素敵なお隣さん
俺とサラさん、忠野家新居のお隣に和藤夫妻がいる。
俺達と年の近い、日本人夫婦だ。
「隣人付き合いは大切に」
という我が両親の忠言の元、周辺数カ所ご近所に挨拶回りに行った際、一番友好的だったのがこの和藤家だった。
道路から観て左隣の和藤家宅に挨拶した際には奥さんしかいなかったのだが、その夜わざわざ我が家に夫婦共々来てくれて、歓迎の印とばかりに料理を振る舞ってくれた。
夫、和藤 護。
純日本人で、詳しく知らないけれど工場に努めているらしい。
妻、和藤 奈々梨。
母が英国人でハーフ。日本生まれ日本育ちらしいけれど、家事の合間に翻訳のお仕事もしているらしい。
なんと言っても美男美女の夫婦であり、護さんは俳優業、寧ろアイドルで活動しても自然なくらい完璧なルックスを服の上から醸しだし、奈々梨さんもイギリス人と日本人のいいとこ取りといったくらい容姿に恵まれている。
かたや絶世の赤髪美女である妻の隣には凡夫という片側が大いに負けている我が忠野夫婦。若干嫉妬を抱かなくもないが、和藤夫婦は外面だけで無く内面もイケメンなので手の打ち所がない。
本日この日も、日曜と言うこともあり休日だった護さんは奈々梨を連れて我が家に遊びに来てくれていた。
「こうですか?」
「そうそう、最初は慌てず丁寧にやろうね。慣れれば自然と早くなるからね」
サラさんは奈々梨さんの指導の下、包丁で食材を切っている。
若干不規則な包丁とまな板がかち合う音、それだけで未熟さがわかってしまう。
午前中に訪れた和藤夫婦は両手に食材の詰まった買い物袋を持参して訪れ一緒にお昼を食べようと提案してくれた。
和藤夫婦が初めて我が家に来てくれた際、既にサラさんが料理が素人ということはカミングアウト済みだったので、奈々梨さんがマンツーマンで教えてくれている。
奈々梨さんは初めて使うキッチンながらその動きに迷いは少なく、それだけで料理が得意なのだなと思える。俺が教えるより断然良いだろう。
「いや~しかし、遠巻きに観てもいいもんだね。美女二人の料理姿ってのは絵になるわ~」
ダイニングで俺の向かいのソファーに座っている護さんが油断だらけの表情でキッチンを観ながら感想をごちる。
「そうですね」
俺も倣ってキッチンの奥さん二人組を眺める。自分の家に美女二人が何かをしている姿は絵になり、護さんと同様に思わず顔が緩んでしまう。
赤髪金髪美女の仲睦まじいこと。
知ってるか?赤髪の女性は俺のお嫁さんなんだぜ?
「しっかし、仁志君。君の奥さん滅茶苦茶美人だよね~。正直初め観たとき目を見張ったよ。魔族って総じて美男美女だけれど、彼女は別格だね」
護さんは「俺は奈々梨の方がタイプだけれど」と予防線を張りながらそんな感想を語ってきた。
彼の感想には同意できた。聞くところによれば魔族は体内に魔力なるものを蓄積している。その魔力は魔法などの現象に変換できたり、体内の健康維持や美容にも活躍できるという。
有り余る魔力を秘めたサラさんは必然と健康体室でお肌もぴちぴち。体型も魔力により完璧なプロポーションにまで成長し維持されているのだ。別格も別格だろう。鎖骨が素敵なのは自明の理ってわけだ。
「それを言うなら護さんの奥さんだって素敵すぎですよ」
その点で言えば、ハーフとは言え日本人である奈々梨さんは魔力無しで外国人モデル顔負けの容姿をしているのだ。サラさんに負けず劣らずのプロポーション&鎖骨。
正直目の毒です。
「ふふん、そうだろそうだろ?本当にね、俺はナナと結婚できて良かったって思ってるよ。俺ん中であいつ以上にいい女はいない!」
俺の言葉に護さんは自慢げな顔でどこか気持ちのこもった台詞を返してくる。
「こらーそういう恥ずかしいこと言わないの~。照れるでしょ~」
