記憶喪失編
私は勇者様のメイドをやらせていただいています。
記憶喪失の私を勇者様は可愛がって雇って下さっています。
勇者様は国王様以上に敬われています。
この国では国王様より若干権力がある程度ですが、他の国では無条件に神のように敬われているのです。
当然です。
勇者様が世界を救うと言われているのですから。
本来であれば私のような自分ですらも素性を知らない者が身の回りの世話をするメイドなどになれる訳がありません。
勇者様の身の回りを世話するメイドは私以外は才女揃いです。
なのに何故が勇者様は私を可愛がってくださり傍仕えを私だけにさせてくださっています。
周囲の者は「勇者様とあのメイドはこの国では珍しい黒髪に黒い瞳だ。
勇者様はおそらく同郷のあのメイドを可愛がっているのだろう」と言っています。
旅の吟遊詩人の話では東の果には黒髪に黒い瞳の民族が住む島国があると言います。
私は勇者様に叶わぬ恋をしています。
この想いは私の胸の中にしまってあります。
私は勇者様にお情けをいただいていません。
勇者様のお情けを頂こうと毎晩、貴族が娘を勇者様の元に送ってくる。
娘が勇者様の子供を産み、その子が次期勇者になればその貴族の一族は『勇者様の身内』と言う事になり、国内での発言力を増すという事だ。
勇者様は最初自分の元に送り込まれる女性達を丁寧に断っていた。
ある日勇者様は傍仕えの私に相談してきた。
「色々理由をつけて断ってきたけどもう断り切れない。
貴族達にも娘さん達にも『貴族の面子』という物があって、これ以上断るとその面子を潰してしまう。
この国で勇者として活動するならパトロンである貴族達の面子はあまり潰せない。
どうしたものか・・・」
私は勇者様が何を悩んでいるのか理解出来ませんでした。
「何故貴族のお嬢様方にお情けを差し上げないのですか?
勇者様の子孫が増える事をこの国の誰もが望んでいます。
勇者様の子供が勇者になれるかどうかはわかりません。
『勇者様のお父様は勇者ではない』と以前言われていたように。
でも間違いなく勇者様の子供は勇者になれなくても必ず何らかの勇者様の力を引き継ぎます。
それに勇者の子供が勇者になる可能性は非常に高いです。
勇者様はこの国のため、世界のために貴族のお嬢様方にお情けを差し上げるべきです」私は迷わずそう答えました。
この時私は自分の感情を理解していませんでした。
勇者様の夜伽の際、勇者様と相手のお嬢様の服を脱がずのは勇者様の傍仕えのメイドである私の仕事でした。
勇者様と貴族のお嬢様の服を脱がせ、枕元でその二人の情事を見る・・・その時に初めて勇者様に対する恋慕の感情に私は気付きました。
皮肉な物です。
恋心を寄せる方の行為を見て胸が張り裂けそうになって初めて勇者様に想いを抱いていた事に気付くんですから。
私の想いを知ってか知らずか勇者様は夜伽が終わると私に「今日は一人にして欲しい。
自分の部屋に戻ってくれ」と言われました。
傍仕えを拝命してから、休暇の日以外に自分の部屋に戻る事などはありませんでしたし、休暇も勇者様が旅に出られた時に数日休暇を貰うのが常で、勇者様がいる時に自分の部屋に戻るのは初めての経験でした。
勇者様の部屋の片隅には私の小さなベッドが備えつけられており、勇者様が王城に居る時には常に同じ部屋で過ごしてきました。
私は放心状態で、かすれた声で「はい」と言うとフラつく足取りで勇者様の部屋を後にし自分の部屋へ戻りました。
私は自分の部屋に戻り、ベッドに横たわり、声が漏れないように布団をかぶると声を押し殺して泣きました。
何がそんなに悲しくてショックなのか、私にはわかるようなわからないような不思議な感覚でした。
私は泣き疲れて眠ってしまいました。
その晩私は奇妙な夢を見ました。
それは良く見る王城にいる国王とその側近達の夢でした。
「予言では間もなく魔王が復活する、との事です」
「そんなもん魔軍の動きを見ればわかっておるわ!
魔王が復活するからそのタイミングに合わせて我が国に魔軍が攻めて来たんであろうが!
