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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ユセルフ王国編 第三章
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決まった!

 一応、俺の試験は終わったが、(あと)の人達の試験は全て延期されてしまった。その理由は俺が最後に放った一撃。あれが闘技場の天井を支える柱の何本かを叩き切ってしまっていたのだ。しかもあの試験官が用意した魔装機は獣族が五段に昇格する為の物だったらしい。ただ、あの雪だるまを破壊した事に加えて、闘技場も半壊させてしまった事実は、流石のウェスラでも隠しようが無く、俺の処遇は目下の所、ユセルフ支部のギルド幹部を緊急招集して協議中だ。もちろん、そこにはウェスラも出席している。その所為で俺達はギルドの待合室で待たされ、お茶なんぞを啜っていた。

「なあ、旦那様よ。その剣、少し触っても良いだろうか?」

 永久(とこしえ)を結ばれてしまった為に無下に扱う事も出来ず、ローザもこうして一緒に居るのだが、流石は剣士だけあって、俺の剣に強い関心を示していた。

「ローザ、(みだ)りに旦那様に強請(ねだ)ってはならぬ。われ等は妻なのだぞ」

 キシュアはそう言ってはいるけど、別に触るくらいは問題ない。襲われる訳じゃないし。

「まあ、触るくらいは別にいいよ。ただし、鞘からは抜くなよ」

 ローザが少し複雑な表情を浮かべた。その表情から察すると抜く心算だったらしいな。釘を刺して置いて良かった。

「承知した。では、少々拝借」

 だが、剣を持ち上げた途端、驚愕の表情を俺へと向ける。

 なんだ?

「だ、だ、だ、旦那様! こ、これはこんなに重かったのか?!」

 何を言ってるんだろう。俺には木刀と同じくらいにしか感じないのに。

「重くない筈だぞ?」

 右手を伸ばして柄を掴むと、片手で素振りをして見せた。だが彼女はその様に目を見開き、俺にはそれが不思議で堪らなかった。

「ふふふ。それは旦那様以外には扱えない剣。故に他の者が実際よりも重く感じてしまうのも道理かと」

「なんで俺しか扱えないんだ?」

「ミスリル銀製の物は自ら主を選ぶ故、その者以外に扱われる事を嫌うのだ」

 って事は、俺はこいつに気に入られたって事か。

「な、ならば、わたしも扱えるように努力すればいいのだな!」

 努力でなんとか出来る物なのかね?

「旦那様よ、その剣を抜いてわらわが良いと言うまで魔力を込めてもらえぬか?」

「それは構わないけどさ、なんで?」

「それは後のお楽しみ」

 俺は訝しんだものの言われたとおりに剣を抜いて、徐々に魔力を込めていく。そして、黄金色を発した時、キシュアの声が掛かった。

「そこまでで良い。次にローザに渡して同じ事を遣らせてもらえぬか?」

 また言われた通りにする。そして、ローザも同じように魔力を込め始めたが、彼女がどんなに頑張っても、銀色より少しだけ光が強くなる程度までしか光らなかった。

「ローザよ、おぬしの魔力量と純度は如何程だ?」

 肩で息をする彼女にキシュアが問い掛ける。

「わたしは五百ほどとプラス一だ。だが、それとこれにどんな関係がある」

「ローザとてミスリルの特性を知らぬ訳ではあるまい?」

「魔力に感応して力を発揮する金属」

 キシュアは口角を微かに上げた。

「知っているならばその剣は全てミスリル製なのは分かる筈。しかも、その程度ではその剣の力は発揮できぬ事もな」

 ローザは悔しそうな顔をして俯いてしまったが、そんな彼女にキシュアは少々困った顔を向け、幾分気遣う仕草を見せた。

「ローザは獣族、それも人虎族であろう?」

 ローザが小さく頷く。

「ならば、獣族では最強種族ではないか。しかも、われ等魔族よりも強靭な肉体を持つなど羨ましい限りだ」

 それでもローザは俯いたままだ。

「戦となれば前衛が最も被害を受ける。だが、われ等の中で前衛を務められるのは旦那様だけ。姉さまを含めて、われ等は後方よりの魔法支援。一番傷付くであろう旦那様の傍らに居てその背を守れる者が居ないのだ。だがローザよ、おぬしにならそれが出来るであろう?」

