1Day
♤|00:00:00
[“Metastasis” Access]
その音で私は目を覚ました。
目を覚ました場所、簡単に言えば洞窟、だろうか。
何事か、首が動かない為上部周りを見渡したが記憶に面影は無く。
(誘拐…?)
そんな言葉が頭を過ぎる。
しかし、誘拐にしては場が場だった。
私が居るのは無機質が過ぎる空間なのだ。
静かで、空気の流れを感じる様な、そんな空間だった。
(誘拐じゃ無いとして、動けないのは何で?)
目が覚めた時から、知らない場所に居たと共に体が岩の様に重かった。
俗に言う金縛りだろうか、初体験であった為不思議な感覚だ。
だが動けないままだと何も出来ない。故に私は脳内で「動け」と唱え続けた。
その行動が功を奏したか
[“Move” Access]
と、初めに聞こえた機械の様な音が再度聞こえてきた。
[“動く” 成功]という意味の端的な英文。普通なら意味不明だが、今なら分かる。
「動けるようになった、かな?」
先には動かなかった口が初めに動いた。
次、試しに右腕を上げようとしてみる。
—上がった。
何の障害も無く、白々とした自分の腕が視界に映る。
その後、諸々の確認が終わった為、腕を下ろしつつ私は立ち上がった。
先は首が動かなかったが為に、再度周りを見渡してみた。
♤|00:02:46
見渡し分かった事は三つ。
一つ、寝かされていた頭の方面に光源であろう光の差し込む大穴があった。
一つ、大穴の対角線上に石の扉が確認出来た。
一つ、そこは地球では無かった。
「地球にこんな機械は無い、はず。」
溶媒液の入ったカプセルだろうか、寝かされていた場の左右にガラス張りの機械の様な物があった。
だが全て破られており、中身が溢れ出ていた。
中身、それは溶けた肉体に臓器、飛散した血液。詳しい説明は省くが、生物“だった”と言うべきモノだった。
グロテスクには慣れている方だと自負していたが、吐き気を催す程のモノだった。
「早くここから出るとしよう」
私は先に見つけた扉の前に立った。
石造りで重そうな扉だったが、存外、軽かった。
♤|00:11:58
扉の先の廊下を進む道中、所々に血が飛散しているのを確認出来た。
進めば進むほど血は増え、出口付近はまるで体を引き摺ったかの様だった。
「ここで一体何が…」
私はそこで、考えるのを止めた。
♤|00:13:48
廊下先にある扉を開け、洞窟から抜け出し、初めに視界に入ったのは“森”だった。
鬱蒼と茂る木々に見た事の無い木の実。
薄々気付いていたが、この時確定へと至った。
「ここは…異世界だ。」
そう異世界。
小説などでよくある別世界。まさか本当の話だとは夢にも見ていなかった。
「信じられないな、全く。」
私はそう失笑しながら先へ進んだ。
♤|00:17:21
森を先へ先へと進むと、開けた平原に出た。
…その平原の中央奥には建物があった。
少なくとも10階はあるだろう“それ”は私を見下ろすかの様に聳え立ってた。
「ここに入れ…かな」
理由は分からないが何故かそう感じた。
中に入れば先へ進めると、そう思った。
[“Open” Access]
また機械の様な音が聞こえた。今度は[“開く” 成功]という意味。
扉が自動で私の方に開いたが故、先程と同じ機械音で扉が開くシステムだと分かった。
私は扉の先へと進んだ。
♡・♢|00:36:12
「オイ、何か足音聞こえねぇか?」
「…そうですね、5人目でしょうか?」
♤|00:19:12
扉の先は長い廊下だった。
廊下の突き当たりが鏡になっているのだろう、そうじゃないとこの長さに納得は出来ない。
また、廊下には一定間隔に石造りの扉が設置されていた。
「どの扉に入れば良いんだろう…?」
迷った私は一度、一番奥まで進んでみることにした。
扉には模様があり、それが何かに関係していると思ったからだ。
「♤…♢…♤…♧…♧…♢…」
模様はトランプのマークだった。
不規則なのか、そう感じる程適当に並列していた。
また、少し進んで気付いたのだが、『♡』の部屋が1つも無かった。
