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限界集落②

 僕は役場のそばの空き家に案内された。

 「何でバス停のそばの空き家じゃなくて役場から近くの空き家なんですか?

 バス停のそばの方が他の街に出やすいし便利なんじゃないですか?

 役場までも結構軽トラで時間かかったし、車がないとここは不便な場所なんじゃなんじゃないですか?」

 「だから言っただろう?

 『空き家はオススメしない』って。

 空き家ならどこにでも案内出来る訳じゃないんだよ。

 言ったと思うけど、空き家って言っても土地の所有者がいるところもあるんだ。

 それに土地代は二束三文、家の修復費用を考えたら『新しい家を買った方が安い』物件を紹介する訳にはいかないだろう?

 それに紹介する基準は『ライフラインが生きている家』なんだ」

 「『ライフライン』?」

 「電気、水道・・・後は何をおいてもトイレだね」

 「トイレが大事何ですか?」

 「当たり前じゃないか!

 浄化槽で汲み取りは必要だけど『ボットン便所』じゃなく水洗のトイレの物件は限られてるんだ。

 数年前にも移住希望者が来たんだけどね『ボットン便所が嫌だ!』ってすぐに都会に帰りたがったよ。

 君ら、都会から来た人らが思う以上に『ボットン便所』の物件は嫌なモノらしいよ」

 「そういうものですか」

 「そうさ。

 ガスも都市ガスではないけどプロパンガスが使用可能な物件を紹介しなきゃいけない。

 電気だって使用可能な物件は探すの大変なんだよ?

 無理やり電気使おうとしても漏電してブレーカー落ちちゃうならまだしも、漏電が原因の火災の危険だってあるからね」

 「そう聞くとこの物件って本当に掘り出し物なんですね。

 僕に家賃払えるかな?」

 「家賃なんて取らないよ」

 「え?

 タダですか?」

 「言ったでしょ?

 『住んでるうちに修復費用がかかる』って。

 修復費用と家賃なんて払ってたら暮らしていけないよ」

 「『費用』の話をされてますけど、自給自足なんじゃないですか?

 お金って必要なんですか?」

 「この村に住む人を原始人か何かだと思ってないか?

 確かに基本的には『自給自足』だよ。

 でも電気代もガス代もみんな払って生活してるんだよ。

 みんな作った農作物を農協に売って金銭を手に入れてるんだ。

 それに電気屋だっている。

 ガス屋だっている。

 下水の汲み取り屋だっている。

 俺みたいな役場の公務員だっている。

 雑貨屋だってある。

 服屋がなけりゃ村人は服も買えないし、裸で生活しなきゃいけない。

 村に一つしかないけどガソリンスタンドだってある。

 学校の教師だっている。

 基本的にみんなが『自給自足』の生活をしていたって金銭が必要ない訳じゃないんだよ」

 「学校あるんですか!?」

 「あるに決まってるじゃないか。

 小中一貫の学校があるよ。

 小学生が三人、中学生が二人通ってるよ。

 『四年前に移住者がいた』って話しただろ?

 その子供が二年後には小学校に通う予定だよ」

 「・・・ボクみたいな男の単身者は村にとってはお呼びじゃないですね。

 ボクが増えても将来的には村人は増えない」

 「いやいや、動ける男手は貴重だよ!

