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⑤

自宅に引きこもっている間に地球は異星人に侵略されたらしい。


元々テレビモニターはゲーム用で、情報はネットから得ていたが、異星人の侵略を俺は「ネット特有のジョーク」だと思っていた・・・随分長いエイプリルフールだな、とは思っていたが。


母親が何かをドアの外で叫んでいる。


「まーくん、まーくん?早く逃げないと・・・」


「うるせえ、ババア!」


「まーくん・・・お母さんは先に行きますからね・・・」


最後に母親(ババア)はそう言うと姿を消した。


あまりに静かになったので部屋の外に出てみると食料が大量に置いてある。


レトルトや缶詰めなどがほとんどで、母親(ババア)が逃げるにあたってかき集めた物だろうが、俺が動く気配がないので俺の分を置いていった・・・といったところか。


「逃げる」?


何から?


まぁ良いや。


ネットが止まった。


そして電気が止まった。


そして母親(ババア)が置いていった食料が底をついた。


腹がへった。


何が起きているかはわからないがとにかく食料を調達しないとこの空腹はどうにか出来ない。


俺は数年ぶりに外に出る事にした。


確か潰れていなければ近所にコンビニエンスストアがあったはず。


リアルマネーは持っていないけどPCで買い物はしていたし、母親(ババア)からもらっている小遣いは通帳に少しは残高があるし、持っている電子マネーやお財布ケータイもコンビニで使用可能なはずだ。


良かった・・・潰れていなかった。


コンビニエンスストアの中に入る。


電気が消えている。


人影はない。


主にレトルト食品や缶詰めのコーナーと飲み物のコーナーが荒らされている。


何かが起こったんだ。


頭にエイプリルフールだと思っていた「異星人の地球侵略」が思い浮かんだ。


「まあ何にしても俺に出来る事はねーだろうしな」俺は残っていた猫用のツナ缶で空腹を満たした。


猫缶は薄味ではあるが空腹の俺には旨く感じた。


俺は食べれそうな物をコンビニで適当にバッグに詰めた。


俺はあてもなくさまよい歩いた。


家には何もないが、雨露は凌げる。


しかし家にいたんでは新しい展開は全く望めない。


こうして出歩いたからこそ食事にありつけたのだ・・・猫缶だが。


家に戻ってもそのうちに飢えて死ぬ。


しばらく家で生活していたのだから、今更母親(ババア)が迎えに来る事はないだろう。


迎えに来るならもっと早くに迎えに来ているはずだ。


俺は母親(ババア)に見限られたんだろう。


不思議とショックはない。


というか「見限られて当然」今までよく見限られなかったものだ。


「これからどうしようか?」そう考えながら歩いていると見た事もない生き物達が立っているのを見た。


「これがネットで言っていたエイリアンか・・・」俺は呟いた。


エイリアンというよりは見た目『プレデター』といった感じだ。


俺は腰を抜かした。


エイリアン達は全く地べたに尻餅をついている俺に見向きもしなかった。


エイリアン達はある元製薬会社の工場があった場所を警備しているようだ。


何故こんな場所を警備しているのだろう?


何を警備しているのだろう?


俺が物陰から覗いていると薙刀を持った尼僧達が、エイリアン達に襲いかかっている。


何が起きているんだろうか?


尼僧達の中によく見た人影がある。


母親(ババア)だ。


エイリアンは尼僧達に一掃され、そこには一息ついている尼僧達だけが残された。


何かを話している。


何を話しているんだろうか?


聞き耳をたててみる。


「あなたは薙刀の扱いにはまだ慣れていないし、何より年齢だって若くない。


何故最前線に出て闘う事を望むのですか?」


「私は一人息子を見捨てて逃げてしまいました。


働きもせず、不細工で、自堕落で、口が悪くて・・・あの子には『思い遣りの心』とか『人の心』というものが欠片もないんです。


良いところなんて一つもない、どうしようもないダメ息子でした。


いつも『早く死なないかしら?』と心の中で思っていました。


でもいざ見捨てて死なせてしまうと、後悔の念が出てくる物なのです。


私はあんな最低最悪のダメ息子でも毛先ほどではありますが愛情を抱いていたようです。


最前線で闘う事は息子に対する弔いで懺悔なのです」


死んでないっつーの。


よくも自分の息子をそんな悪し様に言えるな・・・自業自得か。


まあ母親(ババア)は俺に対して何も思ってない訳じゃないみたいだし、今ここで俺が登場したら小指の先ほどの愛情も消えてしまうだろう。


「あなたは息子さんを見捨てた・・・と言っても息子さんはもう立派な大人なんでしょう?


