キメラ編
人類の最終兵器になるはずだった。
俺は魔族との闘いが行われている世の中では別に珍しくない戦災孤児だった。
孤児達は集められ実験動物にされた。
八千人の孤児で魔族の因子を植え付けられ死んだ者が数千人、発狂した者が数千人、化け物に変態してその場で殺された者が数千人・・・。
結局実験に耐えられた者は20人に足りなかった。
その中で超人的な身体能力を手に入れた者は10人ほど。
その中に俺は含まれていなかった。
超人的な身体能力を誇る者は魔族との戦争の中で使い捨てられた。
身体能力がそれほど高くなく、すぐに戦場に駆り出されなかった・・・というのが俺が生き残った理由の一つ。
俺には魔族が使う『呪文』を覚える事が出来たので、一応研究のために使い捨てはされなかったというのがもう一つの理由。
そして「俺が戦場に投入される前に『勇者』が現れたから、俺は『最終兵器』じゃなくなった」というのが最大の理由だ。
順に説明すると、俺は魔族の使う『呪文』を食らうとその『呪文』の使い方を閃く事がある。
生命の危機に瀕している程閃く可能性は高い。
魔術師は『魔術』を使う。
神官は『法術』を使う。
呪術師は『呪術』を使う。
それは全く形態が異なる物だ。
そして魔族は『呪文』を使う。
それは人間は使えないと思われていた物だ。
しかし俺は物心がつく前に魔族の因子を植え付けられ『呪文』が使える。
元々俺は化け物扱いされていた。
でも「こいつらがいないと人類は魔族に滅ぼされてしまう」と思われている時はまだ扱いは悪くなかった。
しかし人類に『勇者』という救世主が現れた。
俺達魔族の因子を植え付けられた子供達は『キメラ』と呼ばれ屠殺されていった。
人々は魔族に対して憎しみを抱いていた。
人類を救うためとはいえ、魔族の力を利用する事に対し少なくない反発意見が出されていた。
「じゃあどうするんだ?」と言われると人々は大人しくなった。
しかし『勇者』が現れたら話は別である。
「わざわざ魔族の力を利用しなくても我々には勇者がいるじゃないか」その意見は次第に大きくなり、用なしになった『キメラ』は屠殺されていった。
俺も早かれ遅かれ屠殺されるのかな?・・・と思っていると俺は勇者パーティに拾われた。
勇者は「自分のせいで『キメラ』が屠殺される事を心苦しく思っていた」そうだ。
しかしそれは『勇者』の思い違いだ。
魔族に対して有効な対抗手段が見つかったら、早かれ遅かれ俺達『キメラ』は屠殺されただろう。
その対抗手段が『勇者』だったと言うだけの話だ。
勇者は戦場に送られておらず屠殺されていない最後の一人、俺を勇者パーティに加える事にしたらしい。
勇者パーティは手練れの集まりだった。
戦士、魔術師、神官・・・いずれも世界最高、最強、一騎当千と呼ぶに相応しかった。
それに比べて俺はただのガキだった。
勇者パーティに守られて俺も少しずつ強くなっていった。
勇者の考えが浸透しているのか、勇者パーティのメンバーは誰もが俺を仲間として扱ってくれていた。
俺が『キメラ』だと知り、俺を泊めるのを拒否した宿屋があった。
するとパーティメンバーは俺に付き合って野宿してくれた。
実験動物として「屠殺されるのが当たり前」だと思っていた俺に仲間の暖かさを教えてくれたのが勇者パーティだ。
魔王城に攻めいった。
陽動として、王国の騎士団が正面から魔族と対峙している。
我々勇者パーティは少数で魔王城の内部に攻め込み魔王の首を取る・・・という作戦だ。
魔族は元々一枚岩ではない。
魔王というカリスマがいて何とかまとまっているのだ。
魔王の首を取られたら、魔王軍は瓦解するだろう。
それが我々の狙いだ。
しかしそれは敵も理解しているようだ。
「魔王様の首は取らせない」とばかりに魔王軍は敵幹部が護りを固めていた。
城をしばらく進むとそこにいたのはアンデッドを率いたリッチーだった。
「ここは私に任せて先に行ってもらいましょうか」神官が言う。
「すまない、足止めを頼む」勇者が神官に言う。
いくら勇者パーティとは言え魔王軍全体を相手にする事は出来ない。
出来ないからこそ、王国騎士団が陽動しているのだ。
しかし勇者パーティがアンデッド達に手間取っていたら、魔王軍が勇者パーティのところまで集まってしまう。