 それに将来的に君が家庭を築くかも知れない」

 「ボクはしばらく彼女なんていりません」

 「何があったかは知らないし、詮索する気もない。

 でも今はそれでも良い。

 将来的に君がこの村にとって役に立つかも知れない」

 「そう言っていただけて、村に歓迎してもらえると助かります」


 「この家に住む上での注意事項をいくつか言う。

 天井裏からムカデ、蛇が落ちてくる事があるから気をつけるように」

 「お、脅かさないでくださいよ!」

 「いや、ムカデは結構な頻度で落ちてくる。

 そしてムカデをエサにしてる蛇も天井裏に忍び込む可能性は高い。

 これは脅しじゃなくて一年間に数回は必ずあることだ。

 ましてや隙間の多い、朽ちかけた空き古民家でムカデや蛇が落ちて来ない訳がない」

 「わ、わかりました」

 「ブレーカーが落ちたらすぐに『電気屋』を呼ぶ事。

 無理して電気を使おうとしたら、火災の可能性がある」

 「それは大丈夫です。

 一応こう見えても『第三種電気主任技術者』の資格を持ってます。

 ・・・取ったばっかりですが。

 一応道具さえあれば、簡単な電気工事も出来ます。

 テスターすら処分しちゃいましたが」

 「凄いな。

 記憶が確かなら、かなり取得困難な資格のはずだけど」

 「・・・将来のために『食いっぱぐれない資格』を取ったんです。

 婚約はご破算になって、資格取得のための苦労も無駄になっちゃいましたけど」

 「何があったかは聞かない。

 でも苦労は決して無駄ではない。

 電気屋が人手を探していたな。

 農作業が未経験なら、そちら方面に就職しても良いかもな」

 「資格は持ってますが、ボクは『メカニック』としては全く経験のない人間です。

 それにボクは前職じゃ機械をいじるんじゃなく、機械のアイデアを企画する仕事をしていました。

 役に立てるかどうか・・・」

 「聞けば聞くほど君はおそらく優秀だったんだねえ!

 君なら新しい仕事を覚える事に問題はなさそうだ!」

 「よして下さい、買いかぶりです」

 「話は脱線したが話を『注意事項』へ戻そう」

 「まだあるんですか?」ボクは若干ゲンナリしながら呟いた。

 「何、これは『ないとは思うがあったら注意しろ』という話だよ」

 「?」

 「まぁ、わからんだろうね。

 この空き家はちょっと曰く付きでね。

 ここに住んでた男が失踪してる」

 「『失踪』!?」

 「ここに住んでいた男は銅山で働いていた『坑夫』なんだ」

 「はぁ」

 「それは珍しい事じゃない。

 空き家の多くは『元坑夫』の家だ。

 銅山が閉鎖されて多くの坑夫がこの村を出ていった。

 で、多くの坑夫の家が空き家になった。

 『曰く付き』と言うのは『出ていった』事じゃない。

 『坑夫が消えた』事なんだ」

 「『消えた』?」

 「坑夫は銅山が閉鎖された後もこの村に残っていたんだ。

 『お前は普段何をしているんだ?』多くの村人が男に聞いた。

 男は絶対に答えなかったが、ある時飲み屋で男が良い気分になって口を滑らした事があるんだ。

 『銅山で取れるのは銅だけじゃない。

 銅山では半導体を洗うのに適している液体がわき出ているんだ』って。

 『でもその液体は扱いが難しい。

 銅と反応してしまう。

 とても危険だった。

 でも山では銅はもう取れない。

 これからはコンピューターの時代だ。

 半導体を扱う上で液体は金になる』と。

 男が失踪した後、男の家には家財道具や財産も全て残されていた。

 ただ男は一人の少女を監禁していたんだ。

 可哀想に、少女は気が触れて意味がわからない事ばかり言っていたんだ。

 少女は街の病院へ移された。

 でも何を言っているかは最後までわからなかった」

 「最後?」

 「病院から抜け出して山を登ろうとしたんだ。

 そして足を踏み外して谷底へ。

 山道は『妻請村』に続く道だったから少女は『妻請村に来ようとしてたんじゃないか?』なんて言う者もいたけれど今となっては確かめようがない」

 「少女は何て言ってたんですか?」

 「人伝だから確かじゃないけど『届かなくなった』『ミスした。十円玉だ』とか言ってたとか」

 「意味がわからないですね」

 「意味なんてないのかもね。

 そんな話はどうでも良いんだ。

 この家では『男が保管していたといわれる液体』が発見されていないんだ。

 男の言った話が本当なら『銅と反応させたら危険』な液体がこの家のどこかに隠されているかも知れない」

 「わかりました。

 でもそれは大丈夫ですよ。

 皆さんが探してもない物をボクが見つけられる訳がないし、もし仮に見つけたとしても男の言う事が本当なら銅と反応させなきゃ液体に危険はないんですよね?」

 「それもそうか。

 それじゃ俺は失礼するよ」

 「色々ありがとうございました」


 役人に人影が近付く。

 「あ、村長?

 大丈夫です。

 『迷い人』は逃がしてません。

 役場のそばの家に誘導しました。

 アソコであれば役場から監視できます。

 逃げようとしても歩いて村からは出れませんし、逃げようとしてもすぐにわかります。

 そのうち『村社』に誘導します」

 ボクは役人と人影が家の外で密談しているのに気付かなかった。

 ボクは何とか空き家を住める状態にしようと必死でそれどころではなかったのだ。


 取り敢えず暗くなってきたし電気をつけよう。

 ボクは蛍光灯のスイッチを付ける。

 すぐにブレーカーが落ちる。

 マジか。

 いや、長年使ってなかったんだから、漏電は当たり前か。

 どこが漏電してるんだろう?

