【50.5話】 その夜 ※※※
ご愛読していただいている皆様、ありがとうございます
最初に、重要なお知らせをさせていただきます。
『勇者の血を継ぐ者』を1ヶ月から2ヶ月程度連載を休止いたします。
詳しくは昨日投稿された第99部分 お知らせ をご覧ください
「…… んん…」
夜中、リリアは目を覚ました、何か空気が動くような気配を感じた。
“おトイレ… 喉が渇いた…”リリアがベッドから身を起こした時だった。
「リリア、あんたはこれ持って教会の裏にお行き」
メルがリリアを起こして袋を渡す。
「… 母さん… 父さんは?…」リリアが眠そうに問う。
「寝ぼけている場合じゃないよ、襲撃だよ、父さんはもう出たよ」
外では、叫び声、悲鳴が響きだした。大きな物音がする。
「教会の裏… 袋…」リリアは呟いてハッとする。
リリアの家の約束事だ。盗賊に襲われた場合は、非常食と薬草の入った袋を持って教会裏の墓地に行くのだ。
盗賊の目的は金目の物、墓地なんて最後の最後、村を襲ってみたが金目の物が全然なかった場合、腹いせに墓荒らしをする程度、言わば盗賊が最後の最後まで寄り付かない場所だ。
そこに数日分の食料を持って隠れるのである。緊急事態でも最大警戒レベル。
“ドックン”っとリリアの心臓が血を送り出す振動が体中に響き、いっきに体が、頭が、細胞レベルで目覚めえる感覚。
「か、母さんは?」リリアが呼ぶ。
「今日は多いよ、村も怪我人が出る、私は自警団の詰め所に行ってるよ、早く行きな!」メルは準備しながら呼ぶ
リリアはコクコクと頷くと袋を手に一目散に扉を出た。
混乱の村を走り抜ける。建物の影に入りながら走る。叫び声があがり、炎が揺れる。人の影が巨人の様に蠢く中を墓地に向かって走る。他の子供達も同じ方向に走っていく。
子供は捕まったらとんでもない目に合わされる、特に女の子ならなおさらだ。
リリアは墓地の墓石の裏に身を隠した。何度経験しても恐怖の時間。
他の子供達も墓裏に隠れている。皆震えながら息を殺して潜む。恐怖と不安で泣き叫びたいところだが、そんな事をしてみても何の意味の無い事を良く理解している。
子供によりそれぞれだが、リリアは決まった場所に潜む。リリアの潜むお墓の裏には大きいお墓があり、裏からでも少し見え難い様に思える。
リリアの側でリオンが縮こまり耳を塞いで震えている。リリアは縮こまらないタイプ。
お墓から顔を上げて見ると、向こうの通りを人影がウロウロし、叫び声が聞こえる。
しばらくすると村が静かになった。
“終わったな…”リリアには何となく雰囲気がわかる。問題は誰がお墓に現れるか…
盗賊が現れたら、逃げなければいけない。
ガウとメルの話しなら、盗賊だった場合はそのまま森に逃げ込み、街の教会を目指し村には戻らない事だ。袋の食料と薬はリリアが街まで逃げる分らしい。
村人なら「もう大丈夫だ」っと声がかかる。
この「もう大丈夫だ」はそんじょそこらの大丈夫とはわけが違う。
盗賊を討ち果たし、家屋の隅々までシェリフ、自警団が確認し、シェリフ・リーダーのガウが、脅威の殲滅を確認した時点で、ガウ自身から発せられる解除宣言。
静まった後のこの静けさが一番の恐怖…
もう戦闘は終わっているはずだ、リリアには何となくわかる。しかし、今夜は普段よりずいぶん時間がかかっている。村が防衛したならもうとっくに大丈夫宣言出てもよさそうなのに…
「おーい!もう大丈夫だ!出てこい!」見慣れた人影、聞きなれたシェリフの声。
子供達が一斉に墓地から出る、とにかく家族の元へ。リリアも走り出す。
ガウはまだ忙しいはずだ、とりあえず母、メルの下にへ、早くほっとしたい、抱きしめられたい。
リリアは詰め所に一目散、ダッシュ、詰め所の扉までもう少し…
「母さん!母さん! ぐぇ!」叫びながら戸口に入ろうとして、誰かに掴まれた。
「ドリおばさん…」見るとドリがリリアの襟首を掴んでいる。入り口まで後数歩だというのに…
「…… リリア… おまえ… 先にガウに会っておいで…」
「ドリおばさん、母さんはここよ、詰め所にいるよ」
「…… 詰め所は後だ、今は入れない… 先に父さんに会っておいで」
リリアが進もうとすると、また力を込めて止められた。見ると、詰め所内には血が広がっているのが見えた…
何か… 見てはいけないもの…
リリアはドリを振り払うとガウに会うために村の外れまで駆けだした。
リリアは家の前で待機させられていた。一度村外れまで行ったが、ここでも引き留められて家で待っていろと言うのだ。この対応… 見たことがある…
「父さんはゴーレムと呼ばれる戦士よ… 母さんは魔法を使えるんだから…」
リリアは力なく呟く。村最強のコンビに万が一もあるはずがない。
シェリフ達がリリアの下にやってきた。リリアは怖くて誰の顔も見ず、揃い立つ足元ばかり見ていた。
「リリア… 隊長の剣… と、メルのペンダントだ… 教会で会える…」
リリアはキョトンとして、それらを受け取るだけだった。
辺りにはまだ焦げた匂いが充満していた…




