#11 最後の配信者
「――次は、わたしの番だねっ!」
ほるすがしいの尊厳を破壊している最中、つむりはスマホを持った腕を天に突き上げる。
【天龍】配信者が3人続いているが、パーティは基本4人1組だからこの時点で詰みだろう。見る限りどれも戦闘能力ないし、1Fすら踏破不可能だろうな。
【聞き専マン】おぬし、かさダン知らんな?
【ダンジョン攻略始めましたさん】1Fの敵は即狩られるのでいませんww 幼稚園児でも踏破できるって謳い文句の観光ダンジョンだ。覚えとけw
「……さえこさんから、でもつむちゃんが戦闘職じゃないとそれ以降ヤバくない? 天龍さんの言うことも一理ある……」
つむりは、ほるすが読み上げたさえこのコメントに、ちっちっちと指を振る。
「ふっふーん! そうなると思って、ダイナマイトな前衛っぽい設定を入力したのだよ! いっくよー!!」
くるくる腕を回しながらカメラに近づき、登録ボタンをタップするつむり。
しいも天龍と同じ思いなのか祈るような目をしていた。
どくん、とつむりの体が脈打つ。
脳内に直接、温かい光が流れ込んでくるような不思議な感覚に陥る。
(わっ……すごっ! ほんとに頭の中にいろいろ溢れてくる!)
事前入力した内容が数値化され、目の前に浮かび上がる。それは他人には見えない、自分だけのホログラムのような表示画面だった。
昨夜、ベッドの上でほるすと一緒に「スリーサイズ90」などと適当に入力したあのダイナマイトなプロフデータが、堂々とシステムに承認されている。
自分が世界から注目されているような謎の達成感は、つむりにとってたまらない演出だった。
アナウンス【榎本つむり 冒険者登録 完了しました】
「きたきたきたーっ!」
【職業:配信者 スキル:光の開花】
【風切りのジン】今起きました! うおおお、スキル開放回だ! 今から俺、かさダン行きますね! 一緒にパーティ組みましょう! 伝説の回にしましょう!
【さえこ】うわ来た。誰かこの人止めて~。みずみずさん~!
【ダンジョン攻略始めましたさん】光! つむちゃん光属性だ!! 勝てる!!
【天龍】光属性はレアだが、甘いな。職業を見ろ。また配信者だ。非戦闘職4人でなんて、パーティ成立不可能だぞ。終わった。たとえ観光ダンジョンと言われようともな。どうやってモンスター倒すんだ?
【ハヤシ焼きそば】武器調達して物理で攻めていくしか。魔道具も必要そうだし、まずは金策すればなんとかなるんじゃないか!?
(どんどんスキルの説明が頭に入ってくる……。こ、これは!)
「――強い!!(配信的に)」
どんっ! と、改めてスマホを掲げるつむり。
どこからか現れた真っ白なスポットライトがつむりを照らし出した。
ダンジョンの天井から物理的な電球が出現したわけではない。つむりの周囲の空間そのものが発光し、彼女をセンターアイドルのように美しく照らし出しているのだ。
光の加減で、つむりの瞳はきらきらと夜空の星のように輝いて見える。配信用のリングライトなど比にならない、究極の「美少女補正」エフェクトだった。
「わっ、つむちゃん光ってる! 凄い注目浴びてるよ~」
「……つむり。説明しなさいよ、どんな効果なの」
しいの声が、いつもより少しだけとげとげしく聞こえたが、つむりは、「うん」と大きく返事をした。腕を組んで頭に流れてきた言葉をそのまま口にする。
「えっとね、わたしの気持ちに合わせて、わたしのまわりの光が変わるんだって! 楽しいと明るくなって、ときめくと勝手に照明がついて……あと、たぶんお花も咲く!」
「たぶんて」
しいがつっこむが、いつものような勢いはなかった。
戦力的にはほぼ皆無なみんなのスキルに、しいはすでに疲弊していた。
自分も似たようなものなので、なおさらだった。
考えるだけで頭痛がするのか、目元をきゅっと押さえている。
「まだ咲いてないから!」
