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憤怒の赤、狂い咲く華  作者: 徳川万次固め
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二十七話 厄介ごとがお歯黒つけて牛車に乗ってやって来た

 トワコ達と暮らすようになってから数日後の朝、アグゼは冒険者ギルドへと向かっていた。

 今の彼は兜こそ外して腰にぶら下げているが、薄桃色の鎧を着てバスタードソードを背負ったフル装備状態である。

 相変わらず赤い髪に褐色の肌、黒のインナーとのコントラストが眩しく、男は周囲に対してけっこうな存在感を放っていた。

 久々にこの格好になったせいか何となくいつもよりこちらを見る視線が多いような気がするが、アグゼはそれよりも家から出るときの同居人たちとのやり取りの方に意識を持っていかれていた。




『よいしょっと。それじゃ、行ってくる』


『行ってらっしゃい。怪我には気を付けてくださいね、アグゼ』


『言われるまでもない。気を付けるというならそっちもフィルティのこと、頼んだからな。気を付けてくれよ』


『もちろんです。お任せください』


『お姉ちゃんと一緒。寂しく、ないよ』


『そっか。なら安心だ』


『夕食の献立に希望はありますか?』


『それは……いや、任せるよ。俺の貧弱な食事のレパートリーよりも、そっちのチョイスの方が美味いものが食えそうだ。用意してくれた弁当も、良い匂いがしてたしな』


『分かりました。では、腕によりをかけた夕食を披露してみせますので、楽しみにしておいてくださいね』


『ああ』




 トワコとフィルティが揃って手を振って送り出してくれる光景を思い出し、何だかなーという感情が少しだけ湧いてくる。


(絆されているというか……いやそうなんだろうけど……)


 フィルティが傍にいることにより、兄として狭量で尊敬できない人とは見られたくないという気持ちが自然と働いているせいもあってか、トワコ達との生活は特にトラブルも無く上手くいっていた。

 モヤモヤしたものこそあれど、最近では憎いという気持ちはほとんど無くなってきている、とアグゼは感じていた。

 正直、誰かを憎まないで済むならそれに越したことはないのだ。

 憎み続けるということはハッキリ言って疲れることだし、生産性があるものでもない。

 それこそ理屈や合理性でモノを考えていた義父のヒューベインならば、今の環境にさっさと適合しろと言いそうな気すらしていた。


(義父さんの仇だからこそのモヤモヤなんだが……って、あーやめやめ。こんなつまらんことを考えてたら、本当に怪我をして笑われちまう)


 彼が今日フル装備で冒険者ギルドに向かっている理由は、端的に言えば慣熟訓練のためであった。

 人買い達と渡り合った時に感じたことなのだが、鎧が無かったことを差し引いても自分の体を想定よりも長く鋭く動かせていた気がする。

 想像できることとして、階層ボスを倒したことでレベルが一気に二つぐらい上がったのではないだろうか、ということが挙げられた。

 レベルが上がる原理は、濃い魔力や敵意を叩きつけられることで魂が鍛えられるのだという考え方が主流であった。

 ボスモンスターを倒すことが出来たならその過程でレベルが上がることはほぼ確定事項だとされているが、今回アグゼはラグロとのタッグという少人数でボスに挑んでいたのだ。

 四人か五人で組んだ並みのパーティーがぶつけられる圧力と比較するならば、アグゼが受けたソレは優にその倍以上にもなるだろう。

 圧縮されたソレにあらがって戦い続けたことを思うと、レベルが急上昇したとしてもおかしくはない――のかもしれない。

 次の探索は新しい階層ということで環境や相手取るモンスターなどもガラリと変わるはずだ。

 今の体が重い剣や鎧を身に着けた状態でどれだけ動けるのか、それを把握することは重要な事柄であった。


(体を動かせばバカなことを考える余地も無くなるはずだ。さっさと行こう)


 軽く頭を振ったアグゼはその歩みを早めていった。




 ----




 冒険者ギルドに入ったアグゼ。

 ギルド内は物々しい見た目や自己を主張する格好の者がいることも多く、アグゼの歌舞いた姿も埋もれるかと思われたが、しかし今日はどうしたことか外と変わらぬ自分への視線があることを彼は感じていた。


(これは……アレかな)