 僅かな間の後、ローザがぽつりと零した。

「でも、吸血族たるキシュア様でしたら……」

 俺の傍らに立てる、そう言いたいのだろう。

「まあ、わらわも出来なくはない。だがな、わらわまで前に出てしまえば、姉さま達を誰が守るのだ。そうなれば旦那様に力を存分に発揮してもらえぬではないか。故にローザ、おぬしは必要なのだ。旦那様の近くで剣を振るい、その背を守れるおぬしがな」

 キシュアはその赤い瞳で優しくローザを見詰める。

「わたしに――そんな事が出来るのでしょうか」

 顔を上げて不安そうに俺を見る彼女。だから――

「できるさ。俺は以前、人狼族と模擬戦をした事があるから分かる。あれは人が敵う相手じゃない。だけどローザが居れば大丈夫。だってお前は、獣族の中で最強の種族なんだろう?」

 俺は満面の笑みを向けた。

「で、でも、わ、わたしなんて――まだ修行中の身ですし……、そ、それにですね! 若輩なんですよ! そんなわたしが……」

「なあ、ちょっと聞いていいか?」

「な、なんでしょう?」

 潤んだ瞳で上目遣いとは、何と言う攻撃をして来るんだ、こいつは! しかも、なんだか言葉遣いも随分と女の子らしくなって来てるし、もしかしてこっちが素なのか?

「歳いくつ?」

「今年で十九です」

 俺はまた引き当ててしまったのか、年上を。

 行き成り呆けた俺を見て、ローザは首を傾げている。

 うん、かわいいなあ。

 俺は現実逃避した。

「また年上だな、旦那様」

 くすくすとキシュアは笑う。

「えっ?! わたしが年上なんですか?!」

「うむ、旦那様はな、まだ十七だ」

「え、ええええ?! そ、そんな! てっきり年上だとばっかり。――それじゃわたしは、年下にあんな事を……!」

 顔をりんごの様に染めて両手で隠し、首を激しく振っていた。

 ごめんねえ、年下でさ。

「大丈夫だ。旦那様はこう見えても夜はわれ等と経験済みよ。それにな、凄く上手いのだぞ」

 いや、そこは言わなくてもいいだろ。ほら、呆気に取られてるじゃ――。

 ローザは呆気に取られてなどいなかった。あの待合室で見せた、だらしなく緩んだ表情で涎を垂らしながら、妄想の世界へとダイブしていた。しかも「あんな事を……あそこをこうして……ここでこうやって……」などと危ない事まで呟き始める始末。俺は盛大に溜息を付き、キシュアはくすくすと笑っていた。

 そこに待合室の扉が開く音が加わると、ウェスラが幾分安堵した表情で現れる。

「マサトの処遇がなんとか決まったぞ」

 開口一番、彼女が伝えた事は、俺の冒険者としての立ち位置だった。しかもそれは俺にとっても打って付けのもの。

 実の所、冒険者はギルドカードさえ持っていれば、どの国にも自由に出入り出来る。が、唯一つだけ決まり事があった。それは、その国に滞在中は軍の予備役と同じ扱いになると言う事。詰まり、滞在中の国で戦争が起きた場合、軍に組み込まれてしまうのだ。これでは否応無しに戦う事を強いらる事になってしまい、場合によっては仲間や家族で殺し合いをする事になる。ただ、なるべくそうならない様に配慮はしてあるそうだ。敵国に家族が居る様な場合に限り、最前線での戦闘は免除される、と言う物。でも、これだって絶対じゃない。だから、今回の措置は俺にとっては物凄くありがたかった。

 その特例措置とは、俺達の意思を無視して軍に組み入れた場合、その国の冒険者ギルドを閉鎖する、と言うもの。これは小国ではそれこそ死活問題となるうえに、大国と言えども冒険者が居なくなってしまえば経済的に大打撃を被ってしまう。この世界での冒険者とは、どの国に取っても必要不可欠な存在なのだ。

 ただ、この条件と引き換えに、俺の魔力とかの改竄がボツになったらしいのが、少々悔やまれるが。

「これがマサトとキシュアとワシ、それとローザのカードじゃ」

 俺には真っ黒なカード、キシュアとローザは金色のカードを渡された。

 俺だけ真っ黒ってどゆことだ?