この建物は少なくとも10階以上ある、ただ1階に無いだけなのか。そう思いながら進み続けた。
♤|00:22:30
「一番奥…ここだけ『♡』の部屋だ。」
その扉は他の扉と比べ一回り程大きかった。故にメインの部屋がここだとすぐ分かった。
私は、少し躊躇いながらもその部屋に入ってみることにした。
—ぎぃ、と石造りとは思えない音が鳴った。
少し怪しみながらも中を覗くと、4人の男女がそれぞれ立っている事に気づいた。
その中の男の1人が私に気づいたと思うと、近づき、
「やっと揃ったな。」
と言った。人数は私を含め計5人。ここで何かをするのだろうか。
何が何だか分からずおどおどしている私を見て、1人の女の子が先の男と同じく私に近づき、話しかけてきた。
「あ…えと、僕たちも何も知らなくて…ただ『プレイヤー』は5人、とだけ…」
小柄で美しい白髪を持った少女だった。現代の言葉で言うならば“白髪ロリっ子”、だろうか。
兎も角、私は『プレイヤー』と言う言葉が気になっていた。何に対する『プレイ』なのか。
4人で他に情報を知らないか問おうとしたところ、遮るかの如く、頭上から“羽の半分が無いナニカ”が降りてきた。
[ご集まり頂き感謝申し上げます、私案内役の“アート”と申します。]
それは、異世界系で言う妖精だった。
薄ら透けるとても小さな体に周りを漂う黒ずむオーラ、闇に堕ちた妖精とでも言っておこうか。
それ、もとい“アート”は己が羽を羽ばたかせ、続けた。
[Round1の説明を開始します。まずは皆様方、お手元に落ちてくる物を拾ってください。]
そう言うと頭上から1枚のカードが落ちてきた。
私はそれを空中で取り、柄を確認した。
…『♤の2』だった。何の変哲も無い一般的なトランプの『♤の2』、だった。
[只今皆様の元へ落ちたのは“スタートカード”で御座います。柄は呉々も口に出さぬよう。]
“アート”が言った“スタートカード”、素直に考えるならば最初の札。
意味が分からず困惑していると、再び遮るかの如く、“アート”は続けた。
[それでは、細かい『ゲーム』ルールを説明致します。
目的はそのカードを『1』にすること。単純で御座いましょう?
5人の『プレイヤー』の皆さんはこのフィールド上のどこかにある“カード”を探して頂きます。
カードを見つけたら“トレード”するも良し、“ハイド”するも良し、です。
説明は以上。それでは皆々様、頑張ってください。]
話が終わると“アート”は私たちの前から忽然と姿を消した。
『ゲーム』、ルールは大凡理解する事が出来た。このゲームはおそらく…
—「なぁ、俺イマイチルール分かんねぇんだけど」
考え事をしている間に、1人の男が声を上げた。初めに私の元へ向かってきたアイツだ。
ガサツな者なら先程のルール説明は意味が分からないであろう。
そう思い、私はその男に説明をすることにした。
「多分、この『ゲーム』はトランプゲームの“大富豪”みたいなものだよ。
ただ…普通の大富豪とは違うと思う。
例えば、このゲームでは同じマークのカードを2から順番に集める必要がある、とか。
『♢の2』→『♢の3』→『♢の4』…→『♢のK』→『♢の1』の様にね。
それでゴール、という意味だろうね…これで理解出来る? えと、」
「あぁ、俺の名は“水瀬”だ。
態々説明ありがとな、皆んなの名は何だ?」
と、“水瀬”と名乗る男は感謝を述べながら言った。
正直名前を聞かれるとは思っていなかったので私は少し戸惑った。
“水瀬”は皆んなの名を聞いて何の利があるのだろうか。
そう思いながら私は名乗った。
「私の名は“如月”…よろしく?」
緊張で疑問符気味になってしまった仕方無く。
続き、先程の白髪ロリっ子が名乗った。
「僕は“笠木”です、よろしくです。」
先も思ったが、何とも弱々しい声だ。
今にでも消えるような、だが美しい声だった。
そして、他2人も名乗りを始めた。
「“九十九”…よろしく。」
「最後に私ですわね。“十月”と申します、皆様どうぞよろしく。」
