元護衛の旅立ち
ああ、今日はなんていい日だったのだろう。
夕陽を背に今まで拠点としてきた町から、一人旅立とうとしながら、桐は美麗とハロルドが周囲の祝福につつまれ、浮かべていた晴れやかな笑顔を思い出すたびにそう思うことができる。
一歩一歩美鈴から遠ざかっていくことにさみしさを感じる。しかしこれは美鈴たちのためにも、自分のためにも必要なことなのだ。荷物は必要最低限に用意してあった。1人になるのは不安だが、これまでの旅路で旅のノウハウは身についている。野宿にも何の問題はない。
ただ、1つ心配なことを挙げるとするならーーー
「おーい!」
突然背後から聞き慣れた声から呼び止められ思考を止める。
振り返るとそこにいたのはカイルだった。
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カイルがそれに気づいたのはただの偶然と言ってもいいだろう。
披露宴も終わり、気安い者たちだけで開かれた二次会、その会場の中に桐の姿がないことに気がついた。
普段だったら特になにも思わなかっただろう。
桐はどこか人の輪を苦手としている様子があった。
また、聖女が勇者と共にあり安全が確保できるような場面では2人の仲を進めるためにか1人でふらりと消えることも多かった。
ようは個人行動が多いやつだったのだ。
そんな桐の姿がこの場から突然いなくなることもなんらおかしいことではない。
宿に帰っただけ。
そう考えるのが自然なことなはずなのに、胸にざわつきを感じる。
なんで今日オレは桐の様子に儚さを感じたのだんだ?
元護衛が聖女に向ける視線に違和感がなかったか?
桐は聖女に向けてはただただ優しい慈しみを持って接していた。見ていて異常と感じるほどに。
しかし、今日はその視線に哀愁が混ざっていたように感じた。いや、哀愁というよりも切なさを感じるような…。
今まで守ってきた存在が結婚し自分のもとから離れるのだ、寂しさはあるだろう。
ただ、あの眼差しにはそんな寂しさだけではない、もっと哀切を感じるようなものがあった。
………っとに、メンドくせぇやつだなぁ。
このまま桐を放っておいてはいけない気がする。そこに確固たる根拠はなかったが己のカンがそう言っているのを感じるのだ。
レミルドを問い詰めるか?
最近、桐とレミルドが2人でコソコソと何かをしている場面はよく見かけていた。
ちょっくらレミルドさんとお話ししようかねぇ。
何か桐に関する重大なことを隠してる気がするのだ。あいつはよくも悪くも馬鹿正直なヤツだ。ちょっと問い詰めればすぐにボロを出すだろう。こんな時の俺のカンは外れねぇからな。
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そして、事情を聞き出したカイルは桐を追いかけることを決めたのだ。
カイルは桐に感じた儚さが引っかかっていた。そして、話を聞いたからわかる。いま、こいつを1人にしちゃなんねぇ。
なぜそう思うかはわからないが放っておいてはいけないことだけはわかる。
もともと披露宴のあとはまた旅に出るつもりだったカイルは旅の準備はほとんどできていた。なので、桐がこの町から離れる前に追いつくため急いで身支度をした。
そして、なんとか町をでてすぐに追いつくことができた。
「おーい!」
声をかけると驚いた目線を向ける桐の姿になぜか面白さを感じた。
これなら楽しくなりそうじゃねぇか。
そうだ、オレは楽しいことが好きなんだ。だから
「オレも一緒に旅に出ることにしたわ」
まだ驚きから抜けきってない桐にさらに爆弾を投下した。
オレを楽しませろよ?