 彼は何となくその理由に見当がついていた。

 そしてそれを思い浮かべていた彼に、視線だけでなく声をも掛ける人物がいた。


「おや、アグゼじゃないか。久しぶりだねぇ、ほら、こっちへおいで」


 目つきが鋭く、ワシ鼻気味に鼻が高い年配の女性だ。

 恰幅もよくまさに肝っ玉母ちゃんといったイメージを持たせる人物である。


「パライバさん、朝っぱらから酒盛りってのはちょっと……」


「なぁに人を待つのにちょっと時間がありそうだから飲んでただけさ。一杯奢ってやるからアンタも付き合いな」


 強引なところはあるが、面倒見の良い彼女にはアグゼも仕事の面で何度か世話になったことがある。

 誘われて断り辛いものがあった彼は、仕方ないなぁと思いながら少しだけ付き合うことにした。


「今日は体を動かしに来たんで、酒じゃなくて果実水でお願いします」


「何だい、大の男がだらしないね。まぁいい、ちょっとそこのアンタっ、ボサーっと見てないでこっちに注文取りに来なっ」


「ひゃ、ひゃいっ」


 ビックリしたのか裏返ったような声で応対した給仕の女性に対し、パライバは手元の酒の残りを豪快に飲み干してから器を渡し、新たな一杯を頼む。

 アグゼからの注文も受け取った彼女は、やや赤らめた顔で厨房の方へ戻っていった。

 女を見送った後、ツマミを一つ口にしてからパライバは口を開く。


「聞いたよアグゼ。アンタ、最近レッドコム・ベアをあの狼だけ連れて討伐したそうじゃないか。若い吟遊詩人がアンタのことを題材にして詠っていたよ。あのバケモノにはアタシらも苦労したもんだ。なんともまぁとんでもない無茶をしたねぇ」


 彼女は【セイント・パイレーツ】という家族のみで構成された珍しいベテランパーティーのリーダーだった。

 パーティーメンバーでもある息子と娘が合わせて四人ほどいて、皆なかなかに技量が高くレッドコム・ベアとの戦いでも誰一人欠けることなく勝利したと聞く。

 先達としてあの強敵と戦った経験があるからこその、実感のこもった言葉だった。


「無茶は否定しませんが、ちゃんと勝算はあったうえで戦ったんですよ、まぁ結果はギリギリって感じでしたけど……」


「別に責めちゃいないよ。冒険者なんてアタシも含めて、自分の命までチップにしたがるギャンブラーばっかりさ。そんな奴らが他人様の博打に文句を言うなんて、お門違いもいいところだね。まぁ……ちょいとばかり呆れちまう気持ちがあるのは認めるよ」


 多少は恩義もある年配の女性ということもあり強く言い返せず、しどろもどろな返答をしてしまうアグゼ。

 しかしパライバは(少々含むモノはあれど)気にするなと言う。


「とは言え、アンタは首尾よくヤツを倒して評価を上げた。アタシんところは銭が第一だけど、アンタなんかは今の状況の方が好ましいんじゃないのかい?周りを見てみな、いろんな奴らがアンタを気にかけてるよ」


