表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
憤怒の赤、狂い咲く華  作者: 徳川万次固め
27/36

二十六話 かわいい×かわいい=?

 どの部屋に住むのかなどを建物内を見せてもらいながら軽く話し合った後、さてどうするかと考えるアグゼに対し、フィルティはラグロに会ってみたいと言ってきた。

 裏手の建物にアグゼの相棒の狼が世話になっているという話を聞き、その相棒のラグロが以前兄との会話に出た「かわいいモフモフ」だと思ったからだ。

 ラグロにはフィルティ防衛網の一角を担ってもらいたいことや、今後はご近所さんになることを鍛冶屋一家に知らせておく必要性もあることを考えると、この提案は渡りに船と言えた。

 まだ昼を少し過ぎたぐらいの時刻で問題もないだろうと考えたアグゼはフィルティに了承を返し、外に出ることをトワコ達に告げてから移動を開始するのであった。


 目当ての場所は近いなどというレベルではなく、裏口のドアを開けたらもう目の前である。

 そこでは健康そうな幼児が母親と大きな狼に見守られながらヨタヨタと歩き回っている光景があった。


 ワゥッ


「あら、アグゼ君?」


「どうも」


 アグゼの存在に気付いたラグロが即座に反応し、それにつられてルカテリエもこちらに目を向けてくる。

 遅れる形で声がした方に顔を向けたギュンターは見知った人物を確認するとニパッとした笑顔を見せた。


「にーちゃっ!」


 やや危なっかしい歩みでギュンターはこちらに近付いてくる。

 すると、アグゼの後ろに付いてくることでその背に隠れる形になっていたフィルティが、ヒョコっと顔を出してきた。


「赤ちゃん、かわいい……」


 歩き回れるぐらいには成長している子を赤ん坊扱いしてもいいんだっけ?、などとアグゼは取り留めのないことを考える。

 年齢差はあれどアグゼからすれば彼らは双方ともに小さな子供であり、その邂逅はきっと微笑ましいものになるのだろうなぁと思い、彼は事態を見守っていた、のだが――


「ピィ」


 フィルティの存在を確認したギュンターは目を大きく開いて悲鳴のような声を出した。

 そしてそのままフィルティに背を向けるようにヨチヨチ歩きのまま遠ざかっていく。


(……これって、怖がられてる?)


 手をワチャワチャさせながら半円を描くように前進、そうやって反転してからの離脱とその動きは「逃げる」というにはとても可愛らしいものであったが、しかしそれが照れなどではないガチの逃走であったことは間違いない。

 ギュンターの意外な動きにアグゼは驚きを感じていた。


「え……」


 驚きを覚えたのはアグゼだけではない。

 フィルティもまた、自身が避けられたという事実に戸惑わざるを得なかった。

 彼女はギュンターのことは特に何も聞かされてはいなかった。

 とはいえ他人であるはずの兄を見てあれだけ良い顔を見せたのだから、きっと人懐っこい子なのだろうと判断していたのだ。

 それがまさかのガン逃げを見せられるとは……。


「あ、あら、あらあらギュンちゃん、どうしたの?」


「やー」


 母親であるルカテリエの元まで戻った幼子は、その母の足にしがみつき嫌がるような素振りを見せていた。

 スカート生地に顔を埋めてくぐもった声を出す様は、ルカテリエをも困惑させるものであった。


 そして避けられた方のフィルティはというと、ガーンという擬音がバックに付きそうな様子で動きを止めてしまっている。

 アグゼは慰めの言葉の一つでも掛けてやりたいと思ったのだが、幼児に逃げられた少女に何と言ってやるべきか、それを思い付くことは出来なかった。


「あー、そのー、えー」


 頭をかきながら何とか言葉を捻り出そうとするアグゼ。

 戦況はなかなか厳しいものとなっていたが、そんな彼の元に援軍が駆けつける。


 ワゥッ


 相棒、そして相棒が連れてきた少女の状態を見て何とかしなければと感じたラグロは、四つ足の獣でありながら前回り受け身の要領で勢いよく肩口から地面に飛び込むと、そこからブレイクダンスのように仰向けのまま横回転しつつフィルティの前にやって来た。


