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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ヴェロン帝国編 第六章
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舞台の終焉は隠れている者を燻り出す

PCを昨日のうちに復旧出来たお陰で、何とか書き上がりました。

「おかーさんたちは、僕が守る!」

これを聞いた時俺は、嬉しさを抑えきれず思わず微笑んでしまって居たが、それが演技に影響して手加減するとかは絶対にない。それどころか、容赦ない攻撃をされた今では、その必要性が無い事を改めて認識したくらいだし。

「それじゃ、遣らせて頂きますか」

 一言呟き、急降下を開始する。

 そして、着地と同時にフェリスの背後へと瞬時に走り込み、彼女への魔法攻撃を上方からの一転集中に切り替え、そうして魔方陣を一方向だけに絞らせて攻撃する隙間を作り上げる。

 大体、あんな反則的な防御を誇る魔方陣を力で如何出来る訳がない。なので、逆に利用する方が返って楽、と言うもの。

 それにフェリスは深く考えずに本能で動くしね。

「よっしゃ! これな――」

「脇ががら空きだぞ!」

 案の定、彼女が思惑通りに魔方陣を上方に集中させてくれたお陰で、難なく全力の一撃を脇腹に叩き込む事が出来た。

「ぐう――てめえ、何時の間に……」

 流石は元がフェンリルだ。今の一撃だけでは倒れてくれない。

「自分で、考えろっ!」

 素早く前へ回り込むと鳩尾へ拳を叩き込み顎を下げさせて、カウンター気味に膝を打ち込んで跳ね上げると同時に側面へと回り、仰け反った所で延髄へと蹴りをぶちかまして、そのまま巻き込み地面に叩き付ける。

「こ、この程度――くっ、な、なんで……」

 尚も起き上がろうとするフェリスだが、体が言う事を利かず起き上がる事が出来ない。

 それを見下ろして俺は口元を歪め、優越感に浸る表情を向けた。

「あれだけ頭を揺さぶられれば、確実に脳震盪を起こしている筈だ。しばらくはお前でも起き上がれないだろうさ。――レジン!」

 メルさんと戯れさせている双頭犬(レジン)を呼ぶ。

――何用で御座いますか?

 二つの口にメルさんと団長さんを銜え込み、頭同士を内側に向けて時折ぶつけては、楽しそうに遊びながら此方へと歩いてきた。

 アメリカンクラッカーってのが昔の玩具で有ったけど、あれみたいな物かね?

「これが起きそうになったら、足で頭を踏み付けて起こすな」

――女王陛下にその様な事、我には……。

「今は俺の敵だ。そしてお前は俺の何だ?」

――僕に御座います。

「なら、言う事を聞け」

 溜息でも付きそうな雰囲気で諦めた様子を見せる双頭犬。

――判り申した。ですが――。

「分かってる」

――であれば、言い付けに従いましょう。

「頼んだぞ」

――御意。

 今だに炎槍を降らせ続けているウェスラ達の方へと向きを返えてゆっくりと歩き出し、息を大きく吸い込むと、俺は声を張り上げる。

「聞けい! 我が覇道を阻む者よ! フェンリルの長は俺に倒された! もうお前達に勝ち目など、ない!」

 騒いでいた観客でさえ静まり返る。

 それもそうだろう。天族といえば、その戦闘力は人のそれを遥かに凌ぐ。しかも、獣族であっても一対一ではまず無理、と言われているのだ。それを俺が倒した、となれば最早数人の亜人が束になろうとも勝てる道理はない。

「潔く負けを認めれば、俺の僕に加えてやろう! どうだ? 悪い取引では有るまい?」

 うん、これこれ。これぞ悪役の定番の死亡フラグ!

 これを言わずして、何と言えばいいのだ!

