激辛ラーメン編
「ウチのラーメン、不味くないと思うんだよ」
「でもわざわざこの一杯のために他県から来るラーメン屋とか、何時間も行列するラーメン屋でもありませんよね?
何より新しい街道がとなりの筋に出来てからここの前の道を通る人、全くいなくなりましたよね。
『この一杯のために店に通う』ってくらい美味しいラーメンじゃないとわざわざこの店に来る人なんていませんよ。
それにそんな人がいたとしたところで、駐車スペースは3つしかない。
美味しいラーメンが話題になったとしてもMAXで一度に三人しかお客さんが増えない。
アルバイト代がもらえるなら俺みたいなフリーターにはありがたいですが、もう諦めて店畳んだほうが良いと思いますよ?」
「わかってる。
わかってるんだ。
客が来なくても諸経費は発生する。
何もしなくても家賃と光熱費の基本料はマイナスになるんだ。
あとこの店を出す時に銀行から借りた金の利子も発生する。
支払いはまだ待ってくれそうだ。
でも借金も利子も消える訳じゃない。
金策で首が回らなくなる前に店は畳むべきだろう。
今なら地道に働けば還暦前には借金を完済出来る。
・・・でも『脱サラしてラーメン屋を開く』ってそういう事じゃないだろう!?
そうやってコツコツ地道に働く事に嫌気がさして『一山当てよう』とラーメン屋を開いたんだよ!
なんで地道に働かなきゃいけないんだよ!?
しかも一生懸命働いても借金が減るだけで手元に一銭も残らないし!」
「今だって一生懸命働いても借金が増えるだけで手元に一銭も残りませんよね?
自営業って多くの人が夢見る『はしか』みたいなモノらしいじゃないですか。
上手くいく人は百人に一人。
五年続けば、『上手くいってた時期もあった』って思い出に出来るんでしょ?
なんとか五年もったんだから、もう良い思い出にする時期だと思いますし、しなきゃ傷口が拡がるだけだと思いますよ?」
「わかってる!
商才も『神の舌』も俺にはない。
でも親にも親戚にも大見得切っちまったんだ!
正月に集まった時には『順調だ』って痩せ我慢を言っちまったんだ!
今さら『ダメでした』なんて言えないだろう!?」
「ここで正直にならないと『嘘に嘘を重ねる』ようになって、常態的に嘘を言わなきゃならなくなりますよ?
しかもその嘘で誰も幸せにならない。
まさに『無策』『泥沼』『沈没船』
一時しのぎにすらなってない・・・」
「う、うるさい!
好き放題言いやがって!
それに『無策』な訳じゃないぞ!
ネットでは『激辛ラーメン』って言うのが話題になってて、それがチャレンジメニューとして動画にあがってて話題になってるんだ。
いくつか勉強のために『激辛メニュー』というのを食べたが・・・辛いだけで美味しくないのもいくつかあった。
もちろん『旨い』と『辛い』が共存した『旨辛』が無かった訳じゃない。
でもネットで話題になっている店でも『ただ辛いだけ』の店もいくらでもあった。
中には『これだったらウチの店のほうが旨いだろう』という店も多かった」
「よくそんな激辛巡り出来ましたね。
辛い物得意なんですか?」
「いやここ数日、トイレで地獄の苦しみを味わってる。
でもそんな事言ってられないからな。
・・・と、そんな事は今はどうでも良いんだ。
ウチの店でネットで話題を集めるためにも『激辛ラーメン』を提供するぞ!」
「あちゃー・・・。
そこに目をつけちゃいましたか。
良いですか?
