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第一部 ep.1【phantom】

初めましての方が大半だと思います。作者の『あさろう豆腐は崩れやすい』です。

先に言っておきます。

私はメンタルではなく物理的に崩れやすいです。

今もキーボードを叩く衝撃で、右腕のあたりが自重に耐えかねて崩落しかけています。

お取り扱いには細心の注意をお願いします。


そんな脆い肉体を維持しながら書き上げた、爽快な青春物語です。

皆様に楽しんで読んでもらえることが、私の物理的な形を保つ凝固剤となります。

それでは本編、お楽しみ下さい!


「近寄ってんじゃねぇ!!」

()っ」


 俺——神崎(かんざき) (ひびき)は今日もいじめられている。

 黒縁メガネ+マスク+陰キャ。この3コンボで、クラスが始まり速攻でカースト最底辺に堕ちた俺は、カースト上位勢の陽キャ軍団から虐められ、毎日虐められている日々を過ごしている。


「や、やめ!」


 俺が叫ぶと、いかにもギャルといった金髪女子の眉間に(しわ)が入る。


「何、口答えしてんだ、よ!」

「ぐっ!」


 脇腹を蹴られた。肝臓が悲鳴を上げて、気絶しような程の苦痛が体を襲う。


「お前は!」


 鳩尾(みぞおち)を殴られた。


「アタシたちの!!」


 右頬(みぎほほ)を殴られた。


「サンドバックなんだから、黙って殴られてりゃいいんだよ!!!」


 金的を正面から蹴り飛ばされた。


「ぐゔぉぁっ!!!」


 俺はふっとばされ、壁に激突した。


「何そのリアクション? 超ウケるんですけど~」


 俺を殴ったギャルは、顔の前にスマホを構え、満面の笑みでシャッターを切った。


「はい、チーズ。……あ、もう一枚」


 カシャカシャと無邪気なシャッター音が教室に響く。


「見てこれ、ウケる! 髪ボサボサだし。顔とかめっちゃ必死じゃん!」


 彼女は画面を見てゲラゲラと笑い、俺の髪を掴み、野次馬の方に投げた。


「マジ、最高。これからもアタシらのサンドバックでいてね」


 最後に水の入ったトタンバケツを俺の頭に落として去って行った。


「じゃあね~」


            ◇ ◇ ◇


「くそぉ~。あのギャル。全力で殴りやがって。やっぱあいつらの中でアイツが一番容赦ねぇ……」


 俺は血が出る頭を押さえ、独り言を言いながら帰り道を歩いていた。

 これ周りから見たら変人じゃね?

 だが、俺はそんなことを気にせず、溜まりに溜まった鬱憤(うっぷん)を今日も発散する。

 あの後、先生が教室に入ってきて俺の姿を目にした瞬間、心底嫌そうな表情をして、帰りのホームルームを始めた。


「あの変態エロジジイが、面倒ごとに関わりたくないからって、頭から血が出てる重症の生徒を無視すんなよ。ギャルとラブホ行ったことバラしてもいいのか? いいんだな。教師のスキャンダル発覚特ダネ記事出してやる。はぁ~さっさと解雇になって、担任変わってくんないかなホント」


 独り(ごと)ってるところいきなり、後ろから肩を叩かれた。


「はい? なんです――」

「今日は楽しかった、ぜ!」

「ぐぇ!」


 振り向いた瞬間、金属バットが鼻にめり込み、直後鮮血が飛び散った。


「じゃあな~」

「…………」


 金属バットを担いで去って行くカースト上位勢の軍団をうらめしそうに眺める。

 テメェら、覚えてろよ。いつかぜってぇやり返してやる。——やり返せねぇけど。

 俺は一つ溜息をつく。


「はぁ~」


 帰ったら、何しようか?

