幕間閑話 巻子真二郎のその夜
---- Shinjiro Side ----------
――遂に結婚、か。
俺は若干感慨深げに想いながら自室のデスクに着く。
魔王サラ・ラスト・リリステレスと一般人只野仁志の結婚式が行われた日の夜。俺も一通りの式に参加しながら仁志君の補佐をしていた。やったことと言えば仁志君の親類・友人達に新婦が魔王であることを隠す情報操作だ。
俺は仁志君の友人を装いつつ式中もあれやこれやと忙しかった。日本を案じる年配者から「なぜ外務大臣と防衛大臣がここに?」なんて疑問を呟けば、私がそちらに向かい「アレは新婦の知り合いで似てるだけのただの中年魔族です」などとフォローした。
当の両大臣からは非難の視線を受ける始末。元々覚悟はしていたが、出世は難しそうな気がした。
気苦労の絶えない一日が終わったと新居で一息ついて、再び職務を始めようとした。
以前は東京駅に近いマンションを借りていたが、忠野夫婦の補佐をするに当たって引っ越しを行った。忠野家新居から歩いて五分のマンションである。
高級高層マンションなのだが、二人の一大事の際直ぐ駆けつけられるようにと階段からでも降りられる二階の部屋を買った。
間取りも立地も以前いた場所の方が良かったが、仕事の範疇と我慢するしかない。初めは渋々請け負った魔王夫の補佐役だが、なかなかどうして面白い。
忠野仁志。印象を述べれば小市民、小物。魔王の夫になる器ではないと言わざるえない青年だ。正義感と言うほどの正義感もなく今時の若者の一人とカテゴライズもできる。
ただ俺にとっては見れば彼はなかなか面白い人物に感じられた。
俺は某大学を出てから親の伝手で絆機関に入った。俺の親は絆機関に縁の深かったから、学生の頃からその存在を知り将来もそこで働くことがいつからか決まっていた。
絆機関の人間は正式な政治家ではない。色慾城の外交の仲介を行っているのに政治家ではないのはかなりグレーな立ち位置だが、政治家がやると危険な部分もあるため我々が行動する。
そんな我々には多くの技術と、様々な人脈パイプが必要となる。
まだアラサーでもない俺だが、多くの政治家や起業家たちと顔を合わせる。
正直息の詰まる時間の連続だ。
それに比べて仁志君の気安さ。
補佐案件以外の会話は他愛のない話で構成される一般人の日常。
仕事が仕事だけに、学生時代の友人や元恋人とも連絡とることのなくなった俺にとっては懐かしさを感じさせてくれる。
思えば日色外交案件以外は夫婦の問題に対応するだけである。それは井戸端で繰り広げられる話題に近い物だ。
良い方向に軌道が向けばあとは普通のご近所づきあい程度案件が仕事になるのかもしれない。
背後で何をやっているかわからない政治家と顔を合わせて笑顔を作るよりは健全な仕事内容ではないだろうか?
そんな甘いことを考えてPCを起動させる。
機関に送る日報を書き上げる前に、幾度か目を通した忠野仁志のプロフィールを確認する。
毎回やっていることではない。ただなんとなく、彼が結婚をしたからなんとなくだ。
これまでの彼の生活に特出する事件は存在していない。一つあげるのなら、彼の叔父が異世界人の女性と結婚して既に離婚していたくらいだった。このエルフはちょっとした人物なのだが、仁志君自身に深い縁があるわけではなかった。
それ以外は平凡、サラに会うまでは特出することのない生活を送っている…そう思っていた。
「ん?この学校……」
あまり気にしていなかった項目に目が行く。彼の母校、高等学校だ。
県立の高等学校。有名というわけでもない。だからあまり気にしないで見ていた。
ただこの学校名を以前別の人物の項目で見た覚えがあった。
気になって直ぐ行動する。立ち上がったばかりのパソコンで幾つかのパスを通して絆機関のデータベースにアクセスする。仁志君が通っていた高等学校に関わっている人物をある、一定の条件を踏まえてピックアップした。
無名の高等学校だけあり条件に当てはまる人物は少なかった。
検索結果で上がった名前は二人だった。
「……」
俺は息を呑んだ。…一人は俺が補佐している忠野仁志その人。
「……まさか」
そしてもう一人は…。
俺がその事実に驚きを露わにしていたその時、仕事用の携帯端末がなる。緊急を知らせるアラームだ。
俺は、直ぐ気持ちを切り替え携帯をとる。
「はい、絆機関の巻子です」
『……』
携帯に出た物の声が聞こえない。ただ、何か音は聞こえる。電波が悪いのか?
「……仁志君?」
『あ、あの…補佐官くん』
「さ、サラ様!?」
やっと聞こえてきた声に驚く。電話をかけてきたのが仁志君かと思っていたが声の主はサラ様だった。
「どうかしましたか?」
『そ、それが…えっと…』
何事か尋ねてみたが、どうも要領を得ない。普段堂々としているサラ様と思えない。
普段この携帯にかけてくるのが仁志君なだけに非常に緊急な事態であると伺わせる。
「…すぐに向かいます。カルジンさんにも連絡いたしますか?」
『え、あ、お願い…します』
「……わかりました。向かいますので一度切ります」
…調子が狂う。あまりに弱々しい声色。声が似ているだけで別人ではなかろうか?
私は一分もかからず支度をし、マンションを出ながらカルジンさんに電話をする。
結婚したその日に問題発生。やはりそんな甘い話ではないのかも知れないと大きく息を吐く。外交に影響がない範囲なら良いのだが。
……私が忠野家に非常用に持っていた鍵で入ってから、直ぐに部屋を回り寝室へ到着する。
そして、私のトラウマがまた一つ増える。
「あ、補佐官くん…す、すまないがタオルか何かでダーリンのこ、股間を隠してくれまい、ませんか?」
「……」
――うわぁ…これはエグい…。
上半身と両足は再生されて股間部の肉塊だけは未だに部屋中に散乱している。なんとも同性としてはひっじょうに厳しい光景だった。
普段は服も一緒に再生されるはずなのだが、その様子はない。どうやら最中に爆散したのだろう。
その光景があまりにきつすぎた私は、先程見た重要事項を忘却の彼方へ送ってしまった。
仁志君がある人物とクラスメイトだったことを…。




