訓練
「陛下からマジョルカニス家の存続を許可された」
「ありがとうございます」
国王と将軍が話し合った結果はシリウスが望んだものとなった。しかし話はそう簡単ではない。
「ただその為には戦果を上げなければならない。陛下と言えど貴族を敵に回す事は出来るだけ避けたい。貴族と敵対するのならそれ相応の結果を示して貰わなければならない」
「分かっております」
「そこで任務に就いていた第八小隊を君に預けて杖を使えるようにしてくれ。貴族にバレぬよう秘密裏に行う為、杖については出来るだけ知っている者を少なくしたい」
「分かりました。そしてその小隊の活躍によって軍の方針を決めるのですね」
「そうだ、結果が出なければ君の処刑は確実だろう。心してかかるように」
ガルバル将軍は脅しともとれる発言をしているが心の中ではシリウスに期待していた。これまで頭を悩ませていた貴族への扱いがこれを機に解決するかもしれないからだ。
またシリウスも自身の為、そして妹であるミルザの為になんとしてでもガルバル将軍の要望に応えなければならなかった。
数日後、マジョルカニス家の屋敷には多くの人が出入りしていた。屋敷の庭園を訓練施設にする工事をする為のである。
庭園に生えていた木々は次々に切り倒されていき、切り株も掘り返されて更地になっていく。その光景を窓からミルザは悲しそうに眺めていた。
「こんな事になって本当にすまない」
ミルザの後ろからシリウスが声を掛けたがミルザは振り返らないで窓の外を見つめている。
「分かっております。こうでもしないと兄様も私も処刑されているのですから……でも……お母様との思い出の庭園が無くなるのは寂しいですね……」
シリウスはミルザにフルードの裏切りと国から言い渡された一族の存続の条件を話していた。それを聞いたミルザは驚きのあまり絶句しその日の夕食も喉を通らなかった。
何とか気を持ち直したミルザだが、この数日で父であるアルドラが亡くなり、叔父であるフルードの裏切り者判明した。その上で母との思い出の庭園も潰されるとなるとミルザの心労は計り知れない。
「数本だけ訓練所の片隅に移す。今はそれで我慢してくれ」
「はい……」
シリウスの出来る限りの心遣いにミルザも力無く返事をしただただ窓の外を見つめるばかりであった。
庭園を潰して訓練所を作っている間にもシリウス達にはやる事がある。悲しんでいる暇はシリウスにもミルザにも無いのだ。
屋敷の広間に集められた第八小隊は静かにシリウスの話を聞いていた。
「将軍から聞いていると思うがこれから第八小隊は実戦で使えるべく魔法の訓練を行う。これは国王陛下直々の命であり、最重要機密である。その為訓練期間はこの屋敷に滞在してもらう。訓練には私の妹のミルザも協力してもらう」
シリウスの横に立つミルザは一礼をした。
「それでは順番に魔力を流して体内の魔力を感じ取ってもらう」
シリウスとミルザは兵士の手を取り魔力を流していく。初めて魔力を感じた兵士はその奇妙な感覚に驚き動揺を隠せない。
そうやって二人が魔力を感じ取ってもらう為に手に握っていくと遂にベルギウスの番になった。
ベルギウスの前にミルザが立ち両手を握り魔力を流していく。
「兄から聞きました。兄を助ける為に大怪我を負ったことを……本当にありがとうございました」
ミルザは魔力を流しながらベルギウスに感謝を伝えた。
「父が亡くなり、兄まで戦死してまったら私は一人になるところでした。ベルギウス様には感謝してもし足りません」
ミルザの握る力が自然と強くなるがベルギウスはそれを受け止め、優しく握り返した。
力を入れ過ぎているのに気付いたミルザは頬を赤らめさせ慌てて力を抜いた。
「す、すいません」
「いいのですよ。それに私はミルザ様との約束を果たしたまでです」
「ありがとうございます……私が必ず魔法を使えるようにして見せます」
「はい、お願いします」
それからミルザは魔力を流し続けベルギウスに魔力を感じ取ってもらえるよう努力した。
訓練所が完成すると魔力を自由に流せる様になった者から杖を使う訓練を始めていった。
初めて使う新たな武器に兵士は戸惑いつつも着実にその腕を磨いていく。そして杖を使う事によりこれまでの隊列や戦術は全く意味をなさなくなり小隊は手探りで有効的な動きを研究していった。
戦闘に関してはシリウスの役目はない為、シリウスは屋敷に残っていったフルードの研究資料を読み漁り、魔道具の開発に着手した。
当面の目標は独自開発した魔道杖を小隊の人数分製作する事である。ただシリウスは魔法の知識はあるが杖を加工する技術は持ち合わせていない。
そこでシリウスはマジョルカニス家が経営していた工房の中で信頼できる者を屋敷に呼び出して新たな魔道具を製作する事にした。
マジョルカニスの屋敷は訓練所と工房が併設され、少し前の優雅な屋敷の面影は全く無くなってしまった。
しかしそれがミルザにとって良かったのかもしれない。悲しみに暮れる暇も無く慌ただしい賑やかな屋敷はミルザの心を確実に癒していった。
そうしてシリウスとベルギウスがそれぞれの役割を全うする事三ヶ月が経った頃、小隊の全員が魔道杖を使いこなせるようになっていた。