魔王の首を取るのは電撃的な作戦で神速を尊ぶのだ。
ここにアンデッド達が配置されている理由は『侵入者の足止め』に他ならない。
法術以外でアンデッドを倒すには時間がかかる。
ここで時間を費やすのは敵の思うつぼだ。
それは神官にも勇者にもわかっている。
「先に行ってる。死ぬなよ」勇者パーティは扉の前に仁王立ちする神官を一瞥すると駆け足で先を急いだ。
「『死ぬなよ』ですか。
無茶を言いますね。
使える法術なんて限られてるし、敵は無限にわいて出るみたいだし・・・まぁ、やるだけやってみますか」神官は呟くと敵の大群に向き直った。
しばらく走ると目の前に跳ね橋があらわれた。
そこには一つ目の巨人がいて、まるで「ここを通りたければ俺を倒しな」とでも言うようだった。
一つ目の巨人をパーティで攻撃する。
とにかくタフだ。
攻撃が効いているのかどうかすらわからない。
一つわかっているのはここで時間を食っていると、後からわき出てきた敵に囲まれてしまう・・・という事だ。
「こいつを足止め出来て、こいつと力比べ出来るのは私だけみたいだな」戦士が言う。
「すぐに追い付く。先に行っててくれ」と戦士。
「すまん、頼む」勇者が言いながら力比べする戦士と一つ目の巨人の横を通り抜け、先を急ぐ。
「一つ貸しな。今度一杯おごれよ」戦士はヘラヘラしながら、一つ目の巨人を徐々に押していく。
わかっている、その約束が果たされる事はない。
勇者パーティは勇者と魔術師と俺の三人となった。
ここまで来ると鈍い俺にも自分が何のためにいるのかわかってきた。
魔王を倒せるのは勇者が持っている聖剣だけだ。
俺には魔王にかすり傷すら負わせられない。
俺の役割は魔王のところまで勇者を送り届ける事だ。
それは魔術師もわかっているはずだ。
しばらく走っていると、また広間に出た。
しかしそこには先ほどとは違い番人はいない。
「ちょっと待った」魔術師が俺と勇者を呼び止める。
「ファイアアロー!」魔術師は虚空に向かって魔術を唱えた・・・ように見えた。
空間が歪み、ファイアアローの魔術が何かに当たる。
焼け焦げるような臭いがする。
「やっぱり思った通りだ。
この部屋にはトラップが仕掛けられている。
この部屋全体に透明なスライムが詰め込まれている。
何もわからずに誰かが部屋に入ればスライムの餌食になる。
スライムの餌食にならなくても鼻や口からスライムが侵入して呼吸が出来なくなる」と魔術師。
「一体どうすれば先に進めるんだ」絶望気味に勇者が言う。
「方法ならある。
私がスライムに魔術で穴を開ける。
お前らはその穴を通り先に進むんだ」
「じゃあお前は?」
「私はここでスライムを掃除した後からお前らの後を追う。
スライムに直接攻撃は無効で勇者の使う雷魔術も無効だ。
掃除は私がするしかあるまい」
「わかった・・・生き残れよ」
「当たり前だ、死ぬつもりはない」
俺と勇者は魔術師の作った穴を通り、部屋を通り抜け魔王のいる最深部を目指した。
「さて、大掃除といこうか?
私の魔力が切れるのが早いか、お前らの掃除が終わるのが早いか・・・心配せずとも魔力ポーションはもうここに来る前に尽きているよ。
こんな事を話してスライムに伝わるとも思ってないがな」と魔術師。
最深部、つまり魔王の玉座は目前だ。
しかしそう簡単には話は進まない。
玉座の間の扉の前に魔族の大群が佇んでいる巨大なフロアがあった。
魔族の数は三千・・・いや、もっと多いかも知れない。
寄せ集めではあるが、それでも魔族達は精鋭と言っても差し支えなかった。
勇者であればこの大群を蹴散らせるだろう。
しかしこの大群を蹴散した後で満身創痍になりながら魔王と対峙しても万が一にも勝ち目はないだろう。
我、死に場所をみつけたり。
「ここは俺に任せろ。
俺はパーティの仲間達みたいに飛び抜けた力はない。
でもこいつらくらいなら俺でも足止めは出来る。
それにここから先、俺がついていっても完全な足手まといになる。
力が不足していなかったとしても魔王にダメージを与えたられるのはお前の装備している『デュランダル』だけだ。
勇者、お前は気にせず先に行け。
魔王を倒せ。
世界を救え」と俺。
「・・・わかった。
俺が魔王を倒して戻って来るまで耐えてくれ」と勇者。
「当たり前だ。
だけど早く戻ってきてくれよ?