…こうして、5人の名乗りが終わった。
名乗る前から気づいていたが、彼らは全員赤の他人だ。会った事も話した事も無い。
『プレイヤー』選出の基準は何なのだろうか。まあ知ったとての話だが。
「…とりあえず俺らは“カード”を探せば良いんだよな?」
名乗り後の考え事を裂くかの様に“水瀬”が言った。彼は思考を遮るのが好きなのだろうか。
何にせよ、“水瀬”の考えは正しい。他何も行うことが無い以上それが最善の選択だろう。
他3人も同じことを思ったのか、数分後には解散し、『♡』の部屋には私1人が残った。
「私も行動を始めるとするか」
私は1番最初に見つけた『♤』の部屋に向かうことにした。
ここから1番遠いが、それ故に何かがあると踏んだのだ。
♤|00:33:42
【LOCK】、たどり着いた『♤』の部屋にはそう書かれていた。
ここに入る時に流れた音がここでも必要になるのか、そう思い「開け」と言ってみた。
[“Open” Access]
予想的中、扉が【OPEN】に変わった。
この建物では、何かをするたびに“許可”を求められるらしい。中々に厄介だ。
「とりあえず入るか」
♤|00:34:27
その部屋は中央に魔法陣のある召喚儀式でも行うかのような場だった。
壁一面に読めぬ文字が書かれており、まさに異世界を彷彿とさせた。
「特に家具みたいなのは無いけど…ここにあるかな、カード」
魔法陣周りや壁、様々な所を目を凝らしながら見た。
—有った。『♢の5』だった。
“大富豪”のルールそのままならばマークは関係無いが、“アート”が“トレード”などの言葉を言っていた以上、恐らくそうはいかない。
同じマークでカードを『1』にする必要があるのだろう。
また、日本語が書かれた紙も見つけた。
その紙には以下のように書かれていた。
[マークを揃へ、“スタートカード”を『1』とせよ。
『1』と成ったら己が部屋に向かへ。
さすれば次へ進めやう。]
私の予想は的中していた。通常の“大富豪”とは異なり、マークまで揃える必要があるらしい。
つまり私が見つけた『♢の5』は現状では事実上無価値、と言うことだ。
だが何かに使えると思い、着ていたジャージパンツのポケットに入れた。
♧|00:35:18
僕の“スタートカード”は『♧の2』だった。
如月ちゃんが言っていた通り“大富豪”と同じルールなら先ず『3』のカードを探さないといけない。
僕は『♡』の部屋を出て、入り口との中間辺りにある『♢』の部屋へ向かった。
「えっと…開け!」
[“Open” Access]
目が覚めた時と同じ言葉で扉は開いた。
中を覗くと、そこはお風呂だった。
熱いお湯だからか湯気が立ち込めてて、湿気もすごかった。
「ここに“カード”が…?」
僕はお風呂の部屋の床、壁を探した。
結局、カードは無かった。だけど、別の物は見つかった。
それは日本語が書かれた紙だった。内容は以下の通り。
[部屋は全部で十つ。
其れが部屋に『遊戯』内容描かれた紙有り。
探し出し繋ぎ読め。]
その紙には『ゲーム』、もとい『遊戯』に関する情報が書かれてた。
おそらく見つけた紙と同じように『遊戯』情報の書かれた紙が各部屋にあるのだろう。
それを集めれば『遊戯』の内容が分かるんだと思う。
次に僕は湯船の中を探った。
温度が45度以上あるのだろう、すごく熱かった。
「これって…」
湯船の中にも物があった。
それは…カバー付きのナイフだった。
紛れも無い“危険物”、と言われる物だ。
「何で…こんなものがお風呂の中に?」
僕がそう言った瞬間、開錠などの言葉を言い示すあの機械音が流れた。
だけど、その音は今までとは違う、[“〜” Access]では無かった。
[First Encount;『プレイヤー』“笠木”]
そう言っていた。
“First Encount”、それは“最初の遭遇”などの意味がある英文。
タイミングや“Encount”などの言葉から僕は意味を予測した。
「この音声の意味は…『初めて“危険物”を見つけた』って事?」
