限界集落編③
役人のマイカーの軽自動車で山道を進む。
舗装はされていない。
ちょっとスリップしたら谷底だ。
それ以前にこの振動の中でしゃべったら舌を噛みそうだ。
ボクは助手席でひたすら天に祈る。
しかし、ボロいタイヤツルツルの古い軽自動車はないだろ?
せめてタイヤの大きなオフロードの車だろ!
「そんな怯えなくて大丈夫だってば!
登りは比較的安全なんだよ?
下りはスリップの危険も増して本当にスリリングだけど」役人は笑いながら言った。
こんな事を言われたら「引き返して山を降りてくれ」と言えなくなってしまう。
「それにこの山じゃ『男』は護られているはずなんだ」
「護られている?」
「あぁ、この村の『村社』、護り神は弁財天様で『男を護る』なんて言い伝えがあるんだ」
「弁財天様?」
「そう。
その昔、この村には銅山があったんだ。
銅山は今登っている山だけど、坑道入り口はこの道じゃないけどね。
そこはもう立ち入り禁止になってるし。
だからかな?
『財を成す』と言われて奉られていることが多い『弁財天様』が古くからこの村じゃ祀られているんだよ」
『弁財天』が財産を招く神様だ、と言うのは聞いた事がある。
昔、住んでいたところの近くには『錢洗い弁天』なんて神社も存在した。
その神社でお金を洗うと『お金が貯まる』なんて言い伝えがたしかあったんだっけ?
「あくまでもこの村の言い伝えなんだけど、弁天様は男には優しいけど、女には冷たいらしいんだ」
この手の言い伝えは聞いた事がある。
『弁天が祀られている『江ノ島神社』にはカップルで行ってはいけない。
女性の神様である弁天様は嫉妬深く、カップルを別れさせる』そんな言い伝えも存在した。
「しかし君は弁天様に好かれているみたいだねえ。
だいたい誰かがこの道を登ろうとすると、土砂降りになることが多いんだ。
『神様が山に誰かが侵入したのを怒っている』なんて言われたもんさ。
山を登っている時、しかもよそ者が山を登る時にこれだけ晴れているのは前代未聞だよ!」役人が笑いながら言う。
しかし役人はこの振動の中でよくペラペラ喋れるもんだ。
こっちはろくすっぽ、質問も出来ないって言うのに。
「さあ、到着だよ」
ようやく山道じゃなくて少し広いところに出た。
どうやらここに車を停めるらしい。
ボクは役人に連れられて村社の鳥居をくぐろうとした。
「ダメ!」
ボクはいきなり役人に呼び止められた。
「鳥居から通じる通路の真ん中は通らないで!
そこは神様の通り道だから」
あ、それ何か聞いた事ある。
神様はずっと神社にいるんじゃなくて、鳥居を通って神社を出たり入ったりするんだって。
神様は10月には島根県の『出雲大社』に集まるらしい。
だから10月に神社に神様はいない。
だから10月の事を『神無月』って言うって。
逆に島根県じゃ10月の事を『神在月』って言うらしい。
「これからは気をつけてね!
村の人らは信心深いから、あんまり軽率な態度は取らないでね!」
怒られてしまった。
「でも君は相当弁天様に気に入られているみたいだね!
鳥居の真ん中を通ったのに、天気は更に良くなった!」
いや、天気気にしすぎだろう。
『山の天気は変わりやすい』って言うじゃん。
天気が悪い時もあれば、良い時もある・・・それだけの話でしょ?
そう思いながら、ボクは反論しなかった。
「それはそうと、何でボクはここに来なきゃ行けなかったんですか?
雨風をしのぐだけなら、役場の軒下だって良かったのに」
「君はこの村の『よそ者に対する冷たさ』を甘く見ている。
よそ者が役場の軒下にいたら誰もが『駐在さん』に連絡いれちゃうよ」
『駐在さん』って言うのは警察官だろうな。
だから、取り敢えずこの村の『顔役』のところに連れて行く事にしたんだ。
「『顔役』?」
「あ、『顔役』って言うのはこの村社の神主さんね。
神主さんは、この村の揉め事、面倒事一切の仲裁に入っているんだ」
ボクが来たのは面倒事かよ!
「随分、神主さんは人格者なんですね」
「神主さんが人格者、というより『役職が人格を育てる』のかな?