「……やっぱり、この視線はソレだったんですね」


 妙に視線を感じていた理由は、彼が思っていた通りのものだった。

 ここを一時離れる前に、吟遊詩人のジェシーはアグゼの戦いを題材にした詩を作ると言っていた。

 この時代、吟遊詩人の詩とは物語であり、歴史であり、娯楽でもあったのだ。

 多少誇張して言うなら今この界隈で最もホットな男、それがアグゼであり、そんな彼がしばしこの地を離れ、そして久方ぶりに人前に姿を現したことで、

周囲の人々はまさに興味津々といった状態になっていたのである。


 言葉を受けて少しばかり周りを見渡してみると、丁度給仕が飲み物を持って来てくれているのが見えた。

 話が進み始め、喉を湿らせる物の到来をありがたく思ったアグゼは喜んで器を受け取るが、女性はそれらに加えて皿をもう一つテーブルに置いた。


「フルーツの盛り合わせ? 頼みましたっけ?」


 聞かれたパライバは早速新しい一杯をあおっており、杯を傾けたまま空いている方の手を横に振る。

 ミスオーダーかと思ったアグゼはそれを女性に伝えようとするが、その前に彼女はやや緊張した面持ちで口を開いた。


「こ、これは私からのサービスですっ。あのっ、アグゼさん! 私、応援してますからっ。その、が、頑張ってください!」


 言うべきことを言ったであろう彼女はそのまま返事を聞くこともなく厨房へと駆け込んでいった。

 思わぬ声援を受けた男は放心した顔でつぶやく。


「マジか」


「はっはっは、良いじゃないか。冒険者なんて中堅どころでも根無し草扱いされたっておかしくないってのに、そんな奴らと違ってアンタは大成するって思われてんのさ。多分アレのおかげでもあるんだろうけどね」


「アレって?」


「聞いた話じゃ、ギルドと協力してボス討伐の時の光景を見れる魔具を作ったんだろう? アタシは見てないんだけど、一度それがこのギルド酒場で使われたらしいんだよ。それが本当でアンタがレッドコム・ベアと戦う姿を見たんなら、まぁああなっても不思議じゃないさ」


 どういう経緯でそうなったのかは分からないが、ウルジオーラによって作られた魔具によるボス討伐上映会がアグゼが知らぬ間に既に行われていたようだ。

 狼だけを相棒にして迷宮に潜り、複数のモンスターと戦って、野宿をして、そしてボスとの死闘を制した姿までをその目で確かめる。

 そんな出来事があったなら、並みではない期待が掛けられるのも当然というべきかもしれなかった。

 ジェシーの詩とのコンボも決まれば、まさに倍率ドン!である。


「つまりさっきのは、いわゆるファンとかそういうのって思っていいんですよね?」


「まぁそうだろうね。なんだい、そんなことのために戦ったわけじゃないとか、白けたことを言うつもりかい?」


 こちらを品定めするような視線をパライバは送ってくる。


「初めてのことだから驚いただけですよ。金はともかく、名が売れたかとかはこうした出来事でもないと分かり辛いですからね。ようやくここまで来たか―って感じで、俺自身は嬉しい限りです」


 金や名誉のために頑張ったという事実は胸の中に秘めたままの方が「カッコいい、クールだ」と思う者もいるのかもしれないが、そもそも冒険者という存在は基本的に金や名誉のために動く者が大半である。

 そういった冒険者たちの溜まり場である冒険者ギルドにおいて金や名誉を「そんなこと」扱いする奴は、口や態度が悪く空気の読めないバカ野郎と評されてもおかしくはなかった。


 アグゼは最初から「そんなこと」のために戦っている男の一人であり、今の素直な気持ちを口にする。


「うんうん、分かってるじゃないか。アンタ、イイ男だねぇ。アタシがあと四十年若かったら放っておかなかったよ」


 あ、それはチェンジで。


 ――当初は一杯付き合うだけのつもりだったのに差し入れや話の盛り上がりもあって、アグゼが訓練場に行くのはもう少し先のことになりそうであった。

 



 ----




「そういやアンタ、姫騎士の嬢ちゃんとねんごろだって聞いたけど、実際どうなんだい?」


 姫騎士とはトワコのことである。

 公爵といえば場合によっては国を治めることもある存在だ。

 そこの娘ともなれば、まぁそういうあだ名で呼ばれてもおかしくはない、のかもしれない。


 それにしても、最近は誰かと雑談をすると毎回のようにトワコとの関係について話す羽目になるなぁ、という感想をアグゼは持っていた。

 とは言え、同じ人に何度も同じ質問をされているわけではないので、無下にすることは出来ない。

 仕方なく彼はお決まりのようないつもの返答をする。


「そんなんじゃありませんよ。単なる知り合い……友人ってだけです」


「くっくっ、なるほど、そうかいそうかい」


「何です?」


「いやなに、女を五十年やってれば色々分かることもあるのさ。どうやら嬢ちゃんとは面白い関係みたいだねぇ」


「……まぁご想像にお任せしますよ」

 