 まぁ『Dystopia(ディストピア) Log(ログ)』一択だがな。

 『Dystopia(ディストピア)Log(ログ)』――直訳すると、暗黒郷の記録。名前からわかる通り、暗黒世界が舞台のゲームだ。正確には終末世界が舞台で、俺たちが住んでいる地球が宇宙から突如飛来した魔獣により侵略され、人類の文明は滅び去った。と思われたが、絶望の淵で生き残った者たちがいた。その者たちは【天職(ジョブ)】という力に目覚める。そして人類は立ち上がり、魔獣を滅ぼし、世界を救うという王道ストーリーだ。ちなみに【天職(ジョブ)】は好きなものを選ぶことができる。

 俺は急いで家に帰ると、宿題を速攻で終わらせ、爆速で飯を食い、そして風呂に入って汚れと血を洗い流す。

 ――って血が固まって全然とれねぇ!!!

 いつものように俺は洗剤を手に取り、格闘を開始する。


「くそが~。あのギャル~、今日は大会があるのによぉ~。余計な手間かけさせやがって!」


 ワシャワシャワシャ。


「てか、あのギャルがエロジジイとラブホ行ったんだってな」


 ワシャワシャワシャ。


「うげぇ~、あいつのストライクゾーンどうなってんだよ。ビッチが」


 ワシャワシャワシャ。

 そんなこんなで結局風呂に三十分かかった。

 時計を見て、俺はがっかりした。


「はぁ、結局急いで宿題やって、爆速で飯食った時間も意味もなし」


 時間は七時三十分。

 俺はゲーミングパソコンを起動し、耳にはステレオヘッドホンを装備する。

 唐突だが、俺は一人暮らしだ。

 両親はいない。俺が小学校に行ってる頃、玉突き事故に巻き込まれ死んでしまったようだ。

 その後は、中学生卒業まで成人している従兄(いとこ)に育ててもらった。

 そして高校入学からは一人暮らしだ。

 ん? お金はどうしてるかって? それは――。

 おっと、ゲームが起動したようだ。

 俺の家庭事情の話はここまで、ここからは真剣勝負の時間だ。

 ログイン画面でニックネームとパスワードを入力し、エンターキーを弾く。

 タン、という軽快な音と共に画面が暗転した。直後、重低音なBGMが俺の鼓膜を震わせるように響き渡る。

 ゆっくりと浮き上がってくる『認証成功』の四文字。

 百分率のローディングバーが完了に向けて加速していく。それに呼応するように俺の胸の鼓動も速くなっていた。


「さぁ始めようか」


 今からの俺は、現実の冴えない神崎響(かんざきひびき)じゃない。ただ一人のプレイヤーだ。

 暗転していた画面が鮮やかに明転し、俺の意識を引き込むように、モニターの向こうのバーチャル空間が映し出された。

 俺がインしてから、すぐに右横のチャット欄は騒ぎ出す。


【あのコス、もしや】

【あの仮面は間違いない】

【来たぁぁぁあぁぁぁ!】

【生きてて良かった!】

【あれが生の……。初めて見た】

【やっぱコス、かっこよすぎる】


 なぜ、こんなにもチャット欄が騒ぐのか。

 何を隠そう、俺はこのゲームの世界一位のトップランカー。その名も


phantom(ファントム)だぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!】

「――フッ」

 

 チャット欄の盛り上がりに、俺は思わずニヒルな笑みを浮かべてしまう。

 そいつらに俺は珍しくチャットを送る。


【我、影の住民。魔獣を滅ぼすもの】

 

 チャット欄に俺のメッセージが表示されると、一拍置き、怒涛の勢いでチャット欄に次々とメッセージが表示される。


【返信キタァァァァァァアァァ!!!】

【ヤッ、ヤヤヤヤヤベェーーーーー】

【スクショ、スクショ撮れ】

【LINEの待ち受けにします】

【俺はホーム画面に設定するぜ】

【イエェェェエェェェェェェ!!!】


 …………以下略


 その盛り上がりを見て益々気分が良くなった俺は、ファンサ精神を出して、さらにチャットを書き込んだ。


【お前らの声援があるから、俺は今日も戦える】


 チャット欄に再び、俺のニックネームと共にメッセージが表示された。それを合図に、先ほどまでの流れがスローモーションに見えるほどのスピードで、文字の濁流が画面を流れ落ちていく。