「わたしは実技を受けていませんけど……」

 訝しげな表情をウェスラに向ける。

「じゃから特例じゃと言ったのじゃよ。このカードを持つ者はギルド幹部と同じ権限を有しておる。つまり、戦が起こった場合、ワシ等を軍に組み入れ様とした時、これを見せれば避けられるのじゃ。それとマサトのカードじゃが、それはな死神を意味しておる。ま、要はこいつを軍に入れたらこの国は滅ぶぞ、という脅しに成って居るのじゃよ」

「なんじゃそりゃ?! ってか入国拒否されそうだぞそれ!」

 死神のカードとか、俺はジョーカーかよ。ババ抜きなら嫌われ者だぞ。

「それは大丈夫じゃ。過去にも居ったでの」

「それって誰だよ」

「ワシじゃ!」

 胸を張って威張るウェスラに、俺達は呆れていた。

「あの――姉さま?」

「なんじゃ?」

「もしかして本当に一国潰したのですか?」

「無論じゃ! 無理やり戦になんぞ駆り出されたでな。その国の本陣に魔法をぶち込んで、即敗戦に追い込んでやったわ!」

 ウェスラは豪快な笑いを放っていた。

 見方の本陣に魔法をぶっ放すとか、すっげえ爆弾発言だな、おい。

「取り合えず記載事項を確認しておくのじゃ。もし間違いがあれば、すぐに言うのじゃぞ」

 俺は自分のカードを確認する。そこには白抜きの文字でこう書かれていた。




 名前 マサト・ハザマ

 年齢 十七

 種族 人族

 階級 二段

 職業 魔導剣士

 魔力 四千三百四十

 魔質 測定不能 推定値 プラス三十以上

 特記 この者の意思を無視して軍属として扱うべからず

 



 この世界はスキルとかレベルって概念が無いのか。でも、職業はファンタジーしてるから、まあいいか。って、そういえば俺、精霊文字読めない筈だけど……。

「なあ、カードに書かれてる文字が読めるんだけど、なんで?」

「ん? ああ、そうか。マサトは知らんのか」

「知らんのかって何を知らないか、それを知らないんだけど?」

「何阿呆な事言うておるのじゃ。このカードは見た本人が認識出来る仕組みでの、精霊文字が読めなくとも大丈夫なのじゃよ。なんせ、全ての者が読める訳ではないからの」

 識字率が意外と低いって事か。でも、あっちの世界より便利だな。やっぱファンタジーってすげえなあ。

 よし、そうと分かれば――。

「キシュアのを見てもいいか?」

「構わぬ」

 俺は差し出されたカードを手に取って確認する。




 名前 キシュア・ヴィ・ジレダルト・ハザマ

 年齢 百十四

 種族 魔族(吸血族)

 階級 一段

 職業 死霊術師、魔術師

 魔力 四千六百八十

 魔質 プラス五

 特記 冒険者相互互助組合幹部と同等の発言権を有す




 死霊術師って――ネクロマンサーか、流石は吸血族ってとこだね。

「ありがと」

「どう致しまして」

「さて、ローザのも見せてもらえるかな?」

「わ、わたしのですか? わたしの等お目汚しにしか……」

 そう言ってカードを胸に当てて隠してしまうが、俺は彼女の髪を優しく撫でた。

「大丈夫、馬鹿になんかしないから」

「そうじゃぞ、マサトは他人を馬鹿にするような男ではない」

「姉さまの言うとおりだ。旦那様は自分の妻を馬鹿になどせぬ」

 ローザは上目遣いで、本当に? と問い掛けてくる。だから俺は、軟らかい笑顔を向けて頷いた。彼女は一旦目を瞑ると、何度か深呼吸をしてから、おずおずと両手でカードを差し出して来る。それを手に取り「有り難う」と囁いてから俺は内容を見た。




 名前 ローザ・スヴィンセン・ハザマ

 年齢 十九

 種族 獣族(人虎族)