村社は室町時代に村の『鎮守』のために作られたんだ」
「『チンジュ』?」
「そう。
村社は昔から、村の全てのトラブルを収める中心だったんだ。
だから、村では何かがあると神主さんに伺いを立てるんだ」
「全てのトラブル、神主に言って行くんじゃ、村長の立場ないですね」
「村長は神主さんの息子だし、村長がトラブルの仲裁を神主さんに頼んだりするんだよ」
なるほど。
ボクは「政治と宗教が癒着して良いんだろうか?」と思いつつ、それ以上は言わなかった。
村社には裏口から入った。
ボクは意外だったが「参拝に来たんじゃないんだから表から行ってどうするの?」と言われれば「それもそうか」と思うしかなかった。
「ごめん下さーい。
神主さんはいるかーい?」
役人は大きな声をかける。
呼び鈴はない。
昔ながらのすりガラスで出来たスライドドアはノックしたら割れてしまいそうなくらい脆く見えた。
息子がいる、という事は奥さんがいるのか?
いや、息子が村長という事はかなりの高齢の神主だろう。
もう連れ合いの奥さんは他界しているかも知れない。
見たところ、村はどうやら『無医村』っぽい。
きっと村の平均寿命は長くないのだろう。
「聞こえとるよ。
耳はまだ達者だ。
大きな声を出すんじゃないよ」
ガタガタと扉が開き、中から白い着物に紫色の袴の老人が出てきた。
確か、紫色の袴ってそこそこ偉い人なんじゃなかったっけ?
紫の袴に何やら柄が入っているが、それが何を意味するかはボクにはわからない。
「お前が来てロクな話だった験しがない!
今日も何やら面倒臭い話を持って来たのだろう?」
「面倒と言うか、何と言うか・・・。
今日は久々に『迷い人』を連れて来た」
役人は小声で言うが、しっかりボクには聞こえている。
「ふん、ここにいるならコレを着ろ」と神主。
神主がポンと投げて寄越したのは白の着物と袴だった。
「ここにいたいなら着物を着ろ。
ワシを見ればわかるだろ?
ここでの普段着は着物と袴だ」
「確かに。
でも神主さんとは袴の色が違うんですね」とボク。
「神主であるワシとお前が同じ色の袴の訳がなかろう?」
確かに神主の袴は紫でボクに渡された袴は白だ。
『紫は高貴な色』と聞いた事がある。
『白』は下っ端の色と相場が決まってる。
『白帯』って言うくらいだし。
「じゃあ後はよろしくお願いしますね!」役人はボクを置いて帰るようだ。
「色々お世話になりました!」ボクは役人の後ろ姿に声をかける。
「良いよ。
これからこの村のヤツらは君の世話になるんだし」と役人は手をヒラヒラと振りながら車が停めてある方向に帰って行く。
「取り敢えず着替えろよ」
ボクは神主さんに促される。
「着物の着方がわかりません」
ボクは言う。
嘘じゃない。
本当に着方がわからない。
「・・・ついてきな」と神主さん。
「え?
ここで着替えさせてもらってもかまいませんよ?」
「どうせ着るなら本格的な方が良いだろう?」
着物を着るのに本格的も本格的じゃないもあるんだろうか?
「良いから言う通りにしな?」
まぁ泊めてもらうんだし、着物を着せてもらうんだし文句は言えない。
・・・言えないが、神主の態度が横柄すぎないか?
「どこへ行くんですか?
家の中へ入らないんですか?」
「言っただろう?
『装束を着ていない者は神社の中には入れない』って。
今は取り敢えず、その下準備をしなきゃな」
「『下準備』って?」
「装束を着る前に身を清めるんだよ」
彼女に浮気されていても2ヶ月気付かなかった鈍感なボクでも流石にこの違和感には気付く。
おかしい。
神職は朝起きた時、着替える前に毎日身体を清めるのか?
それ以前に神社は来客者を家に上げる時、必ず身体を清めさせるのか?
