聖女様御一行
イヴィエの森のドラゴン退治から数週間経った頃、あたしは王城からの呼び出しを受けて謁見の間へと来ていた。ゲームの知識と照らし合わせてみると、恐らくそろそろ後半パートの聖女としての仕事がメインでやって来る頃合いだと思ってはいた。その予想は当たり先日のドラゴン出現から一気に魔物たちの活動が活発になっているらしい。
国の各所に張られている結界は前任の聖女が張ったもので約百年が経過した今、かなり綻びてきているらしくこのままでは近隣の街や村に被害が増える可能性が高いという事だった。モフテテ王国はまぁまぁな領土を持つ国なので、結界を張り直して回るのも結構時間を費やす事となる。移動自体は特殊な魔法陣を使って瞬間移動が可能なのだが、綻びた結界の傍には当然魔物も居るので討伐隊ではないが『聖女様御一行』的なチームが組まれる事になった。
この辺の詳しい内容はゲームではあまりちゃんと語られていなかったんだよね。なんか急に陛下からの依頼で結界を張り直しに行くターンが組み込まれて、流れ作業的に一緒に行くメンバーを選んで移動して魔物と闘って結界を張り直す……て感じのを延々と繰り返していただけ。その合間に攻略対象者たちとのイベントムービーなんかが流れたりしてた。
「……で、なんで貴方たちが一緒に行く事になってる訳?」
移動手段である王宮の地下にある魔法陣へと向かうと、国王陛下が選抜した『聖女様御一行』のメンバーが待っていた。
「僕が一番この国で魔法が得意だからかな。それにパフィットが心配だし……」
そう言って首を少し横に傾けるのはエバーンズ。相変わらず、あざと可愛い……。確かにエバーンズはメキメキとその頭角を現して、学生ながらあっという間に魔導士のトップの座に君臨していた。魔力量もさることながら、魔術の操り方も上手く誰も彼の右に立てる者は居ない。
「オレは護衛として自ら志願した。友人の一人としてお前を守りたい」
ヒューは騎士服を身に纏い、腰には大ぶりな剣を差してニカッと白い歯を見せて笑っている。うん、確かにヒューの実力はオークなんかを一刀両断出来ちゃうくらい凄いんだよね。まだ学生だけど、その馬鹿力と俊敏性は半端ないし現役の騎士様にも劣らない実力の持ち主だったりする。その辺さすが攻略対象者だと思うよ。
だけど、あたし二人の事きちんとお断りしたよね。あれ以来、昼食はマーカイルと二人で取る様になってエバーンズとはクラスメイトだから朝の挨拶くらいは交わすけどそれ以外は用事が無ければ会話する事もなかった。ヒューに至っては学年も違うから滅多に会う事もなくなってたし。そんな二人がどうして今頃……。
「本当は私も同行したかったのだが、公務が多忙でな。申し訳ないが見送りにだけ来た」
「わたくしも是非ご一緒したかったのですけど、殿下から止められてしまいまして……」
「当たり前だろう、パールルーシャのその白魚の様な指先でも傷付いたらどうするんだ。私はそんなの耐えられない」
「カイラード殿下ってば……心配症ですのね」
いつもの様に甘ったるい空気で回りに花を咲かせるカイラード殿下と悪役令嬢パールルーシャ。ラブラブ過ぎてこっちが恥ずかしくなるわ! 婚約破棄の危険があっただなんて信じられない程にお二人の仲はとても睦まじい。
「……お前のお陰だな、あの二人のあの様な姿は今迄で初めて見る」
あたしの傍にやって来て他の人たちには聞こえないくらいに小さな声でボソッと呟いたのはマーカイル。
「貴方も来てたの……」
「今回のお前は俺ルートなんだから、参加するに決まっているだろう」
「そ、そっか」
もっともな指摘に頭をポリポリと掻いて納得する。そうだよね、マーカイルルートに入ってる筈だもの好感度爆上げ可能なこのイベントにマーカイルが来なくてどうするんだって話よね。イベントムービーだってあるんだし。
それにしてもマーカイル、エバーンズ、ヒューのメンツでのバトルターンかぁ……なんだか波乱しか起こらない様な気がするのは気のせいかしら。いやいや、もうマーカイルと婚約しているんだからエバーンズとヒューとは何も無いとは思うけど……なんか、やりにくいよなぁ。マーカイルと二人だけで行っちゃダメ? 戦力的にダメよね、分かってるわよー。




