【67.5話】 ロキテッド ※少し前の話し※
ある小さな村。
荷馬車護衛をして、この村に先ほど到着したリリア。まだ午後の日がある時間帯。
馬車で通りすがった時に村外れで、シェリフ、冒険者と思われる関係者がウロウロしていた。何かあったのだろう、興味がある。護衛のお駄賃を貰うと村を出て少し道を戻って行った。
リリアが行ってみると、果たして、雨が続いて魔物ハルジオンがいつの間にか何体か育ってしまったらしく、退治を試みているが上手い事いっていないらしい。
「うわ、大きくそだったわね…」リリアも森の奥に生える、ハルジオンを見て呟く。
3m程度に成長し、動くツタを振り回している。村人の気づくのが遅かったらしく、多くのツタが伸び放題で、絡まれないように本体に近づくのに剣やナイフで切っても切ってもきりがない。お手上げ状態のようだ。
リリアの呟きを聞いてみ集まっていた何人かが振り返った。
「お嬢ちゃん、危ないからこれ以上は側に寄らん方が良い」シェリフの一人が言う。
「こんだけ育ったらやっかいね、見ただけでも3体くらいはいる?」リリアが話しかける。
「あぁ、ここんとこ、ちょうど雨が続いたからなぁ、気がつくのが遅れたわい」言いながらもどこかサバサバしている。
「街の有名な冒険者に退治を頼んだから、もう無理することはない。明日までこのままだ」誰かが説明してくれた。それで皆のん気に構えているのか。
「有名人?誰よ?」リリアが聞き返す。
「炎術士のロキテッド様だよ」
「ロキテッド?ロキテッドが来るの?メッチャ有名人じゃない」リリアも知っている名前だ。
「あんた、ロキテッド様知っとるのか?」リリアが気安く呼び捨てるので知り合いかと思ったらしい。全然面識無い。
「いや、全然知らないけど。王宮に出入りする特級ルーンマスター、猛火ロキテッドでしょ?ギルド・天空の鬼嫁のロキテッド。明日この村に来るんだ…」
ロキテッド、猛火のロキテッド、ザ・インフェルノとか呼ばれる凄腕の魔導士。
火を扱わせたらルーダリアでは右に出る者がいないという噂で、リリアも度々耳にする名前だ。何でもその実力からルーダリアのガスコンロとも呼ばれるらしい…
リリアにはガスコンロが何かよく分からない。魔法関係者なので恐らく古代語か何かなのだろう。“ガスコンロ”という語感からして、何かぎっくり腰になるくらい、強そうな感じだ。噂によるとロキテッドは特別な能力があるらしく、精神力に体力を合わせて猛火を長時間使えるらしいのだ。
そのロキテッドが明日この村に来ると言うのだ。特級魔導士にお目にかかれるなんて滅多にないことだ、リリアは大いに期待して何もせず引き下がった。
次の日、朝からリリアは現場に赴いた。
「………何よ、皆のん気ね、まだ寝てるのかしら?」
人っ子一人いない。凄い奴が来ると聞かされて興奮気味で起きてきたが早すぎたようだ。仕方ないので戻って誰かに話を聞く。どうやら、馬車でそのうち到着するらしい。「そのうちっていつなのよ?」リリアが食い下がると、「そのうちはそのうちさ。その辺ウロウロして暇つぶししてな」と返ってきた。
文字通りその辺をリリアがウロウロしていると、村が慌ただしくなり始めた。現場に行くと既に人が集まっている。皆特級魔導士の活躍を見ようと、ちょっとしたイベント騒ぎ。
ザワザワの中心に立派な馬車が停まっている。さすが、こんな立派な馬車で移動してくるのか。感心するが、リリアの思うところの冒険者ではない。
「あれが?ロキテッド?… まさかねぇ…」
リリアが見ると、すげぇ太っている…というか、もう真ん丸体型に濃紺の魔法服、尖り帽子にマント姿の男が馬車の扉に… 丸すぎて詰まっている…
付き人が懸命に真ん丸男を扉から引っ張り出している。いきなり滑稽なシーンに出くわした。出オチ…
ようやく、馬車から出て来た。何喰ったらそんな体型になれるんだ?って程、歩くより転がる方が似合っている体型。
「ロキテッドって貴族かそれに近い身分の名前よねぇ…」呟くリリア。
噂も兼ねて、もっとスマートないかにも冒険者らしい、颯爽とした魔法使いをイメージしていたが、実際目の前にいる奴はどうであろう。真円に頭が乗っかりました的な、雪だるまかよ!って姿でヨチヨチと歩き、ゼィゼィと息を切らせている。
服装こそ魔導士っぽいが、後ろ姿からみるマントはもはや、涎掛けレベルになって下がっている。これで冒険者か?仕事できるのか?