『さぁ少女よ、私をモフるのだ』


 へっへっへっへっ、とイヌ科らしい呼吸をしているが、その姿は言葉を介さぬラグロの雄弁なメッセージを感じさせるものであった。


 フィルティはそんなビックリするような挙動で参上した狼を見てわずかに目に光を取り戻す。


「モフモフ……」


 目にしやすい一般的な犬に比べるとラグロはかなりの巨体ではある。

 しかし自ら盛大に腹を見せてくるその姿は、少女に一切の恐怖感を与えなかった。


 ラグロの腹に手をやったフィルティはその柔らかく暖かい体毛の感触で、少しずつ気分を高揚させていった。

 ダメージを追っていた精神にも回復効果があったようだ――が、それでも収支はプラスマイナスゼロといったところで、ショックこそ抜けていたが結局フィルティはいつもの無表情気味な顔でラグロの腹を撫でまわすのであった。







「どうした、何かあったのか?」


 異変に気付いたのか、店に立っていたであろうはずのグラッドが裏庭にやって来た。

 ギュンターはぐずってこそいたが大きく泣き喚いていたわけでもなく、客観的に見るとむしろよく気付けたものだと言ってもよかっただろう。

 寡黙なヴィジュアル系イケメンである彼は子煩悩というようなイメージをあまり人に持たせなかったが、実際は我が子に対する愛をしっかりと胸に秘めていた。

 それの成せる業、ということにしておこうか。


「あ、ども。何かあったと言うか……」


 グラッドが裏庭で目にしたのはしばらく旅に出ると言っていた常連客である知り合い、彼の相棒とその腹をワシャワシャと撫で続ける見知らぬ少女。

 そして「む゛ー」と愛嬌のあるぐずり方をする息子と、その対応に悪戦苦闘する妻の姿であった。


「…………ふむ」


 彼はまず事態の把握に努めるところから始めなければならなかった。




 ----




「ラァロっ、ラァロっ! ててっ!」


「暴れちゃダメ、落ちちゃうよ……」


 大興奮なギュンターとそれを止めようとするフィルティ。

 二人は現在ラグロの背に添えつけられた鞍に一緒に座っていた。

 グラッドが倉庫にあったものを子供でも使用できるように、足を置く部分であるあぶみまでの長さを調節したうえで持ってきたのだ。

 それでもさすがにギュンターだけでは騎乗は不可能なので、後ろに座ったフィルティがお腹のあたりに手を回して支えてあげていることで何とか成り立つ形になっている。

 今のギュンターは少し前まで見せていたフィルティへの畏怖のような感情は全くないようであり、ラグロの背に乗っていることにただただ喜びを示していた。


 ちなみにラグロはいざとなれば短時間ではあれどフル装備のアグゼを乗せて走ることが出来るほどの膂力を持っている。

 子供たちは二人合わせてもアグゼの体重の三分の一程度の重さしかないので、ラグロにとってはこの状態は全然問題とはならなかった。

 むしろ「騒がしい子供を背中に乗せる状況を嫌がらない」ということの方が凄いと言えるのではないだろうか。







「驚いたわ、ファンドリオンの方々が住んでいるはずの建物からアグゼ君が出てくるんだもの」


 トワコがこの鍛冶屋一家の人柄を口にしていたことからも分かるが、グラッドやルカテリエはトワコ達が引っ越してきた時に挨拶を受けて一応顔見知り程度の関係にはなっていたようだ。