いくらなんでも今の状況は不自然すぎる。
神主は何かしらの儀礼を行おうとしていてその儀礼にボクを出席させようとしている、と考えた。
しばらく世話になるのだ。
別に「儀礼に参加しろ」と言われたら断る理由はない。
なのに、神主はボクを騙して儀礼に参加させようとしている。
これは何か裏があるな。
しかしボクには拒否権がない。
日が暮れ始めている今、街灯もない山道に放り出されたら危険なんてものじゃない。
今晩はこの村社に泊めてもらうしかない。
この村社に滞在するためには神主の命令に従う以外にはない。
「あの・・・『身体を清める』というのは、具体的には何をやるんですか?」ボクが恐る恐る聞く。
「そうだな。
今から『禊』をしてもらう」
「『ミソギ』?」
「身体を水で清めるのだ」
「水をかぶるの!?」
ボクは悲鳴をあげた。
変だ。
この神社が来客者全員に水行をさせる訳がない。
神主が何かしら、宗教的儀式をボクに行おうとしている。
「村社の裏に滝がある。
滝で『禊』をしてもらう。
では服を脱いでもらおうか?」神主が当たり前のように言う。
「服を脱ぐんですか!?」
「そりゃ着ていたら服が濡れるからな。
何も裸一貫で滝の水をあびろ、とは言っていない。
『水を浴びる用』の白装束もある。
それにここで脱いだ服をは、ここにいる間は二度と着ない」
「どうしてですか?」
「言っただろう?
神社では普段から着物を着てもらうって。
心配ない。
滝行用の白衣は貸し出す」
滝行ってハッキリ言っちゃったよ。
「わかりました・・・。
白衣の下に下着とか着ないんですか?
褌とか・・・」
「ふんどしを付けたいのか?
女性であれば『透け防止』と言う事を気にする事もあるだろうが、お前は男だろう?
しかも滝行で一緒にいるワシも男だぞ?
お前はワシ相手に『透け』を気にするのか?」
つまり『下着は着けない』と言う事らしい。
「わかりました」
ボクは渋々滝の前で裸になると、渡された『滝行用の白衣』を身につけた。
「ちゃんと帯をつけろ。
はだけるぞ」神主に注意される。
やかましいわ!
『着物着れない』って言っただろう?
出張なんかで旅館で浴衣着たら、朝には寝てる間に裸に帯巻いてる姿で、背中に浴衣背負ってたりしたよ。
「心配しなくても滝の水の勢いは思ってる十倍緩い」
「しんどくなくて滝行の意味あるんですか?」
「『苦行』じゃない。
『身体を清める事』が目的だ」
「だったらシャワー浴びれば良いじゃないですか」ボクは思わず愚痴を言ってしまう。
「そう言うな。
この神社だけじゃなく、この村にシャワーなんて存在しない」
げ、マジか。
とんでもない田舎にきちまったな。
「それに他の水をいくら浴びても効果はないぞ」
「どういうことですか?」
「滝の水は山の地下水が混ざったモノだ。
地下水はただの地下水じゃない。
この山にある銅鉱脈を通っている地下水が混ざったモノだ。
何故銅が枯れてないのに銅山が廃坑になったのか?
鉱山の中で大量の行方不明者が出たからだ。
そして、大量の行方不明者が出た鉱山の中で、大勢の少女達が発見されたらしい」
「少女達?」
「少女達は鉱山の中に何者かに閉じ込められていた、という噂もあった。
少女達の言う事は荒唐無稽でとても信用に値するものじゃなかったらしい。
だが、少女達の言う事に一つだけ共通の証言があったんだ。
『落盤があって鉱山の中に閉じ込められて、地下水を飲んで命を繋いだ』と言う話だ。
落盤もあり、行方不明者も大量に出た事で鉱山は閉山になった。
でも少女の命を繋いだ地下水は『弁財天様の贈り物』として語り継がれているのだ」
「なるほど。
そんな神聖な滝でボクなんかが身体を清めて良いんですか?」
「誰でも良い訳じゃない。
『滝で身体を清めて良いのは「迷い人」だけ』とされている」
ボクは『迷い人』とコッソリ呼ばれている事を知っていた。
この村に迷い込んだ人を村人達は『迷い人』と呼ぶらしい。
どうやら『迷い人』はこの村の人達にとって『穢れた存在』らしい。
だから滝行で身体を清める。
「滝の水には銅山でわき出ていたと言われている地下水が混ざっている、と言われておる」
「げ、それって大丈夫なんですか?」
「特に身体に害はない。
間違えて飲んだ人も何とも無かったらしい」
「『らしい』?」
「もう銅山は立ち入り禁止で『一体地下水がなんだったのか』もう確かめようがない。
さっきも話しただろう?
『落盤があった』って。
行方不明事件が発生して立ち入り禁止だし、そうじゃなくても落盤があって坑道が塞がっている。
だから安心して滝行しろ」
「・・・わかりました」
ボクは神主さんに渡された白衣を着る。
もう滝行するしかない。
何でこんな事になっちゃったんだろう?