答え合わせの音声はなかったが、僕の中でそう完結させた。
“危険物”の発見。
『ゲーム』進行に大きく関わるフラグなのか、そう思えた。
だから僕は、その“危険物”をスカートのポケットに入れた。
♤|00:39:13
「今の音声…何?」
『♤』の部屋を一通り探し終わり、部屋を出たタイミングでその音は流れた。
“First Encount”の言葉。“最初の遭遇”。意味が分からない。
更に“笠木”、あのロリっ子の名前までもが音に入っていた。
つまり、この音は“何か重要な意味を含む”と言うこと。
「だけど手掛かりが無い。音は何を指していたんだ…?」
私は手掛かりを得る為別の部屋へと向かった。
『♤』の隣の部屋、『♢』の部屋だ。
「開け」
先と同じ、扉が【LOCK】になっていた為そう言った。
だが、扉は頑なとして開かなかった。あの音も、聞こえ無かった。
…私は焦った。扉が開かないと言うのが半分、もう半分は別の理由。
別部屋から出てきた“笠木”が、ナイフを持っていた。
何か喋ってる様にも見えたが、話しかけず私は息を殺した。
存在がバレると碌な事にならないと思ったからだ。
「さっきの“First Encount”はそう言う意味だったのか。」
私は誰にも聞き取れない程の小声で呟いた。
“First Encount”の意味、おそらく“笠木”が初めて“武器”を見つけたのであろう。
それが持っていたナイフだ。今は自身のスカートのポケットにしまった様だが。
「とにかく、注意を怠らない様にするのが一番だ。」
『♢』の部屋はいつの間にか、【OPEN】に変わっていた。
♧|00:41:24
僕は部屋を出てから一度ナイフの刀身を確認してみた。
お風呂の部屋は湯気の影響で視界が悪かったから、が理由。
…結果、それは紛れも無い鋭利なナイフだった。殺傷能力は十分。“危険物”だった。
「このナイフをどうすれば良いの…?」
僕はナイフの用途を考えた。
何か切るモノがあるのか、はじめに僕はそう思った。
だけどその予想はあくまで“予想”。不確定だ。
「そういえば、各部屋に『遊戯』内容が描かれた紙がある…はず」
その紙にナイフの用途も書かれていると思い、僕は隣のもう一つの『♧』の部屋に入った。
♤|00:41:43
私は“笠木”が別の部屋に入ったのを確認してからいつの間にか【OPEN】になっていた『♢』の部屋に入った。
「この部屋は…」
端的に言うならば、寝室だった。
中央にキングサイズであろうベッドが置いてあり、その左右には申し訳程度の机があった。
魔法陣だったり寝室だったり部屋に法則は無いのだろうか、そう思いながら部屋を探った。
—結果から言うと“カードは見つからなかった”。
代わり、先と同じ日本語の書かれた紙を発見した。
[部屋は全部で十つ。
奇の数が部屋に『柄紙』有り。
探しだし揃よ。]
紙には『カード』の場所を示すであろう事が描かれていた。
奇の数、おそらく奇数の部屋に『柄紙』、もとい『カード』があるのだろう。
私は重大な情報を得たのやも知れない。そう思いながら、部屋を後にした。
「さて、次はどこに向かうか。」
私は既に二つの部屋を探索した。そこで得た情報も同じく二つ。
一つ、マークを揃えて“スタートカード”を『1』にする事。
一つ、奇数の部屋に『カード』がある事。
「どちらも『ゲーム』に於いて重要な情報だ。」
私は昔からやり込むときはとことんやり込む派だった。
それ故に『ゲーム』開始時、いや目覚めた時から、色々な事を気にかけていた。
そう考えていると、隣の部屋から“十月”が出てきた。
「あら“如月”様、先程ぶりですわね。」
名乗りの時もそうだったが、彼女は典型的な“お嬢様口調”だ。
シンプルにお嬢様なのかも知れないが。
「えと、“十月”さん、部屋で何か見つけた?」
私は思い切った質問を投げかけた。
どう反応するかが気になったからだ。
結果、“十月”は何食わぬ顔で首を薄ら横に振りながら言った。
「残念…何もありませんでしたわ。」