 とはいえ有名な大貴族が相手ということもあり、ルカテリエの言葉には畏れ多いといったような感情が見える。

 そんな人物の住居の裏口から知り合いの冒険者が出てくれば、驚いてしまうことは無理もない話だと言えた。


「昔の知り合いで、それなりに大きな貸しがあったんですよ。それで俺が新しい住処を探すのにちょっと協力を頼んだら、何故かこうなってしまったというか……」


「それじゃ……アグゼ君のために彼女たちはわざわざここに移り住んできたの?」


 貴族としても上位の存在であるトワコが商業区という雑多な場所に居を構えたことは、理由を知らない者から見れば極めて奇妙なことだった。

 アグゼの言葉を受けて想像できることは――


「先に言っておきますけど、トワコとは別に深い関係とかじゃありませんから」


「なんだ、そうなのか」


 噂をされる程度なら仕方ないと言えるが、目の前で話されたならそれは否定しなければならない。

 アグゼはしっかりとした声で夫婦に言葉を返す。


「武家は義理や面子を重視するものとは聞いていたけれど、借りを返すためだけにここまでするのはすごいわねぇ」


「……養わなきゃならない存在ができたと伝えたからでしょうかね。まぁ助かっているのは事実です」


「そうね。今後も冒険者を続けるなら、小さな子の面倒を見てくれる人手があるのは心強いはずだわ」


 アグゼはトワコとの同居に下手なバックストーリーを作ることはせず、多少内容を簡略化するという形で二人に説明していた。

 真実の一部を隠すだけならともかく、そこに嘘が混ぜるとそれを貫き通すには結構な労力が必要となる。

 そんな労力を払うぐらいなら最初からストレートに行くのが一番だ、という考えによる選択だった


 ただこのやり方はファンドリオンの義理堅さという面を補強し、その名声をわずかとはいえ上昇させるものでもあった。

 多少面白くないものを感じながらアグゼは会話を続ける。


「子育て、とはやや違うかもしれんが、苦労はあるはずだ。問題はないか?」


「色々と四苦八苦はしていますが、今のところは大丈夫です」


「元々お得意様ではあるけれど、これからは隣人でもあるのだから、フィルティちゃんのことで何かあったらいつでも言ってきてね。協力は惜しまないから」


 有難い話である。

 トワコの提案に乗って正解だったかな、という感想が出てくるが、それはそれでこれまた面白くない。


(何も損はしちゃいない。利用して得を取ったんだ、想定通り、想定通り)


 彼は己に言い聞かせた。

 実際、一時は相性が悪いのかと思われたフィルティとギュンターも、今はすっかりそんなことを感じさせない姿を見せており何も問題は見当たらない。

 ラグロに乗る可愛らしい二人を見ることで、彼の心は穏やかさを取り戻していく。


「フィルティは手間のかからない良い娘ですよ。家事手伝いとかにも積極的だし、兄としては誇らしいぐらいです」


「ふふ、アグゼ君も良いお兄ちゃんみたいね」


 ちなみにアグゼのような大の男が少女を引き取るという話は、見方によってはヤバい案件のように受け取れなくもなかったが、鍛冶屋夫婦にはそのような見られ方は全くされていなかった。

 それはこれまでアグゼが作り上げてきた誠実な男という人物像のおかげでもあったし、アグゼとフィルティのわずかなやり取りにもしっかりとした信頼感が表れていたおかげでもあった。

 またそもそもの話、社会保障などの概念がほとんど存在しないこの世界においては、あからさまな下卑た感情などが見えない限りは自分の力で飯が食えて、その上で他者にも十分に食べさせることが出来る者は、その集団の長としての義務をしっかりと果たしていると見做されていた。

 アグゼが冒険者として平均以上に稼いでいることを商売相手として知っている鍛冶屋夫婦の目には、親無しになってしまったフィルティにとって、彼に引き取られたことはむしろ幸福なことだといったふうに映っているのであった。


「そう見えるなら幸いです。俺自身、そうありたいと思ってはいますが、まぁこんなゴツめの見た目ですからねぇ」


「自信を持て。堂々と立ってさえいれば、お前ならば大丈夫だ」


「そう……ですか。ありがとうございます」


 自身を肯定されたことで嬉しさと少々の気恥ずかしさを覚えたアグゼは、話題をずらすようにゆっくりと動き回っていたラグロ達に目をやった。


「それにしても、フィルティがギュンターと仲良くなれたようで良かったですよ。最初は相性が悪いのかなと思ったもんですけど」


「そうね、アレには私も驚いたわ。でも今は――あら?」


 アグゼに釣られるように目線を移したルカテリエは気が付く。

 興奮も落ち着いて今はゆったりと騎乗を楽しんでいたはずのギュンターが、いつの間にか半目になって眠たそうに舟を漕ぎ始めていた。

 どうやらはしゃぎ過ぎたこともあって疲れが溜まり、体力の限界がきていたようだ。

 フィルティがしっかりとホールドしてくれているので落ちそうには見えなかったが、それでもこのままにしておくべきではないことは間違いなかった。


「ラグロっ。こっちに来てくれっ」


 言葉を受けてラグロがアグゼ達の元にやって来る。

 その移動はとても静かで揺れも少なく、搭乗者への負担を可能な限り排除したモノであった。


「さぁ、そろそろお昼寝の時間ね」


 ルカテリエはフィルティから息子を受け取るとその胸にしっかりと抱き留める。

 プクプクした頬がキュートなギュンターはもう完全に眠ってしまっていたようで一切の反応を示さなかったが、その穏やかな目元などは彼が満足いく時間を十分に堪能したのだと周囲に思わせた。

