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サイボーグ編

高校の職業調査実習で僕は警察署に行った。


別に警察官になりたい訳じゃない。


どこかに行かなきゃいけないんで、選択肢からてきとうに選んだだけだ。


僕が警察署に入っていった時、受付の婦警さんが「ようこそ警察署へ」と笑顔で声をかけてきた。


警察署はもっと堅苦しいイメージだったのに、笑顔で応対されて僕は面食らった。


いや、男や好みじゃない婦警に声をかけられてもここまで心は動かされなかっただろう。


声をかけてきた婦警が僕のストライクゾーンど真ん中だったから、一目惚れをしたんだ。


僕と一緒に職業調査実習にきていた友人が言う。


「あの婦警さん、サイボーグだぜ?」


「サイボーグ?どうしてそんな事わかるんだよ?」と僕。


「短いスカートから出てる足を見てみろよ。


ありゃどう考えても機械の足だ」と友人。


注意深く見てみるとスカートからは金属製の足がのぞいていた。


しかしあの金属は何なんだろう?


鉄より遥かに軽そうで、だからと言ってプラスチックより遥かに丈夫そうだが。


僕は足を止めてその受付のサイボーグの婦警ばかりを見ていて案内のガイドについて歩いていなかった。


その事が僕が一命をとりとめた原因になろうとは。


僕と一緒に職業調査実習に来ていた高校生達は僕を除いて犠牲になったらしい。


しかし本当に助かったのは命だけのようだ。


「聞こえますか?」


頭の上から女性の声が聞こえる。


応えようにも声は出せない。


僕は力を振り絞り首をゆっくりと縦に振った。


「良かった、聞こえたんですね。


貴方は警察署で自爆テロに巻き込まれました。


そして身体の3分の2を失う大怪我を負った訳です。


もちろん身体の半分以上を失って生命は維持出来ません。


貴方は『機械の身体』で失った身体の部分を補い、サイボーグとして今後活動していかねばなりません。」


サイボーグ・・・聞いた事はあるし、警察署の入り口でも受付のサイボーグ婦警を目にしている。


確か普通にロボットを作るより人間をサイボーグにする方が遥かに金銭がかかるのではなかったか。


サイボーグを作る事は理屈上可能だけれど、医学にサイボーグ技術を応用するのは大富豪でもない限り無理なのではなかったか?


しかし僕に何をさせようと言うんだろう?


慈善事業で僕を助ける為に僕をサイボーグにした訳ではないのは確かだ。


なぜなら今までだってサイボーグ技術があれば助かる命だって沢山あったろうに助けられなかったからだ。


その事を薄情だと罵る訳じゃない。


金銭だって資源だって有限だ。


全ての人間は助けられない。


・・・そんな事を言っているのではない。


何故僕はサイボーグ技術を使って助けられたのだろう?


それに女性は僕に言った。


『貴方は今後活動していかねばならない』と。


僕は命を助けられた見返りとして、何かしらの活動をしなくてはならないのだ。


「幸運にも貴方は警察官としての活動に興味があるようですね?


