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財閥編

「姉さんはそれで良いのか?」


「山岡家に生まれた女の宿命です。


それに貴方はお父様の恐ろしさを知っているようで知らない。


お父様に逆らった者の末路を知らないから『父親の意向に逆らえ』なんて言えるのです」


「でも今回の話は明らかな政略結婚だよね?


しかも相手は五周り以上上で奥さんを亡くしたばかりの老人だ。


姉さんを愛するどころか姉さんの顔すら知らないだろう。


今回の結婚話は敵対していた財閥同士の手打ちの話でしかない。


相手は『まさか娘は裏切れないだろう』とこの手打ちを了承したみたいだけど、父親(アイツ)は平気で姉さんを切り捨てるよ。


かつて誘拐された母さんを顔色一つ変えないで切り捨てたように」


「わかっています。


お父様にとって家族、肉親すらも利用材料でしかないのです。


ましてや世継ぎでもない娘など『捨て駒になれば御の字』くらいに思っているでしょう」


「それだけわかってるなら・・・。


じゃあどうするんだよ!?


姉さん、屋敷の料理人見習いの人と恋仲なんでしょう!?


彼の事は振りきれるの!?」


「日本を二分している財閥が手を組もうとしているのです。


この二つの財閥が手を組んでしまったら、二つの財閥の息がかかっていない地域は日本中どこにも存在しないでしょう。


駆け落ちなんて意味がありません。


私達は所詮、お父様の勢力圏内から逃れる事が出来ないのです。


それにこの話を彼に打ち明けた後、彼はこの屋敷から姿を消しました。


彼は『人間には出来る事と出来ない事がある』という事実を理解していて私を苦しませないように姿を消したんだと思います。


姿を消さなければ屋敷に婚約相手が来た時、彼に私と婚約相手が一緒にいるところを見られなくてはならなかった。


それはいくら私に覚悟があるとは言え堪えられない。


彼との話は既に終わっています。


私はお父様の意向に従い嫁ぎます」


「そんな悲しい恋の結末があるかっ!


父さんに直談判してくる!」


「ちょっと待って!


・・・行ってしまった・・・」






「父さん、姉さんの事だけど・・・」


「お前ごときがワシに意見を言うなど十年早い。


出直すが良い」


「ちょっと待てよ!


姉さんの彼氏が自ら身を引いたのならしょうがない。


だけどそうじゃないだろ!?


姉さんの彼氏は身を引いたんじゃない。


父さんが姉さんの彼氏をどこかへやった・・・違うか?」


「・・・ほう。


何故そう思うんじゃ?」


「姉さんの彼氏は常に姉さんを第一に考えていた。


身を引く時に一筆残さない訳がない。


姉さんを想う文章を残すか、それとも逆に嫌われるようにわざと突き放すような文章を残すか・・・。


どちらにしても必ず文章は残すはずだ。


気持ちだけを残して心配させるような『突然消える』なんて愚策をとる訳がない」


「お前の言う通りじゃ。


ワシはあいつの彼氏の行方を知っている」


「どこにいるんだよ!?」


「『どこ』ってワシの後ろにいるじゃろう?」


父親の後ろにはメイドが一人立っていただけだった。


メイドは俯いていて顔を上げない。


「まさか!」


「『山岡』は『鉛筆から戦闘機まで』と言われておるのだ。


傘下に製薬企業があるのはおかしくあるまい?


その製薬企業が開発した頭痛薬は副作用で女体化してしまうそうな。


そのメイド・・・元は娘の彼氏だったが・・・。


たかが料理人見習い、使用人の分際で娘の見合いの中止を嘆願してきおった。


ワシに使用人が意見を言うなど、本来は許されない事だ。


だがワシは心が広い。


だからチャンスをやったのだ。


『この薬を飲めばお前の願い事を聞こう』とな。


・・・で、見ての通り娘の彼氏はこのようにメイド服が似合う美少女になった訳だ、ワハハハハ・・・・・」


「・・・下衆が!」


「親に向かって・・・もう一度言ってみろ!」


「何度でも言ってやる!


姉さんの彼氏をどこにやったか・・・姉さんの耳に入らないようにボディーガードすら部屋には入れなかった。


ここにいるのは俺とオヤジと当事者である姉さんの彼氏だけだ。


オヤジのミスは人払いした事だ。


いつものボディーガードに囲まれてるオヤジなら俺は近づく事すら出来なかっただろう。


だけど今ならオヤジに簡単に近づける!」


「な、何をするつもりだ!?


ワシを殴るつもりか!?


もしかしてワシを殺す気か!?」


「そんな事しないよ。


ただ姉さんの彼氏に飲ませた薬をオヤジにも飲んでもらう」


「そんな薬、ワシが飲む訳ないじゃろう!?」


「抵抗すんなよ」


俺は妾の子だ。


正妻もオヤジも既に80歳を越えている。


オヤジが若い頃ならわからないが、老人を組伏せて鼻を摘まむのくらいは訳がなかった。


鼻を摘ままれたオヤジは口を大きく開け呼吸をした。


口を大きく開けたオヤジの口に頭痛薬を放り込む。


オヤジは薬を飲んだ。








~その後~

俺は山岡家の当主になった。


オヤジは女子高生にしか見えないようになってしまった。


オヤジは俺を恨んでいる・・・かと思いきや、若返った事を喜んでいるらしい。


オヤジは不老長寿の薬を金に糸目はつけずに開発させていた。


若い身体を手に入れたので当主の座に固執する必要はもうないらしい。


そしてメイドになった姉さんの彼氏は元に戻る方法がわかるまでは、俺付きのメイドという事になった。


今姉さんの前に連れて行っても姉さんが卒倒してしまうだけだ。


「しばらく俺のメイドって事でお願いします」


「いえ、何から何までお世話になってしまって・・・。


本当に感謝しています。


でも元の姿に戻りたくはありません」


「どうしてですか?」


「・・・ご主人様、お慕い申し上げています」


「え?」



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