北欧神話編
一対一なら負けた事はない。
一対百でも余裕だ。
相手が人間なら何人が相手でも負ける気はしない。
俺はここを自分の死に場所と定めた。
俺がここで長く抵抗出来ればそれだけ人類は逃げられる。
わかっている。
敵を倒すのに必要なのは武力ではない。
科学なのだ。
一人の兵士が科学の力で百体のエイリアンを倒す事が出来るようになる方が、俺一人で何千体かのエイリアンを倒すより未来は切り開ける。
人類の未来に必要なのは、俺のようなバーサーカーではなく賢者なのだ。
俺の仕事は『切り開く』事ではなく『託す』事だ。
俺は地面に大剣を数百本刺して侵攻してくるエイリアンを待ち伏せる。
砂煙が見える。
「待ちくたびれちまったよ」俺はブルッと震える。
武者震いじゃない。
これから死ぬのだ。
強がりを言うのが精一杯だ。
震えるのくらい許して欲しい。
「ここから先にはいかせねーよ?。
俺と遊んでいってくれよ。」俺は大剣を振り下ろしながら言う。
剣圧で数十体のエイリアンが吹き飛ばされていく。
部下達が「お供します!」と言っていたが俺はそれを断った。
「お前らがやられているのを俺は黙って見てられない。
お前らを助けて俺は死ぬ事になるだろう。
ハッキリ言う。
足手まといだ。
ついて来られたら迷惑なんだ。」
もうこの砦には俺しかいない。
人間は、だ。
エイリアンはうじゃうじゃいる。
剣圧で次々にエイリアンを吹き飛ばす。
しかしエイリアンの軍勢は全く下がらない。
吹き飛ばされるエイリアンなんてほんのごく一部だ。
『多勢に無勢』
誰がどう見ても、一人で相手出来る量の敵じゃない。
(大丈夫だ。
エイリアンはこの壁は越えられない。
十年以上ここから先にエイリアンを通した事なんてなかったじゃないか。
この前、エイリアンがこの壁に穴をあけるまでエイリアンがこの先に進む手段はなかったじゃないか。
出来れば逃げた連中が新しい壁を築くまで俺はこの穴からエイリアンを通さない。
理想は俺がここで粘ってる間に科学者達が『人類反攻の手段』の開発に成功する事だが・・・そこまではさすがに望めない。)
俺が剣圧でエイリアンを吹き飛ばしているのには理由がある。
実際剣撃で硬いエイリアンを斬った場合、五匹も切れば剣は欠けてしまう。
それに『名刀』『名剣』と呼ばれる剣は全て逃げる連中に託して来た。
「これで科学者達を守れ。
お前らは科学者を守る刃であり盾だ。
人類がエイリアンに勝つには科学者が必要だ。
俺達が出来るのは所詮、時間稼ぎだ」
そう言って俺はナマクラ刀だけを自分の足元に突き刺した。
エイリアンが迫る。
剣を振る。
剣が欠ける。
しかしまだまだ使える。
剣先が折れる。
でもまだ使える。
剣が真っ二つに折れる。
折れた剣をエイリアンの頭に突き刺す。
これだけ剣を有効活用してもすでに三時間でもう五十本以上の剣を使っている。
しかし剣もあと数時間で尽きる。
体力も無限ではない。
エイリアンは恐れない。
動かなくなるまで前に進み続ける。
痛みで止まらない。
空腹で止まらない。
眠くなって止まらない。
仲間が窮地でも止まらない。
エイリアンの前進を止めたければエイリアンを殲滅するしかない。
人類の何万倍もいるエイリアンをだ。
エイリアンを足止めして十四時間。
逃げた砦の連中は上手く逃げれただろうか?。
新しい仮の砦は建造出来ただろうか?。
エイリアン足止めの壁はもう建造されただろうか?。
これが最後の剣だ。
これが折れれば俺はもう闘う術を失う。
そうでなくてももうスタミナ切れだ。
食事も一切摂れていない。
死ぬ前に最高の抵抗だ。
ここら一体を大爆発させてエイリアンもろとも大火災にする。
油は既に撒いてある。
あとは火が上手いこと死んだエイリアンに燃え移ってここら辺を数時間通行出来なくして欲しい。
そうすれば更に時間が数時間稼げる。
最後の剣をエイリアンに突き立てる。
武器はもう何もない。
素手でやれるところまでやろう。
