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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ユセルフ王国編 第五章
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セクシー戦士推参!

 歩く、只々歩く。何も考えずに。

 これが今の俺の精神状態だ。

 何故、こうなったのか理由を話そう。

 全ての原因はあのオギュちゃんの服飾店。そこで着せ替え人形宜しくあらゆる服を着せられて、店頭でファッションショーをやらされてしまったのだ。しかも、あのオカマが集めた客の前で。

 そこから先は……思い出したくねえええええ!!

 理由になってない、だと? じゃあ、俺に集まる眼差しを見るがいい。

 女達からは敵意と悔しさの篭もった視線を向けられ、一部の野郎どもは欲情した目を向けてくる。しかもだ! いらん二つ名まで囁かれてるんだぞ! 亜人殺しのハーレム王と呼ばれるのに少しだけ慣れた所でこれだ。もう、嫌だ。こんな街……。どこか誰も知らない街へ行きてえよ。

 え? 新しい二つ名を聞きたい、だと?! 

 言えるか! そんなもん!

 で、今俺は、憔悴している、と言う訳だ。

「しかしあれじゃのう。マサトは一体幾つの二つ名を貰う気なのかのう」

 それは言わないで……。

「そうだな、わらわもそれには興味があるな」

「え? そんなに貰えるんですか?」

 いや、普通はもらえないから!

「すげえな、マサトは」

 感心するとこじゃないから!

「ええと、何じゃったかの……新たな二つ名は」

 思い出さなくていいから!

「確か……」

 頼む! 思い出さないでくれ!

 そして、俺達はハロムドさんの店の扉を潜った。

「おお、両刀使いのハーレム王じゃねえか」

 その一言で、俺は、頽れた。

 うう、なんでこの人が知ってんだよ……。

「いやあ、でもあれは笑えたぜ! 下手な女よりも女らしいってのは!」

 何で店ほったらかしで見にくんだよ!

「ん? どしたんだ、ハーレム王は」

 ほっといてくれ! 俺は傷付いてるんだから!

「まあ、何時もの事じゃ。そのうち復活するじゃろ」

「マサトは打たれ強いからな」

「そうなんですか?」

「なら、今度俺と立ち会ってもらうか!」

 打たれ強く無いし、意味違うからな、フェリス。

「で、今日はなんだ?」

「うむ、こやつの装備を、とマサトが言うのでな」

「ほう、こりゃまた凄え美人を引っ掛けたもんだな」

 あーそうかもね、見た目は。実際は獣だけどさ。

「で、戦闘スタイルは?」

「俺は素手だ! 武器なんかいらねえ」

「こりゃまた勇ましい嬢ちゃんだな」

 そりゃ勇ましいだろうよ。なんせ元はフェンリルだし。

「おい、ハーレム王。そろそろ復活しろ」

 俺はまだ傷心中なんだよ。

「魔装弾一箱サービスすっから」

「本当だな」

「お?」

「ほんっっっとにくれるんだな?」

「嘘は言わねえよ」

 俺は立ち上がった。

「安いのう」

 ほっとけ。

「千クォークの傷心か」

「でも、銀貨十枚ですから、そこそこじゃないですか?」

「遊んでんじゃなかったのかよ」

 悪かったな千クォークの傷心で! それからなフェリス。お前は一回目玉を全摘して洗ってもらえやあ!