私は“十月”が部屋から出る一瞬、何かを持っていたのを見逃して無かった。
『ゲーム』内容の書かれた紙か、それとも『カード』か。
—“笠木”と同じ“武器”か。
ともかく、“十月”が言った言葉は“何か”を隠している様に思えた。
自分の身の安全の為であろう当然の行動だ。
故に私は同じく何食わぬ顔で
「そっか」
と言ってその場を離れた。
♢|00:59:13
「“如月”様にバレてないでしょうか…?」
私は先程入った『♤』の部屋で紙と『カード』を獲得しました。
『カード』は『♢の4』。
私の“スタートカード”である『♢の2』の二個先。
「現状、非常に都合の悪いカードですわね…ホント。」
見つけた『カード』が『3』ならステージ先へ進めたのですが。
2個先ともなると進行はお預け。探索心より不満が増しましたわ。
「まあでも、今悔やんでもしょうがないですわね。」
私はもう1つの拾った物、紙へと目を移す。
“異世界”であるはずなのに日本語で文字が描かれた紙。内容は下記の様に。
[此の建物は十階建て。
上には条件達する必要有り。
其の条件は別紙に記す。]
と、建物に関する情報でした。
外見通り、十階建てであった事と、上に上事が出来ると言う事が書かれていましたわ。
そう考えていると、目覚めてから幾度と無く聞いたあの機械の様な音が流れました。
[Second Reach;『プレイヤー』“十月”]
…英文は、“二番目の到達者”と言う意味でした。
♤|00:44:37
「また音…今度は“Reach”?」
“Reach”、到着や到達を意味する動詞。
先程の“First Encount”に意味があった以上何かしらの意味が“Reach”にはあると思って良いだろう。
だが矢張り、今回も今回とて手掛かりが無い。
たまたま“笠木“に出会ったが故に前回は知ることが出来たが、“十月”とは別れてあまり時間が経ってない。
再会は難しいであろう。
「何はともあれ、探索を再開するか」
そう思い、入り口から4番目、『♧』の部屋に向かった。
が、その意思は音に遮られた。
[プレイヤーに告ぐ、全員『♡』の部屋に集合せよ]
と、今までとは形式が丸々違う、全て日本語による音。
それ程までに至急性があるのか、そう思ったが故私は『♡』の部屋へと急いだ。
♤・♡・♢・♧・♢|00:20:24
『♡』の部屋に私が着いた頃には3人の『プレイヤー』が既に居た。
“笠木”に“十月”、そして“水瀬”の3人だ。
“九十九”は私が着いてから実に10分以上後に来た。
全員が揃う、いや揃う前から沈黙が続いていた。
だがその沈黙は舞い戻ったアイツが切り裂いた。
[お久しぶりで御座います。皆々様。]
アイツ、もとい案内役の“アート”だった。
[お久しぶりで御座います]と言っている以上完全に消えていただけでは無いらしい“アート”は続けた。
[この建物1階にある部屋が全て探索されました。依って、2階以上を解放させて頂きます。]
と、“アート”は新エリア開放を示した。
“1階の全部屋が探索された”、という重要な情報を言ったと共に。
だが、“アート”はこれだけに留まらず。
[又、“Second Reach”の達成、おめでとう御座います“十月”さん。
1番最初に起きたのが功を奏したのでしょう。]
そう言って、また“アート”は消えた。
大量の情報を落としていったが故に、私は頭が混乱しそうだった。
よく考えたら、私は元々あまり考えるのが好きでは無い。
では何故ここまでに考察、予想を私はしているのだろうか。
それは、“この『ゲーム』を楽しんでいる”何よりの証拠になるのでは無いのだろうか。
「あの…」
後ろで声がした。特徴的な声、“笠木”だった。
警戒しつつも振り返ると、彼女は手に“ナイフ”を持っていた。
「これ、拾ったんですけどどうすれば良いと思いますか?」
彼女は弱々しい声で言った。
数秒にも満たないであろうほんの僅かな時間、私は硬直した。
何故彼女は“通告が入るレベルの重要アイテム”を私の面前に出しているのだろうか。
