第1話「快光」
意識が戻った時、最初に感じたのは静けさだったが、それは安心できるものではなく、嵐が過ぎ去った後に残る不気味な静寂に近く、体を起こそうとした瞬間に走る鈍い痛みと重さが、自分がまだ“終わっていない”ことをはっきりと伝えてきた。
視界をゆっくりと上げると、見慣れない天井、粗い木材、簡素な造りの室内、王宮ではない、だがどこか整っている空間に、ここがどこなのかを考える前に一つだけ分かることがあった。
生きている。
その事実だけが、妙に現実感を伴って胸に落ちる。
「起きたか」
低い声が横から飛んできた。
反射的に視線を向けると、そこにいたのは見覚えのある男、第一章で一度だけ見た顔、瓦礫の中から現れ、戦場を一瞬で支配した存在。
ゼイルだった。
壁に寄りかかるように立ち、腕を組みながらこちらを見ている。
「……なんで、あんたが」
声は掠れていたが、それでもどうにか言葉になる。
ゼイルは小さく笑う。
「迎えに来た」
それだけだった。
説明も、前置きもない。
だがそれで十分だった。
頭の中で、第二章の最後の光景が繋がる。
王、カイル、あの言葉。
――快光に迎えさせる。
「……そういうことか」
呟くと、ゼイルは肩をすくめる。
「不満か?」
「……ないわけじゃない」
正直に言うと、ゼイルは楽しそうに笑った。
「いい顔してるな」
そう言って一歩近づいてくる。
その足取りは軽いが、隙はない。
あの時と同じ。
強者の動き。
「王国にはいられねぇ、お前はもうあっちじゃ“使えねぇ駒”だ」
淡々とした言葉。
否定はできない。
事実だからだ。
「だからこっちに来いって話だ、単純だろ」
確かに単純だった。
だが、それだけじゃない。
「……利用するためだろ」
視線を外さずに言う。
ゼイルは一瞬だけ目を細めた後、すぐに笑う。
「当たり前だ」
即答だった。
「俺たちは強い奴しかいらねぇ、弱い奴は使い道があるかどうかだけだ」
はっきりしている。
だからこそ分かりやすい。
「で、お前は」
少しだけ身を乗り出す。
「使える」
断言だった。
その時、部屋の扉が開いた。
重くはない。
だが存在感のある音。
振り返ると、そこに立っていたのは大きな影だった。
ガルド。
天井に届きそうなほどの体格、大剣を背負い、こちらを一瞥するだけで空気が重くなる。
「こいつか」
短い言葉。
それだけで評価が低いことが分かる。
「弱ぇな」
はっきりと言い切った。
「……」
何も言い返せない。
事実だからだ。
だがその瞬間、別の気配が滑り込む。
気づいた時には、ベッドのすぐ横に一人立っていた。
小柄な影。
ミア。
音もなく現れ、こちらをじっと見ている。
何も言わない。
ただ、観察している。
値踏みするように。
「魔力、低いですね」
最後に聞こえたのは落ち着いた声だった。
部屋の奥、窓際に立っていた男、レクトがこちらを見ている。
視線が鋭い。
全てを見透かすような目。
「十五、ですか」
言い当てられる。
背筋が冷える。
「なるほど」
小さく頷く。
「それであの結果ですか」
評価が変わる。
ほんの少しだけ。
四人の視線が集まる。
強者。
完成されたパーティ。
その中心に、自分だけが異物として存在しているのがはっきりと分かる。
「決めろ」
ゼイルが言う。
「来るか、来ないか」
選択肢のようで、選択肢じゃない。
戻る場所はない。
逃げ場もない。
あるのは。
前だけ。
「……行きます」
答える。
迷いはない。
ゼイルは笑った。
「いいねぇ」
満足そうに。
「じゃあ今日からお前は快光だ」
その一言で、全てが変わる。
立場も、環境も、戦う場所も。