【キャァァァアァァァァァーーー!!!】

【これで一週間は生きていける】

【ありがとうございますありがとうございます】

【よっ男前!】

【結婚してーーー!!!】

【サイッコウだぜphantom(ファントム)!!!】


 そして俺は、この流れの波に乗って、更にチャットを書き込む。


【今から世界を救う旅に出る。見届けていてくれ】


【ギャァァアァァァァァァァ!!!】

【今日はどうした。phantom(ファントム)! やけに気前がいいなぁ!!】

【もうこれで一か月は生きていける】

【ウォォォオォォ!! 俺は一年だ】

【サイッコウ……】

【…………(バタン)】

【…………(バタッ)】

【失神する女性プレイヤー、続出中】

【うらやましいぞ! phantom(ファントム)!!】

【じゃあ、強くなれよ】

【クッソーーー!! 俺はやってやるぜ!!!】 

【ウオォォォォーーー! 俺もだ!!!】

【俺もだ!!!】


 ……以下略。

 

「……ハハッ」

 

 ここまで熱狂的なやつがいると流石に怖いもので、俺はニヒルな笑みを崩して苦笑いを浮かべる。

 俺は逃げるように、バーチャル空間内のメインストーリーと書かれたゲートへと飛び込む。

 実はこのゲームには、メインストーリーをクリアした者にしか入ることを許されない【暗黒ゲート】というものがある。そのゲートの入り方は、終末世界に入る前のロード時間にメインストーリーをクリアした時に表示される不規則な文字が並んだコードを爆速で入力することだ。そしてミスは許されない。

 俺はキーボードに手を置き、爆速でそれを入力した。


【oekalsmxhiawlaosjdklmzajak+hfkaiakna:91-3875739201<ufjajalaowubcm,z,dueo.owiey19>?fjalap2oeuewkjgfkjhinejalxmbvmowhmsgvmscka@jdhcmzk}jfjgvma,zn!!fkp28462//@cnz,sjdbdgeietalo.dystopia log】


 すると、黒くなっていた画面にゲートが出現した。

 俺はそれをクリックした。

 一瞬画面が紫色に光り輝いたと思ったら、また直ぐに暗転した。

 そして【phantom(ファントム)】は、終末世界へと足を踏み入れた。

 【暗黒ゲート】では雑魚でも、メインストーリーのラスボスの【魔王(ディザスター)】に匹敵し、小ボスは【魔王(ディザスター)】の約十倍の強さを持つ。完全にやり込み仕様だ。

 俺はその【暗黒ゲート】も全クリしている。

 今日は【暗黒ゲート】を全クリした奴だけが入ることのできる大会がある。


「よし、いっちょ暴れたるか」


 俺は指をパキパキと音を鳴らし、メガネを取る。


「えっと、座標は?」

 俺は大会本部から送られたメールを見て、大会には入るゲートがある座標を確認する。

 それを入力してから、俺はテレポートの詠唱を入力する。


【X15038302,Y7890182748,Z49273650282我は光の粒子となりて影を飛び我が望む地点へと至らん。瞬間移動】


 【phantom(ファントム)】は光の粒子となり影の中に消えた。徐々に画面が暗転し、次に明転した時には、黒く禍々しいゲートの前にいた。

 俺は迷わずそのゲート内に入った。

 そのゲートの中は闘技場(コロッセオ)のような仕様になっていて、すでに五十人ほどのプレイヤーがインしていた。

 しかし先ほどのように、チャット欄が騒ぎ出すことはない。

 なぜなら、ここにいるプレイヤーは(みな)が世界トップレベルのプレイヤーだからだ。

 俺もバトル開始までは精神統一をして、決戦開始の時を待つ。

 十分ほど待っていると、まるでラッパーのような声でアナウンスが届いた。この人、いつもノリ良いんだよな。


「レディースエァンドジェントルメーン!! お待たせしました。本日は賞金三十万円を掛けた勝負をしてもらいます。形式はバトルロイヤル。一人狙いOK。課金アイテムOK。ハッキング以外は何をやってもいいぞ!! それでは総勢百人による決戦スタートです!!!」


