置き薬編
「ごめん下さい」
「玄関にも貼ってあるようにセールスマンお断りだよ」
「確かに貼ってありました。
しかしドアには『セールスウーマンお断り』や『セールスレディお断り』とは貼ってありませんでした。
お願いです、お話だけでも聞いていただけませんか?」
「執念だな。
じゃあ話だけ聞こうか。
話だけだよ?」
僕が若い美しい女性と話をする機会が少しでもあれば、こんな屁理屈には耳を貸さなかったかも知れない。
アパートに突然訪れたセールスのスレンダーで美しい女性に僕は下心を抱いた事を否定しない。
「この度はお話を聞いていただきありがとうございます。
我が社が取り扱っている製品は『置き薬』でございます」
「富山製薬とかの置き薬と同じ?
使った分だけ料金を払うってヤツ?」
「その通りでございます。
我々は最初に一切料金をいただきません。
最初に薬箱を1セット置いていきます。
そして三ヶ月後にまたお宅に訪問して薬を使った分だけ料金を戴く・・・というシステムになっております。
普通の置き薬ですと年に一回チェックのために訪問する、というのが当たり前になっているようですが薬にも使用期限というものがあります。
使用期限の切れた、もしくは切れそうな薬を管理するのに我々は年に一回では不足だと考えています」
本当に良く考えている。
こんな美女と三ヶ月に一回会えるとなったらモテない男は置き薬の契約をするしかないじゃないか。
いやいや、騙されないぞ!
どうせ契約したところで三ヶ月後に来るのはオッサンだ。
僕の心を読むようにセールスの女性は「薬を使わなければ一切の料金は発生しません。
しかし『転ばぬ先の杖』などと申します。
いざという時に常備薬があると安心です。
我々が提供している物は安心なのです。
使用した分の薬は『私が』責任を持ってチェックいたします」と言った。
今『私が』を強調しなかったか?
もしかして僕の下心見抜かれてる?
・・・まあ、とりあえず置き薬を置こうかな?
使わなきゃ無料だし三ヶ月後にまた美女がウチに来るし。
「じゃあカタログを見させてもらおうか?
・・・って何でサンプルが何種類もあるの?」
「置き薬を置くご家庭でも色々なご家庭があります。
単身の方もいらっしゃれば、大家族の方々もいらっしゃいます。
その双方が同じ大きさの薬箱で良い訳がありません。
また住んでいる地域によって置き薬の必要性は変わってきます。
無医村に住まれていて月に一度、都会から医者が回診に来る地域に住んでいる人は、置き薬で医者が回診に来るまで風邪をひいても頭が痛くなっても凌ぐしかありません。
そんな方々の置き薬の薬箱が都会のいつでも救急外来に行ける方々の薬箱と同じ訳がないじゃないですか」
「そういうもんなのかね。
じゃあこの薬箱は何?」
「この薬箱は単身の男性の方をメインターゲットにしております。
栄養補助のためのサプリメントや疲労回復のための強壮剤などが主に入っています。
こちらは・・・貴方よりもう少し年齢が高い層に人気の薬箱でございます」
「そうだろうね。
僕の年齢で健康に気を使ってる人はあんまりいないからね。
・・・さっきから気になってるんだけどさ、その端に置いてある明らかに毛色が違う薬箱は何?
いや、他の薬箱はわかるし、わからなくても説明を受ければ納得出来ると思うんだよ。
だけどこれだけ異質だよね。
頭痛薬も下痢止めも入ってないし、訳わからない薬が満載だし」
「これは置き薬は置き薬でも用途が違うものです。
これは『後継者不足』『嫁不足』で困っておられる地域で需要が高い置き薬の薬箱です。
都会に住んでおられる方にはあまりお薦めしないのですが、主に媚薬や精力剤が入っています」
「この薬箱を置くと『彼女』や『嫁』が出来るの!?」
「・・・はい。
そういった地域では非常に好評いただいております」
「僕はこの薬箱に興味があるなぁ!
なにしろこの薬箱があれば彼女が出来たり結婚出来たりするって事でしょ?
サンプルがある、という事は薬の試飲も出来るって事だよね?」
「もちろんです。
ですが・・・あまりこちらの薬箱はお薦めいたしません」
「何でよ?
この薬箱があれば結婚出来るって事だよね?
この薬箱の中の薬で手っ取り早く女性と出逢える薬ってどれ?」
「・・・この薬などはいかなる手段を用いても女性と縁がなかった男性が最後に飲む薬です」
「じゃあその薬を飲むね」
僕はセールスの女性の了解もとらないで薬を飲んだ。
「飲んでしまったのですか・・・。
ではこの薬箱の使用上の注意を。
この薬箱に入っている媚薬は女性用です。
相手の方に飲ませても効果はありません。
行為の前に自分で飲んで下さい」




