鉄血女帝アナスタシア 第五十話
「パトリック・ヤンコフスキー、あなたを新生ロシア帝国初代首相に任命します」
首相はルスランのお父さん、パトリック・ヤンコフスキー男爵になってもらった。“自分はそんな器じゃ無い”って最初は固辞されたけど、そんな事は無いわよ。ルスランの父親だけあって見栄えはいいし。政策はどうせ蒼龍が考えてくれるんだから私の言うとおりに動いてね。傀儡政権ってヤツよ。胃に穴が開くかもしれないけど。
そして内閣とは別組織の「国際戦略研究所」を設置して、私に対し献策を行うことにした。その研究所の所長はシャール・アズナヴール。アルメニア出身の男爵家の長男。クーデターの際に顔に火傷を負って鼻から上を隠すマスクをしているの。トレードマークは赤い軍服よ。
私はシャールとルスランを呼んでこれからのことについて話し合った。
「そ、蒼龍、なんでキミはマスクをしてるんだい?それにシャールって・・」
退院してきたばかりのルスランには詳しく話してなかったからね。というか、びっくりさせてやろうと思って黙ってたんだけど。案の定、顔をまっ赤にしているわ。うふふ、なんて可愛いのかしら。
「私のお願いなの。しばらくロシアに留まって協力してもらう事になったわ。その為の仮の身分なのよ。万が一顔の写真を撮られて日本にバレても面倒だし。一応、アルメニアの貴族ってことにしてるから外ではルスランも話を合わせてね」
◇
「英仏米日との条約継承は問題なく終わったようで安心したわ」
今日はルスランを含めての最初の会合なので、三人で紅茶を飲みながらゆったりと今後について話し合う。ルスランは松葉杖をついてはいるけど、日常の生活に支障は無いみたい。リハビリも順調であと一ヶ月ほどで以前と変わらないくらいに回復するだろうって。
クーデターによってロマノフ朝からレーニナ朝に代わったことでイギリスやフランスの動向が気になってたんだけど、旧ロシア帝国に対して持っている債権を引き継ぐことを条件に国家承認を了承させたわ。アメリカと日本も条約の継承に合意してくれた。これまで通り友好国として付き合っていけるわ」
「ドイツとオーストリアは強硬なままですか?」
「ドイツ・オーストリアとは元々国家間の関係は良くないのよね。それにお母様はドイツのヘッセン大公の娘だから、それを口実に帝位の簒奪は許されないって。専制君主の国にとって私のしたことは許容できないでしょうね」
「そうですか。まあ史実では1年以内に戦争相手になる国ですから放置でも全然かまわないですけどね。フィンランドの独立はどうですか?」
フィンランドはロシア帝国の一部だったんだけど、一応フィンランド大公国を名乗ってて選挙で選ばれた議員によって運営されてたのよね。外交権こそ無かったけど半独立国みたいな状態だったから独立は問題無さそう。大公として私が元首を兼任するんだけど、外交権も完全に移譲するわ。1931年のウェストミンスター憲章で独立したカナダのような感じね。
「フィンランド独立もバルト三国とウクライナ・ベラルーシの自治領化も大丈夫そうなんだけど、問題はポーランドね」
ポーランドはいわゆるポーランド分割によって西半分をドイツに東半分をロシアに支配されているのよね。ロシア領内の部分はポーランド立憲王国って名乗ってるけど実際はなんの権限も無い。ちなみに国王はこの私。ロシアと同君連合って形なの。でも完全独立を果たしたら、ドイツに支配されている部分を取り返そうとするでしょうね。場合によってはポーランド・ドイツ国境から大戦が始まるかも。私の知っている歴史では、この国境が最終的に画定するのはポーランドソ連戦争と第二次欧州大戦の結果を待たなければならなかったの。つまりはたくさんの血を流して決められた。戦争も無しに国境を画定させるのは本当に難しい。
「ポーランドの暴発は何としても防ぎたいのですが、最終的な解決は遠そうですね。多くのポーランド人がドイツ地域に住んでますし。でも、将来的にロシアのすぐ近くで国境紛争を抱える国があるのはマイナスですよ」
※この当時、ドイツ東部のポーランド人が多く住む地域にドイツ人の入植が積極的に進められている。この地域は第一次大戦後にポーランド共和国として独立するが、その際、ドイツ人が相当数殺害された。その反動もあって、第二次大戦でドイツが占領した際にポーランド人の虐殺が行われた。
「はぁ、何で他民族を支配したがるのかしらね。本当に愚かなことだわ。やっぱり数千万人が犠牲になるような惨禍を経験しないとこの愚かさに気付かないのかしら」
「人類が学習するにはその代償が必要と言うことですね。でも、出来るだけその代償は小さくしましょう。最小の犠牲で最大の学習効果が出るようにね」
私と蒼龍が難しい話をしていると、ルスランが蒼龍の方を見てぼーっとしているわ。顔もまっ赤ね。命を救われて、しかも大事な所を全部見られちゃってもう心を完全に奪われたって感じよ。でもね、こいつはあなたのことをおかずにしてるクソ野郎なのよ。騙されちゃダメ。とは言え、ルスランが恋をするのは微笑ましいはずなんだけど、ちょっとムカムカするのは何でだろう。私ってたぶん欲張りな女なのよね。お母様の事を悪く言えないわ。遺伝かしら?でも二股をかけるようなことはしないわよ。二股ダメ!絶対ダメ!
「アナスタシア、何か別のこと考えてますよね?」
むー、相変わらず勘の良いおっさんだわ。