 その声を合図に、ゲームが開始する。それと同時に俺はキーボードに指を走らせる。 


【我求めるところに魔の精霊の加護あらん。魔力増強】

 

 今更だが、このゲームは詠唱をタイプ入力することで魔法が発動する。

 つまり、タイピング速度=詠唱速度のバグゲーだ。


【command:2497610034833192魔力増強】


 今俺が入力したのは、俺が偶然発見した裏コマンドだ。その効果は、対象の魔法の効果を百倍にするというチート級のものだ。そして魔力増強を二重掛けした場合の倍率は三百倍だ。

 この時点でゲーム開始から0.2秒。並の人間なら、反応するだけがやっとだが、動体視力と反応速度、ブラインドタッチを極限まで極めている俺は、わざわざ打てているか確認しなくてもいい。

 そして俺は、超広範囲極大魔法を叩き込む。


【傲慢なる光の時代は終わりを告げた。見よ、天空は濁り、大地は慟哭どうこくしている。この地上に生きるすべての息吹、すべての命、すべての歴史は、我が手によって無へと還る。目覚めよ、世界を掌握せし破滅の神よ。永劫の眠りから覚め、我が狂気に、我が渇望に応え給え。我は祈る、世界の存続ではなく、永遠なる無を。 我は望む、秩序の調和ではなく、絶対なる崩壊を。見よ、足元より湧き上がりしは、混沌より出でし真なる破壊の奔流ほんりゅうなり。この力は、光を呑み込む漆黒の牙。 この力は、偽りの闇すらも滅ぼし、真実の深淵を覗くための鍵。底なしの冥府よ開け。 有象無象のことわりを噛み砕き、すべてを虚無の底へと引きずり落とせ。混沌を統べる闇の神々よ。終焉の鐘を鳴らす時が来た。我が身を依代よりしろとし、その顕現をここに示せ。神罰を、天災を、永劫の絶望を、この傲慢なる世界に与えん。逃れるすべなどない。 抗う術など存在しない。 空は墜ち、海は枯れ、残るはただ一つ。我が意志のままに、世界を滅ぼせ。 塵に還れ。すべてを平らげ、無に帰せよ。神罰の堕天・創世崩壊】


 次の瞬間、画面は光輝き、コロッセオは全て壊れ、全てのプレイヤーが即死した。一部のプレイヤーは防護壁を張っていたが、それさえも崩壊のエネルギーで壊し殺した。

 ここまで3秒。

 たったの3秒で決着がついてしまった。

 これが世界トップランカー【phantom(ファントム)】の実力だ。


「今回の優勝者は~~~【phantom(ファントム)】だぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!」


 その声の余韻が消える頃俺のスマホがブブッと震えた。確認してみると俺の口座に三十万円が振り込まれていた。


「よし!」


 俺はこうやってお金を稼ぎ、生計を立てていた。

 

「今日も楽しかったなぁ」


 俺はゲームデータをセーブして、PCの電源を落とそうとした時、一つのDM(ダイレクトメッセージ)が届いた。件名は、【ファントム様、助けてください!】。内容は、自分じゃ倒せない大魔獣が突然現れたから助けてほしいというお願いと出現した座標が書いてあるものだった。ユーザー名は、学校で俺を虐めているグループの主犯格のものだった。

 俺は小さく鼻で笑い、PCの電源を落とした。


「悪いな。俺、ボッチだから」


 

            ◇ ◇ ◇

 翌日


「あなた【phantom(ファントム)】でしょ」


 どうしてバレたぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁ!?!?



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