第二十七話 弱さの話をしよう【後編】
僕は、彼を真っ直ぐ見据える。
「……強くなりたい」
それが出来るかは、わからない。
それでも――逃げるつもりはなかった。
逃がさないように、
その冷たい手を、強く握りしめた。
篝くんは一瞬、寂しそうな顔をした後、
「それは楽しみだね」
そう言って、また笑った。
その時――
「篝様あああああ!!」
バァン!!
凄い勢いでふすまが開いた。
僕はパッと篝くんの手を離す。
叫び声と共に現れたのは、緋色の髪の少女。
その背後には、蒼色の髪の少年と――
「颯!?」
「ふがっ!ふがー!!」
ロープでぐるぐる巻きにされた、颯。
ガムテープが貼られた口を、必死に動かして何かを訴えている。
「こいつ、うるさすぎますわ!!」
少女が、颯を指差す。
「焼き払っても……よろしいでしょうか?」
ボウッ。
その横で少年が、指先に蒼い焔を灯した。
「ちょ……ちょっと待って!?どういうこと!?」
僕は助けを求めるように、篝くんを見る。
「宵、灯。どうしたの?
焼いても良いけど、その子、消えないよ」
「焼かないで!?」
咄嗟に言った。
「篝様。こいつ、目を覚ました瞬間から暴れ回りまして……取り押さえようとしたのですが、触れられなくてですね……」
少年――“宵くん”は、ため息混じりに額を押さえた。
“灯さん”が、颯を縛ったロープの端を持ちながら続ける。
「縛るに縛れないから、私が霊力を付与して差し上げたのですわ!」
縛るために……霊力を付与とは……。
なんというか……。
「ふがふがっ!!」
「……僕、騒がしいのは嫌いなんだよね」
篝くんが、にっこり笑った。
けれども、その目は笑っていない。
「は、颯。静かにして。
この人たち、僕たちのこと助けてくれたんだよ」
「……ふが……」
颯は、じぃっと篝くんの方を見つめた後、大人しくなった。
「霊力のない半霊……か。不安定だね」
篝くんは淡々と続ける。
「君たちの共霊も、同じだ」
「……不安定?」
僕は、眉を寄せて尋ねた。
「そう。見ていて、痛々しい」
「……」
確かに、僕らの共霊はいつも、
土壇場で無理くりだった。
「そんな共霊では、あの僧侶――戒には勝てないよ」
「……ッ!」
ズキッと額が疼いた。
今のままでは、アイツに“勝てない”。
「ふがふがっ!」
「静かになさい、半霊!篝様のお話途中ですわよ!」
灯さんが指先に、緋色の焔を纏わせる。
颯は何か言いたそうだったが、その焔を前に黙った。
「……どうしたら良い?」
僕の問いに、篝くんは微笑んで答えた。
「共霊ってね、お互いを受け入れ、魂を重ね合わせることなんだよ」
篝くんは、顔の前で両掌を重ね合わせる。
細く長い、美しい指。
「……君たちは、もっと、お互いのことを知った方が良いんじゃないかな」
「お互いを、知る?」
僕と颯は、顔を見合わせた。
その直後、
「……ゴホッゴホッ」
篝くんが、咳き込んだ。
「篝様、そろそろ休みましょう。お身体に障ります」
宵くんが、そう言って篝くんの身体を支える。
篝くん……どこか悪いのだろうか。
さっき触れた手も、異様に冷たかった。
「そうだね。
……君たちも、今日はここでゆっくり休むと良いよ」
「あ、でも!父さんに連絡……!」
「僕が入れておいたよ」
そう言って、篝くんは僕のスマホを見せた。
そこには、篝くんが送ったであろうメッセージと、父さんから『了解』の返事が。
「……ありがとう」
僕はスマホを受け取った。
心配性の父さんが、僕の外泊に対して、この日はやけに物分かりが良かった。
いつもなら、『どこで?誰と?』と聞いてきそうなものなのに。
――まるで、最初から話が通っていたみたいだった。
その違和感に、当時の僕は気づかなかった。
「僕は奥の部屋にいるから、何かあったら呼んで」
そう言って、篝くんは僕に背を向けた。
灯さんが、ポイっと颯を僕の方へ投げる。
「ふがふがっ!!」
“何しやがる!”とでも言っているのだろう。
「またうるさくしましたら、私と宵が、すぐに焼き払いに来ますわ」
ギロリと颯を睨む、灯さんの目は本気だった。
「き、気をつけます」
颯の代わりに、僕が返事をした。
灯さんに、ピシャッとふすまを閉じらる。
僕と颯だけの空間になった。
そしてこの夜――
僕たちは、互いの弱さから、目を逸らさないことを選んだ。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:2月4日21時
第二十八話 心を重ねる夜【前編】