「その様な取引をワシ等が受けると思うてか! 舐めるでない!」

 白い幕の向こう側から、案の定と言うか、定番の答えが返ってくる。

 いいねえ、このやり取り。

「ならば――死ねっ!」

 俺は駆け出して後へと回り込み、炎槍を止めてから剣を地面に突き刺した。

「我が命を聞け! 土人形(ゴーレム)召喚!」

 呼び出した先は幕の中。

 外部からの攻撃は跳ね返せても、内部に直接土人形を発生させれば、跳ね返される心配もない。

 ただ、俺が呼び出せるのは一体ではないのだが、今回は一体だけに留めておいた。何故なら、隙さえ作れれば良いのだから。

「我、地の底より彼の地へと至る道、作り出さん。地道(アースロード)創生(クリエイト)

 俺は足から、ズブリ、と地面へと何の抵抗もなく潜り込むと、陣の真下まで移動する。そこで一気に地上へと浮上を掛け、内部へと躍り出る事に成功した。

「な、なんじゃとっ?!」

「え?! なんでっ!」

「土人形は囮でしたかっ!」

「わらわの声――」

「そこで寝て居ろ!」

 突然現れた俺に驚愕の表情を皆が向ける中で、キシュアだけが驚きもせず冷静に死霊を呼び出そうとしていたので、顔面に拳を叩き込み昏倒させ、素早くライルを小脇に抱えてそのまま外へと飛び出す。

 俺の本当の目的は、混乱に乗じて内部へと侵入してライルを掻っ攫い、盾として使う事だった。

 そうすれば、誰も俺に対して本気で攻撃は仕掛けられなくなる。

 これぞ悪の特権、と言うのもでもあるけどね!

 勿論、彼女を殴った瞬間は「キシュアごめん!」と心の中で謝っておいたけど、声に出せないのが少々辛い。

「くっくっく。これで俺に攻撃は出来まい?」

 ライルを正面に抱え直し切っ先を向ける。

「はなせー!」

 じたばたと暴れられるが、地に足が着いて居なければ、どんなに力が有ろうとも余り意味をなさい事を俺は知っている。

「ひ、卑怯じゃぞ!」

「聞こえんなあ」

「わたしがっ!」

 ローザが無謀にも突っ込んで来たが、俺は一歩も動く必要はない。

 何故ならば――、

「覚悟っ!」

 ライルを外した攻撃を仕掛けられようとも、そこへこの子を向ければ勝手に攻撃を止めてくれるからだ。

「くっ!」

 突き出した剣を途中で止めて数歩後退るローザ。

「どうした? 殺らないのか?」

 口元に笑みを湛えて俺は募る。

「卑怯です!」

「それがどうした。戦いとは、勝てばそれが正義なのだよ。爆炎(エクスプロージョン)狂咲(マッドブルーム)

「きゃあああ!」

 ローザの周囲に無数の火球を発生させ爆発で翻弄した挙句に、

「死ね」

 止めとばかりに火炎弾を叩き付け、抵抗の意思を完全に刈り取り倒す。

「ろ、ローザ!」

「ローザちゃん!」

 ウェスラとリエルの叫びが届くが、それは彼女に聞こえる事はないだろう。なんせ、完全に意識を失っているのだから。

 俺はその彼女の頭を踏み付け、静まり返る観客に向かって声を張り上げた。

「ふふ、ふはは、ふはははははは! 貴様等を守ろうとした者達に手も貸さず傍観している者達よ! 今こそ絶望の時! 泣け! 喚け! 叫べ! 生きたまま地獄を味遇わせてやる! 炎鎖封獄(ヘルファイヤーケージ)狭縮(フォールオフ)!」

 未だ解かずにいた闘技場全体を覆っている炎を狭め始めた時、目の前で地面が炸裂し砂塵を巻き上げ、俺の視界を覆い尽くす。

「ふん、小ざかしい事を」

 呟き、右手に持つ剣を上げ彼女達に向けて魔法を放とうとした瞬間、左肩に鋭い痛みが走り、抱えていたライルを取り落としてしまった。

「殿下! 今です!」

 マリエの声が土煙の向こうから走り、ライルが素早く向き直り俺に向かって剣を突き立てる姿勢を取る。

「チッ! 味な真似を!」

 吐き捨て剣を構えた瞬間、飛来した矢に剣は弾かれ、続けざまに放たれていたのか、右肘まで貫かれ両腕の自由を奪われてしまった。

「くそっ! これでは――」

「おとーさーんから、出て行けえええ!」

 俺の声はライルの声に掻き消され、そして、腹部からは、剣を生やしていた。

「ぐ……」

 よろけながら後退り、そのまま膝を突いて俯き、地面に大量の吐血をぶちまける。

「ま、まだ……、まだ、倒れる訳には――」

「止めじゃ!」

 その声に顔を上げれば、視界いっぱいに氷槍が広がり、ライルの不安そうな顔が見えた。

 だから俺は、大丈夫だ、と唇を動かし、口元に笑みを浮かべてライルを安心させる。

 その直後、大量の氷槍に貫かれて、俺の意識はぷっつりと途切れたのだった。




           *




「ふふ、ふははは、ふはははははは! 貴様等を守ろうとした者達に手も貸さず傍観している者達よ! 今こそ絶望の時! 泣け! 喚け! 叫べ! 生きたまま地獄を味遇わせてやる! 炎鎖封獄(ヘルファイヤーケージ)狭縮(フォールオフ)!」