「んじゃ、早くくれ」

 俺は手を差し出したが、その手を叩かれてしまった。

「馬鹿野郎、嬢ちゃんの装備が先だ」

 チッ、まあ、いいか。

「近接格闘って事は武器は限られるぞ。拳ならそれ専用のグローブかナックルだろうし、後は手甲鉤くれえか」

 ハロムドさんが手に取った物は、拳の部分に特殊な加工を施したグローブと刺々しいナックル、ガントレットと手甲鉤が一体になったもの、それと、手甲鉤単体だった。

「威力はこいつが一番なんだが、装備しっぱなしに出来ねえって欠点がある」

 確かにガントレットと一体だと装備しっぱなしはきついな。

「で、手甲鉤だけのやつは、力の係り具合で手首を傷める事もある」

 確かにそうかも。

「んで、こいつらだと手数を出せなきゃ意味がねえ」

 ナックル系の利点は手数と小回りが効く事だしな。ただ、一撃では確かに劣るよな。

「どれも今一パッとしねえな。もっとこう、爪で切り裂く、ってな感じのはねえのか?」

 フェリスが五指を開いて鉤爪状に曲げて、空間を薙ぐ素振りを見せた。

 確かに彼女なら、それが一番使い易いかもな。元の姿と似た様な使い方だろうし。

「んー、ねえ事はねえが、あんまりお勧めは出来ねえなあ」

 そう言いながらもハロムドさんが持って来た物は、手の平以外の部分が全て金属で覆われ、指先には鋭利な爪が光っているグローブだった。

「こいつはちと中途半端でよ。爪がここまで鋭いもんだから、完全に握れなくて拳が使えねえんだよ。一応、物を持つ事もできっけど、やっぱ、手持ち武器を扱うのは無理だしな。ただまあ、こいつは金属を薄くする必要も有ってちーっとばかしオリハルコンを使ったんで、頑丈は頑丈なんだけどな」

 このおっちゃん、ミスリルとかオリハルコンとか、希少金属を惜しげもなく使うのな。

「試着してみっか?」

 フェリスはさっきからそのグローブを早く着けて見たかったようで、手を握ったり開いたりしていたから、その申し出には一も二も無く頷いていた。

「確かに拳は握れねえな――」

 何度か手を握って、実際にフェリスは確認をしている。

「となると、こんな感じか?」

 軽く五指を開いた状態で、やや腰を落して半身になって構る。そして、(おもむろ)に前方へと飛び出すと、右腕を振り抜いていた。

「こんなもんか」

 その口元には笑みが張り付き、かなり気に入った様子だ。

「やるねえ」

 ハロムドさんも彼女の動きには感心している様子だった。

「そうなるとだ。超の付く近接戦闘だから軽くて丈夫な防具も必要だな」

「んなもんいらねーよ。攻撃になんざ当たる心算ねーし」

 確かにフェリスの身のこなしなら、下手な防具は邪魔なだけかもしれない。でも、戦いにおいては一対一になる事は稀だし、自分が察知出来る範囲だけから攻撃が来るとは限らない。俺がその事を告げようとした矢先に、ハロムドさんが怒鳴った。

「生言ってんじゃねえ! (いくさ)は一騎撃ちだけじゃねえんだ! もし、乱戦にでもなった時おめえが倒れたりすりゃ、他の仲間に迷惑が掛かるって事、覚えとけ! このボケ!」

