マーカイルが明かす、この世界①
「マーカイル様……」
ずかずかと教室の中へと入って来たマーカイルは、近くにあった椅子に横向きで腰掛けた。まだ少しおぼつかない足を奮い立たせて、あたしも手近にあった椅子を引きマーカイルの向かい側に来るように座る。
「お前に少し話がある」
「はい……」
話があると言いつつ、暫しの沈黙が流れる。その間どうして良いか分からなくなり、マーカイルの顔をチラ見してみたり、キョロキョロと視線を彷徨わせてみたり。何故なにも言葉を発しようとしてくれないのか、まだなの? まだなにも言わないの!? とムズムズうずうずして……
「あああああ、早くなにか言って下さいよっ!」
耐えきれなくなってそう叫んだ。思わず“やっちゃった!”と口を押さえたけど、マーカイルは怒りもせずに口元を緩めて「ぷはっ!」と吹き出して笑った。
――え、笑ったよ……この人。
逆の意味で驚いて凝視していると、いつもの嫌そうな顔に戻るマーカイル。
「そんな不思議そうに見るな。おれが笑うのがそんなにおかしいか」
「い、いえ……ただ、あたしの前で表情を崩されるのが珍しくて……」
「まぁな、おれはお前を異物のように見ていたからな」
「異物って……」
随分な言われように少し不貞腐れる。そりゃあ、基本的にお花畑なヒロインちゃんが多い訳だから毛嫌いされても仕方ないのかもしれないけどさ。
「ただ、お前を観察して来て分かったのは今までの奴とは違うという事だ」
「今まで?」
「お前らの言葉で言うと……“ループ”? とかいうヤツだ。この世界はそれを繰り返している。そして繰り返す度に、お前の“中身”とでもいうのか……性格などが毎回違う」
「…………はぁああああああああ!?」
今日は色々と驚く事が多いけど、その中でもこれは強烈なものを喰らった気分だ。ループって、これまたあのテンプレな、あのループですか!?
「ど、どこからどこまでの期間をループしてるの!?」
「入学式から一年間だな」
「それってゲーム期間まんまじゃない。今は何回目なのっ」
「分からん。十数回目までは数えていたが、途中からどうでも良くなって数えるのを止めた」
ヒロイン転生にループ……。ん、いや、でも毎回“中身”が違うって事は……このループしている世界にパフィット・カルベロスとして転生している人が何十人も居たって事なのだろうか。え、あたし何代目?
「えっ、えっ、ちょっと待って。ループする度にあたしは別の人格になってるのよね? それなら、貴方たちは!? ていうか、貴方は何故そんな事を知っているの。貴方も転生者?」
「一度にそんなに質問するな、落ち着け。まず、おれは転生者というやつでは無い。おれの知る限りでは、お前以外に転生者は居ない」
「そうなのね……じゃあ、何故マーカイル様はそれを知っているの?」
「歴代のお前たちから教わった。この世界は“おとめゲーム”とかいう物語の中らしいな。そして、おれ達がその物語の登場人物であるという事も把握している」
ようやく合点がいった気がした。マーカイル様だけが何故かイベントの事を知っていたり、他の攻略対象者たちとは違う態度を取っていたのはこのせいだったのね。そりゃ何度も何度も同じイベントを繰り返されてたら嫌にもなるわね。
「えーと、それで……ループしている原因とか解決方法とかは……」
「知らないな。おれだけが記憶を保持したままだという事も謎だ」
マジか……記憶持ったまま何十回もループ。気が狂いそうになるだろうに……。
「お前も分かっているとは思うがあの強制的なイベントとやらも、避けようがなくてな。それでも出来るだけ関わらないようにしてはいるのだが、今までのお前たちは何故かこぞっておれ達全員を侍らせようとしてくるのだ」
「あー……マジですか、それは何とお詫びして良いやら……」
「今のお前が謝る事ではないだろう」
「まぁ、そうなんだけど……」
逆ハーレム思考のプレイヤーばかりが転生して来てたって事なのかしら。というか、ヒロイン転生してヒャッホー! ってテンション爆上がりで、どうせなら攻略対象者全員とイベントしたいよね~とかなって、ゲームと同じ感覚で攻略しようとしちゃってたんだろうなぁ。あぁ、考えただけで痛ましい……。
あれはゲームだから良いのであって、実際にそんな事したらただの二股ならぬ五股女だからね。




