第二百五十四話 わからないから
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Side:柊
午後十時二十分。
僕は客室の敷布団の上にいた。
『金持ちってすげぇな』
「……うん」
御影家の風呂場は銭湯みたいに広かった。
その後で頂いた夕食も、すさまじく豪華だった。
だけど、
ほとんど喉を通らなかった。
スマホのDM画面を開く。
今日20:05
【今日、篝くんの家に泊まることになった】
20:07【白瀬 透】
【篝くんに聞いたよ。失礼のないようにね】
20:08【白瀬 透】
【明日も頑張って!明後日の体育祭は見に行くね】
——父さん。
何でそんなに普通なんだ。
いつもと変わらないDMの返信が、
余計に胸をざわつかせた。
『明日、文化祭行けるんか?』
「……このままなら無理だよね」
僕と颯は離れられないままだ。
その時、
スマホが震え、着信画面に切り替わった。
【Hikaru Asakura】
僕は慌てて通話ボタンをタップした。
「もしもし!」
『おつおつ〜!』
明るい声がスマホから届く。
『篝くんちどう?』
『めちゃくちゃ豪邸』
僕の代わりに颯が答えた。
『マジか!俺も行きたかった〜!!』
いつも通りの光流くんに、
少しだけ気持ちが穏やかになる。
『で、大丈夫なの?』
「……えっと」
何から話せば良いかわからない。
母さんのこと。
斎賀先生のこと。
あの事故のこと。
——父さんのこと。
狭霧さんたちから聞いた話が、頭の中で渦を巻く。
『なんか色々あったっぽいね?』
やっぱり、
光流くんは察しが良い。
「……うん」
言わなきゃいけないことは色々ある。
「……そういえば、狠くんは?」
『あー、まだ伊吹さんから何も連絡なーい』
「そっか……」
『まだ調査中なんじゃね?そのうち連絡くるっしょ』
「……あのさ」
小さく息を吐いた。
「桃華さんが、“久世が動く”って。
多分、近いうちに」
『マジで?また紫苑さん?』
「わからない。でも、篝くんも警戒してた」
『そっか……』
「気をつけて」
部屋の外から鈴虫の鳴き声が聞こえる。
『動くとしても学校の方にはもう来ないだろ。
危ないのは御影家か霧島家の方じゃね?』
その言葉に、
御影家の広い客室を見回した。
『お前らの方こそ、気をつけろよ』
「……うん」
『つか、共霊は解けた?』
数秒。
鈴虫の鳴き声が止んだ。
「まだ解けてない」
『そっか〜。
俺は共霊よくわかんないし、何もできなくてごめんな』
「ううん」
きっと僕と颯の問題で、
誰かにどうこうしてもらうことじゃない。
それだけはわかる。
『颯は大丈夫?』
『は?俺?』
『お前、柊以上に色々混乱してんじゃないかと思って』
「……あ」
確かに。
さっきからずっと颯の感情は落ち着かない。
自分のことで精一杯だったけれど、
今僕の中にいるのは僕だけじゃなかった。
『俺は何ともねぇよ』
「本当に?」
『ああ』
「……そんな風には見えない」
『はあ?そういうとこがうぜぇんだよ』
「……っ……」
颯の苛立ちが増す。
わかってしまう。
痛いくらいに。
「颯、母さんのことでショック受けてるんだよね?」
『だから何ともねぇっつってんだろ!』
「じゃあ何でそんなに怒ってるんだよ!」
——僕まで、イラつく。
『ちょっと!二人とも喧嘩すんなって!!』
光流くんが叫んだ。
『共霊ってさ、気持ちの問題とか関係あんじゃねぇの?』
「『……』」
僕も颯も、何も言えなかった。
電話口から光流くんのため息が漏れる。
『俺らに話すのは落ち着いてからで良いし。
とりあえず二人で話しなよ』
「……そうだね」
『うっせぇわ。てめぇもう寝ろよ』
今、
颯が僕に話してくれる気がしない。
『はいはい。もう寝るけどさ。
……ちゃんと話せなくても、
相手のこと考えるくらいは自由でしょ』
……光流くん。
『ま、俺ら待ってっから!』
顔は見えないけれど、
スマホの向こうで光流くんが笑っていると思った。
『お前らにどんな事情があったって、俺らの関係まで変わんねぇよ!
それはさ、柊と颯もだろ?』
「……うん」
『じゃ、また明日な〜!おやすみ!』
電話が切れる。
今、
颯が何を考えているのか。
僕にはわからない。
だけど。
わからないからって、
考えることまでやめたくなかった。
颯は何に怒っているんだろう。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:7月24日21時
第二百五十五話 お前はいいよな




