エコロジー編
一昔前、シンガポールは路上喫煙が禁止だと聞いて「何て厳しいんだ」と思った。
だが、実際日本が路上喫煙禁止になっても、別に厳しいとは思わない。
喫煙者じゃないというのもあるが、規則なんて違反しないようにして、それを日常化出来れば厳しさなんて感じない・・・というか感じる必要もない。
環境法は世界各国で厳しくなった。
ガソリン車には厳しい関税がかけられた。
ゴミの分別は更に厳しくなり、守らない者に対する刑罰も導入された。
そして環境対策に厳しくなったのは日本も例外ではなかった。
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俺は8流大学に通っている。
一年浪人したが、この大学しか受からなかった。
これ以上浪人もしたくないし、したところで良い大学に受かるとも思えない。
俺は実家から離れたこの大学に下宿しながら通う事になった。
頭も良くない俺の数少ない長所の一つが『掃除上手』だった。
綺麗好きで暇さえあれば掃除していた。
だから下宿は男の独り暮らしと思えないくらい片付いていた。
俺が下宿アパートの裏側にゴミ捨てに行くと向かいのマンションに住んでいる女の人とすれ違った。
アパートのゴミ捨て場とマンションのゴミ捨て場は隣同士。
ゴミ捨てに行くとその女の人とよく一緒になった。
初めて見た時から、こちらは一目惚れ。
でも話しかける事は出来なかった。
しかし何度もすれ違っているうちに、頭を下げるようになり、「おはようございます」と挨拶を交わすようになり、「暖かくなりましたね」と時節のおしゃべりをするようになり・・・ついに「ゴミを捨ててスーツで出かけるみたいですけど、どこかに行くんですか?。仕事ですか?。」と個人的な事を聞いた。
心臓はバクバクだ。
「何でそんな事アンタに教えなきゃいけないの?。」と思われてるかも。
ちょっと馴れ馴れしくし過ぎたかも。
俺はちょっとヒヤヒヤしたが、女の人はニッコリ笑って「そうなんです。仕事が忙しくて夜遅いんで朝は辛いんですけどね。」と答えた。
彼女の笑顔に俺は一瞬で恋に落ちた。
ゴミ捨て場には当番がいて、アパートのゴミ捨て場当番など誰も守って出席していない。
だが毎回、ゴミの日に早朝から俺がアパートのゴミ捨て場の前に長柄のホウキとチリチリを持って立った。
ゴミ捨て場で立っているとゴミを捨てに来た〝彼女〝に会える。
俺の気持ちは周りにバレバレだったらしい。
それはそうだろう。
彼女がゴミを出しに来るまではゴミ捨て場の周りを掃除しているクセに、彼女がゴミを出し終えて出社した途端に掃除を止めていたのだから。
周りの人間からしたら俺は彼女のストーカーに見えただろう。
そしてその判断はある意味間違ってはいなかった。
ただ俺はつけ回しなどの迷惑行為は一切していない、というだけであとはストーカーとかわりなかった。
勿論、俺は彼女のゴミの中身もノーチェックだった。
というか俺は彼女の名前も知らなかった。
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今日は燃えるゴミの日だ。
燃えないゴミは出さない事もあるけど、燃えるゴミを彼女は今のところ必ず出している。
・・・と言う事はゴミ捨て場で待っていれば確実に会える、と言う事だ。
俺はゴミ捨て場の周りを掃除しているフリをしながら彼女がゴミ捨てに出て来るのを待った。
来た。
何か慌てている。
「どうしたんですか?。」
最近声をかけられるようになった。
勇気を出して彼女に声をかけてみる。
彼女はこちらを振り向いて少し驚いている。
誰もいないと思っていたようだ。
見られてマズい事があるのだろうか?。
「え・・・えぇ、少し寝坊してしまって」彼女の声は上ずっている。
何か挙動不審だ。
ただ慌てていることだけはハッキリとわかる。
これは恩を売って、親密になるチャンスだ。
「俺がゴミ捨てときますから仕事に行ってきて下さい。」
彼女は一瞬考えたようだが「そんな、悪いですよ」と言った。
そんな親しくない人にゴミ捨てなんて頼めないし、ゴミ袋の中身を見られるのもイヤだ。
「大丈夫ですよ、心配しないで下さい。
ゴミを出しておくだけです。
ゴミの中身まで見ませんし、そんな性格悪くありません。」
俺が言うと彼女は少し気まずそうな顔をした。
そう言われてしまったら「そんな事は心配してません」と言うしかない。
「じゃあ・・・お願い出来ますか?。」彼女は渋々言った。
「任せといて下さい!。」俺は胸を叩いて大袈裟に言った。
俺は彼女からゴミ袋を受け取った。
彼女は俺を全面的に信用した訳じゃないだろう、チラチラと振り返りながら、それでも慌てているのだろう、駆け足で駅方面に向かった。