周りは「ロキテッド様」「先生」と崇め奉っている。やっぱりこれがロキテッドその人らしい…
リリアの苦笑いと、心配を他所にロキテッド、その人は魔物ハルジオン退治にヨチヨチ向かう。通りすがりに「ふぅ、太ると動けない、食うのも大変だ」と愚痴っていた。
“じゃ、食うなよ。食いすぎだろ”リリアはそんな目線で真ん丸野郎を眺めていた。
魔物退治を始める。ハルジオン本体からツタから根絶やしに焼かないといけない。やっかいな仕事。
ロキテッドは林の側に立ち、スゥっと手をかざすと魔法を唱えた。
「インフェルノ!」
リリアは度肝を抜かれた!物凄い火力!!
ファイアータワーという魔法がある。任意の場所に火柱を発生させる魔法。一般的に1m程度の火柱あげられれば合格。大人一人包める程の火柱が立つと“おお!”と感嘆される。
それがどうだろうか。手の平から5mも6mもある猛火を発し、自由自在に操っている。ツタからハルジオンからジャンジャンバリバリ焼き払っていく。山火事にならないかと心配なくらいの火力だ。
「ロキ、あたし、あなたの事誤解していたわ。あの頃の自分が恥ずかしい」リリアは心の中で土下座していた。
「あの… ロキテッド…さん あたしリリアと言います。質問が…」
リリアは仕事を終えて、食事前の休憩をしている特級魔導士に話しかける。
林の奥ではシェリフ達がハルジオンを根絶やしにするべく、根こそぎ掘り返し中。
ロキテッドは仕事前までのダルマさん転んだ体型とは打って変わって、スリムな優男になっている。いや、痩せ過ぎだ、頬がこけている。が、服がダブダブになった事に目をつぶれば、冒険者らしい無精ひげを生やした、モデル体型イケメン。
「綺麗なお嬢さん、僕にできる事があれば伺いましょう」
気さくな人らしい。
リリアの質問は、炎を出しているうちにブヨブヨだったロキテッドがスッキリにみるみる変わっていったことだ。どないなっとんねん!これホンマ!
「僕はちょっと特別でね。魔法とは術者単体の気力と自然界に… だけど、僕の場合は気力だけではなく、体内の物理的エネルギーをかけ合わせ… そのエネルギーとは食物に含まれる… 脂となって蓄積された… すなわちカロリーであり… キロワット… 体にも抵抗、つまりオーム… 質量保存の法則にしたがい… 神のお導き… 行いを慎み…」
リリアに特級魔導士の話しは壮大過ぎてチンプンカンプン。
さっき目の前で起きた出来事も、今頭の中に流れ込んでくる情報も全く理解不能。
脳味噌が耳から噴き出そうな勢い!!
「えっと… 良く寝て食べることにより、人は力を発揮するんですね」とだいたいのイメージでリリアは返事。
「僕は次の仕事があるので失礼」とロキテッドはすげぇ量の飯を馬の様に食い始めた。付き人が次から次へと料理を運んで来る。
「あの… 最後に… ガスコンロって何ですか?」リリアは聞いてみた。
「あぁ… はは… 今日はやらなかったね。まぁ、食事中の話しではないよ」お茶を濁すロキテッド。




