お土産と、ちょっぴり寂しい気持ち
「ルルク!いつまで寝ておるのだ!」
ローラの怒鳴り声に、僕は飛び起きた。
「ご、ごめん……ちょっと幻獣の調整で疲れちゃって……」
「こ、こんな屋敷の中で呼び出したのか!」
ローラは声を震わせながら、憤っている。
「大丈夫だよ、全部ミニチュアサイズで呼び出したから。この部屋、何ともなってないでしょ?」
僕は言い訳を並べる。それでもローラはまだどこか落ち着かない様子だった。
「アンナは?まだ戻ってないの?」
「先程、サラ殿と一緒に戻ってきていたぞ」
「じゃあ、サラさんと一緒なんだ、アンナ」
少しだけ、アンナが羨ましくなる。サラさんと買い物をして、その後もずっと一緒だなんて。……まあ、僕はサーペントドラゴンという仲間を増やしたわけだけど。
(……ん、この微妙な気持ちは何なんだ……)
「もうそろそろいい時間だぞ、ルルク」
「わかった、戦いの支度をするよ」
「うむ。また玄関で会おう。待っているぞ、ルルク」
ローラはそう言って、部屋を出て行った。
僕はいつもの革の防具を身に着け、リュートを背負う。そしてケルベロスのためのキャンディをポーチに押し込むと、僕も部屋を出た。
「あ、ルルク!」
荷物をたくさん抱えたアンナが立っていた。
「雑貨とか服に薬、お菓子まで色々買っちゃった!シュナイゼルの朝市、楽しかったよ。サラさんもすごく気さくで良い人だし!あ、ルルクにもお土産があるんだー」
アンナは袋の中から、クッキーのような焼き菓子が入った小袋を取り出す。
「はい、これ。ケルちゃん甘党でしょ?キャンディばかりじゃなくて、こういうのも良いかなって思って」
「僕というより、ケルベロスへのお土産だね」
僕が苦笑すると、アンナも楽しそうに笑う。
「だって、ケルちゃん可愛いんだもん~」
アンナは相当ケルベロスを気に入っているらしい。それは嬉しいことではあるけれど……教会などでは、神や天使を除く幻獣は忌み嫌われることも多いのだ。
「ケルベロスたちも喜ぶと思うよ。アンナからもらったって伝えておくね」
「うん、ぜひ言っておいて!ルルクだけじゃなくて、私にも甘えてくれるようになるかも!」
「お金が大好きなフクでもいいの?」
「えー!そ、それはちょっと困っちゃうかな~?」
そう言って、アンナはまた弾けるように笑った。
「じゃ、アンナ、僕は先に玄関に行ってるね」
「了解~!私も荷物まとめたらすぐ行くね!」
そこで僕とアンナは別れた。
玄関に行くと、サラさんとローラがいた。
「サラさん!それにローラ!」
「私はついでか」
ローラが少し口を尖らせる。
「そ、そういうわけじゃないよ!アンナも荷物をまとめたら来るって」
僕は少し焦って言い訳をした。これじゃ僕がサラさんしか見えていないみたいじゃないか。違う、ちゃんとローラだって視界に入っている。
ローラは口元を少しニヤリと歪め、
「……まあ、そういうことにしておこう」
と、言った。僕は心底ホッとする。
「アンナさん、たくさんお買い物をしていましたからね」
サラさんが助け舟を出すように言った。確かにアンナは大荷物だった。荷物整理だけでもひと苦労だろう。
「アンナさん、シュナイゼルの街を気に入ってくれるといいのですけれど」
サラさんはそう言葉を続けた。街の復興を目指す彼女にとって、一番気になるポイントなのだろう。
「大丈夫ですよ、サラさん。僕もこの街が好きですし、アンナもきっと気に入っています」
僕がそう伝えると、ローラが慌てて付け足した。
「わ、私も気に入っているぞ!この街を」
サラさんは丁寧にお辞儀をする。
「ありがとうございます。そう言っていただけて、嬉しい限りです」
彼女が顔を上げると、にこやかな笑顔とバッチリ目が合ってしまった。僕は急に照れくさくなり、頭をポリポリとかく。
「アンナはそんなに買い物をしたのか……」
ローラの呟きに、サラさんが答える。
「ええ。ずいぶん楽しそうに選んでいらっしゃいましたわ」
「……まったく。冒険者のくせに、旅行と勘違いしているのではあるまいな」
ローラは憮然とした表情で言い放つ。
「まあ、僕だって最初は似たようなものだったし。買い物好きでもいいんじゃないかな」
僕がアンナをフォローすると、ローラは不満そうに突っ返してきた。
「理解できん、そういう気持ちは。これから魔物を退治しに行くというのに」
「いいんじゃないかな。アンナらしくてさ」
苦笑いを浮かべながら重ねてフォローする僕に、ローラはやれやれと首を振る。
「甘いな、ルルクは」
「そうかな?普通だと思うけど」
「お二人とも、落ち着いてください。アンナさんもじきにいらっしゃいますわ」
ふたりのやり取りを見かねて、サラさんが静かに割って入った。
「ごめーん!遅くなっちゃった~!」
奥の方からアンナの明るい声が響いた。
「待ったぞ、アンナ!本当にお前ときたら、ちゃんと冒険者だという自覚はあるのか!」
間髪いれずにローラの雷が落ちる。アンナは小さくなってペコペコと頭を下げた。そのやり取りが可笑しくて、僕は思わず吹き出してしまう。
「じゃあ行こう、ふたりとも!」
僕が声をかけると、ふたりは力強く頷いた。
「よし、出発だ、ルルク」
「うん、頑張ろうね、ルルク!」
「いってらっしゃいませ。どうかみなさん、ご武運を!」
サラさんは優しく微笑みながら、僕たちを温かく送り出してくれた。
*****
「そうそう、私、サラさんからいいものもらっちゃった!」
歩き出しながらアンナが言った。気になって視線を向けると、彼女は腕をかざしてみせる。
「じゃじゃーん!サラさん特製のミサンガ!可愛いでしょ?」
自慢げに見せびらかすアンナ。
(サラさん、僕だけじゃなくてアンナにも作っていたんだ……。なんだか、ちょっとだけ寂しい)
「む?なんだそれは」
隣でローラが首を傾げた。
「知らないの?お守りみたいなアクセサリーだよ。私の故郷のザアララでも流行ってるんだ~」
「これのことだよ。僕もサラさんからもらっていたんだ」
僕は、サラさん自身の手で巻いてもらった腕のミサンガをふたりに見せた。
それを見たアンナは、どこか意地悪そうにニヤけた顔を浮かべる。
「ま、ルルクは当然よね。サラさんからしたらさ」
「当然ってことはないと思うけど……」
「本当、わかってないわね、ルルクは」
呆れ顔のアンナをよそに、ローラが腕組みをして言った。
「そうなのか。私も先ほどサラ殿からもらったのだが、鎧を着てしまったからつける場所がなくてな」
(ローラまでもらっていたとは!……って、なんだか分からずにもらったのか!)
「サラさんって本当にいい人よね。いい意味で分け隔てがなくて」
アンナがしみじみと呟き、僕とローラも深く頷く。
(……ほんの少しだけ、僕だけの特別なものだと思いたかったな、このミサンガ)