あなたは息子さんをもっと早い段階で突き放しておくべきだったのです。


それにもしかしたら息子さんは逞しく生きているかも知れません。


我々を見放し他の星に脱出した者達がいたそうです。


しかしその者達は音信不通で連絡も取れないそうです。


見捨てられた我々はこうやって生き残り、我々を見捨てて脱出した者達は行方不明でおそらく生きていないでしょう。


何が幸いするかはわからないのです。


まあ息子さんはおそらく生きてはいないでしょうが。


あなたもいつまでも死んだ息子さんのことを悔やむのはもうやめましょう。


いつまでも亡くなった方の事でウジウジしていても物事は打開出来ません。


亡くなった息子さんもあなたが自分を責めるのを望んでいないと思いますよ」


「そうでしょうか・・・それはそうと・・・何故私達はエイリアンと直接闘わなくてはならないのですか?


『エイリアンを操る方法がある』って話じゃないですか。


我々の反抗ペースじゃ、エイリアンの侵略ペースには追い付けないと思うんですが・・・」


「確かにテレパシーでエイリアンを操り、その指揮権を異星人から奪う事には成功したそうです。


しかし、テレパシーを持っている人自体が少ないそうです。


エイリアンを操るのは異星人に攻撃をしかける場合のみで、我々が末端で闘うのは今迄と変わらない・・・との事です。


ですが、今回のような重要拠点と思われる工場の解放も我々の手で成し遂げています。


『焼け石に水』と悲観しなくても良いと思いますが・・・」




俺は母親(ババア)達、尼僧の話を聞いて、おぼろげながら今の情況がわかってきた。


地球は異星人より侵略を受けたらしい。


地球人はかなり追い詰められた情況で他の星に脱出した人達もいるが、宇宙船は消息不明、音信不通になったらしい。


母親(ババア)達、尼僧は薙刀でエイリアンに抗戦しているが、それは『些細な抵抗』だ。


異星人を地球から根絶させようと言う動きはあって『テレパシーでエイリアンを操って異星人と攻撃させよう』とはしているが、テレパシー持ちの人間の数が足りていないと。


話を聞いていて思った。


「勝手に殺すな」と。


母親(ババア)は「死者の悪口は言わない日本人の鑑」であるはずなのに話の所々で俺に対する憎しみのこもった悪口を言っていた。


「本気で俺の事が嫌いで憎いんだな・・・」


今更、「実は生きていたんだ!」と感動の対面をしようとは思わない。


そんな事したら「この世の終わりだ」と絶望に染まった母親(ババア)の姿が容易に想像出来る。


ここで名乗り出ないのが俺に出来る最初で最後の親孝行だ。


母親に言いたい事はただ一つ「『不細工』で悪かったな!


アンタも大概だぞ!」





気を取り直して俺は工場から解放される人々を見送った。


どうやら人々は工場で何かを作らされていたようだ。


少し興味がわいて、エイリアンも強制労働させられていた人々も尼僧達もいなくなった無人の工場に俺は入って行った。


工場には電力が通っていた。


元々工場には自家発電設備が完備されていたようで、電力会社からの電力がストップしても自分達で電力を起こせる仕組みのようだ。


それを異星人は利用し工場の電力にしていたらしい。


俺はこの工場で作られていたらしい錠剤に目を落とした。


これはなんだ?


何でこんなもんを作っていたんだ?


飲んでみる勇気はない。


そうだ、試しに誰かに飲ませよう。


俺は錠剤を片隅にあった大きなバッグに入れれるだけ錠剤を入れて工場を後にした。


俺は廃屋に住居をかまえる事にした。


元の家に戻っても良いのだが、食べ物もなく電気も通っていない家に帰る意味がない。


ここならば電気が通っている工場も近く、いざとなれば尼寺に助けを求められる。


敵対しなければエイリアンはこちらに対して何かアクションを起こす事はないだろう。


何せエイリアンの目の前で腰を抜かしていた俺を完全にシカトしていたし。


ここがエイリアンの活動圏内というのはそれほど俺の危険にはならなさそうだ。


それにここならば旧繁華街に近く食料も探しやすい。


何より人がいそうだ。


この錠剤を誰かに騙して飲ませたい。


歩いていると丁度お誂え向きの廃屋があった。


よし、この廃屋を俺の行動拠点にしよう。


・・・と思っているとこの廃屋には先住民がいるようだ。


先住民は姉妹のようだ。


面影を見ると血の繋がりを感じる美人姉妹で間違いなさそうだ。


見た感じ姉が高校生、妹が中学生といったところか?