それで我が国の軍の被害はどれくらいだ?」
「それが・・・魔軍の討伐に向かいました八万の兵、ほぼ全滅でございます」
「そうか・・・魔物と人間、身体能力に差がありすぎる。
魔物に対抗出来る唯一の存在・・・それは勇者をおいて他にはない。
勇者を異世界から召喚する準備は出来ているか?」
「お待ち下さい!
今回見つけた異世界の勇者は『勇者適性5』です。
召喚しなくても先代勇者の子孫であれば『勇者適性7』の者が国内にいます!
だいたい『勇者適性5』の者は魔軍との戦いで命を落とすでしょう!」
「命を落とすのなら都合が良いではないか。
先代勇者のようにこの国で一大勢力を作りあげる事もない。
だいたい我が先代勇者の子孫達と勢力争いをしているのは知っているであろう?
ここで我が先代勇者の子孫達の力を借りるのも、先代勇者の子孫を勇者扱いするのも都合が悪いのだ。
だいたい国王と勇者では勇者の方が地位が上なのだ。
我の上に我と敵対する存在を置く気か?
召喚する勇者など捨て駒で丁度良い。
魔軍と相撃ちになれば理想通りだな。
あまり優秀な勇者候補に来られてもその後が困ってしまうのだ」
「なるほど、それで『勇者適性5』のこの男に目をつけた訳ですな。
『ナカジマ・トモ』ですか」
だんだんと目が醒めていきます。
おかしな夢でした。
夢に自分が出てこないというのも珍しいですが、召喚する勇者が勇者様ではないという事で全く自分と縁深い人物が出てこない夢でした。
いいえ、自分には全く関係ないと言っても召喚される勇者の名は『トモ』つまり自分と同じ名前でした。
・・・ただの偶然でしょう。
確かに『トモ』という名前は王国では珍しい名前です。
記憶はないですが、私の容姿を見ると私は恐らく王国出身ではないでしょう。
私が覚えていたのが『トモ』という名前だけだったのですが、『トモ』という名前は王国以外ではありふれた名前なのかも知れません。
それにこれは夢で見た内容です。
夢などは支離滅裂、意味不明な物です。
夢で見た内容を深く考察するなどナンセンスな事です。
私は考えるのを止め支度をして勇者様の部屋へ向かいました。
その日、一日私は普通に与えられた仕事をこなしているつもりでした。
でも勇者様は私の異常にすぐに気付きました。
「トモさん。
その目の下のクマ、どうしたのですか?」
勇者様は私のようなメイドにも『さん』をつけて、敬語を使います。
それはともかく、泣いてそのまま泣き疲れて寝てしまった私の目は赤く腫れ上がり、目の下にはクマが出来ていました。
私は真意を悟らせまいと焦りました。
「いえ、少し夢見が悪かっただけです。
悪かったと言うか、おかしな夢を見たのです。
『ナカジマ・トモ』という男性を勇者として異世界から召喚するか、国王様やその周りの側近の方が話し合ってる夢でした。
変ですよね?
ユウキ様という勇者様がいるのに、何で国王様達は勇者召喚しなくてはならないんですかね?
夢の話なんであまり気を悪くされないで下さい。
意味不明でもご容赦下さい」私は出来るだけ冗談めかして昨日見た夢の内容を語りました。
しかし勇者様の反応は私が思ったものではありませんでした。
私の予想では「トモさんは私という勇者がいるのに『他にも勇者が必要だ』と思っているのですね」と勇者様はおどけながら少し怒ったフリをすると思っていました。
しかし勇者様はうわごとのように「ナカジマ・トモ・・・ナカジマ・トモ・・・」と繰り返し言っていました。
「勇者様?どうかしましたか?」私は様子がおかしい勇者様の顔を覗き込みました。
勇者様の顔色はまさに顔面蒼白、この世界で無双の強さを誇る男が初めて見せる具合いの悪そうな姿でした。
慌てる私に勇者様は「明日からまた遠征の旅に出発します。
ちょっとナーバスになっているのかも知れません。
トモさん、申し訳ありませんが今日は少し一人にして欲しいのですが」と言いました。
降って湧いたような休暇に私は茫然としました。
私は勇者様のそばにいれるだけで幸せなのですが、勇者様は「一人になりたいからそばに居てくれるな」と言ったのです。
しかも明日からしばらく勇者様と離ればなれになるのです。
私は寸暇を惜しんで勇者様のおそばにいたい・・・と思っていたのに。
正直、かなりショックでした。
私は自分の部屋のベッドの上で頭が真っ白になったまま過ごしていました。
いつの間にか私は眠ってしまったようです。
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また私は夢の世界に来たようです。
私が見た事のある男の人が私の知らない男の人に話し掛けています。
見た事のある男の人・・・思い出しました。
この男は王国の宮廷魔術士です。
「ナカジマ・トモさんですね?