 ギュンターの受け渡しが無事に済んだことを見てからラグロはその場に腰を下ろす。

 そして一人で降りられる高さになったのを確認すると、フィルティも鐙から足を外しゆっくりと地面に降り立った。


「ラグロ、ありがとう」


 少女は自分を乗せてくれたことに礼を告げ、ラグロの頭を撫でる。

 狼はくすぐったそうに目を細めてそれを受け入れていた。


「それじゃ、私たちは家に戻るわ」


「そうだな。俺も昼の休憩のつもりでこっちに来たが、正直少しばかり長居し過ぎた。早々に店を再開させるべきだろう」


「了解しました。それでは、また」


 言葉こそなかったが、フィルティは小さく手を振って別れへの返事をする。

 ラグロは何度かアグゼ達の方に顔を向けつつも、結局今日のところはギュンターの元へと向かうことにしたようだ。

 困ったことがあったら相談してほしい、その言葉を残して鍛冶屋一家は自分たちの家に入っていった。


(さて、こっちもこっちでやることをやらないとな。えーと今の住処から荷物を移して、そこを引き払って……)


 フィルティと二人だけになったアグゼは反転し、これから己が住むことになる建物に足を向けながらこの後の予定を考える。

 新住居はどの部屋にも上等な寝具が完備されたベッドが既に存在するようなので、長旅の疲れも残る中、本当はそこまで急ぐ必要はない。

 とはいえまだ陽は高く、睡眠は馬車の中で十分に取っていたので眠たいとは感じておらず、またトワコ達の歓迎のケーキを食したこともあり腹もほどほどに満たされている、

 多少の疲れがあるとは言え、このまま何もせずにいるのは時間がもったいなく感じられたアグゼは、怠惰に過ごすという選択肢を蹴っ飛ばしてプランを立てていった。


 ポスンっ


「おん?」


 ふと、腰のあたりに何かが当たる感触があった。

 首を動かして見てみると、フィルティがこちらの腰に手を回して抱き着いて、顔を埋めているではないか。


「フィルティ、どうかしたのか?」


「……ん゛ーん」


 彼女は何とも言えない声を出すと、そのまま頭頂部をグリグリと押し付けてくる。


「甘えん坊さんだな、さっきまではお姉ちゃんだったのに」


「ん゛ー」


 両親に囲まれたギュンターを見て羨ましくなったってところか、とアグゼは推測した。

 その考えは大きく間違ってはいなかったが、実際にはもう少しだけ複雑な感情がそこには存在していた。







 フィルティはギュンターが両親の愛情を受けている光景を見て寂しさを感じていた。

 しかしアグゼが言ったように自分はギュンターよりもずっと年上の存在であり、それを羨ましがるなんて褒められたものではないとも思っていた。


 だからフィルティは試すことにした。

 兄は己の体が傷付くことをいとわないぐらいにこの身を護ることに全力になってくれる男である。

 しかしそんな兄でも、子供には違いないがそれでももう幼児とはとても言えないような自分が、思いっきり甘えてくることにはどう思うだろうか。

 世界には自分より幼くても誰にも縋ることが出来ないような子も存在するのだろう。

 それなのに、母こそ失ったが新たな家族を得て生活の面倒も見てもらっている自分が、さらに迷惑をかけるような行いをすることにはどう思うだろうか。


 寂しかった、甘えたかった、でも少しでも嫌な顔をされたらという恐怖もあった。

 葛藤の中甘えが勝ってしまったのか、いつの間にか自身でも気付かないうちに抱き着いてしまっていた。

 察してもらいたいような、察してもらいたくないような、そんな矛盾する気持ちも相まってフィルティはますますむずかる子供染みた幼さを見せてしまう。


「フィルティ」


 呼びかけと共に回された手をゆっくりとほどかれる。

 優しい声だった。

 しかし自分の行いを否定されたような気持ちになったフィルティは、瞬間的に「あぁ、これはやっちゃいけなかったんだ」と思ってしまうのだが――それは杞憂に過ぎなかった。