俺は無遠慮に廃屋に入っていった。


追い出そうか?


いやいや、その前にこの錠剤を騙して飲ませたい。


この錠剤の効果が現れるまで優しい人間を演じよう。


「こんにちは」俺は姉妹に声をかけた。


ドスドスと無遠慮に棲み家に入ってきた男が突然愛想が良くなり笑顔で挨拶をしてきたので姉妹はかなり面食らったようだ。


「なんだ?コイツ・・・」という顔をしている。


よく見ると姉妹の姉は具合が悪いのか浅く早い呼吸を繰り返しながら脂汗を流している。


不審者(おれ)がテリトリーに入ってきたので弱みを見せないように気丈に振る舞っているが本当は倒れそうで俺がこの廃屋に入ってくるまでは横になっていたのだろう。


「あなたは何ですか?」妹が警戒を露にしながら俺に問いかける。


「食料を探しながら歩いてたらたまたまこの廃屋に辿り着いたんですよ。


怪しい者じゃありません」


俺は半分嘘の半分本当の説明をした。


もちろん「食料を探しながら歩いていた」というのは本当で「怪しい者じゃない」というのが嘘だ。


自分で言うのも何だが俺ほどの「怪しい男」はきっとこの世には存在しないだろう。


だいたい怪しい者が「怪しい者です」なんて言うのは聞いた事がない。


妹は俺を警戒しているようだが完全な信頼を得てから話を進めるなら話が進むまで早くても四十年はかかる。


俺は無理矢理話を進める事にした。


「お姉さんは具合が悪いみたいだけど大丈夫なの?


解熱剤なら持ってるんだけどお姉さんにどうかな?」


解熱剤を持っているというのは嘘だ。


姉が熱を出しているのは水に浸したタオルを見ればわかる。


タオルを額にのせていたんだろう。


もちろん「解熱剤だ」と言って飲ませるつもりなのは工場で大量生産されていたあの錠剤だ。


この錠剤はもしかしたら毒なのかも知れない。


でもコイツが死んでも俺は痛くも痒くもない。


姉が死ねば抵抗するのは妹だけだ。


この廃屋を俺の物にするのに手間が一つ減る。


「熱もあるんですけど・・・それよりも頭痛が酷いみたいです」妹は観念したように白状した。


俺に姉の体調不良を隠しておくのは不可能だとわかったんだろう。


それに隠さなければもしかしたら薬がもらえる・・・そう考えたのだろう。


俺は頭痛薬も解熱剤も持っていない。


あるのは何かわからない、異星人が生産させていた怪しげな錠剤だけだ。


「それは丁度良かった、俺が持ってた薬は頭痛解熱剤なんだよ」俺は愛想笑いしながら言う。


上手く笑えていただろうか?


長い間引きこもりで愛想笑いは久しぶりだから、笑うように表情筋がなかなか動いてくれない。


「ではお薬もらいます」妹は相変わらず警戒を解かずに言った。


俺は心の中で「よし」とガッツポーズをした。


「それより二人は何でここにいたんだい?」俺は本当は全く興味がない事を警戒を反らすために話題を転換しようと尋ねた。


「それは・・・」少し躊躇うように妹は話し始めた。


俺の事を信用し始めたんだろうか?


俺は信用して良いような男じゃないのに。


二人は遠方からエイリアンに連れて来られたとの事だ。


その時に両親とは離ればなれになり、今は無事かどうかも確かめる術がないと。


二人はよくわからない錠剤を作る工場で働かされるために遠方から連れて来られた。


そして二人で「逃げ出そう」と計画を立てた。


元から着の身着のまま逃げ出すつもりで、何かを工場から持ち出すつもりはなかったらしい。


でも極限状態で自分達もそうだが「とにかく他人を信用しない」という風潮が蔓延していて「工場から逃げて来た」と言う言葉を信用してもらうために、工場で大量生産されていた錠剤を一つポケットに入れたらしい。


エイリアンとは意志疎通が出来ない。


工場で働かされる事になった時も、意思を伝える人間の少女から「ここで働け」と命令された。


誰の意思なのかは不明だが。


一人逃亡者が出ると連帯責任で全員が殺される・・・と思っているヤツが結構な数、いたらしい。


実際には本当の事はわからない。


何せエイリアンの考えている事は誰にもわからないのだから。


そして逃亡計画の当日、ポケットに一つ錠剤を入れた時「コイツポケットに何か入れたぞ!」と騒ぎたてたヤツがいたらしい。


その時は皆が疑心暗鬼になっていて裏切り者が出ないか戦々恐々としていた。


そんな情況でポケットに錠剤を入れたのを見られ、騒がれたのは痛恨のミスだった。


咄嗟に錠剤を飲み込み「何もポケットに入れていない」と言い張った。


しかたなく、二人はその夜に手ぶらで脱出する事になったという。


脱出計画は後から考えると全く計画は練られていなくて、途中何度もエイリアンと鉢合わせしたが「こちらに来ないで!どこかへ行って!」と祈っていると何故かエイリアンはこちらに来なかったらしい。


