第二十二話 それは、霊害じゃなかった【後編】
「まずい!!」
光流くんが、即座に颯へ霊力を送り込む。
ドサッ!
颯は、砂浜へと叩きつけられた。
視界の端で、麗子さんが颯の元へ駆け出すのが見える。
「颯!!」
僕が叫んだ、その直後――
赤い光が、今度は二つ。
砂浜を裂くように。
パン!
パン!!
「危ない柊!!」
光流くんに突き飛ばされ、僕は砂浜に倒れ込んだ。
赤い光の一つが、光流くんの左腕をかすめる。
「ってぇ!!」
光流くんが左腕を押さえ、顔を歪めた。
霊害は、消えたはずなのに。
――“祓いきった”はずなのに。
「おいおい……お前らよぉ……」
低い声とともに、砂浜に現れた人影。
「なんてことしてくれちゃってんの?せっかく俺らが、ばら撒いた霊害をよぉ……」
眉間に深く皺を寄せ、首を傾げる男。
鋭い三白眼に、覗く尖った犬歯。象牙色の短髪。
年頃は、僕たちとそう変わらない。
濃い紫の衣に、橙色の袈裟を纏う。僧侶のような格好をしたその男の右手には、拳銃が握られていた。
男は、拳銃を指先でくるりと回しながら続ける。
「祓い師だかなんだか知らねぇけどよぉ。邪魔なんだわ」
「……“俺らがばら撒いた霊害”、ね」
光流くんが、低く呟いた。
その目に、いつもの軽さはなかった。
僕は砂浜に座り込んだまま、立ち上がれずにいた。
……足の震えが止まらない。
そんな僕の元へ、麗子さんが来る。そして、そっと耳元でささやいた。
「柊、今すぐ颯を連れて逃げなさい」
「……!」
「颯は今、気絶してるわ」
麗子さんもまた、真剣な顔で言った。
「颯が“半霊”だってこと、あの男には、絶対にバレないようにしなさい」
そう言って、麗子さんは僕を庇うように一歩前へ出た。
光流くんが麗子さんに歩み寄る。
僕は震える足を叩き、必死に立ち上がった。
――颯を。
颯を、守らなきゃ。
麗子さんが、ゆっくりと口を開く。
「……ここ最近、急激に増えた霊害。どうやらアンタが…――いや、アンタ“たち”が関わっているようねェ」
「あぁ?」
男が、片眉を上げる。
「……お前、No.8じゃねぇか」
その呼び方に、胸の奥がざわついた。
麗子さんが、ぴくりと反応する。
「……何ですってェ?」
「霊害になる直前で逃げ出したヤツだな。どうせ、どっかで勝手に霊害になったと思ってたがよぉ……」
男は、ちらりと光流くんに視線を向ける。
「……そういうことね」
「何の話してんのよォ」
「覚えてねぇか」
男は、つまらなさそうに鼻で笑った。
「ちなみによぉ。お前らがさっき祓ったアレ、元はNo.9だぜ?いろいろ“合成”されて、あんな姿になってたけどよ」
“合成”?
男の話はよくわからないが、何か、恐ろしいことを話していることだけはわかる。
背筋が凍え、変な汗が止まらない。
僕は、颯の元へと急いだ。
「研究所じゃ、お前ら――仲良く並んで実験されてたのによ。忘れられちまって、No.9も浮かばれねぇよなぁ」
「……だから、何の話だって聞いてんのよォ」
麗子さんの目が、はっきりと敵意を帯びる。
「まあ、どうでも良い話だな。どうせ――」
男は、ゆっくりと拳銃をかまえた。
「お前ら、ここで消えるんだからよ」
銃口が、麗子さんへと向けられる。
「……消えるのは、お前の方じゃない?」
光流くんが、手のひらに青白い光を灯した。
「光流、アイツ、ただ者じゃないわよォ」
「わかってる。――でもさ。それは、お互い様じゃん?」
「……そうねェ」
一瞬だけ視線を交わす二人。
そして、にやりと笑った。
けれど。
光流くんの指先は、わずかに震えているように見えた。
「行くよ、麗子!!」
「任せなァ!!」
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※次回更新:1月30日19時
第二十三話 赤い霊力【前編】