エイリアンを素手で殴る。
エイリアンの首が後ろを向いて絶命するも、俺の拳も複雑に折れる。
右手が使えないなら左手、エイリアンを同じように絶命させるも今度は左手が折れる。
左手の骨折は右手ほど酷くはない。
俺は左手でライターに火をつけてタバコを吸う。
世界にエイリアンが侵略してきてから贅沢品は一切我慢してきた。
タバコを吸うのも何年ぶりか。
でも許してくれよ。
最後のタバコなんだから。
エイリアンを地球から追い出してから吸おうと思って持ってた最後の一本なんだから。
不味い。
そりゃそうだ。
タバコも湿気るしカビるわな。
あ~あ、これが人生最後のタバコか。
ベッドの上で死ねるとは思ってなかったけど、末期の酒とタバコはもう少しマシだと思ってた。
出来るだけ多くのエイリアンを爆発に巻き込もうとして俺はエイリアン達を挑発する。
感情がないのか、あまりエイリアンは挑発に乗ってこない。
だが、まあいいや。
俺は『ここで爆発が起こったら一番被害が大きい。』と言う小高い丘を目指す。
エイリアンにかみつかれ、肌は引き裂かれ、片目は突かれ潰されるが関係ない。
俺のウエストには科学者が開発した対エイリアン用の強化ダイナマイトが大量に巻かれている。
俺はダイナマイトの導火線に吸っているタバコを押し付けた。
「こいつらが地獄行きのお供か。
部下共と言い、俺に引き付けられるヤツらにはどうも色気ってヤツが足りない。
今度生まれ変わったらもう少し色気ってヤツを味わいてーな。」
俺は『痛い』と感じる間もない大爆発に巻き込まれた。
元々痛みはアドレナリンが出ていたのか、身体がボロボロに傷ついていても感じなかったが。
ここはどこか。
地獄か?。
沢山殺したもんな。
敵であれば人間、モンスター、エイリアン関係なく・・・。
「ここは地獄ではなく、天界です。
私は戦乙女のスクルド。
未来・過去・現在を司る女神三姉妹の三女です。
戦士の魂を『天界』に連れて行きます。
あなたは殺しも沢山しています。
純然たる善人じゃありません。
でもあなたは私が『天界』に連れて行っても大丈夫と判断した人物です。
天界へいった戦士魂は主神オーディン様の養子になります。
善人だけが天界に行ける訳じゃありません。
ただ『悪人は天界に連れて行ってはいけない』と言われています。」
剣の師匠が言ってた。
「悪人に剣は教えない。
悪人でも剣術はマスター出来る。
ただ悪人は剣術をマスターする資格がない。
させてはいけない。」
それに似たような事だろうか?。
極東の体術の老師もえらい礼儀作法に時間を割いていたな。
「悪人に武術は教えない。」
「悪人に大きな権利を与えない。」
「悪人を天界に招かない。」
それは「悪人は力持たせたらロクな事をしないから」という理屈と同じなんだろうか?。
「あなたはオーディン様の養子として天界の戦士として戦って下さい」
「イヤだと言ったら?。」
「あなたは輪廻の輪の中に戻ります。」
「今、転生したい訳じゃないんだ。
それで天界の戦士になる事を拒んだ訳じゃない。
俺は転生前の世界で仲間達と一緒に戦いたいんだ!。
力なき者達の盾になりたいんだ!。」
「困りましたね。
出来るか出来ないかで言えば出来ます。
過去に蘇らせた者もいます。
しかし蘇らせた者は『蘇らせる事が天界にとってメリットになる事』『善人である事』『肉体に傷が少ない事』が条件でした。
あなたは善人ではありません。
天界で働く事を蹴って、蘇らせるのは天界にとってデメリットしかありません。
そして何よりあなたの肉体は爆発により消し飛んでいます。
つまりあなたは『蘇る権利はない』
・・・ですが、あなたが『蘇りたい』と考える理由は理解出来る物ですし、同情にも値します。
ですので条件付きで元の世界にあなたを蘇生させましょう。」
「『条件付き』?。
何だ、それは?。」
「①期限を設けます。
期限が来たらあなたを天界に呼び戻します。
そうしたら当初話してた通り『天界の戦士』としてオーディン様の養子となってください。