それが硬直の理由だった。
♤・♧|00:48:33
「それはどこで手に入れた?」
警戒心が故、私は多少強い喋り方になってしまった。
圧が故だろう“笠木”は一瞬肩をすくめたように見えたがすぐに反応を返した。
「『♢』の部屋で…拾いました。」
『♢』の部屋は1階に2つある。だがその1つは私自身が探索した。
つまり2つ目の『♢』の部屋に“ナイフ”はあったのだろう。
「他に何か見つけた?」
そう問うと、“笠木”は「紙を」と言った。
紙、『ゲーム』の情報が描かれた物の事だろう。私も部屋で拾った物だ。
次いでその紙の内容を問おうかと思ったが、『ゲーム』のルール上危険だと思った為、やめた。
「えと…“如月”ちゃんは何か見つけたの?」
“如月”ちゃん。その呼ばれ方に私は驚いた。
無論内心で、だ。表情は平常心を常に取り繕っている。その状態のまま私は答えた。
「私は何も見つけなかった、部屋結構回ったんだけどね。」
このゲーム、情報戦になると私は読んでいた。
初めから提示されていた情報がほとんど無い以上他『プレイヤー』に情報を明け渡すのは非常に危険だからだ。
それ故に私は嘘を吐いた。
「そっか、じゃあ何か見つけられると良いね!」
“笠木”は高めのテンションでそう言って、私の元から離れた。
おそらく、新たに解放された2階へと向ったのであろう。
私も後を追いかけるように、2階へ向かった。
♤|00:51:49
2階へ進む階段は『♡』の部屋に奥に隠れるかのように配置されていた。
階段はガラス製だった。下が透けており、容易に割る事も可能の様だった。
階段を登り登ると、開けた大広間に出た。
「ここは…」
大広間には他の皆んなもおり、それぞれが中央にある机付近に集まっていた。
何かあるのだろうか、そう思い机に向かい進んだ。
[此の階は居住地である。
『遊戯者』其々の部屋、道具を用意した。
確認し、役立てよ。]
机には、そう描かれた紙と『端末』が置いてあった。
怪しみながらも私がその『端末』の1つを取ると、画面が自動で光った。
{Welcome to;如代月}
この時、私は思い出した。
♤|-03:24:45
私は、とある人物に呼び出されていた。
とある人物、それは私の高校生活最初の友達、“内海小春”だった。
彼女はコミュニケーションが苦手な私を匿うかの様に接してくれ、
仲良くしてくれた。
そんな彼女があるお願いがある、と言って呼び出したのだ。行かなければ。
「あ、“月”!」
小春は集合場所で私を見つけるなり、明るい声でそう言った。
“月”、私の名前だ。本名“如代月”、ただでさえ珍しい苗字に“月”という独特な名前。親のネーミングセンスには常々呆れる。
兎も角、私は小春の方へ走った。そして—視界が歪んだ—
♤|00:54:56
視界が歪んで…あの後はどうなった?
思い出せなかった。歪む以前の記憶は明確なのに。
私は再度『端末』に目を移した。画面が替わった様で、『端末』ホーム画面には
{Game Time|00:30:38
Your Start;♤2}
と表示されていた。
“Game Time”、『ゲーム』開始から記録されていたのであろうその時刻は1時間にはまだ達していない。
達していない、その考えから私は1つの予想を得た。
…“Second Reach”、意味するのは“1時間の経過”では無いのか。
“十月“の“Game Time”が1時間に達した、それを指すのでは無いか、そう思った。
その後は各々が自らの部屋を探索した。
私の部屋は、机とベット、お風呂など、生活必需家具の集まった部屋だった。
その日はその探索で、幕が降りた。
––Log––
1Day経過、現状を記す。
1.『プレイヤー』“笠木”が“凶器”を発見。
伴い、“First Encount”の動作を確認。
2.『プレイヤー』“十月”が『境界』に到達。
伴い、“Second Reach”の動作を確認。
3.1階の10部屋全ての探索が完了。
伴い、“アート”による2階の開放を確認。