「おんぶだ、ほら」


 そう言うとアグゼはフィルティに背を向けたまましゃがみ込んだ。

 兄の行動に妹はしばし呆けてしまう。

 筋骨隆々で結構なゴツさを持ったアグゼがそんなポーズを取ると、余人には少しばかり滑稽さが滲み出ているようにも見えたかもしれない。

 しかし自分の甘えをしっかりと受け止めて貰えた事実を理解した少女は、声を出すことなくもその背に飛びついた。

 らしくないぐらいの笑顔を浮かべて兄の太い首に自身の細い腕を絡ませる。

 感じ取ったのは暖かさに加えて男らしい汗臭さ、しかしそれは彼女に安心感を与えてくれるモノであった。

 その匂いは記憶に残る母のような穏やかさを与えてくれるものとは違う、この荒々しい世界の中で生きていける保証をくれるような、そんな力強さを秘めていた。

 決して万人が好むモノではないのだろう。

 けれど今やその匂いは、フィルティにとって思い出の中の母のそれと並ぶ大事な……大好きなモノとして、心に刻まれているのであった。


「重く、ない?」


「フフフ、お兄ちゃんのパゥワーを侮られては困るなぁ。あんまりにも軽すぎて、負ぶっている事実を忘れてしまいそうだぜ。俺に重いと言わせたいなら、もっと体重を増やさないとな」


「女の子は、軽い方が良いって、聞いた」


「それは健康に見える範疇での話だ。正直に言って、フィルティは線が細すぎる。まぁ今までは懐事情がアレだったし、しょうがないとは思うがな。けど、これからはもう金の心配はさせないさ。一緒に美味いものをくって、体を作っていこう」


「……太っちゃう」


「女の子としての体形維持とかは、トワコ達からコツを教えてもらえばいい。いいもん食ってるはずなのに、三人ともそこんところは完璧だからなー。ぁ、ちなみに俺のやり方はオススメしないぞ。好みは人それぞれだとは思うが、フィルティが俺みたいな体型になったら、お兄ちゃん泣いちゃうかも……」


 おんぶをした状態でしばしの雑談。

 軽い口調だが、兄の口から出てくる言葉はこちらのことを想ってくれているものが多かった。

 ……嬉しいけど、完全に扶養対象としてしか見られていないことに少しだけ、ほんの少しだけ思うところがある。

 少女は兄に絡ませた腕にちょっとだけ力を籠めた。


「よし。今日はこの後、前の部屋からの引っ越し作業をするつもりなんだが、一緒に行くか?」


「うん、行く。お兄ちゃんが今まで住んでたところも、見てみたい」


「オッケイ、じゃあ出発っ」


「しんこー」







 ――アグゼという男はこの世界の平均的な成人と比較するなら、面倒見がよく親切な方に分類されるだろう。

 だが、年少の子供など護られてしかるべき存在になら、誰彼構わずこのような対応を取るというアブない人物なわけではない。

 当然その判断基準は対象との親密さなどに左右され、フィルティに対してはただ一人の義妹だからこそ「これぐらいやっても問題ないか」という考えがあった。

 そうでなければ彼とて急におんぶなどという妙なことを口走ったりすることは無かったはずである。


 アグゼにとって家族とは特別な存在だった。

 それは義父にこだわる生き方などからも見て取れるし、トワコにもある程度看破されていることでもあった。

 ただ、彼がこれほどまでに家族を特別視する理由はそれだけではなかったのだが――その話は、また別の機会に。




 久々の投稿、次回からはまた冒険者らしい展開にしていこうと思います。

 それと最初の頃の固まっていない設定や文体など、現行に合わせたいところがいくつかありましたので、一話から三話ぐらいまで少々加筆修正しました。

 そういったことは今後もたまにあるかもしれませんので、ご理解のほどをよろしくお願い致します。


 モチベーション維持や投稿速度アップにつながるので、変わらずブクマ・評価・感想は募集中です、どうぞヨロシク。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