警察署に職業調査実習に来るくらいですし」女性は早合点している。


僕が職業調査実習に警察署を選んだのはサイコロを振った結果の目に従っただけだ。


だが事故のショックか、まだ手術が終わったばかりで体力が回復していないのか声は出せない。


女性は「貴方は身体の3分の2を失ってサイボーグになった」と言っていた。


身体を自分の身体として使いこなすにはリハビリテーションが必要なのかも知れない。


使いこなせなければ歩く事はおろか、喋る事も出来ないのかも知れない。


僕は『サイボーグ警察官』として活動すると思われて、助けられた訳だ。


そうでなければ莫大な費用を投じて僕にサイボーグ手術を施す訳がない。


もう『サイボーグ警察官』になるしかない。


今更「『サイボーグ警察官』なんてやるつもりはありません」なんて言えない。


結果的に僕が助けられたけど、今回犠牲になった人の中には本気で警察官になろうとして職業調査実習に参加していて、サイボーグになる事も辞さない人も何人かはいただろう。


そういった人達が選ばれずに、僕が偶然にも選ばれたのだ。


多少思い描いていた未来予想図とは違ったとしても警官になる夢を見ながら叶わなかった人達の代わりに僕は警官になるべきだろう。


僕は出来るだけのジェスチャーをしながら『いいからその先を話して欲しい』というのを女性に伝えようとした。


僕が知りたいのは・・・


『僕はサイボーグ警察官としてどんな活動をすれば良いのか?』


『僕がサイボーグとして出来るようになった事は何なのか?逆に出来なくなった事は何なのか?』


『僕は高校生としての立場を捨てて警察官にならなくてはいけないのか?』


そんな僕の思惑はお構い無しに女性は話を進める。


「貴方は今日行った警察署で勤務してもらう事になります。


貴方の実年齢は18歳、まだ高校生なので警察官にはなれません。


なので貴方が警察官になるのは来年の春、4月以降です。


貴方には警察学校に入学してもらい、警官としての法令や体術を学習してもらい、その後あの警察署に勤務してもらう・・・という感じに話は進むはずです。


貴方が警官になるまでには多少時間がありますが、残念ながら高校卒業まで高校には戻れません。


何故『サイボーグ警察官が必要なのか?』という話ですが、近年犯罪組織も武装し、ハイテク化してきています。


対策として警察も機械化すれば良いんですが、ロボットを導入すれば良いという話ではありません。


『ロボット三原則』が問題になってきます。


・人間の言う事に逆らわない。

・人間を傷つけない。

・ロボットは自己を守らなくてはならない。


犯罪者も人間です。


『犯罪者の言う事に逆らわない』のであればロボットは犯罪者に立ち向かえません。


それに犯罪者も武装しています。


有事に犯罪者を傷つけないのであれば、ロボット警察官は犯罪者と敵対出来ないでしょう。


そして今回、もし警察署の受付の婦警がサイボーグ警察官でなくロボットだったら『自己を守らなくてはならない』と言う事で、爆風から貴方を護る事はなく、自分を護るための行動をしたでしょう。


つまり、ハイテク化した犯罪者対策としてサイボーグ警察官は必要不可欠な存在という訳です」


これから貴方は厳しいリハビリや、サイボーグの体に慣れるための訓練、そして警官になるための体力作り・・・そして高校卒業資格獲得のための学習、そして警官採用試験合格相当の知識量獲得のための学習をしてもらいます。


相当ハードなスケジュールになるとは思いますが、サイボーグ警官になるというのはそういう試練に打ち勝たなきゃいけない、という事なので覚悟して下さい。


今話した感じでだいたい解ったとは思いますが、サイボーグ警官になるという事は普通の警官になるという事の数百倍は大変な事です。


ですが、サイボーグの体は人間の体とは比べ物にならないくらい丈夫に出来ています。


きっとハードワークにも耐えきれるでしょう」


少し陶酔気味に女性は言った。


後で知った事だが女性は医師であると同時に、サイボーグ手術の第一人者だそうだ。


彼女にとって僕は『最高傑作の作品』らしい。


そんな事はともかく話の端々から、少し知りたかった情報が見えてきた。


僕は高校には戻れないらしい。


・・・というか一度高校を辞めて、高校卒業認定資格を取得しなくてはいけないらしい。


そして、僕はサイボーグ警官を目指す事になったようだ。


・・・これ高認試験に落ちたり、警官の採用試験に落ちたりしたらどうなるんだろう?


