89.
【☆★おしらせ★☆】
あとがきに、
とても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
黒豚牧場の運営は、驚くほど順調に軌道に乗っていた。
丸々と太った黒豚たちは、領民たちの手によって丁寧に飼育され、極上の肉を提供してくれている。
焼いてよし、煮てよし。拠点での食事の満足度は鰻登りだった。
だが、わたしにはどうしても食べたい料理があった。
分厚く切った黒豚のロース肉に、きめの細かいパン粉をまぶし、高温の油でカラリと揚げる。
サクッとした衣を噛み破れば、中から熱々でジューシーな肉汁と甘い脂が溢れ出す至高の料理、豚カツだ。
「豚カツ、食べたいな」
「豚カツ、ですか?」
厨房で昼食の仕込みをしていたアナが、不思議そうに首を傾げた。
「うん。すっごく美味しい肉料理なんだけど、それを作るためには一つ致命的に足りないものがあるんだよ」
わたしがため息をつくと、アナは困ったように眉を下げた。
「はい。リオン様のおっしゃる通り、食用油が圧倒的に足りません」
揚げ物をするには、鍋にたっぷりと注げるだけの大量の油が必要不可欠だ。
現在、拠点で使っている油は、かつてイキリ太郎という転生勇者が不法投棄していった巨大ボトルに入ったサラダ油を、リサイクルして使い回している状態だった。
だが、それもいよいよ底を尽きかけている。
このままでは豚カツどころか、日々の炒め物すらできなくなってしまう。
「このデッドエンド周辺で、菜種とかオリーブみたいな、油を搾れる植物は見つからないかな?」
「残念ながら、この廃棄都市の土壌ではそういった植物は育たないようです。先日の探索でも見当たりませんでした」
横から会話に加わってきたエリーが、申し訳なさそうに首を振る。
彼女の言う通り、わたしの【市場調査】でも、油の原料になりそうな自生植物はヒットしなかった。
「となると、外部の商人から買い付けるしかないか」
「商人から仕入れるのですか?」
「うん。でも、ただ『油を売ってくれ』と言っても、相手も商売だからね」
大量の油を継続的に仕入れるためには、それ相応の資金か、あるいは相手が喉から手が出るほど欲しがる交換条件が必要になる。
黒豚の肉を売るという手もあるが、まずは自分たちの食料を優先したいし、肉だけではインパクトに欠ける。
「何か、外の商人が大金を出してでも買いたくなるような、特産品を作らないとダメだね」
「特産品、ですか。例えばどのようなものでしょうか?」
「それが分かれば苦労はしないんだけどね」
わたしは腕を組み、うーんと唸った。
資金源となりそうな物を探すため、わたしはアナたちを引き連れて、拠点の巨大な倉庫へと足を運んだ。
薄暗い倉庫の中には、廃棄都市で拾い集めた様々なガラクタが分類されて積まれている。
その一角に、キラキラと鈍い光を放つ石の山があった。
「これは?」
「ああっ、それはわたしとガラが白骨樹海で魔物を狩った時に出た、魔石の切れ端さね」
ちょうど倉庫の整理に来ていたキリカが、石の山を指差して答えた。
魔石といえばファンタジー世界の定番アイテムであり、高値で売れるイメージがある。
「これ、売れないの?」
「売れなくはないが、二束三文さね。見ての通り、形がいびつで欠けている『カス魔石』だからね。質が低すぎて、魔道具の動力源にも使えないんだ」
キリカが拾い上げた魔石は、確かにゴツゴツとしていて、ところどころヒビが入っていた。
これでは、特産品として商人と高額な取引をするのは難しいだろう。
「主よ、そんな石ころを見てどうしたのじゃ?」
そこへ、カンカンと金属を叩く音を響かせながら、鍛冶職人のドワーフであるトールがやってきた。
顔をススで黒く汚し、不思議そうにわたしと魔石の山を交互に見ている。
「いや、これをどうにか高く売れないかなと思ってね。やっぱり形が悪いとダメなの?」
「うむ。魔石というものはな、形が非常に重要なんじゃ」
トールは一つカス魔石を手に取り、職人の顔つきになって語り始めた。
「魔石は、完璧な球体であればあるほど魔力効率が跳ね上がり、超高値で取引されるという常識がある。真球に近いほど、内部で魔力が乱反射せず、純粋なエネルギーを引き出せるからじゃ」
なるほど、形が球体であることに意味があるのか。
「じゃあ、これを丸く削ればいいんじゃない?」
「口で言うのは簡単じゃがな。手作業で魔石を歪み一つない真球に磨き上げるのは、わらわたちドワーフの熟練の技術をもってしても至難の業じゃぞ」
トールは呆れたように鼻を鳴らした。
「少しでも歪みがあれば価値は暴落する。最高品質の真球魔石となれば、それこそ王族の宝物庫に収められるレベルの国宝級じゃ」
トールの言葉を聞いて、わたしの中に一つの閃きが舞い降りた。
手作業で磨くのが難しいなら、わたしのスキルを使えばいいだけのことだ。
問題は、わたしが「完璧な球体」を明確にイメージできるかどうか。
そこで脳裏に浮かんだのは、前世でよく遊んだおもちゃだった。
つるんとしていて、一点の歪みもなく、光を綺麗に透過するガラスの玉。
そう、ビー玉だ。
あの指に吸い付くような滑らかな感触と、完璧な丸さを強く頭の中に思い描く。
「よし、ちょっと試してみよう」
「主よ、まさかそのカス魔石をどうにかしようというのか?」
わたしはトールの手からゴツゴツのカス魔石を受け取ると、手のひらに乗せた。
ビー玉の完璧な球体のイメージを、魔石に重ね合わせる。
「【仕様変更】!」
手のひらの上で、カス魔石がまばゆい光に包まれた。
光が収まると、そこにあったはずのいびつな石は跡形もなく消え去っていた。
代わりにそこにあったのは、つるんとした美しい真ん丸の魔石だった。
表面は鏡のように滑らかで、周囲の光を一点の曇りもなく反射している。
どこからどう見ても、歪み一つない完璧な球体だった。
「な、ななななっ! なんじゃこれはぁぁぁっ!?」
それを見たトールが、目をひん剥いて驚愕の絶叫を上げた。
彼女は震える手でわたしの手から真球の魔石を受け取り、穴が開くほど見つめ始めた。
「あり得ぬ! こんな完璧な球体、見たことがない! まさに王族の宝物庫レベルじゃぞ! それを一瞬でやってのけるとは、主の力は底知れぬな!」
トールが興奮してまくしたて、顔を真っ赤にして魔石を撫で回している。
ドワーフの職人魂をこれほどまでに揺さぶるとは、どうやら大成功のようだ。
「さすがはリオン様です! 素晴らしい輝きですね!」
「主の作るものは、いつも綺麗さね」
「これなら間違いなく、商人も目の色を変えて飛びついてきますね」
アナやキリカ、エリーたちが集まってきて、嬉しそうに拍手を送ってくれる。
トールが驚愕している横で、他の家臣たちは「リオン様ならこれくらい当然」といった様子で手放しに褒め称えてくれた。
誰からともなく、この美しく高価な真球の魔石は『リオン玉』と名付けられることになった。
ただのゴミ同然だったカス魔石の山が、一瞬にして莫大な富を生み出す宝の山へと変わったのだ。
「これだけあれば、油なんて樽ごと買い占められるね」
わたしは胸を張り、完成したリオン玉をいくつか革袋に詰め込んだ。
念願の豚カツを目指し、これで商人との取引に赴く準備は万端だ。
さあ、美味しい揚げ物のために、商談へいこう。
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