俺はそんなに強くないからな?」
「ハハハ・・・魔王を倒してきた俺に更に闘わせようというのか?」と勇者。
「わかった。
食い止めてくれ、俺も出来るだけ早く戻る」
「頼んだわ。
それと・・・今までありがとう。
こんな化け物を仲間扱いしてくれて」
「・・・お前を化け物だと思った事は一度もない。
その卑屈さは何とかならんのか?
まだまだお前には文句が沢山ある。
戻ってから言うから・・・死ぬなよ」
「勿論だ。
早く行け!」と俺は魔王の玉座に通じる扉の近くにいる魔族達に地面から植物の蔦を生えさせ絡み付かせ勇者に追い縋る足止めをした。
勇者が魔王の玉座に消えて行く。
思えば不思議な男だ。
こんな化け物でも仲間として、友人として接してくれる。
パーティのメンバーも勇者の言う事に文句を言う者はいない。
戦士も魔術師も神官も勇者に恋慕していた。
勇者は気付いていただろうか?
そんな事を考えている暇はなかった。
俺は呪文を唱えた。
仲間がいるところでは決して唱えられない呪文「デス」。
この呪文を唱えた魔族の仲間はバタバタと死んでいった。
つまりこの呪文は敵味方関係なくかかってしまう呪文だ。
この呪文を仲間がいる時に俺が唱えたら、勇者パーティのメンバーが突然死んでしまうかも知れない。
まあ勇者パーティのメンバーは『即死耐性』も高いし、『即死耐性』を上げるアクセサリーも装備しているから余程大丈夫だと思うが。
俺がデスの呪文を唱えると三千人はいるだろう魔族の二千人近くはその場で息絶えた。
正直、もっと殺せると思っていた。
「デス」の呪文は消費魔力も高く、俺の奥の手だった。
「先ずは最初にかましておこう」敵を怯えさせれば、俺に一気に襲いかかって来るヤツも少なくなる。
これが俺が考えた時間稼ぎだった。
なのに千近い数の敵を残してしまった。
「殺る気満々」な敵も多い。
魔力の残りはほとんどない。
魔力回復アイテムはもう残っていない。
詰みだ。
俺は蹂躙され死んでいくしかない。
せめて勇者が魔王と対峙している間、もう少し時間が稼げないだろうか?
二千の敵を倒した事で俺は大幅にレベルアップした。
もうここにいるヤツは敵ではない・・・1対1ならば。
現状「多勢に無勢」な上に魔力もほとんど残っていない。
「さあ、どうするか」
焦ってはいけない。
焦ればこちらが手詰まりなのがバレて時間稼ぎが出来なくなってしまう。
俺が色々と考えていたからだろうか?
心の隙間が生まれて、決定的な隙を作ってしまった。
気付いた時には時既に遅し。
一人のサキュバスが俺の懐に飛び込んできていた。
サキュバスは俺と唇をあわせた。
生命力と魔力が吸いとられるのを感じる。
・・・と同時に『吸引接吻』の呪文を閃いた。
もうこの呪文に賭けるしかない。
今魔力を吸いとられて、魔力はドレインキス一回分の魔力しか残っていない。
今後闘い続けるためには『吸引接吻』で魔族から魔力を吸い上げるしかない。
魔族とキスをしたいか?
断じて否である。
しかし背に腹はかえられない。
それに先程のサキュバスとのキスが俺にとってのファーストキスだ。
俺は近くにいたバンパイアに『吸引接吻』をした。
魔族、それも男にキスをする・・・平時なら有り得ない。
しかしキスする事で俺は魔力が手に入り、闘い続けられる。
そして何故か女の魔族には『吸引接吻』は効果がなかった。
結局敵は湧き続けて、俺は一人で数万人の魔族を倒した。
その間空腹にはなった時、空腹で生命力が落ちると『吸引接吻』で生命力を補充するという作業を繰り返した。
湧き出てくる魔族を全て倒した。
もう動けない。
体力はあっても眠い。
3日3晩闘い続けたからだろう。
魔王の玉座の間に通じる扉が開いた。
俺は身構えようとしたが、身体がもう動かなかった。
扉の前にいたのは勇者だった。
勇者は魔王を倒して戻って来たのだ。
そんな勇者から信じられない一言が発せられた。
「貴方は誰ですか?」
俺は勇者が記憶喪失になってしまったのかも、と思い魔王城に来てからの顛末を話した。
「なるほど・・・」
勇者は記憶喪失になってしまった訳ではなかった。
何故俺を見てわからなかったのかが不明だが。
勇者が口を開く。
「『吸引接吻』は女の魔族だけしか使えない呪文だ。
それよりお前は不特定多数の男とキスをしたのか?」
そんなの生き残るためだししょうがないだろう?
それより何で魔族の男、しかも俺の事で怒ってるんだよ?
まるで嫉妬してるみたいじゃないか。