私はこの世界とは次元の違う世界のヴァルカランド王国から来た宮廷魔術士のマーリンと申します。
貴方はこの度、異世界の勇者様としてヴァルカランドに召喚されます」
「『されます』たって困っちゃうよね。
なんたってこっちは新婚なんだから。
つってもどうせ僕には拒否権はないんでしょ?」
「申し訳ありませんが」
「じゃあ帰ってこれるかどうかわからない異世界への単身赴任より新婚ホヤホヤの可愛い奥さんも連れて行って良い?」
「一人くらい余分に召喚するくらい問題はないと思いますが」
「じゃあ決定ね!
僕は奥さんを連れて異世界に行くよ。
帰ってこれたらその時は奥さんと一緒。
帰れないとしても、その時は奥さんの祐希ちゃんと一緒に異世界に骨をうずめるよ。
もちろん祐希ちゃんが一緒に異世界に行ってくれるならの話だけどね。
無理矢理連れて行ったりはしないよ」
「では奥方様に行くかどうか聞いて下さい。
それほど時間はありません」
「一番良いのは二人とも行かない事なんだよな。
でもそういう訳にもいかないんでしょ?」
「申し訳ありませんがトモさん、貴方を連れて行く事は確定しています」
「そうだよね。
言っただけだよ。
あまりにもそちらの都合の良い話なんで少し意地悪を言いたくなっちゃったんだ。
それじゃあ祐希ちゃんを連れてくるから説明よろしく」
「わかりました。
それほど時間はありません。
お急ぎ下さい」
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「これはこれは勇者様、今宵は何用ですかな?」国王が恭しくもわざとらしく言う。
「トモさんがかつての記憶を取り戻しつつあります。
約束が違う!
トモさんの記憶を戻すならかつての状態に元通りにする事。
戻せないならトモさんに新しい人生で新しい幸せを手に入れてもらうために、昔の事は一切忘れ去らせる事。
今のトモさんはかつての状態に戻れないで、記憶だけが戻りそうな最低最悪の状態です。
しかも貴殿方が画策した夜伽をトモさんの勧めで始めたばかりだ。
この状態でトモさんの記憶が戻ったら・・・考えただけでトモさんが不憫だ!」勇者が国王に喰ってかかる。
「それは我々も知らなかった事です。
トモの記憶を戻すつもりはありません」国王が言うが、勇者は国王の言い様が勘に触った。
「『トモ』だと?