ボクは神主さんに連れられて神社の裏山の滝に着いた。
・・・何だコレ?
滝って言うのか?
チョロチョロ湧水がタレてるだけじゃないか。
そりゃそうか。
小川しかないし、滝壺なんてないんだから大きな滝なんてあるわけがない。
これなら浴びてもちょっと『冷たい』だけだな。
ボクは覚悟を決めて『滝』の下に立った。
頭からジョウロで水をかけられているような不愉快さだ。
頭がムズムズする。
「何をしている?
『合掌』せい」と神主さん。
「『合唱』?
誰とハモるんですか?」
「バカもん!
手を合わせるんだ!」怒られてしまった。
わかっとるわ、シャレもわからんのか?
最初から滝行の作法の説明もなかったから、ちょっと皮肉を言っただけじゃんか。
しかし頭皮が痒い。
かきむしりたい。
しかし『合掌しろ』と言われたばっかりだ。
我慢して両手を合わせている。
瞳を閉じて不快さに耐える。
・・・ダメだ、我慢出来ない。
ボクは瞳を開ける。
視界が何かに遮られている。
何だ、この黒い物体は?
すぐにその『黒い物体』の正体は理解出来た。
それは伸びたボクの髪の毛だ。
髪の毛が腰のあたりまで伸びたんだ。
頭皮の不快感もムズムズも髪の毛が急激に伸びた時の感覚だったんだ。
「うむ、この光景久しぶりだな」
神主さんはボクに起きた変化の予測が出来ていたみたいだ。
説明しとけよ。
ビックリしたじゃんか。
・・・と言いつつ、神主さんの落ち着いた態度に少し安心したのは内緒だ。
きっと神主さんは説明するだけムダだと思ったんだろう。
説明されたとしてもボクは『神秘の力』なんて信用しなかっただろう。
『神秘の力で髪の毛が伸びる』なんて言われたってきっと『寝言は寝て言え』って言ったに違いない。
説明されなかった文句がなかった訳じゃないけど、説明されなかった理由はわからないでもない。
それにボクはこの神社に居候させてもらう立場だ。
ここは質問だけしよう。
「この後どうすりゃ良いんですか?」
「滝行は終わり。
身体を拭いて着替えろ」と神主さん。
これで終わりかよ。
「着物、着れないですって」
「しょうがない。
手伝ってやるわ」
ボクは渡された手拭いで身体と髪の毛を拭う。
しかし髪の毛が長いと頭を拭くのが大変だな。
身体を拭く時にスネ毛が抜ける。
まるで脱毛クリームを塗ったようだ。
『神秘の力』の影響だろう。
ボクは「そんな事もあるのか」と楽観視していた。
髪の毛が急激に伸びる事もあるんだ。
スネ毛が一気に抜ける事もあるだろ。
神主さんは全てが想定通りらしい。
「驚いてませんね。
ボクに起こった変化、予想通りだったんですか?」
「過去に何度『迷い人』に滝行させてる、と思ってる?
ここ四年間は『迷い人』は現れなかったが」
「危険はない、と?」
「『命の危険』はない、と保証しよう。
この儀式を行った者の中に命を落とした者は一人もいない」
「・・・わかりました」
そう言っている間にボクは白い着物と白い袴を着せられた。
話を総合すると『滝行』は終わったけれど、『儀式』の全てはまだ終わっていないようだ。
ボクは伸びた髪の毛を後ろで一つに束ねさせられた。
束ねなかったら鬱陶しかったから良いんだけどね。
ボクはようやく神社の中に通された。
どうやら『穢れ』は滝行で落ちたと判断されたらしい。
ボクは大きな板の間に通された。
この光景を例えるなら能楽堂だろうか?
神前の結婚式場にも似ている。
「座りなさい」ボクは板の間の中央に案内される。
訳がわからない。
ボクは言われた通り胡座をかく。
「神様の前だ!
ちゃんと座りなさい!」ボクは神主さんに怒られてしまった。
慌てて正座をする。
神主さんはボクの前に盃台を置く。
当たり前といえば当たり前だが、盃台には盃が置かれる。
ますます神前結婚式の『三三九度』みたいだ。
でも相手はいないけど。
・・・イヤな事を思い出してしまった。
ボクには婚約者がいた。
数ヶ月後には挙式のはずだったんだ。
「派手な結婚式も披露宴もしない。
結婚式は神社で厳かに質素に行おう」そう言ってたんだ。
ちょうどこんな風に三三九度を行う予定だったんだ。
それがダメだったのかな?
