表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
505/508

鉄血女帝アナスタシア 第六十九話

 1915年1月29日午前7時


 ドイツ軍東部戦線 第九軍陣地


「なんだ?この音は?」


 西部戦線での苛烈な戦いとは異なり、この東部戦線でロシア軍との衝突はほとんど発生していなかった。ロシアがヴィルヘルム二世への逮捕状を出したことでドイツの世論が悪化し、その後押しで何度か攻勢をかけていたのだが全てロシアの榴弾砲によって封じられていたのだ。さらに補給線が寸断されてしまい満足な作戦行動をとることが出来なくなっていた。前線には防寒着も食糧も届いていない。そんな状況でも幸いなことにロシアは積極的な攻勢に出ていなかった。今までは。


「地面が揺れてるぞ」


 それは氷点下17度の早朝だった。日の出まであと20分くらいになり辺りが白みかけた頃、東側からゴゴゴゴゴという音と地鳴りがしてきたのだ。


「ロシア方面に雪煙!大規模な攻勢です!」


 見張りの兵が無線で野戦司令部に報告をする。そして前線の兵達はすぐさま小銃や機関銃を構えた。


「突撃なのに撃ってこないのか?」


 この音は明らかに大規模な攻勢のはずだ。これだけの地鳴りを伴うということは相当の騎馬がいるに違いない。それなのにロシア軍から一発の銃声も聞こえないのだ。


「なんだ・・・あれは・・」


 そしてついにロシア軍が姿を現した。雪煙の中から騎馬隊が現れるものとばかり思っていたドイツ兵はその姿に驚愕する。こんな物が戦場に存在するはずなど無い。


「あれは・・・機関車・・・・戦艦・・・なのか?」


 塹壕の200メートルほど向こうに見え始めたのは騎兵でも歩兵でも無い。大砲を乗せた巨大な何かだ。全幅は3メートルと少しだろうか。高さは2メートル以上ある。こんな巨大な物が騎兵より速い速度で地響きを立てながら突進してくる。しかも一つや二つじゃ無い。見えるだけで数十はある。ロシア軍の侵攻を防ぐために塹壕や防塁を幾重にも張り巡らせているのだが、それをまるで何も無いかのように突進してくる。防塁に勢いよく乗り上げたそれは数メートルジャンプしてすさまじい音と共に着地した。そしてその勢いのまま迫り来るのだ。


「撃て!撃て!撃て!」


 雪煙の中から出てきた敵の何かに発砲を開始した。小銃や機関銃が火を噴き始める。


「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 しかし、ドイツ軍が発砲を開始したのとほぼ時を同じくしてその物体は塹壕に達してしまった。


「バケモノめ!!」


 手榴弾を持って取り付こうとするが、その物体の速度は30キロ以上出ていて走っても追いつくことが出来なかった。小銃も機関銃も一切受け付けない。多くの塹壕が蹴散らされ多くの戦友が踏みつぶされてしまった。それでもその物体は速度を緩めることは無く、さらに後続から何十と同じ形をした物が姿を現す。


 ドーン!ドーン!


 塹壕の後ろに布陣していた野戦砲部隊がその物体に砲撃を開始した。7.7cmFK16野戦砲だ。ほとんど西部戦線に配備されているのでそれほどの数は東部戦線には無いのだが、ちょうど敵の正面に布陣していたらしい。


「なんとかしてくれ!」


 誰もが祈るような気持ちで見守っていた。あれは鉄の塊だ。大型トラクターのような無限軌道を持ったロシア軍の車両に違いない。小銃や機関銃では歯が立たなかったが7.7cm砲なら倒せないはずなど無いのだ。


 だがしかし、7.7cm榴弾砲が直撃して爆発しても一切速度を緩めることが無かった。まるで無人の野をゆくがごとくただただまっすぐに突き進んでいるのだ。そしてドイツ兵達が絶望に打ちひしがれている中、さらなる悲劇が襲いかかる。


 空からロシア軍の榴弾の雨が降ってきたのだ。その全てが地上40メートル付近で爆発し、そこから無数の鉛玉をばらまいてきた。鉛玉の速度は地上付近で約220m/sほどだ。鉄のヘルメットなら辛うじて防げないことも無いのだが、東部戦線のドイツ兵が装備しているのは革の帽子だ。そして肩や背中を守る物は布の軍服しか無い。それは榴弾の爆発の前には丸裸と言っても良かった。


 榴弾の爆発が終わり動くドイツ兵が居なくなった頃、ロシア軍の歩兵が進軍してきた。半軌道トラックや六輪駆動トラックに乗った歩兵13万とそれに続く輜重部隊20万の大軍がドイツ領内になだれ込んでいく。