後に『こんだけ勉強したら落ちるほうがおかしい』というくらい勉強させられる事をそのときの僕は知らない。


もう内定はもらっているような物なので要は『学力テストと体力テストだけ合格したらサイボーグ警官といて採用』というのは決まっていたらしい。


そしてその『学力テスト』と『体力テスト』をぶっちぎりでトップ合格するだけのハードワークがこの後待っていた。


「貴方はサイボーグです。


サイボーグは人間の生身の身体と機械の身体の部位があります。


そしてその部位はサイボーグの個体によって違います。


貴方の場合は損傷個所が多すぎたので、無事な部位は全てそのままで機械の身体の部分はそれ以外の部位という事になっております。


貴方の無事だった部位というのは内臓などの臓器がほとんどです。心臓や肺、胃や腸にいたるまで貴方はオリジナルの臓器をそのまま使えます。


なので貴方は普通に食事も出来ます。


勿論機械の身体を維持するためには専用の燃料とメンテナンスが必要であり、食事は補助的な物になります。


今日は早速ですが、リハビリを始めようと思います。


厳しいとは思いますが、時間的にもう休んでいる暇はありません。


リハビリ内容は今回『機械の身体の動かし方』をメインにしようと思っています。


脳で考えると身体は自然に動かせます。


機械の身体も基本的に同じなのですが・・・しかし『右腕』と『機械の右腕』では動かし方が違います。


機械の身体は動かし方にコツと訓練が必要です。


今は全く身体が動かせないとは思いますが、身体を動かすコツのようなモノを覚えればすぐに走り回れるようになります。


声を出すほうが何倍も訓練を要するでしょう。


声帯はサイボーグの部品ではなくて、生身の身体の部品です。


そう簡単には話せるようにはならないでしょう」と女性。


なるほど『まずは身体を動かせるようになれ』という事か。


「まずは寝ている現在の状態から身体を起こせるようになりましょう。


イメージとしては『重いモノを持ち上げるように』です」と女性。


なるほど自分の身体を動かす時に普通『モノを持ち上げよう』とは思わないけれど、機械の身体を動かすコツは『モノを持ち上げる』って事なのか。


「なんで他は動かないのに首は振れるんだろう?」と思っていたけれど首が機械の身体じゃないからか。


「一旦コツを覚えてしまえば身体はある程度自由に動かせるようになるでしょう。


あ、手術が終わったばかりで生体部位にはまだ麻酔薬が効いている状態です。


貴方が瞳を開けられないのは、まだ麻酔薬が効いているからでしょう。


貴方は『身体の損傷が大きいから身体が動かない』と思っているかも知れませんが、貴方の身体は現在サイボーグとしては損傷どころか傷一つありません。


貴方が現在身体を動かせないのは『麻酔薬がまだ効いているから』というのと『サイボーグの身体にまだ慣れていないから』という二点だけです。


貴方は麻酔薬が効いた状態で半分覚醒していますが、理由は『サイボーグに麻酔薬は効きにくいから』です。


今のところ特に異常は発見されていないので安心して下さい。


話は反れましたが、今は麻酔薬が効いた状態でも出来るリハビリを行いましょう」と女性。


生身の身体でも命の危険がある内からリハビリは開始するという。


そうしないと怪我からある程度回復した時に身体が動かせなくなってしまうからだそうだ。


なので「ちょっとリハビリ始めるには早すぎるんじゃないの?」などと甘ったれた事は考えない。


まして僕は来年度の四月までにサイボーグ警察官として身体が動かせるようにならなくてはいけないのだ。


そう厳しく自分を律しなくては亡くなった方々に申し訳が立たない。


僕は女性の言う通り、身体を持ち上げる事を意識しながらベッドから上半身を起こそうとした。


「驚きました。


言われてすぐに身体を動かせるようになるとは・・・。


やはり貴方に人体移植した人がサイボーグ警官だという事でやはりサイボーグの身体を使い慣れているのでしょうか?」と女性。


移植?


「そう言えば言っていませんでしたね。


貴方はサイボーグ化手術を受けた訳ではありません。


貴方は肉体移植手術を受けたのです。


しかも貴方の臓器と脳はサイボーグ警察官に移植されたのです。


サイボーグとしての機械の部位は身体の3分の1までです。


貴方の無事だった生体の部位は3分の1・・・


残りの3分の1の生体はサイボーグ警察官の元々の生体と言う訳です。


脳は貴方の物で、認識も貴方の物なので貴方に話しかけていますが、貴方の見た目は貴方が訪れた警察署の受付のサイボーグ警察官です・・・覚えてますでしょうか?」


僕はサイボーグ手術を受けたんだと思い込んでいた。


移植手術を受けたんだ。


しかも僕が移植手術を受けた訳ではない。


僕の臓器と脳はサイボーグ警察官の身体に移植されたんだ。


その証拠に身体の3分の2はサイボーグ警察官の物だ。


何故僕の意識があるかと言ったら、脳が僕の物なので人格が僕の物だからだ。


だから移植手術をした女性も僕に語りかけてきたんだし、僕を「高校生だ」という扱いをしたんだ。


・・・待てよ?受付のサイボーグ警察官と言ったら・・・


女性は少し得意気に言った。


「私はサイボーグ手術の権威でもありますが、かつては『移植手術の麒麟児』と言われていた事もあります。


脳の移植の成功例はほとんどありませんが、私にとってはそんな手術は朝飯前です。


また男性から女性への脳移植は成功例としては初めてじゃないですかね?


それに人間からサイボーグへの脳移植は成功例だけでなく、試みられたのも初めての事だと思います!」

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