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演劇編

 「君もしつこいなぁ。」

 「やっと掴んだチャンスなんです。

 どうしても物にしたいんです!。」

 「それで『下町の玉吾郎』って呼ばれてる伝説の女形(おやま)の僕んとこにきた訳だ。」

 「俺も上京してきて五年、必死で一人前の舞台俳優を目指して来ました。

 脇役一筋の人だっています。

 主役ばかりが舞台じゃない。

 喰っていける事も重要ですが、それ以上に『舞台で存在感を示せる事』が重要だと思っています。

 俺は今までどんな役をやっても存在感を示せなかった。

 わかっています。

 どんな役でもやれる器用さは俺にはない。

 ですが、今回の舞台がラストチャンスなんです!。

 今回ダメなら田舎に帰ります!。

 初めての準主役なんです!。」

 「それで僕のところに来た訳だ。

 僕のところに来たって事は女形(おやま)役・・・現代劇ならオカマ役ってとこか。」

 「いえ、平安時代の『とりかえばや物語』を現代版にアレンジした舞台で、兄妹の役割が入れ替わる話です。」

 「ふ~ん。

 だけど僕のところに来たのは間違いだったね。

 僕は『女の所作なんて知らない』んだから。」

 「え!?。

 あなたは伝説の女形なんじゃ!?。」

 「僕が演じているのは『男の理想の女』だよ。

 そして『女が男に見せたいと思ってる部分』だ。

 知ってるか?。

 僕のファン、女が多いんだよ。

 いいかい?、君が女を学ぼうと女子校に忍び込むとする。

 そこで見るのは『男が幻滅する女の姿』『女が男には見せたくないと思ってる部分』だよ。

 それは全然、舞台の勉強にはならない。

 同時に『男の理想の女』『女が男に見せたいと思ってる部分』を短期間で教える方法はない。」

 「そ、そんな!。

 どうすれば良いんですか?。」

 「女を抱け。

 その女の魅力を引き出せ。

 引き出した魅力を自分の物にしろ。

 盗め。

 ・・・しかし君は性格的に好きでもない女は抱けないだろう。

 それにその方法では舞台までにはどうやっても間に合わない。」

 「・・・もう諦めるしかないんでしょうか?。」

 「僕と君は似ても似つかない。

 君は器用さもなさそうだし、だいたい女にモテなさそうだ。

 ただ一つ共通する部分があるとするなら『諦めの悪さ』だ。

 昔、僕が女形(おやま)のコツが掴めずに悪戦苦闘した時に手に入れた物を君にあげよう。

 結果、女の演技はあきらめて『男の理想の女』『女が男に見せたい部分』を演じるようになったんだがね。」

 「能面・・・ですか?。

 女面ですよね?。」

 「そうだ。

 だがただの能面じゃない。

 この女面を被れば一定時間女になる。」

 「凄いじゃないですか!。」

 「しかしこれは『男が女の演技する』のに不必要な物だ。

 何故なら『本当に女になってしまうから』だ。

 『女の演技』をする必要がどこにもなくなる。

 オカマの所作を『女よりも女らしい』と言う事があるよな?。

 女の演技、特に美しい女の演技をする時に『素の女』を知る必要はない。

 何故なら男もそうだが、女も『絵になる男女はほとんどみんな自分を演じているから』だ。

 君は演技というものを勘違いしているようだ。

 『素に見せる』事が『良い演技』ではない。

 『演じている人間』の演技・・・特に君に聞いた範囲じゃ、今回はそれが求められているように思う。

 それには遠回りで時間がかかる方法ではあるがこの『能面』で『女の演技はそうじゃない』というのを理解するべきだ、と俺は考える。」

 「そうですか・・・。」

 「それでこの能面を使う上で注意がある。

 能面は付けた瞬間、付けているの本人にしかわからなくなる。

 周りの人は君が能面をつけている事に気付かない。

 能面を外す事が出来るのも君だけだ。

 能面は三十分以内に外してくれ。」

 「どうしてですか?。」

 「この能面を僕にくれた人も『三十分以上つけるな』と言っていた。

 僕は稽古に夢中になっていて一時間能面を外さなかったんだ。

 なんとか能面は外れたけど、外すのに三時間かかった。

 どうやら長い時間つけていると、外しにくくなるみたいだ。

 苦労せずに外せるのが、三十分以内・・・という事だと思う。

 一時間能面をつけていてもなんとか外せた。

 しかしもうあれ以上は無理だと思う。

 あの時だってあと何秒か余分に能面をつけていたらおそらく外せなかっただろう。」

 「わかりました。

 必ず三十分以内の使用にとどめます。」

 「不安だ。

 君は僕に全く似ていないが、似なくて良いところだけ似ているから。

 僕も『必死になって約束を忘れていて』一時間能面をつけていたんだ。」

 「能面が外れなくなったらどうなるんですか?。」

 「それは僕にはわからない。」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 「能面を借りてきてしまった。

 しかし舞台の稽古開始まであと三日。

 三日以内に演技のコツを掴まないと。

 ・・・でも、生活もしていかなきゃいけない。

 日銭を稼がないと食事も出来ないし家賃も払えない。

 しょうがない・・・能面をつけてバイトするか。」


 最悪一時間で抜けて能面を外せる仕事・・・一時間以内のアルバイトそんなにない。

 スマホでバイト情報を探す。

 ファミレスの開店前の清掃スタッフの仕事が見つかった。

 もう一つのポイントはバイト代が日払いであること。

 つまり50分働いたら1000円・・・二食分の日銭が手に入る。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 「よろしくお願いします!。」

 「売り出し中の舞台女優ね・・・。

 こちらこそよろしく。」 

 (売れてないとは言え女優だけあって可愛いな。

 掃除だけじゃなくてフロアスタッフとして働いてくれないだろうか?。)


 「希望は30分勤務ね。

 時給1500円出すけど、フロアスタッフとしてあと一時間働いてくれないだろうか?」


 連続じゃなければ、あと一時間ならなんとかなる。

 時給1500円だ。

 久々にパンの耳じゃなく肉が食える。

 断る理由はない。

 「はい、では朝の清掃が30分勤務、夜のフロアスタッフが一時間勤務ですね。」


 「そう言えば、言い忘れたな。

 『1日30分』だ。

 細かく刻んで『30分勤務』を1日に何回も繰り返すなんて出来ないって。

 そんな事する訳ないか。

 というか決まった時間を越えて能面を使用した場合、どうなるんだろう?。」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 『令和版とりかえばや物語』キャスト変更のお知らせ。

 主役 若草君子(若君)役には新人が抜擢されます。

 準主役 姫氏原(きしはら)君雄(姫君)は演じる予定だった俳優が行方不明のためキャストが変更されます。


 

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