ネット民は誰が言ったか知らないですが『イナゴ』です。
『敵に回すと恐ろしいですが味方にしても何の得もない』存在です。
ネットで有名になるという事は『悪評』も一瞬で広まると言う事です。
ネットでの話題作りは悪手です。
やめておいた方が・・・」
「もう手を打ってしまったんだ。
それにもう何をするのかも決めてしまった」
「そうなんですか・・・。
まあ、俺が『閉店したらどうか?』と言ったのはお節介です。
アルバイト代の支払いさえ滞らなければ本来あまり経営には興味はありません。
参考までに『何をするつもりなのか?』聞かせていただけますか?」
「昔『激辛ブーム』があって『辛さ20倍カレー』がカレーショップやレトルト食品では飛ぶように売れた。
昨今の『激辛ブーム』の再来は以前の『激辛ブーム』とは性格が違う。
以前の『激辛ブーム』の時、辛味を足す時には唐辛子の量を増やしていたんだ。
しかし『激辛ブーム』は以前とは違い、より過激になっていったんだ。
唐辛子をそのままかじれる猛者も現れた。
そのままの唐辛子すら『辛い』と感じない者達に『辛い』と言わせるために唐辛子は品種改良されたんだ。
つまり『唐辛子自体が劇的に辛くなった』んだ。
唐辛子は『殺すための辛さ』になった。
『ペッパーX』
『ドラゴンブレス』
『キャロライナリーパー』
今までの唐辛子の何倍も辛い唐辛子が品種改良された。
死神だぞ?
本気で殺しに来てるよな?
しかし俺には資金力がない。
高い唐辛子を調達も出来ないし、唐辛子を品種改良なんて出来る訳もない。
だけど面白い話を聞いたんだ。
『辛さは慣れだ。
唐辛子の辛さに強くても、胡椒やわさびの辛さに強い訳ではない』との事だ。
もしかしたらインフレしまくった唐辛子の辛さとは違う『辛さ』を提供すれば、刺激に飢えたアホが飛び付くかも知れない」
「『アホ』って・・・。
毒吐きますね」
「『アホ』は『アホ』だろう?
わざわざ『痛い』ほど辛いもの食べたがるヤツは『アホ』だよ」
「まあそれは良いとして・・・。
違う『辛さ』って何の辛味ですか?」
「これを見てくれ。
これはタイで取れた『ナリーポン』、『美女のなる木』の実だ。
この実は『妊婦に食べさせると子供が美人になる』と言われている木の実で、渋くてあまり美味しくないそうだ。
不味いから美味しく食べるために、ある妊婦がレモンの果汁を垂らしたそうだ。
すると、渋かった『ナリーポン』が激辛になったらしい。
食用に向かないと言われている『ナリーポン』だけど、ツテで安く調達出来る事になったんだ」
「つまりレモン果汁を垂らした『ナリーポン』をラーメンに入れよう・・・と」
「そういう事だ。
激辛に強い人でも『ナリーポン』の辛さに強いとは限らない。」
「なるほど。
唐辛子の刺激に飽きた人がナリーポンの辛さに飛び付くかも・・・と思った訳ですね?」
「その通りだ。
今から新メニューを作るが・・・食べるか?」
「いえ、ラーメン嫌いだし激辛はもっと大嫌いです」
「ラーメン嫌いなら何でラーメン屋でアルバイトしてるんだよ。
まあいいや、意見だけでも聞かせてくれよ」
「これが俺の新作『ナリーポンラーメン』だ」
「見るからに売れませんね、知ってますか?
青色って食欲減退色なんですよ?
青いラーメンってマジで不味そうですね。
何か人工物っぽいと言うかプラスチックの色ですよね。
これは食いたくない」
「うるさいな!
食べてみろよ!
味で勝負だよ!」
「まあ食べませんけどね。
好きじゃないですから。
しかも旨そうなら少しは考えますが完全に見た目、毒物じゃないですか」
「・・・もう良い。
そこで見ていろ。
俺が食ってやる」
「辛っ!
不味っ!
舌触り悪っ!
臭っ!
見た目気色悪っ!」
「これは大失敗ですね。
見た目も味も臭いも・・・。
・・・つーか麺噛んだ時の『キュッキュッ』って音が不愉快ですね。
何でラーメン噛んだ音がナスの漬物噛んだみたいな音なんですかね?」
「・・・ダメか。
このラーメン、ナイスアイデアだと思ったんだけど」
「ちょっと待って下さい。
これ『美女のなる実』のラーメンなんですよね?
『美女になる実』の間違いじゃなくて?
これ、変に策を練るより店長が看板娘になった方がお客さん増えると思うんだけど」