 私はその時、叫んでいた。

「アイシン様! 奴の足元へ風弾を放って土煙を巻き上げてください! リエル殿! 弓と矢は有りますか?!」

「了解した!」

「あ、あるよっ!」

 私は手を伸ばしリエル殿が差し出してきた弓と矢を受け取り、番える。

 これこそ、誰にも知られてはいけない私の秘密。

 それは、剣よりも弓の才能が飛び抜けていた、と言う事実。

 母方から連綿と受け継がれてきたダークエルフの血が、色濃く現れた証でもあった。

 その事を知ってか知らずか、両親は私に剣と平行して秘かに弓も練習をさせ、騎士として歩き出す頃には既に、超一流の弓技を身に付るまでに至る事となった。

 自分で超一流と言うのも何だが、騎士団に入ってから一流と言われる弓士を見ても、私と同じ事が出来るものは誰一人として居らず、自身が飛び抜けた存在である事を自覚してしまったのが、その一因でもある。

 その技とは、射程範囲内であれば相手の動きを目で追う必要が無く、気配で全てを感じ、急所の位置すらも把握する(すべ)

 それを剣技にも応用したからこそ、今の私が有り、副団長の地位に就いていられる。

 ただ、そんな技は人では無し得る事が出来ない事も重々承知している。

 唯一可能なのは、森の民、と言われるエルフ族の中でも弓の扱いに長け、魔法よりも弓を使って獲物を狩る事を得意とする、ダークエルフのみが受け継ぐ技だ。

 それ故に、私はこれを直隠(ひたかく)しにしてきた。

 だが今は、その技を持って殿下の為にこの幕を引く手助けをする!

