第七話 クソボッチ【前編】
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Side:颯
一瞬、意識が飛んだ。次に見えたのは――
中学の教室。飛び交う笑い声。ざわざわした放課後。
……また、これか。
「白瀬くん、一緒に帰らない?」
クラスの男子が、少し勇気を出したみたいに声をかけた。
「……僕はいいや」
「そ、そう?」
柊が断ると、その男子は気まずそうに離れた。柊は淡々と鞄に教科書を詰めている。
……自分から孤立してんじゃねぇか。
「誘ってあげたのに断られたわ」
「一人が良いんじゃね?ほっとこ」
「白瀬くん暗いよな〜。陰のオーラやばい」
小声の噂話と笑い声。柊は、一度も顔を上げなかった。
『これでいいんだ。僕と関われば、みんな不幸になるから……』
柊の声が、頭の中に響く。
『誰かを傷つけるくらいなら、僕はずっと一人で良い』
十二歳の、あの日から――柊は、誰とも並ばなかった。
……そんなこと、考えてたのかよ。
「……良くねーだろ」
映像が霧のように消えた。
意識が戻ると、俺はまた柊の中にいた。
***
『……やんぞ!クソボッチ野郎!』
颯の声が、脳内に響いた。
「今ボッチ関係なくない!?」
関節の位置が、微妙にずれていく。
自分の身体なのに、取扱説明書が書き換えられたみたいだ。力が、内側から溢れてくる。
――この感覚。
共霊……してる?
胸の奥で、心音が二つ、重なった。
「奏さん!!」
『おらぁ!!』
地面に引きずり込まれかけていた奏さんを、思い切り引き上げた。颯のおかげで、僕のものとは思えない力が出る。
「柊くん……!その髪、その瞳も……!それに……すごい霊力……!」
奏さんが目を見開いて僕らを見た。
「これが……共霊」
「ごめんなさい。共霊する気は、なかったんですけど……身体が勝手に」
「……いえ」
奏さんが首を横に振った。
「助かりました。ありがとうございます」
そう言って、深く頭を下げる。
「話は後です!私はお札を全て使い切ってしまいました。本体を探します」
「そ、そんなこともできるんだ!」
「これでも霧島の祓い師ですから」
奏さんが、ほんの一瞬だけ口角を上げた。
「その間、二人は私を守ってください!」
『任せろ!!』
颯の声が響いた。
奏さんが一瞬、僕の胸元に視線を落とす。
「颯くん……。本当に、そこにいるんですね」
僕の“内側”を見ているとわかった。
「来ますよ!」
地面がうねり、一斉に伸びた黒い手が、僕らを掴もうと襲いかかる。
……共霊は本意ではないけれど、こうなってしまったら仕方ない。
僕は奏さんを背に庇い、迫る手を蹴り飛ばした。
『うらぁ!!』
一つ。また一つ。身体が勝手に反応する。
視界が澄み、敵の動きが手に取るように分かる。
奏さんが静かに目を閉じ、すぅっと息を吸った。
本体の位置を探っているようだ。
『柊!次、右だ!』
「了解!」
颯の指示で、瞬時に方向転換する。普段の僕ならあり得ない速度で、身体が動いてくれる。
二人分の感覚が、一般の神経に束ねられたみたいだ。
だが――
ボコッ、ボコッ。
黒い手は、次々と地面から湧き出てくる。
「キ、キリがないよ!」
『チッ……。おい奏!まだわかんねぇのか!?』
颯が焦りを滲ませた、その時。
「――見えました!!」
奏さんが、ハッと目を見開いた。
「本体は、あそこです!」
奏さんが指差した先――墓地の奥に佇む、千手観音菩薩像だった。
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※次回更新:1月9日21時
第七話 クソボッチ【後編】