 否定したいが絶対に言い負かされる。

 もしくは華麗にスルーされる。

 それが分かっていたアグゼは適当に濁した返事をした。


「すねんじゃないよ、ったく。…………アグゼ、今後もあの娘と関わるのなら、一つ忠告しとくよ。よくお聞き」


 先程までおちゃらけた喋りを続けていたパライバの様子が急に変貌する。

 彼女は冷静な、いや冷徹ですらあるような目でアグゼを見ていた。


「これは人間を五十年やってきたアタシの経験則だ。貴族ってやつと一定以上の関係性を持っていると、アタシらみたいな平民は必ず何らかの形で厄介ごとに巻き込まれる羽目になる。それに注意しな」


 そう断言する彼女に、アグゼは戸惑わざるをえなかった。


「厄介ごとって……」


「どういうものになるかは人それぞれだから何とも言えない。けどね、常に覚悟の一つぐらいは持っといた方が良いってことさね」


「覚悟、ですか。そいつは――」


「――貴様かッ、ファンドリオン公爵令嬢の周りをウロチョロするネズミとは!」


 ブッ


 急に近くで鋭い声が上がり、鼻から変な音が出てしまう。

 振り返るとそれなりに身なりの良さそうな男が眉を吊り上げてこちらを見ていた。


 ぇ、俺?、という気持ちを込めて、アグゼは男を見たまま自分に対して指を差した。


「そんな喜色悪い色の鎧、他に誰がいるっ。そうだ、ソードマンのアグゼ、私は貴様に用があって来たのだっ!」


 何なのよ、これは。

 相手の剣幕と状況にビックリし過ぎて、アグゼは声もなく目線でパライバに訴えかける。

 彼女は顔に手をやりそのまま天を仰いでつぶやく。


「アタシの仕込みじゃないよ」


 仕込みの方が百倍良かった。

 つまりこれはマジモンの厄介ごとというわけだ。


「貴様、黙っていないで何とか言ったらどうだ!」


 少しは考える時間ぐらい寄越してほしいものである。


「はぁ、それでそちらはどこのどちらさんで?」


「貴様ァッ、この私のことを知らんと言うのか!?」


「何で知ってる前提なんだよ」

 

 面倒くさい、ただただ面倒くさい。

 傍から見てる分には……やっぱり面倒くさそうだ。


「まぁいい、知らんと言うなら教えてやる。私はジェンデール伯爵家が嫡男、ルートヴィッヒ・ジェンデールである!」


「なるほど、どこぞの貴族の息子さんだと」


 その背はアグゼより高そうだった。

 髪はやや長めであり、加えて顔も割りとイケメンの部類に入るだろう。

 身なりと併せて、見た目の印象でも貴族であるということを主張してくるような男だった。


 貴族に絡まれている。

 あぁ、これは間違いなく厄ネタだ。

 しかもかなり大きめの。


「で、ファンドリオンの令嬢って、トワコのことか。アイツがどうしたって?」


「ッ、アイツだと? 私に対してのみならず、トワコ嬢にまで何たる無礼かっ」


「……確かに貴族相手に少々礼を逸しているかもしれんが、生憎と俺とトワコの間ではこれが普通なんだ。外からどう見えているかは分からんが、口を出すのはやめてくれないか」


 アグゼは至極冷静に話しているが、しかしその内容は間違いなくルートヴィッヒの心証を逆撫でするものであった。


「自分がやっていることを知っていて変える気がないとはな。これだから冒険者という奴らは低俗でいけ好かん」


「一応トワコもその冒険者の一人なんだが、それは知ってるか?」


「ぐっ…………言葉の綾だ、揚げ足を取るなっ」


 アグゼは基本的には貴族という存在を好いてはいない。

 それは少年時代の経験ゆえであるが、だからと言って貴族全てが消えてなくなればいいなどと考えてはいなかった。


 完全にではなくとも彼は理解していたのだ。

 貴族という存在が、今の世界においてヒトの社会を構築するのに必要なシステムであると。

 一定以上の教育を受けている人材を割合でみると、貴族とそれ以外では前者の方が圧倒的に該当人物が多い。

 当たり外れはあれど、とりあえずでもいいから政治を担ってもらう者を肩書きで選ぶなら、それは貴族であることが妥当な判断だった。

 そんな社会の功労者である彼らに「ご苦労様です」という気持ちを込めて、ちょっとぐらいの敬意ならアグゼだって持ってはいたのだ。


 だが今回は話が別である。

 アグゼからしてみれば眼前の男の話は素直に聞いていられるものではなかったし、力で禄を食む冒険者がここまで明確な圧を掛けてきた相手にあっさり平伏しては、それこそ沽券にかかわるマズい対応になってしまう可能性も考えられた。

 しかも今のアグゼは噂の冒険者として売り出し中の身である。

 期待してくれている女性なども見ているであろうこの状況で、下手に出ることはなかなかに難しい選択肢であると言わざるを得なかった。


(……あれ、これって、もしコイツの親とか出てくる状況になったとしても、トワコに頼れば大丈夫なんじゃないか?)