トモさんの事を勇者として召喚して、私の事は『様』付けで呼ぶクセにいざ私を勇者にしたらトモさんの事はメイド扱いか!?」勇者が眉を吊り上げて怒鳴る。
「・・・失礼しました。
しかしトモさんの事をメイド扱いしておかないと『おかしい』と思うのは周囲の人々ばかりではないですよ。
トモさん本人も国王に敬語で話されたら『おかしい、何かある』と思うでしょうな」わかっている。
わかっているからこそ、勇者はトモに『勇者様』と呼ばせているのだ。
トモを身分相応のメイドとして扱う事が自然で、国王はそれを実践しているに過ぎない。
ハッキリ言って勇者の言う事は八つ当たりだ。
「そんなのはわかっている。
明日からの遠征の間、トモさんは王国で働くメイド扱いだ。
くれぐれも間違いがないように頼む」勇者はそれだけ言うと玉座の間を後にした。
そこには国王と宮廷魔術士のマーリンだけが残った。
「マーリン、どう思う?」国王が宮廷魔術士に聞く。
「トモにも少ないですが『勇者適性』があります。
勇者のスキルの中に『洗脳回避』というスキルがあります。
勇者の子孫は『勇者適性』と勇者の持つスキルを引継ぎます。
それと同様にトモは勇者にはなりませんでしたが、勇者の持つスキルがトモの中に残った可能性があります。
なので、『洗脳回避』が発動してトモに施した洗脳が解けてきている可能性があります」とマーリン。
「なるほど。
しかし上手くないな。
遠征中、トモは勇者の人質だ。
トモがいる限り勇者は裏切らずに必ず王国に戻って来る。
しかしトモが記憶を取り戻し、世を儚んで自殺でもしたら逆上した勇者が王国を滅ぼしかねん」と国王。
「トモに重ねて洗脳魔術をかけておきますか?」とマーリン。
「ああ、よろしく頼む」国王は玉座に深々と座り呟いた。
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「行ってらっしゃいませ。
ご無事でお早いお帰りをお待ちしております」私は勇者様を送り出し、城門の外まで見送りに行きました。
「ここまでの見送りは今後不要です。
ここに魔軍が兵を伏せていたらトモさん、貴女に危険が及んでしまいます」と困った顔をして勇者様が言いました。
わかっています。
こんな行為は一秒でも勇者様と離れていたくない私の我が儘な行動です。
私は城門から離れて行く勇者様一行が完全に見えなくなるまで背中を見送りました。
私が勇者様の傍仕えのメイドとして働くのは勇者様が王城に滞在している間だけです。
こうして勇者様が遠征に出ている間は私は王城で働く沢山のメイドと同じように働きます。
そして勇者様は二ヶ月の内、四十日間は遠征に出ているので、私は王城で働くメイドとしての期間が勇者様の傍仕えのメイドとして働く期間より圧倒的に長いのですが。
勇者様が居ない間、私はその寂しさを忘れるために全力で働きます。
私にはメイドになる前の記憶がありません。
そのせいかメイドの仕事は私の全てであり天職です。
なのでメイドの中で私は一目置かれています。
最初のうちは「何なの?あの娘、勇者様に取り入って!」とやっかむ声も聞かれましたが、今は「あの娘なら悔しいけど勇者様のお気に入りのメイドになるのはしょうがないわね」と言われるようになりました。
私は勇者様の事を考えないように全力で王城の掃除をしてヘトヘトになりながらメイド用の大浴場に行きました。
普通庶民は身体を濡れたタオルで拭き清めるくらいで、入浴はしません。
しかしメイドは毎日風呂に入れます。
王城のメイドに小綺麗な恰好をさせておくのは王公貴人達の見栄と言えます。
私に仲の良いメイド仲間はいません。
いませんが私の仕事ぶりは最近、メイドの間で認められてきたようです。
当初は『勇者様に取り入って』などと妬まれた事などもありましたが『あの働きぶりなら勇者様のお気に入りになるのは無理もない』と最近では思われてきたとの話です。
認められて来ると私と仲良くしようという女の子達が近寄ってきます。
「私はトモちゃんは勇者様の『お手つき』だと思ってたの
勇者様が遠征に出掛けた後の昨日と一昨日に何処に行ったかわからなくなるなんて。
責めてる訳じゃないのよ?
私達メイドは貴族様に誘っていただけるのであれば、それが例え仕事中であろうと応えるべきだしね。
トモちゃんみたいに貴族様に囲われて数日間姿を見せなくなるメイドは別に珍しくないからね。
ただ勇者様以外に意中の殿方がいた事が予想外だってだけで。
・・・で、トモちゃんの意中の殿方ってどこのどなたよ?
誰にも言わないから白状しちゃいなさい!」女の子達がキャーキャーと言いながら私に詰めよって来ました。
私はこういったシチュエーションには慣れておらず、しどろもどろになりました。
しかしふと冷静に考えました。
「昨日と一昨日、私は何をしていただろう?」と。
記憶が昨日と一昨日の分だけスッポリと抜け落ちているのです。
「昨日と一昨日、私は何をしていたのでしょう?