その後頭痛と発熱が始まったという。




俺はこの時、ピンときた。


「エイリアンをテレパシーで操る方法がある」と尼僧達は言っていた。


そしてこの姉妹の姉が錠剤を飲んで「こちらへ来るな!」と念じたらエイリアンはこちらへ来なかった。


二人は脱出は偶然成功したと思い込んでいる。


本当は姉の「テレパシー」でエイリアンを操り脱出に成功したのだ。


異星人達はテレパシーでエイリアンを操っているのだろう。


異星人達は元々テレパシーを持っている訳ではない。


この錠剤を飲む事でテレパシーを得ているのだ。


つまりこの錠剤は「飲んだ者をテレパシーに目覚めさせる薬」という訳だ。


遠隔地からエイリアンに指示を飛ばしている、錠剤では手に入らない強いテレパシーもある。


おそらくそれは持って生まれた「生まれついてのテレパシー」なのだろう。


しかし錠剤で得たテレパシーは短距離しか飛ばない代わりに、遠距離から飛ばされているテレパシーを上書きして、優先順位が高い指令を下す事が可能だと推測される。


その証拠に遠距離から飛ばされている「警備をせよ、逃亡者を捕まえろ」という指令より近距離から姉の飛ばした「こちらへ来ないで」という指令の方が優先された。


(これは・・・俺にも運が向いて来たぞ!)




この錠剤に副作用はあるかも知れない。


いや、あるのだろう。


姉の苦しみ方を見ているとこれが副作用の可能性が高いと推測される。


異星人はこの錠剤を飲んでも平気かも知れないけれど、人間がこの錠剤を飲んで下手したら死ぬ可能性もある。


・・・だから何なんだ?


姉が死んだって代わりに妹がいるじゃないか。


妹がダメになったら別の人間を探せば良い。


とにかく俺は「エイリアンを操る術」を手に入れたのだ。


まあ今はとにかく姉を騙そう。





「とにかくお姉さんに薬を飲ませましょう」俺は心配をしているフリをして姉に薬を飲ませた。


浅い呼吸を繰り返し息苦しそうにしていた姉は錠剤を飲んだ途端にスッと深い眠りに落ちた。


「ヤバい、死んだか?」と思ったが呼吸はしているし、先程より呼吸は落ち着いている。


「熱も下がったみたいです、ありがとうございました!」妹はある程度、俺を信用したようだ。


このクスリは「アキラ」に出てきた超能力を引き出す薬みたいなモンだろうか?