 アグゼはふと、トワコの存在が絶対的な防波堤になるのでは?、ということに思い至る。

 その理由は爵位の違いにあった。

 彼はその手のことに大して詳しいわけではなかったが、公爵と伯爵の間には貴族としてそれなりのランク差があったはずだということを思い出す。

 貴族であることに大きな誇りを持つタイプの人物なら、そのランク差を軽く見ることはあるまいと考えられたのである。


(トワコのせいでこうなってるみたいなもんだし……うん、そうだな、そうしよう)


 なんだ、特に恐れる必要はないじゃないか。

 外面はともかく、内では色々とヤバい事態を想定してビビっていた彼の心境は、段々と落ち着いたものへと変化していく。


 戸惑うことはないと判断したアグゼはさっさと本題に移ろうと改めて口を開いた。


「本題に入ろう。お前さんは俺に話があって来たんだろう? 本当は何を言いに来たんだ」


「キサマッ、このっ…………ふん、いいだろう。私とて無駄な時間を過ごしたいわけではない」


 ルートヴィッヒは乱れていた襟元を正して息を整えると、澄ました顔をして言葉を口にする。


「貴様に二つ要求することがある。その一、この都市から離れてどこか遠い所へ行け。その二、そして金輪際、二度と、決して……彼女に関わるな」


「……ほぉ、冒険者に対してこの迷宮都市から出ていけとは、すごいことを要求してくるな」


「貴様らは結局金が目当てなのだろう? ハッ、良かろう。いくら欲しいんだ、言ってみろ」


 金さえくれてやれば問題はあるまい。

 そう目で語るルートヴィッヒは蔑んだ顔で話すが、アグゼは肩をすくめてそれを否定する。


「確かに金は大事だが、残念ながら俺はそのためだけに迷宮に潜っているわけじゃないんだ。それと二つ目の要求に関しては……トワコの方に聞いてみてくれ。アイツがもう俺と関わることを止めるというなら、俺はそれに従おう」


 本当は今トワコに離れられてしまうと住居やら何やら色々と困ることになってしまうのだが、自分から「トワコが必要だ」などと言いたくないアグゼは微妙に回りくどい返答をした。

 どうせトワコならそんな話を了承するはずがないという打算があってこその言葉だった。

 あぁ、何という小賢しさ。

 

 言葉を受けたルートヴィッヒは急に目線を下げて、先程までとは真逆のテンションになってしまう。


「……もう会った。トワコ嬢に会って、そう言った。しかし彼女は……クソッ、何故そんな目を私に向けるのだ! 何故こんな男にこだわるのだ!?」


 どうやらアグゼがこの地にいなかった間に、既にトワコと接触して話をしていたらしい。

 ただその結果は、ルートヴィッヒの希望には全く沿っていなかったようだが。


「どうやら上手くはいかなかったようだな。まぁとにかく、アイツが拒否したならそういうことだ。アンタも、それで納得しちゃくれないか?」


 トワコとの会話を思い出して狼狽えていたルートヴィッヒだが、しかしアグゼの言葉を受けて目に力を取り戻す。


「クッ、貴様のような奴が言葉だけで大人しく従うわけがないと、そんなことは最初から分かっていたのだ。ならばどうするべきか? 決まっているっ!」


「ぇ、あ、それってアンタまさか」


 仰々しくポーズを取った彼は、アグゼを睨みつけながら高らかに宣言をした。




「――決闘だ!」




 いわゆる決闘イベントを書いてみたかった。

 次もこれぐらいの頻度で投稿できたらいいなと思っています。


 モチベーション維持や投稿速度アップにつながるので、変わらずブクマ・評価・感想は募集中です、どうぞヨロシク。

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