 余りの剣幕に、ファリスも顔を顰めて押し黙っていた。

「フェリス、こうい事はこの人に任せろ。絶対後悔させない人だからさ」

 俺が口角を微かに吊り上げながらハロムドさんを見ると、少しだけ顔を赤くして照れながら鼻の頭を掻いていた。

「ま、まあ、ともかく任せてくれ。絶対動きにゃ影響しねえもんを選ぶからよ」

「わーったよ。その代わり、半端なもん持って来やがったらぶち壊すぞ」

 物騒な事を言う割にはフェリスは何故か嬉しそうな顔をしている。どうやらハロムドさんを気に入ったようだ。

「んじゃ、ちーっと待っててくれ」

 店の奥へと消えていった。

 何で何時も奥から持ってくるんだろうな、あのおっちゃんは。

 直ぐに戻って来たハロムドさんは、手にした物をフェリスに渡した。

 なんだこの早さ。まるで来るのが分かってたみたいだぞ。

「おめえさんが着てるのとサイズは同じ筈だ」

 それはショート丈の革ジャンに胸部を守る為の分割されたブレストプレートに肩を守るスポールダー、それと、肘を守るコーターに、ガントレットを取り付けた物だ。

 うん、どっかの漫画みたいだ。ってか、やっぱ分かってたみたいな感じだなあ。

 そして、フェリスの今の格好は、チューブトップに若干ローライズ気味のホットパンツに赤いショート丈の革ジャン、そして、足元はヒールが高めのブーツを履いている。

 結構露出が多くてセクシーなんだよな。でも、それが(なまめ)かしく見えないとこが凄い。

「そして、あとはこれだ」

 そう言って差し出してきた物は、何処か女性の腰周りを連想させる様な柔らかさを感じた。

「それは?」

「タセットってんだよ。腰の部分に付けるやつさ。本来はプレートアーマーなんかで使うんだが、それを軽量化して、ベルトに取り付けられるように工夫した一品だ」

 なるほど、防御の手薄に成り易い部分様か。

「で、最後は定番のこいつだな」

 ヒールが低めグリーブを床に置いた。まあ、男物よりは高いヒールだけどね。

「戦場の足元は必ずしも(しっか)りしてる訳じゃねえからな。こいつの方が絶対いいぜ」

 それを見たフェリスの瞳は、物凄く輝き、活き活きとしている。

 こういうのがやっぱ好きなのか。もしかすると種族的な特性なのかな?

「こ、これが俺のなのか?!」

「おう! 身に付けてみろ!」

「よし!」

 言うが早いか、今来ているジャケットを脱ぎ去り、用意された物を着込む。次にブーツを取替え、最後はベルトを外してショートパンツの部分にタセットを取り付けた。

 むむ、なんだかゲームに出てくる女戦士みたくなったぞ。すげえセクシーでかっちょええ!

「どうだマサト! 似合うか?!」

 ファッションショーみたいにクルリと一回転する。

「ああ、よく似合ってるよ」

 俺が正直に告げると、彼女は上機嫌になりさらにクルクルと回りだした。そして、ハロムドさんの所でピタリ、と止まると、

「お前、いい仕事するな! これからも頼むぞ! ボンクール!」

 あれ? 俺達一度もハロムドさんのファミリーネーム言ってないはずだけど……。

 俺はおろか、他の三人まで怪訝な表情を浮かべた。

「フェリス、なんでハロムドさんのファミリーネームを知ってるんだ?」

 眉根に皺を寄せたまま俺が尋ねると、小首を傾げて彼女は答えた。

「これだけの仕事が出来る鍛冶師はボンクール家の者以外は居ないからだが?」

 ハロムドさんもそう言われ、訝る表情を見せた。

「おい、ハーレム王。こいつの名前を教えろ」

「フェリス、だけど?」

「違う、もっとちゃんとした名前だ」

「あー、そっちか」

 やっべ、俺覚えてねえや、どうしよ。

 俺がそう思った瞬間、

「俺はフェリシアン・ビスリ・ヘヴェンス・スティート・マクガルドだ」

 何かに納得するようにハロムドさんは何度も頷いていた。

「おめえさんはフェンリル一族の王族、マクガルド家の者だったのか」

「そうだ。そしてな、マサトは俺の(つがい)だ!」

 満面の笑みで余計な事いうんじゃねえ!

 ハロムドさんは驚愕に見開かれた目で、俺を見た。

 このおっちゃんにだけは知られたくなかった……。

「おめえ……」

 く……まだ心の準備が。

「手当たり次第だな」

「ほ、ほっとけ! それに、永久は俺からするもんじゃねえし!」

「そりゃそうだけどよ。何もやられるのを待って無くてもいいだろ?」

 あ、そうか。避ければ良かったんだ。今まで何やってたんだろ、俺。

「その面から察すると、今まで気が付かなかったってか?」

 渋い表情を返す俺に、ハロムドさんは豪快な笑いをぶつけ、

「まったく、おもしれえな、おめえはよ!」

 力いっぱい俺の肩を叩きながら、笑い続けたのだった。

 もしかして、俺って馬鹿なのかなあ?

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