その地味さが、今時の娘にイヤがられたのかな?
「どうしたんだ?
儀式中に雑念が見えるぞ?」と神主さん。
「すいません。
破局した元婚約者の事を考えてました」
ボクは素直に答えた。
すると神主さんは怒るでもなく優しく言った。
「そうか。
しかし案ずるな。
儀式が終わればそのような雑念、考える必要がなくなる」
「儀式で雑念が消えるんですか?」
「消えるかどうかはわからん。
俺は君ではないからな。
ただ少なくとも、そんな雑念は無意味になるだろう」
「正直、ボクは何もしていないと元婚約者の事ばかり考えていました。
仕事に打ち込もうとしても仕事も上手くいっていなくて・・・」
「それで新しい環境で人生をやり直そうとしたのだな?
この村での君の暮らしは全てが一変するだろう。
それだけは保証出来る。
そのために儀式を終わらせよう」
「お願いします!」
言いくるめられている事はわかっている。
でも、夜寝る前、ふと色々な事を思い出して頭が狂いそうになって絶叫したくなる。
そんな毎日が終わるんなら・・・。
ボクはその一縷の可能性にすがってしまった。
カルト宗教にハマる人の心境ってこんなモノだろうか?
ボクが正座している前置かれている盃台の上には盃が置かれている。
盃に神主がなみなみと土瓶で『何かしら』透明な液体を注ぐ。
液体は酒にも水にも見える。
まぁ酒なんだろう。
『お神酒』って言うくらいだしな。
神社の儀式に酒はつきものなんだろう。
「飲み干せ」神主さんはボクに言う。
注がれた時点でそんなこったろうと思ったよ。
まぁ、『イケないクチ』じゃないし、このくらいの日本酒、飲めない訳じゃない。
ボクは促されるままに、盃に注がれた『透明の液体』を一気飲みした。
飲んだ後にすぐに気づいた。
「これは酒じゃない」と。
敢えて言うなら『水』だが、少し甘味もある。
イヤな甘さではない。
「これは?」
「これは山からわき出ている地下水だ。
そうイヤな顔をするな。
確かに地下水は鉱山の中を流れる地下水と同じ物だろう。
でも落盤で閉じ込められた少女達は、この地下水を飲んで命を繋いだんだ。
地下水を飲んで命が縮む事は罷り間違ってもない。
それに言っただろう?
この儀式数年は行っていないが、過去に何度も行っている。
危険は全くないのだ」
「なら良いですけど」
段々意識が遠退く。
訳がわからん。
ボクはバッタリと板の間に寝転んだ。
「確かに地下水に危険はない。
ただ地下水には『睡眠導入剤』が混ぜてある」
ボクは遠退く意識の中で神主の言葉を聞いた。
ボクは目を覚ます。
ここは意識を失った板の間だ。
思い出した。
ボクは一服盛られたんだ!
ボクは寝ている間に何をされたんだ?
まだ睡眠導入剤の効果が切れていないのか、ボンヤリしている。
「目が覚めたかね?」神主が見下ろしている。
ボクは距離を取ろうとする。
そりゃそうだろう。
自分に一服盛った相手が目と鼻の先にいるのだ、油断はならない。
「そう警戒するな・・・と言っても無理な話か。
信じるのは無理かも知れないが、一応聞いて欲しい。
ワシが君が寝ている間にした事は一つ。
袴を履き替えさせただけだ」と神主。
言われて視線を下ろすと確かに履いていた白い袴が赤い袴に変わっている。
「『何でこんな事をしたのか訳がわからない』という顔だな。
弁天様の依り代の身体には白い袴を履かせた。
神がワシと同じ、紫色の袴というのは失礼だからな。
だが神が儀式で君の身体を使われた後は位の高い袴の色を履いているのは逆に神様に失礼だろ?」
どうやら『白は下っ端の色』というのはボクの勘違いらしい。
白い袴は紫色の袴より位が高い色らしい。
儀式でボクは弁財天役だったらしい。
で、儀式が終わったから位が高い白の袴は脱がされて、赤い袴を着せられたと。
理屈はわかった。
でもわざわざ眠らせる必要あったのか?
確かに『自分が神様役だ』なんて言われたら激しく抵抗はあっただろうけど。
「これから君にはその服装で過ごしてもらう。
その巫女服で」