 調べようにもテスター持ってないぞ。

 参ったな。

 電気屋で挨拶がてらテスターを借りて来よう・・・としたが、電気屋の場所を知らないぞ?

 しかも村は電灯もないのに暗くなり始めている。

 これ、今外に出たら遭難するぞ。

 さっき『山道で崖から滑落した少女』の話聞いたばっかりよね?

 今、外に出たらその少女と同じ運命を辿りかねない。

 テスターを借りに行くのは明日にしよう。

 しかし完全に暗くなる前に何とかしなくちゃ。

 幸運は家電製品が全く無い事。

 漏電しているのは三ヶ所の蛍光灯のどれかだ。

 ボクは蛍光灯を一つずつ絶縁させ漏電を特定する事にした。

 漏電してる蛍光灯が特定出来た。

 でもブレーカーが落ちてすぐにブレーカーを上げるのは良くない。

 ボクは敢えてしばらくブレーカーを切ったままにしておく事にした。

 ブレーカーを落とす時に気付く。

 配線が切れかけている。

 これが漏電の原因かも知れない。

 家には何もなかったが、ここに住んでいた男が使っていただろう、ハサミなど多少の道具が残されていた。

 ボクはハサミを使って配線を一旦切る。

 一旦切った配線から銅線を取り出し、もう一度ちゃんと配線し直す。

 ちゃんとした道具を使っていないからちょっと戸惑ってしまった。

 ようやく作業が終わろうとしていた時にボクは天井に隙間があるのを発見した。

 先程『天井の隙間からムカデや蛇が落ちてくる』という話を聞かされたばかりだ。

 この隙間は看過出来ない。

 ボクは隙間をどうにか塞ごうと試みた。

 押すと隙間のある天井板は上に持ち上がる。

 どうやらこの天井板は外せるらしい。

 外して天井裏に登れる。

 ・・・登ろうと思えば、だが。

 ボクは『天井にムカデや蛇がいる』と聞かされて天井裏に登る勇気はない。

 ボクはパイプ椅子の上に立っている。

 おそらくこのパイプ椅子は元々この空き家にあった物じゃない。

 役場の備品だろう。

 『この空き家を捜索した』とか言ってたし、『この空き家を役場で管理している』とか言っていたんで、最低限の備品は持ち込んでいるんだろう。

 そういえば部屋の隅にある布団も役場の備品だろうな。

 あれがなきゃ寝れないし、生活に最低限の備品は持ち込んでいるんだろう。

 しかしパイプ椅子はボロい。

 ガタガタ今にも倒れそうだ。

 ついにボクはパイプ椅子が倒れて転落、転倒した。

 イテテテテ。

 でも下は畳だしそこまでダメージはない。

 だが天井板も外れて落下してしまった。

 それだけなら天井裏をもう一度嵌めるだけだ。

 問題はポリタンクに入っている『何か』が屋根裏から落ちて来た事だ。

 これは何だ?

 落下した衝撃でポリタンクのフタが緩み、少しだけ液体が漏れ出している。

 でも完全にフタが外れた訳ではないし『漏れた』と言っても『畳に少しシミが出来た程度』だ。

 あーあ、掃除しなきゃ。

 どうせ天井裏の埃が落ちてきているからシミがなくても畳を拭かなきゃいけないんだけどね。

 畳にはブレーカーの切った銅線のカスが落ちている。

 その銅線のカスに液体がかかった。

 液体から煙が上がる。

 どういうことだ!?

 この液体・・・そうか!

 この家に住んでいた男が保管していたという『銅に反応する液体』か!

 しかしこんな少しの銅に反応するのか?

 ボクは役人の言葉を思い出す。

 少女は言っていた『十円玉』と。

 そうか、男は十円玉の銅に反応した液体にやられたんだ。

 でもどういうことだ?

 やられたのは男で、何故一緒にいたはずの監禁されているいた少女は無事だったんだ?

 そんな事を考えているヒマはない!

 モクモクと液体から煙が上がる。

 もう視界が一切効かない。

 ボクは意識を手放した。


 「おはようございますー!

 よく眠れましたかー?」役人が空き家に顔を見せる。

 迷い人の男の姿はない。

 「逃げたか・・・」

 まぁ良い。

 何故かは知らないが、逃げた男の代わりに畳の間にはうつ伏せの少女が眠っている。

 役場に戻り役人は電気屋に電話する。

 「タツさん?

 確か『看板娘が欲しい』って言ってたよね。

 役場が管理してる空き家に家出娘が住み着いたから、多分紹介出来ると思うよ」

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