全く思い出せないのです」私は素直に思ったままを口にしました。
しかし女の子達は額面通りに私の言葉を受け取りませんでした。
「ふ~ん・・・言いたくないんだ。
別に奥様がいる人だって問題はないと思うんだけど。
私達は所詮『お手つき』。
『おめかけさん』ですらないんだから。
まあ、奥様が嫉妬深くて関係を秘めておかないといけない場合もあるか。
そんな面倒臭いケースなら火遊びはほどほどにね。
嫉妬に狂った奥様に刺されても知らないわよ!」女の子達は勝手に勘違いした揚げ句、見当違いのアドバイスをして風呂から出ていってしまいました。
私に後ろめたい部分はありません。
私が心に秘めている気持ちは勇者様に対する恋慕の気持ちだけです。
この時私は一昨日連れ去られ二日がかりで洗脳を施され、開放され連れ去られた記憶すら消されている事を知りませんでした。
私は風呂から出て自分の部屋に戻りました。
身体はヘトヘトに疲れています。
このまま眠ってしまいたいですが、また変な夢を見るのでしょうか?
変な夢?
どんな夢でしたっけ?
記憶にモヤがかかったように私は夢の内容を思い出せません。
しかし私はその事を疑問に思いませんでした。
起きてしばらくは夢の内容は覚えていても、時間の経過とともに夢の記憶はなくなるのは珍しい事ではありません。
ただ私は昨日と一昨日の記憶がない事だけが納得出来ませんでした。
私は「疲れているから思い出せないのかも知れない。
今日はもう寝よう」と考えました。
私は疲れていたのでベッドに横になった途端に寝息を立てました。
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「状況が変わりました」
「詳しく説明しろ」
「はい、魔軍が総攻撃を仕掛けてきました。
『勇者適性5』程度の勇者では足止めすら出来ません」
「では勇者を召喚し直さなくてはならないと言う事か?」
「いえ、『勇者召喚の儀』が行えるのは三年に一度です。
それに仮に『勇者召喚の儀』が今すぐ連続で行えたとして『勇者適性』が高い者が召喚される可能性は微々たるものです。
現に『勇者召喚の儀』で呼び出した勇者候補である『ナカジマ・トモ』は勇者適性5です」
「クソ!手詰まりか!
やはり先代勇者の一族の力を借りねばいけないのか!
しかしそれは我の失脚を意味する。
我は自分の力で国を護る事は出来ずに先代勇者一族に頼った・・・と言う事になる。
我が一族と先代勇者の一族との仲の悪さと権力争いの歴史を聞いた事くらいはあるだろう?
我は王国の滅亡を受け入れるか、我が一族の失脚を受け入れるか・・・どちらにしても絶望だ!」
「お待ち下さい。
第三の選択肢がございます」
「第三の選択肢?」
「そうです。
今回『勇者召喚の儀』で呼び出した勇者候補の男『ナカジマ・トモ』の妻『ナカジマ・ユウキ』ですが・・・『勇者適性378』です。
彼女は素質だけで言えば今まで有史上に現れた魔王が強い順に千体同時に登場したとしても一撃で消し飛ばす事が出来るはずです」
「女性を勇者にする、という事か?
しかし聞いた事がない」
「女性を勇者にしても別に良いでしょう。
しかし種馬が雄なように繁殖牝馬は種馬にはなれません。
王国の繁栄のためには勇者の子孫が国を支えなくてはなりません。
国王の一族とは犬猿の仲かも知れませんが、先代勇者の一族が王国を支えてきたように・・・です。
で、雄は種をまき散らす事が出来ます。
雌は一度に孕んだ分しか遺伝子を残せません」
「・・・という事は『ナカジマ・トモ』を勇者にせざるを得ない、という事か?」
「いえ、王国に伝わる儀式は2つあります。
一つは『勇者召喚の儀』もう一つは『男女交換の儀』です。
『男女交換の儀』は通常王族に男の嫡子が産まれなかった時に使われます。
物心がつく前に性別が変わってしまうので自分が女であった事は知らないのが普通です。
しかしここまで大人の性別を変えるのは初めてです。
年齢が進む事はありません。新生児に『男女交換の儀』を使っても、新生児でなくなる事はないからです。
しかし新生児だからそれ以上若返らないのかも知れません。
これは賭けです。
もしかしてナカジマ夫婦は二人して子供になるかも知れません」
「そうなったら先代勇者の一族に助力を頼むしかないだろう。
では『男女交換の儀』をナカジマ夫妻に行おうか?」