 階級 三級

 職業 重剣士

 魔力 五百二十

 魔質 プラス一

 特記 冒険者相互互助組合幹部と同等の発言権を有す




 重剣士って初めて見たな。これってもしかすると――

「なあ、重剣士って随分と珍しくないか?」

「なにっ?! それは拾いものじゃ!」

「本当に居るとはな。わらわも初めて会ったぞ」

 この反応からすると相当珍しいんだな。

「……わたしは、剣士――です」

 顔を俯けて体を少し震わせながら、囁くように言うローザのその姿は、俺には重剣士という職業を物凄く恥じている様にしか見えなかった。

「なあ、なんで恥じるんだ?」

「は、恥じてなど――! いません――」

 一瞬顔を上げて声を荒げて抗議をするが、また俯いてしまった。

 これは相当重傷だな。

「ちなみに、重剣士ってどんな感じなんだ? 重戦士なら俺も分かるんだけどさ」

 なんとなくの予想は付くんだけど、実際にどうかは分からないもんね。

「基本、使う武器は重戦士と変わらぬ。ただ、防具が動きやすい軽装なだけじゃ。これが人族であれば難しい立ち位置になるじゃろうが、ローザは獣族じゃし、マサトとの相性は良い筈じゃ。最も、もしもこれが重戦士であったならば、相性が最悪じゃたろうがな」

「なんで重戦士だと最悪なんだ?」

 まあ、分かってるけどね。ここはワザと口にしてもらわないと。

 俺の考えが読めたのか、キシュアの口角が上がり「旦那様はやさしいな」と囁かれてしまった。

「うむ、マサトは剣の他に魔法も使うじゃろ? しかも、魔法を使ってとんでもない速さで動き回る。そんなのに重戦士が付いて行けると思うか? あれは本来壁じゃからまず無理じゃろ。じゃが、獣族、それも人虎族の重剣士であれば、問題は無い。膂力も脚力も人狼族のそれを遥かに上回って居るのじゃからな」

「って事はさ、素早さなら、あのウォルケウスさんよりも上って事だよね?」

 ここで遇えてこの名前を出す。この国で最強と言われるあの人の名を。

「同じ防具を纏ったならば、女と言う事を差し引いてもたぶん、ローザの方が動きはええじゃろな。まあ、剣技に関しては比較は出来ぬがのう。じゃが、それを補って余りある動きが出来ると思うぞ」

「それじゃあさ、ローザのこの階級、一段でも良いんじゃないか?」

 俺は彼女のカードをウェスラに手渡す。

「そうじゃの、この階級では低過ぎるの。帰りに修正させるとしようかのう」

 口角を上げて俺にカードを戻すと、俺はローザに向けてカードを差し出した。

「って事だ。ローザ、おまえはもっと自分に自信を持て」

 未だにローザの表情は晴れない。

 俺はそんな彼女の腰にそっと手を回す。

「あ!」

 彼女を強引に引き寄せてその耳元で囁いた。

「大丈夫、ローザは俺の隣に立てる。だから、胸を張れ」

「でも……」

「自信が無いか?」

 小さく首が縦に振られた。

「認められないのが怖い?」

 また、振られる。

「なら、俺が認めてやる」

「え?」

「ローザが傍らに居るのが相応しいと俺が認めたんだ。だから、胸を張って並べ。あの二人の様に」

 俺が顔を向けるとローザも同じ方へと向け、ウェスラとキシュアの二人は頷いた。

「でも、わたしは……」

「良い。マサトが認めた者はワシ等と同等の者じゃ」

「旦那様が認めるは、己に相応しいと思った女性だけ。ならば、わらわも認めたが同じ事」

「それでは……」

 彼女の表情が輝きだした。

「ローザは俺の傍らに居ろ」

 命令してるみたいだけど、問題はないだろう。だって、彼女は笑顔になってその瞳から涙を流していたのだから。

「はい!」

 俺は彼女を優しく抱き締めて、泣き止むまでその髪をそっと撫でていた。

 これは決してハーレムを形成してる訳じゃない。そう! 違うのだ!

「これでまた一人、妻が増えてしまったのう」

「これでは競争率が上がるばかり」

「やはり、二つ名はハーレム王で確定じゃな」

 ちょ! それ止めて!

「それでは普通過ぎる、姉さま」

 よし! いいぞキシュア!

「では、こんなのはどうじゃ」

 そして、俺の二つ名が決まった。

〝亜人殺しのハーレム王〟

 皆どうしてハーレム王から離れてくれないんだろう?

色々と事情がありまして、年内の更新はこれで最後となります。

年明けの更新は五日を予定しておりますので

何卒、宜しくお願いいたします。


では、読者の皆様、2013年も残り僅かで御座いますが

良いお年をお過ごしください。

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