 ◇


 ドイツ ベルリン


「ファルケンハイン参謀総長!東部戦線にロシア軍の大攻勢です!増援を要請しています!」


 ドイツ軍参謀本部には早朝からひっきりなしに緊急電信や無線電話が届いていた。そのどれも暗号化はされておらず、あまりにも慌てて伝えてきたことが解った。


「真冬の大攻勢だと?ばかな!ロシア軍め!どうやって行軍するつもりだ?とにかく何としても持ちこたえさせるんだ!すぐにケーニヒスベルクの第八軍の9個師団を増援に回せ!」


 4時間後


「第十二軍が激しい爆撃を受けた模様です!塩素ガスボンベが大量に爆発して・・その・・第十二軍はほぼ壊滅!」


「そんな・・・ばかな・・・・第九軍からの連絡はどうなってるんだ!第八軍はどのくらいで到着するか報告しろ!」


「第九軍前線司令部が壊滅した模様です。塹壕陣地を突破したロシア軍は一切止まること無くそのまま西進しています!第八軍の増援は早ければ3日ほどで到着します!」


「突破してそのまま西進だと!?バカな!東の平原は雪で覆われているんだぞ!そんな事が出来るわけ無いだろう!」


「わかりません。前線からはロシア軍は陸上戦艦を数百隻使って総攻撃をしかけてきたと・・・。7.7cm野砲の直撃でも傷一つ付けることが出来ないそうです」


「そんな・・いったい何が起きているんだ・・・・」


 ◇


 ロシア サンクトペテルブルク


「前線は無事突破できたみたいね。しかし、侵攻している戦車の上に榴弾を落とすなんてすごい作戦立てるわね」


「薄い戦車の上部装甲でも榴散弾くらいならびくともしませんよ。ドイツ兵も戦車が撃ってこないと思えば塹壕から出て反撃をしますからね。塹壕から出てきた瞬間を空から狙えば一気に殲滅できます」


 今回の反攻作戦には戦車800両、六輪駆動トラック7000両、半軌道トラック3000両、その他中型四輪駆動車12000両、航空機1300機が投入された。そして総勢34万の大群が一気に攻め入ったのよね。東部戦線のドイツ軍の布陣は完全に把握している。前線を突破すると機動的に動かせるドイツ軍は皆無。この侵攻に合わせてベルリン以西の鉄道も爆撃した。ドイツ・オーストリアの鉄道網は完全に麻痺してるからロシア軍の侵攻を知ったとしてもドイツ軍は動けないのよ。雪の中を徒歩で移動するしか無い。ロシア機甲部隊の進軍速度は平均時速25キロ、ドイツ軍歩兵は徒歩で時速2キロ。これじゃドイツは防御のしようが無いわね。ドイツ兵には可哀想なんだけど。


「ランツベルクやフランクフルトといった大都市は迂回して素通りします。どうせたいした戦力は駐屯してませんし、放置しても問題ないでしょう。ベルリンまで600キロの道のりを5日間で進軍し、ヴィルヘルム二世を逮捕します。ドイツが一瞬で堕ちればオーストリアもオスマンも降伏するでしょう」


 やっぱり最新兵器を大量に投入すると効果的ね。確かランチェスターの法則って言うのよね。蒼龍が得意げに説明してくれたわ。本当に自分の知識をひけらかしたいだけの薄っぺらい男ね。ルスランは尊敬を深めたみたいだけど私は騙されないわよ。フンッなんだから。


「あれほど毒ガスを使うなって警告したのに前線に持ち込むなんて何を考えてるのかしら?国際法違反も甚だしいわ。使われる前に爆撃したけど、そのガスで数万人のドイツ兵が死傷したのよね。何も知らない兵士も多かったでしょうに。毒ガスの使用を指示したヤツは吊してもいい?非人道的な事をしたらどうなるか見せしめは必要だわ」


「最近過激な発言が多くなってますよ。まあハーグ陸戦条約違反を許すつもりは無いですけどね」


 戦争が始まってから私の言動が過激になってるのは自覚有るのよね。西部戦線の惨状は親衛隊が写真を添えてレポートしてくれてる。本当に非道い状況なのよ。若者の命を全く省みない為政者に腹が立って仕方が無いわ。一刻も早くこんな馬鹿げた事を終わらせないとね。


「西部戦線じゃ協商と同盟併せて100万人以上が死傷しちゃったけど、この春までに終わるんだったら前世よりかなり犠牲が少なくてすむわね。戦後処理もさっさと終わらせちゃいましょう」


「そうですね。ドイツを降伏させた後が本当の戦いですよ。戦後秩序の主導権をアナスタシアが握らないと悲劇が繰り返されますから」



次回更新は金曜の予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
アナスタシアがどんどん覇王サイドに・・・
更新お疲れ様です。 最新兵器を装備したロシア軍が、破竹の勢いで進軍してますね! かつての時間軸では、蒼龍は第一次大戦に全く関与できなかったのですけど、そのことを巻き返すようにこの時間軸ではまさに手加…
アナスタシア、闇堕ちしかけていませんか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