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追跡

翌日、情報を基にスウィストフ兵を探したところ簡単に発見に至り、シリウス含めた第八小隊は襲撃されている村へと向かった。

 村の近くまで来るとシリウスとベルギウス、他数名の兵士は遠くから村を見渡せる丘に上り村の様子を監視していた。

 村では馬車に奪ったであろう食料を次々に積み込んでいく連中がいた。村人達は家に閉じ込められているのか姿は見えない。

「あれがスウィストフ兵か」

「はい、逃げてきた村人の証言と合います」

「そうか……あれがスウィストフ兵か……」

 ベルギウスが断言するならそうなのだが、シリウスはスウィストフ兵の様子を見ながらある違和感を感じた。

「私は魔法使いだから軍事作戦の事はさっぱりなのだが、一つ質問していいか?」

「はい、なんでしょう」

「あれは本当に兵士なのか?どちらかと言うと山賊に近いのでは?」

 シリウスはこれまでしっかりと装備を整えた兵士しか見た事がなかった。勿論、傭兵や徴兵された平民の装備が貧弱である事など知識としては知っている。それでもスウィストフ兵の見た目は兜も鎧も装備しておらず、一本の杖を持つだけであった。あまりにも貧弱で見窄らしいその姿は戦争をするような格好に見えなかった。

 シリウスの疑問にはベルギウスも賛同した。

「仰る通りです。ただアレは山賊以下です」

「山賊以下?」

 シリウスは山賊に会ったことがないので想像で山賊と口にしたがまさかそれ以下の存在がいるとは知らなかった。

「もし山賊なら丘の上に見張りを置いて騎士団の接近に警戒します。兵士なら簡単に丘を獲らせたりず陣地を構築します。丘どころか村の入り口にも見張りを置かず我々に気付いていない」

 シリウス達はこの丘に上るまでに偵察を送り敵がいないかを確認して、安全を確保してからここまで慎重に上ってきた。

 そこまで用心したのに丘の上には誰一人おらずベルギウスは肩透かしをくらった。

 馬車に食料を積み込んでいるが、それに集中するあまり周りへの警戒が全く出来ていない。それどころか特に行動もせず座り込んで談笑している輩までいる。

「なるほど。となるとアレはなんだ?」

 兵士でもなく、山賊でもない、その見窄らしさから貴族である筈がない。シリウスにはその正体が分からなかった。

「おそらく平民でしょう。略奪行為もこれが初めてなのではないかと」

「まさか貴族の魔法使いが出てくるどころかただ平民が魔法を使うのか……それはそれで問題になりそうだ」

 シリウスは苦笑いをした。この事を聞いた中央の貴族連中は顔を真っ赤にして怒り出すに違いない。父も憤慨してそのまま息を引き取りそうだ。いや立ち上がって暴れ回るかもしれない。

 そんな事を呑気に考えているとベルギウスが声をかけた。

「兵士でないとなればこのまま突撃しますか?」

「ん?私が決めていいのか?」

「最終的な判断はシリウス様です」

 ベルギウスの判断は常識的に考えれば合っている。十数人の平民相手に訓練された小隊を送り込むだけの簡単な任務だ。こちらは犠牲者を出さずに簡単に制圧出来るであろう。

 だが今回ばかりは状況が違った。

「いや、ただの平民がミラン騎士団を壊滅させたのだ。油断は出来ない。魔法の正体が分かるまで安易に行動はしないほうがいい」

「分かりました」

 ベルギウスは特に反論する事なくあっさりとシリウスの判断を受け入れた。これはシリウスの判断に反論できる余地が無い事とこれまでの信頼の証である。

 二人がこれからの事を相談していると村を見張っていた兵士が報告に来た。

「敵に動きがあります」

 シリウスとベルギウスが村に目を向けると食料を積み込んだ馬車が動き出すところであった。

「略奪は終わったようだな。……あの馬車はスウィストフに向かっているのか。周囲に護衛も付けないで随分と気楽だな」

「これはまたとない機会ですね」

「ああ、あの馬車を追って直接聞いてみるとしよう」

 敵の魔法の正体は分からないがいつまでも見てる訳にはいかない。それなら敵が別れたところを狙っていく。馬車を操る一人だけなら流石に小隊が壊滅させられる事はないだろうと判断した。

 残った山賊もどきのスウィストフ民を見張るために三人ほど現場に残してシリウス達は馬車を追った。

 馬車で山向こうのスウィストフ王国に入るルートは限られており簡単に動きが予想できた。気付かれないように遠回りしながら重荷を載せた敵の馬車をあっさりと追い抜き、身を隠せる林の中で馬車が現れるのを待機した。

 そして馬車は林から奇襲を仕掛けたベルギウス達に呆気なく捕縛された。周囲を見張る者もいなければ、馬車にも一人しか乗っていない。こんなにも警戒して襲撃したベルギウス達の方が大人気なく情けない気持ちになった。

「許してくれ!食べる物が無いんだ!」

 拘束された男はどう見ても平民であり、情けない声で命乞いをしている。

 兵士が馬車の中を漁り杖がないか探している間にベルギウスが尋問を始めた。

「それは別にどうでもいい。お前達が持っているあの杖は何だ?」

「え?何の事でしょう?」

「別に他の奴に聞いてもいいのだぞ」

 男はすっとぼけたがベルギウスは容赦しない。腰に携えた剣を抜き、軍人特有の有無を言わせない圧で男を脅した。

 それ見た男はあっさりと白状した。

「狩りをするために使ってる魔法杖だ!本当だ!」

「ただの平民が魔法を使える訳ないだろ!」

「本当だ!スウィストフでは皆んな魔法が使えるんだ!」

「そんな馬鹿な事があるか!」

 ベルギウスが男に更に詰め寄ると後ろからシリウスが声をかけた。

「いや、本当だ。この杖には呪文が刻まれている。たった一つの魔法を使う為だけに作られた専用の杖だ」

 シリウスは馬車にあった杖を手にしながら男に近付いた。この短時間でシリウスは杖の構造を理解していた。

「誰だアンタ……何で分かる……」

「私からの質問だ。これを作ったのは誰だ」

 詰め寄るシリウスに男はベルギウスとは違う恐怖を感じた。ベルギウスは熱い炎の様な迫力で恐ろしかったが、シリウスには氷の手で心臓を掴まれ全身が震え上がる様な底知れぬ恐怖である。

 男に黙秘や嘘の証言なんて余裕は無い。

「先生だ!先生が俺達の為に作ってくれたんだ」

 それに聞いたシリウスは更に男に詰め寄り顔を覗き込むような態勢になった。

「その先生と言うのは私のような紅い瞳をしていなかった?」

 シリウスは自分の紅い瞳を男に見せつけた。シリウスの紅い瞳を見た男は明らかに驚いた表情になった。

「そんな……あ、アンタまさか……」

「どうやら当たりの様だな。もう聞く事はない」

 シリウスはそれだけ言うと口をパクパクさせている男を無視してその場を後にした。しかしベルギウスにはシリウスに聞くことがある。

「シリウス様、さっきのはどういう事ですか?この杖には心当たりが?」

 ベルギウスの質問にシリウスは少し答えにくそうに言葉を詰まらせた。しかし答えない訳にはいかなかった。少しだけ息を吐きシリウスは口を開いた。

「おそらくこの杖を作ったのは私の叔父、フルード・マジョルカニスだ」

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