熱中症編
その昔、熱中症は『日射病』と言われた。
「日射病にならないように、日陰に入りなさい」学校で教師も生徒に指導した。
今考えると信じられない。
熱中症は気温が高ければ日陰でも発症する。
扇風機を回して寝ていた老夫婦が室内で死亡する・・・そんないたたまれないニュースが毎年のように報道される。
しかも水分と日射病は切り離されて考えられていた。
昔は「部活中は水分は摂ってはいけない。
水分を摂るとスタミナが落ちる」と言い「汗をかいても水分は摂らない」などと今考えると殺人行為としか思えない話が常識だった事もあった。
だいたい「汗をかくと新陳代謝が良くなり痩せやすくはなるが、身体から汗として水分が出て体重が軽くなる事をダイエットとは言わない」と言う現在では常識ともいえる考え方が最近のもので、通販番組では「サウナスーツ」などと銀色の通気性を遮断して体温を上げる殺人グッズを普通に売っていたという。
十年前の常識は現在の非常識なのだ。
「水分はこまめに摂取してください。
水分を摂取するだけでは意味がありません。
水分と一緒に塩分も摂取して下さい」
「耳にタコが出来るくらい聞かされた話だな。
スポーツ飲料飲めば良いんだろ?」俺は養護教諭に言う。
こうやって不良でもないのに保健室に日参するのは、養護教諭に密かな恋心があるからだ。
養護教諭の事を『ほけんい』と言うヤツがいる・・・というか多い。
だが『保険医』と『養護教諭』は別物だと声を大にして言いたい。
「何回も言われているかも知れませんけど、こまめに新しい情報を仕入れて古い常識を捨てて下さい。
後から考えると平気で殺人行為が常識的に行われているんですからね。
スポーツ飲料にしても大塚製薬の飲料開発担当がメキシコで食中毒になってなかったら、未だに産まれてなかったかも知れませんよ?
貴方の知っている常識をいつまでも変わらない普遍的な常識だと思わないで下さい。
貴方の知っている常識は次の日には『非常識』として語られる、これが常識です」養護教諭は俺を諭すように言う。
俺は思っていた。
「可愛すぎかよ」十歳近く歳上のはずなのに、養護教諭は本当に可愛かった。
少女にダブダブの白衣を着せる・・・これはきっと新しい需用を産む、と養護教諭を見ていると俺は思うのだった。
養護教諭は全く男っ気を見せない。
良い事ではあるが、『養護教諭は男に興味がないんだ、百合なんだ』という噂もあった。
「ホラ、最新の注意事項は『水分と一緒に塩分と水分に数滴酢を垂らす事』でしょ?
まあ、影響が出るのは数万人に一人だって言うけどね。
酢を垂らして身体の中を酸性に保つ事が・・・遅かったか。
貴女、ここでもう少しゆっくりしていかない?」
さっきまで、保健室から俺を追い出そうとしてたクセにどういう心変わりだよ?