「事実を言って申し訳ない」
「お馬鹿~」
さほど離れていないキッチンから奈々梨さんが若干照れくさそうな表情で文句を言ってきた。満更ではないご様子。
「お二人って工場勤務と翻訳家をされてるんですよね?あんまり接点がないように見えるんですけど、どこでお知り合いに?」
仲睦まじい和藤夫婦に、これからの理想像を見いだした俺はちょっと二人の身の上話が気になった。
「ん~学校がね、同じだったんだよ。なぁナナ?」
「えぇ、高校の時ずっと同じクラスだったの。でも正直最初は護のこと好きでもなかったかな?」
「本当ですか?」
奈々梨さんの思いがけない一言に隣のサラさんも食いつく。いきなり余談ではあるが、意外なことにサラさんは他人対して敬語を普通に使える。
魔王なんて存在故に不遜なタメ口っ子かと思いきや、挨拶回りやら役所の手続きでも一般人よろしく敬語で話をしていた。偏見良くない。
「ん~護はね~不良…というか、授業に不真面目だったのよね。授業も不真面目で劣等生とか言われてたの。私はどちらかと言えば真面目なガリ勉学生だったから、護のヘラヘラした態度に不服というか嫌悪してたよ」
「はー、それでよくご結婚されましたね?」
顔かな?ルックスかな?
「ん?まぁ俺が元々ナナのこと大好きだったからアプローチしまくったってのもあるよね。初め俺のことそんな良く思ってないってわかってたけど、不満顔も好きでさ。滅茶苦茶ちょっかい出してた」
護さんは悪びれもせずそんな昔話をする。
「最初は本当に嫌がらせかと思ったけれど、その内護の優しさとかに気づけて…」
奈々梨さんは過去を懐かしみながら頬を朱色に染める。お隣の人妻可愛いなオイ。
「ウチのヨメ可愛いべ?で、俺とナナは同級生だったけど、仁志君達はどんな出逢いだったのさ?」
「俺達ですか?」
護さんが何気なく俺達に話題を返してくる。
「私と…仁志さんは新宿のお好み焼き屋で出逢ったんですよ。仁志さんが声をかけてきて」
「おぉ、ナンパか~。やるね仁志君~。でもサラさんほどの見た目ならナンパしたくなる気持ちはわかるなぁ~」
「…護?」
「客観的にですよナナさん」
護さんの失言に奈々梨さんが包丁片手に威圧的な視線を向け、護さんは諸手を挙げて弁解する。
「浮気したら殺すから、ね?」
奈々梨さん眼光凄いな。コレが眼で射殺すって奴か?
「それは勿論。浮気なんてしないけどね?」
そんな奈々梨さんに柔和な微笑を見せる。わーイケメン。
彼女に対して全く引け目もないご様子だ。詰まるところ愛しているのだろう。
「浮気はしないけど、仁志君達とは仲良くするぜ。なぁ仁志君次の花金にでも飲みに行こうぜ~。行きつけの居酒屋があるんだ」
「いいですね。是非是非」
「むむっ、なら私はサラさんとケーキバイキング行くから、サラさんケーキ好き?」
「え?ケーキですか?…あぁ、結婚式にあった。はい甘くて好きですよ?」
「おい待て、俺もケーキ食べたくなってきた。チーズケーキ食べたい。仁志君はケーキ何が好き?」
「あ、俺もチーズケーキ好きですよ?」
「あー食べたくなってきた。ナナ、昼飯食べたら食べに行くか」
「妻に異論無し」
「え、昼飯食べるんですよね?」
「ふっ、新婚忠野夫婦に教えておこう」
「人間甘いものは」
「「別腹っ!」」
…単なる仲良しスイーツ夫婦だった。
この後、護さんに近場にある郵便局やら緊急避難場所などを教えてもらって、美人若妻二人作の手料理を食べた。そして、スイーツ夫婦行きつけのケーキの美味しいカフェに出かけてケーキを食べながら雑談に花を咲かせた。
ケーキバイキングはまた今度らしい。
お隣がこんな気の良い夫婦だったことはとても幸運だと思う。
今後とも和藤夫婦とは仲良くやっていけると思った。