確かにゴミ袋の中身まで確認する気はない。
だが、下心がない訳じゃない。
最近法律で決まった事がある。
「ゴミ袋には必ず記名して誰が捨てたゴミかわかるようにする事」
つまりゴミ袋には彼女のフルネームが書いてある。
何度か確認しようとした事もあった。
でも隣同士とは言え、わざわざマンションのゴミ捨て場に入っていって名前を確認する事は出来なかった。
今回は直接ゴミ袋を手渡されたのだ。
間違いなく名前が確認出来る。
俺はドキドキしながらゴミ袋の記名欄を見た。
無記名だ。
そう言えば慌ててたな。
記入するのを忘れたのか。
どうしようかな?。
そう思っていると俺に声をかけてくる者がいた。
「すいません。
このゴミ袋、先ほどの女性から受け取ったんですよね?。
申し遅れました。
私は環境局の者です。」
環境局・・・かつての環境省の全てにおいて上位の存在。
警察より強い逮捕権限を持っている。
環境法違反は最高で死刑と重罪だ。
「環境の悪化は地球の、人類の終焉をもたらす」
この考え方が根付いた今の世界では環境法違反は重くて当たり前だ。
その環境局の役人が彼女の元に来た。
しかも常習犯として前からマークしていた感じだ。
咄嗟に俺は彼女を庇った。
「このゴミは俺のゴミです。
記名するの忘れちゃったのに気付いて名前を書くサインペンを部屋まで取りに戻ろうと思ってた所です。」
「知り合いを庇う気持ちはわからないでもありません。
ただ、『環境法違反』はあなたが思うような軽い犯罪ではありません。
環境破壊は下手すると地球のみならず、宇宙を破壊する行為です。
『殺人』よりも刑罰が重くなる事も珍しくないんですよ?。」
環境局の役人は軽く俺を脅す。
俺は今まで環境法違反など犯していない。
ここで逮捕されても初犯だ。
彼女も『分別不良』などの微罪の積み重ねのはずだ。
微罪でも積み重ねると刑務所に入る事があると聞いた。
環境局にマークされているという事は彼女は相当微罪を積み重ねていると推測される。
ここは俺が罪を被ろう。
何、初犯なら罰則もそこまで重くないはずだ。
「俺のゴミ袋です」俺はハッキリ言った。
「簡易DNA鑑定をすれば男性のゴミ袋か女性のゴミ袋かなんて数秒でわかるんですよ。
言っては何ですが、あの女はあなたが庇うには値しない女性です。
あの女が未だにシャバにいるのは、誑かした男達が罪をかぶったからです。」
「お、俺のゴミ袋です」俺は繰り返し言った。
今更言った事を取り下げられない。
どうせ今更取り下げても、初犯の『分別不良罪』と『偽証罪』どちらかの罪には問われる。
環境局の役人はため息を吐きながら「わかりました。このゴミ袋はあなたのゴミ袋で間違いないのですね?。」と言った。
「はい」今更、違うとは言えない。
俺は肯定した。
「ゴミ袋の中身を確認させてもらいます。」環境局の役人は言った。
分別不良なんてものじゃない。
中からはプラスチックゴミは当たり前で、ペットボトルなどの『リサイクルゴミ』が大量に出て来る。
それだけではない。
紙袋の中から缶が出てくる。
意図的に缶は紙袋の中に隠してあったのだ。
ひどい。
ひどすぎる。
百年の恋も醒める、とはこの事だ。
ゴミ袋の奥でゴソゴソと何かが動いている。
勘弁してくれ、ゴキブリか?ネズミか?。
でもゴミの中で虫やネズミが湧いたとしても、気持ち悪いが犯罪じゃない。
俺はゲンナリしたが、ある意味安心していた。
ゴミ袋の奥から子猫が出て来るまでは。
「言ったでしょう?。
『あなたが庇う価値のある女じゃない』って。
まぁ、あなたは初犯です。
『環境法』違反は今回は執行猶予がつきます。
ただ『動物愛護法』の方は初犯でもかなりの重罪です。
そりゃ、生きた子猫をゴミ袋に捨てたんですから。」
「『動物愛護法』?。
何ですか、それは?。」
「動物虐待が社会問題化して強化された刑罰です。
『因果応報』を基本としていて『虐待された動物の気持ちになる』という刑罰が多いです。
『ハムラビ法典』をご存知ですか?。
『目には目を歯には歯を』って、あんな感じです。」
「つまり、俺は『虐待された子猫の気持ちになって』罪を
償わなくてはならない・・・って事ですか?。」
「そういう事です。
『このゴミを捨てたのは簡易検査の結果、女だ。
この女には子猫の気持ちになって飼われて捨てられる雌猫の気持ちを教えなくてはならない。』というのが『動物愛護法』の刑罰です。
そして、このゴミを捨てたのはあなたなのですよね?。」
俺が答える前に俺は
麻酔銃のような『何か』を撃ち込まれた。
「銃を撃ち込んだ者が、人造の『獣人』の『ご主人様』にならなきゃいけない。
ウチのマンション、ペットOKだったっけ?。」