しん……としたが、すぐに彩華の顔が何かを思いついたように明るくなる。
「わあ~! かわいいスキル! お花咲いてるとこ見たい~!」
「うん! って、恋愛? ときめき? あはは、なんだろこの条件!」
つむりは自分で言って首を傾げた。つむりを照らしていた光の色が黄色く変化する。行き交う人がみなつむりを一瞥して通り過ぎる。それくらい目立っていた。
「んーっ! よくわからないけど、でもほら! たくさん見られてる! つまり強いんだよ! 映える!! そう、例えば、ダンジョンのおすすめアイテムをわたしがライトつけてアピールするの! どう? これだけで商品レビューの道も開けるんじゃない!?」
「わっ、それいい。今度私のブランドの紹介してもらおうかなあ」
【KYO】※まとめ。つむり、自分の照明。しい、好きな人の場所分かる。彩華、紙ぺら召喚。ほるす、空気を音として読める。……こうかな。
【風切りのジン】KYOさん、まとめ助かります! へえ! そうなんですね! ちなみに俺のスキルは氷属性で相手の足を滑らせることができます! 転倒効果ついてて強いですよ! 今向かってます! 俺が到着するまで待っててくださいね~!
【ほる推し二年生】風じゃないのかよ! でも、微妙に外れてもいない! 頼むから俺たちを伝説に巻き込むなよ! あと配信の邪魔したら即通報するからな!
「ほら、指パッチンでオンオフも可能だよっ! あはは、楽しいこれ!」
決して音が鳴っているわけではないが、スイッチの照明みたいにつむりへの照明が点いたり消えたりを繰り返す。
「天龍さんから……配信者4人じゃだめ。1人ずつばらけて、前衛・後衛・補助のいるパーティに参加して攻略すべき……」
「そんなことしないよ! みんな一緒に攻略するんだよ! ね!」
「そうだよ~、そうじゃなきゃしゅわらじ、じゃないものね~」
「……うん、ほるすたち4人でクリアするの……」
【ほる推し一年生】うおおおお!! 俺はもう全力で応援するぜええ!!
しいの思案は続く。
前衛なし、後衛なし、回復なし。
いるのは、自分を照らすだけのつむり、紙ぺら一枚を出す彩華、過去の音を拾うほるす、そして好きな人の場所しか分からない自分。
どう考えてもモンスター相手に勝てる要素が1ミリも存在しない。金策と言われてもどうしようもない。最悪、彩華に頼るしかないのか、とまで考えてしまう。
それでも、3人のキラキラした瞳を向けられると、しいはどうしても「なんとかしなくちゃ!」と頭を切り替えるしかなかった。
「行こう! 配信者4人でのパーティ攻略! イン・ザ・かさダン! 初陣だよ!」
びしっと、かさダン2Fへの入口の方へ指を差すつむり。てっきりその場所が光ると思ったつむりだったが、ライトが照らしたのはやっぱり彼女だけだった。
1Fの明るいショッピングモールのような空間の端にある、きれいに舗装された広い下り階段。
そこから続く2Fも、まだまだ一般客向けの安全な観光エリアだ。
本格的な『迷宮』の恐ろしさはなく、まるでテーマパークのアトラクションのような整った景観が広がっている。
それでも、1Fよりはほんの少しだけダンジョンらしいひんやりとした風が下から吹き上げてきており、いよいよ冒険が始まるのだというワクワク感を否応なしに掻き立てていた。
(うん? 光らない……ってわっ、自分だったー! でもこれは映える!)
不安も少しあったのかもしれないが、つむりの胸は期待でいっぱいだった。
ダンジョンという場所ですら彼女にとっては映える場所になった。
みんなと楽しめる場所、ワクワクする冒険が待っている。
ほるすも楽しそうだった。
彩華も笑っていた。
しいは困った顔をしていたけれど、ちゃんと隣にいてくれた。
それならきっと、なんとかなる。
つむりはそう信じて疑わなかった。
まだ、ダンジョンが彼女たちをどう見ているのかも知らないまま。




