷台に放り込んで怒っている。
ペコ達が馬車を移動させて眺めていると二十台は優にいるキャラバンをりりあは路上で待っている。
「体からなんか出ちゃってるよ」
ペコが呟く通り、リリアは気合を入れまくって、既に気合オーラ的な物が体から滲み出ている。
「あれ、やばくない?デカい商人ギルドの護衛なんてマニュアル通り動くだけだから、下手したら切り殺されないわよ」ペコ。
「リリアは逃げ足と切り上げ判断だけは早いから大丈夫だとは思いますが…」コトロ。
「なんであそこまでやるかなぁ…」オフェリア。
「リリア、大丈夫でしょうか」ルナが心配する。
「ヒールの準備はしておいて」アリス。
正直リリアを知っている皆は、納得したら返ってくるでしょう、好きなようにやったら?的な雰囲気。
見ているとリリアは路上で気合入りまくりで文字通り大の字的な感じで大商隊を待ち構えている。
リリアと大商隊の距離が詰まる。
「小腹が空いている人はチョコチップクッキーがありますよ」
コトロが言うとオフェリア、ペコ、アリスは手を伸ばす。
騎馬護衛がリリアの姿を見つけて素早く距離を詰めて来た。
リリアは騎馬と距離が詰まってくるのを見て、大の字で立っている。
が…
「あれ?体から漏れてた変なオーラが止まったわよ」ペコが言う。
大の字で立っていたリリアから明らかに、決心の揺らぎが見える。
その内、大の字を解いて棒立ちになった。
「治癒は要らないみたいね」アリスが呟く。
騎馬の勢いを見てリリアは道を空けた。
騎馬護衛がリリアに接近し、何か少し言葉を交わしているようだ。
道路脇にいたリリアは道路脇を遠くどかされた。
有無を言わさぬ感じだ。
二人の騎馬護衛がちっかり槍の矛先をリリアにつけ、リリアは両手を上げさせられて固まっている。
「………」
見ているペコ達は苦笑いしか出てこない。
リリアは道路脇外れで両手を挙げたまま大商隊の通過に向かって何かを叫んでいる。
「… リリアの奴、何か言ってるよ」
ペコ達が耳を澄ますとリリアはリーヤ村がいかに安全な村かを宣伝し、是非今度は立ち寄るように宣伝活動をしているようだ。
「… あいつ、アホだけど根性はすごいよね」ペコ。
「根性は余計です」コトロ。
「それだとアホだけ残るじゃん」ペコが笑う。
「その通りです」コトロ。
リリアは宣伝を続け、隊の通過を十分に確認した騎馬護衛に槍の先で促されて、その場を離れてくる。
「やれやれ、何事もなく過ぎそうですね」
リリアはそそくさっという言葉が良く似合う体で馬車まで小走りで戻って来た。
「よし、リーヤ村がいかに安全な村になったか宣伝してきた。今度は来てくれるよ」
リリアは言いながら馬車に乗り込む。
「なんであんなにやり切った感ある表情をしているのか理解に苦しむわ」
ペコの呟きを他所にオフェリアが馬車を出発させた。