 アイシン様が魔法を放ち盛大に土煙が上がった直後、狙い澄ました様に矢を放ち、

「殿下! 今です!」

 確信を持って声を張り上げる。

 そして、第二射、三射目を一気に放つと、

「おとーさーんから出て行けえええ!」

 殿下の叫びの後、マサト様の苦鳴が微かに聞こえた。

 そして――、

「アイシン様!」

 彼女は頷き両手を前に突き出して、

「止めじゃ!」

 氷の槍を無数に作り放った。

 それは、殿下を避ける為に上方からマサト様目掛けて襲い掛かり、その全てを叩き込んで彼を物言わぬ躯へと変える。

「倒せた……」

 陶然とした呟きが漏れた。

「マリエのお陰じゃ。おぬしが居らねば勝つ事等出来んかったじゃろうからの」

 だが、私はそれに首を振る。

「違います。リエル殿のお陰です」

 手にした弓に視線を向けた後、彼女へと微笑み掛けた。

「えへへへ。たまたま持ってたのが役に立つとは思いもしなかったよ」

 照れながらもリエル殿は笑顔を見せる。

 そして、全員で視線を一点に向けるとアイシン様が、声を張り上げた。

「そこの双頭犬(オルトロス)よ! おぬし一匹では、もうどうにもなるまい! 降参せよ!」

 威嚇として火炎弾を数発打ち込むと、双頭犬は(くわ)えていたメルカート副団長とオラス団長を放し、一歩下がって頭を地に着け伏せの姿勢を取り、目を瞑る。

――ふっ、好きにするが良い。

 そして、頭の中に念話が響き、全てが終わった事に安堵して私は呟きを洩らす。

「これで漸く――」

 だが、それを最後まで言わせては貰えなかった。

「その者達を捕らえよ!」

 私の呟きを遮った声の方へ顔を向ければ、そこには一人の肥え太った貴族が仁王立ちしていた。

「どう言う事ですかっ! 私達は命懸けで――」

「貴様等は危険だからだっ!」

 私は耳を疑っうと同時に、無性に腹が立った。

 これが命を救った者に対する態度なのか! と。

「亜人種共はその力を持って我々人族を支配しようと企み、皇帝陛下を弑逆奉ろうとしたのだぞ! 同じ事を貴様等が絶対にしないと、誰が証明するのだ!」

 確かにそれを証明する事も出来ないし、する者も居ない。だが、それを成そうとする者もここには居ないと、断言出来る。

 何故なら、私達がそれを成す心算ならば、マサト様を倒さなければ良かったのだから。

 その事を告げようと大きく息を吸い込み、口を開けようとしたその時、皇帝陛下が立ち上がり、私達の方へと手を向け動きを制した。

「バドック伯よ。それは私が証明しよう」

 太った貴族へ告げる。

 だが、その貴族――バドック伯爵は跪き頭を垂れながらも口を開いた。

「陛下! 恐れながら申し上げさせて頂き事が御座います!」

 伯爵の言葉に陛下は表情を険しく変えたが、

「申してみよ」

 許可する旨を言い渡した。

「有難う御座います! 私が独自に得た情報に因りますと、あの者達はナシアス殿下の殺害を企ていた、との事です!」

 何の根拠も無い事を言われ、私が口を挟もうとした時、またもや陛下が目線と手を向け、再び動きを止められた。

「それは誠か?!」

「はい! 間違い御座いませぬ!」

 頭を垂れた伯爵は、口元を微かに歪めているのが見える。

 このままでは! そう思った瞬間、陛下が言葉を発した。

「何故卿が答えるのだ?」

 訝る表情で陛下がそう問い質すと、

「誠か、と聞かれましたので」

 平然と答え、更に笑みを深めていた。

 だが、私には陛下の言っている意味が理解出来た。

 それは――、

「余は卿に聞いたのでは無いのだがな?」

 陛下は、伯爵には聞いていない、という事。

 それが証拠に、陛下の口元には弄う様な笑みが浮かび、その言葉に思わず、といった様に顔を上げた伯爵は、呆けた表情を見せている。

「余はナシアスに誠か、と聞いたのだよ」

 陛下の表情は悪戯が成功した、と言わんばかりに伯爵を嘲っている。

「それではお答えいたしますわ、陛下。私、ハザマ卿に命を助けられて御座いましてよ? しかも、そこに居る者達にも助けられましたわ」

 振られた殿下は平然と答え、口元を手で隠している。

 たぶん、笑ってしまっているからなのだろう。

「だ、そうだ」

 陛下の目付きが鋭く変わり伯爵を射抜いているが、当の本人はそれに気が付かないのか、呆然とした表情で呟きを洩らしている。

「ば、馬鹿な……。報告では気が触れたと……」

 その呟きは、自らが企てたと、告白した様なものだった。

「この、痴れ者めがっ! やっと白状しおったか!」

 陛下の大音声が闘技場全体に響き渡ると伯爵は我に返り、

「い、いえ、こ、これは騎士団のも――」

「其の方がナシアス殺害を指示した事など、当の昔に余の耳に入っておるわあ! これでもまだ弁解をするかっ!」

 伯爵の言葉を遮り陛下が憤怒の形相で叱責を飛ばすと、そのまま蹲り私達の位置からは見えなくなってしまった。

 陛下は奥の騎士達に指示を飛ばす。

「この賊臣を牢に放り込んでおけ! 余の指示有るまで決して出してはならぬ! これを破りし者は一族郎党全て斬首に処せられる事、肝に銘じよ!」

 騎士達が伯爵を抱えて貴賓席から出て行くと、陛下は此方に向き直り口元に笑みを浮かべながら、告げられた。

「皆の者、大儀であった! わが国を腐らせる者を燻り出せた事、ここに深く謝意を表する! 特に、ハザマ卿に置いてはその苦悩たるや、想像を絶する程で有ったろう事は想像に難くない! 故に、余はこの国で最強の魔術師に送られる称号を卿に授けたいと思う! 皆の者、どうであろうか?!」

 観客は一斉にざわめき始め、それは次第に大きなうねりとなって闘技場全体に広がり私達を押し包み、徐々に一つの言葉を紡ぎ出して行く。

 それは、賞賛の声と共に最強たる者にのみ捧げられる言葉。

 この国では皇帝陛下と並び証される程の意味を持つ言葉だった。

 私はそれを聞き、改めて、マサト様の凄さを思い知らされたのだった。

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