・・・で、薬が切れると地獄の苦しみが待ってるっていう。


まあ関係ないや、姉が苦しもうがどうしようが。





姉が目を覚ました。


体調不良は全くないようだ。


これからが俺のターンだ。


「俺、いや、私は夢を見ました。


夢の中で神は私に言いました。


『異星人に、エイリアンに逆らってはいけません。


受け入れるのです。


そして祈るのです。


そうすれば世界は、人類は救われます』と」


「神・・・ですか?」姉は突拍子もない話に面食らっている。


でも「自分を救ってくれた男を疑うのは失礼だ」とでも思っているのだろう。


「私はこれから神から授かった教えを広めていこうと思っています。


にわかには信じられないでしょう。


では私と一緒に来て下さい」俺は二人を手招きしてついてこさせる。


繁華街に行くとそこにはエイリアンがいた。


「運がいい」俺は呟いた。


このエイリアンは姉が「こちらへ来ないで!どこかへ行って!」と指令を出して工場から追い出したエイリアンだろう。


ソイツ以外の工場を警備していたエイリアンは尼僧達に全滅させられたはずだ。


それにエイリアンが独断単独行動をとる訳がない。


このエイリアンにも必ずテレパシーで指令を下した誰かがいるはずだ。


このエイリアンは元々姉の指揮下にあり、襲いかかって来る可能性は低いのだがこの際俺の芝居に利用させてもらおう。


「エイリアン様を恐れてはいけません。


ただひたすらに祈るのです。


『エイリアン様、お救いください』と。


『我々をお守り下さい』と。


何も行動を起こす必要はありません。


全ては神の思し召しなのです」そう言うと俺はお祈りをするポーズでエイリアンの前に進み出た。


姉妹も慌てて俺に倣った。


すると俺達を護衛するようにエイリアンが俺達の前に立った。


「本当だ・・・!」姉が「信じられない」という感じで感嘆の声を上げる。


本当もクソも実際は姉のテレパシーにエイリアンは従っただけで俺はクソの役にも立っていないのだが。


だが『鰯の頭も信心から』


姉は俺を尊敬の眼差しで見つめている。


「私はこれから神の教えをこの世界に布教しようと思います。


手伝っていただけますか?」


「はい!是非手伝わさせて頂きます!」姉は悩む事なく返事した。


妹は胡散臭い物を見るような目でこちらを見ている・・・が、姉と行動を共にしたいようだ。


渋々俺についてきた。




俺は新興宗教の教祖になった。


元製薬工場で人間が強制労働させられていた工場を教団施設にし、俺の居室は電力完備で冷暖房完備の部屋とした。


教団施設を取り囲むようにエイリアン達が警備している。


それは教団幹部である姉のテレパシーの成果ではあるのだが、「正人様の神から受け取った力」と表向きはなっている。


あぁ、正人様というのは俺の事だ。


親は「正直な人になりますように」と『正人』という名前をつけたと思うが、本当にとんだ詐欺師に成り果ててしまった。


まあそれで今の地位が築けているのだから、詐欺様々なのだが。


現在の信者の数は約三万人。


どこにこれだけの人間が隠れていたのか。


俺は『呎善寺派』『研究所派』『救世教派』と言われる三大勢力の一つ『救世教』のリーダーとなった。


しかし『呎善寺派』と『研究所派』が共同戦線を組む事があっても、そこに『救世教派』が加わる事はなかった。


理由は単純『救世教』の教義で『異星人様にエイリアン様に逆らってはならない。


ただひたすら祈るのです』と言う物がある。


『呎善寺派』も『研究所派』も明確に異星人、エイリアンを敵として見ている。


『研究所派』は『救世教派』と同じ様にエイリアンを操るけれど、それはエイリアンを利用しているだけで、別にエイリアンを崇めている訳ではない。


つまり『異星人を、エイリアンを崇めている救世教は明確に敵』と二つの派閥は思っているのだ。


この時俺は楽観していた。


「信者の中にスパイが潜んでいる可能性がある」と進言を受けても「アイツらに何が出来るんだ」と笑い飛ばしていた。





ピンチだ。


「コイツが奇跡を起こす時には必ず横に教団幹部の女性がいる。


『研究所派』は「エイリアンを操るれるのは女性のみだ」と言っている。


コイツは奇跡を起こせない。


起こせるなら今、教団幹部の女性がいないタイミングでエイリアンを動かしてみろよ!」


教団の集会で信者が数千人集まっている。


『研究所派』のスパイが集会の場で騒ぎ出したのだ。


エイリアンを操れる姉妹の姉はいない。


信者は「何を言っているんだ!


正人様が奇跡を起こすに決まっているじゃないか!


とんだ濡れ衣だ!


正人様、奇跡を起こして我々に見せて下さい!」


信者もスパイも「さあ、奇跡を起こせ!」と急かしている。


ここで「実はペテンでした。


奇跡はおこせません」と言う展開を『研究所派』は望んでいる。


いざという時のために姉以外にテレパシーを使えるヤツを何人か作っておくべきだったな。


だけど教団がここまで大きくなったのは姉が俺を狂信しているからで、全く俺を疑っていないからだ。


他の信者に力を与えてしまったらペテンのカラクリがバレる可能性が高い。





ここでペテンがバレてしまえば俺は破滅だ。


奇跡を起こすしかない。


どうやって奇跡を起こすのか?


姉がテレパシーを得た方法と同じで錠剤を飲むのだ。


最初に薬を飲んだ時、姉は熱を出して頭痛と闘っていた。


体調が安定したのは二回目に薬を飲んだ時だった。


その後、テレパシーの力が安定したのは三回目に薬を服用した時だ。


何回か錠剤を飲まないとテレパシーの力は体に定着しない。


でもエイリアンを操るくらいなら一回錠剤を服用するだけで出来るはずだ。


姉を実験台にして、特に大きな副作用とか中毒症状がないとはわかっている。




俺は覚悟して、錠剤を飲み込んだ。




俺が錠剤を飲む姿を姉妹の妹は見ていた。


「あ、あの錠剤は・・・!


正人様!いけません!


その錠剤を飲んで兄は・・・!」


兄?姉じゃなくて?





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