②元の肉体はすでにありません。
ですので肉体は別人の肉体です。
③蘇生させるだけでも特別待遇です。
話を聞いた者達は『何でアイツだけ生き返れるんだ?』と不満を訴える者も多いでしょう。
その不満を少しでも減らすために、あなたには一つ『何か』を捧げてもらいます。
それは『蘇生のペナルティ』と受け取っていただいてかまいません。
その3つを了承して下さい。」
「俺は本来条件なんてつけられる立場にない。
それを承知で条件を付けさせてもらいたい。
でないと『蘇生させてもらっても意味がなくなる』んだ。」
「・・・内容を聞かせて下さい。」
「①期限付きでも良いが、せめて後任を育てる時間が必要だ。
せめて三ヶ月は欲しい。
②元の肉体は既に存在しないのはわかった。
しかし新しい肉体は戦闘で以前の肉体と同じかそれ以上動ける肉体でないと使えない。
③ペナルティは仕方ない。
だが戦闘能力を下げるペナルティは困る。
そもそも以前と同じように闘えないなら蘇生する意味がない。
この三つの条件はつけさせて欲しい。
・・・頼む!。
自分が偉そうに注文をつけていられる立場じゃないのは理解している。
だが条件を満たさなくては蘇生の意義がないのだ!。」
「わかりました。
しかし戦闘能力はいじれないとなるとあなたから『何か一つを奪う』というペナルティは難しくなりますね。
元々あなたは全く財産がありません。
親類縁者どころか独身、天涯孤独です。
肉体もバラバラに四散して何も残っていません。
死ぬ瞬間は『部隊長』という地位も手放していました。
そして『戦闘能力に関する数値は一切、手を触れるな』という条件を付けています。
だとしたらあなたから奪えるペナルティは『名声』のみです。」
「そんな犬も食わない物、いくらでも持っていってくれ。」
「わかりました。
ではあなたを蘇生させます。
わかっていると思いますが、一応注意しておきます。
蘇生したあなたには一切『生前の名声』が通用しません。
それ以前にあなたは見た目も『生前と同一人物』とは扱われないでしょう。
ですが、戦闘能力は生前どころか生前以上の物です。」
「生前以上?。」
「はい、あなたの生前と同等の身体能力を持った肉体、そしてあなたと同時期に命を落とした肉体、そして損傷の少ない肉体を探したらこの肉体しかなかったんです。
毒で命を落としたこの肉体です。
全てのステータスは生前以上です。
そして、この肉体から毒物の中毒症状を消す必要がありました。
なのでスキル『猛毒無効』を覚えています。」
「『他人の身体に入ったから、別人と思われてかつての名声は使えない』という理屈はわかった。
でも『部隊長が蘇生した姿だ』と理解してもらえばかつての名声は使えるんじゃないか?。
名声にすがる気はサラサラないが。」
「果たして『蘇生した』と信じてもらえるでしょうか?。
ペナルティを支払った後は、ペナルティを追加で支払わせる事はありません。
なので『名声』がまだ使えると言うなら、使っても問題はありません。」
「わかった。
こうやって話し込んでいる時間が惜しい。
速く俺を蘇生させてくれ。」
「わかりました。
それでは目を閉じて下さい。」
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「おっ、目を覚ましたか?。
エイリアンに噛まれた中毒症状が酷くてな、『このまま御陀仏だろう』って医者も言ってたんだぜ?。
毒が身体から消えたのは奇跡みたいなモンだ。
理由はお医者様にもわからんそうだ。
そういや、名前聞いてなかったな。」
「カイ」
「カイか。
死んだ俺らの部隊長と同じ名前だな!。」
「部隊長は自分なんだ。」
「お前も部隊長だったのか!。
でも俺らの部隊長とは似ても似つかないな。
部隊長は『男が惚れる男』『男の中の男』だったんだよ。
あんたの見た目じゃ『男が惚れる』のは当たり前だろ?。」




