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鉄血女帝アナスタシア 第四十九話

 私にとってそれは究極の選択と言ってもいいわね。私が責任を持つ範囲は当然ロシア国民の生命と財産よ。それ以外の何かのために国民を死なせることは出来ないわ。でも、欧州大戦が始まったとして、史実の通り戦後秩序をイギリスやフランスに任せていたらおそらくもう一度大戦が勃発する。大戦に至らなくてもバルカン半島や列強の植民地では紛争の絶えない世界になるでしょうね。そうなればロシアも安全では居られない。長期にわたって出血を強いられる可能性が高いわ。ここは大きな犠牲を払ったとしても、私が中心になって世界秩序を構築した方が、結果的にはロシアの犠牲も少なくなるのかしら?


「蒼龍、あなたは確かにすごい知識と技術を持っていて、これからの歴史も詳細に知っているのでしょうけど、一つだけ私に及ばない所があるわ。それは人を殺した経験よ。一人や二人じゃ無い、何百万人もの人を自らの意志で殺してしまうことの重みをあなたは知らないのよ。私はロシアの国民を守る為にクーデターを起こしたわ。これは私の責務。でも、これからのロシアをどうするか、特に国民に犠牲を強いるような事は国民自らが決める事よ」


 私は前世でロシア帝国を率いてソ連と戦争をした。その過程で兵士だけじゃ無く数百万人のソ連市民を犠牲にしたわ。ソ連が自国民を犠牲にして戦うことを解っていて進軍を命じたの。だからそれは私の罪でもある。でも私は後悔していない。そうすることで共産主義の暴虐を永遠に消し去ることが出来たのだから。でもそれは、国民の信任があったからこそよ。


 蒼龍は私の言葉を聞いて目を細めた。そしてちょっとだけ口角を上げて不敵な笑みを浮かべている。こいつ、コミュ障って言う割にはなんか私のこと見透かしてくるような気がするのよね。


「本当にあなたは面白くて、そして素敵な方だ。あなたに会えた幸運を神に感謝しますよ。世にアナスタシア様のあらんことを」


 そんな事をよくもまあ真顔で言えるわね。ちょっと顔が熱くなっちゃった。本当にキザったらしいクソ野郎だわ。ルスランにあんな事やこんな事をしておいて私にまで色目を使ってくるなんて。あれ?色目なのかな?うーん、わかんないや。


「ねぇ、蒼龍。私ね、ルスランを助けてくれたらどんな事でもしますって神様にお願いしたの。そうしたら蒼龍が来てくれた。神様が呼んで下さったのね。だからね、神様に約束したどんな事でもって・・、もしもね、どうしても蒼龍が望むなら私の純潔を・・・」


 ビシッ!!


「いったぁーー!何するのよ蒼龍!私にデコピンした人なんてあなたが初めてよ!」


「そんなモノいりませんから。あなたの純潔は有馬くんにあげるんでしょ。それまで我慢して下さい」


 むー、本当に私に興味ないのかしら?12才になって身長も伸びたし胸だって膨らみかけてるのよ。でもルスランのあそこを見たときだって顔色一つ変えなかったし、もしかして女に興味が無いの?ううん、そんな事は無いはずよね。


「なにかっこつけてるのよ。あなた、ルスランのあそこ見た後自分で“した”でしょ!わかってるんだからね!」


「・・・・・・・」


「ほら黙った。やっぱりやったんだ!非道いわよね!あんなかわいらしいルスランをおかずにするなんてサイテー!」


「まったく、色気づいたばかりの子供ですか?いい加減にしないと怒りますよ」


 蒼龍にあきれられちゃった。私も半年ほど前から第二次性徴が始まってるしルスランのあんなあられも無い姿を見ちゃってちょっとおかしくなってるのかも。ホルモンバランスって大事ね。


 ◇


 私と蒼龍は早速総選挙の準備に取りかかった。親皇帝派の政党を設立して活動開始よ。党首はルスランのお父様に就任してもらう事になった。とても温厚な方で、新聞ミールへも写真入りで国民の権利拡大を主張するコラムを書いていたから知名度も高い。


 公約はとにかく社会福祉の増進と労働者や農民の生活の向上ね。不作の時は備蓄してある小麦を無償で放出して餓死者は絶対に出さない。国営の服飾工場を作って、全国民に「国民服」を一年に一着無料で配布することも約束した。金貸しの金利上限を設定して、それ以上の金利で貸し付けている場合は貸付では無く元本を含めて全部贈与になると法律に明記する。


 新聞には10年後のロシアの想像図をバンバン載せた。国民全員が小型ピックアップトラックを所有して農作業や建設の仕事にいそしみ、休日にはピクニックなんかのレジャーを楽しんでるのよ。各地には病院が建設されて国民ならだれでも安価に治療してもらえる。各都市を結ぶ鉄道も強化して、時速300キロで走る列車を投入するわ。高速道路も張り巡らせる。これらの施策をまとめた物が「ロシア大陸改造論」。「国土の均衡ある発展」を目指して地方であっても給与水準や生活レベルを大都市に近い状態に引き上げるの。日本のカクエー総理の手法なんだって。“反対する連中は札束で往復びんたすれば良いんですよ。カクエー先生はそうやって日本を発展させました”って蒼龍が言ってた。負の遺産も多かったみたいだけど。そのあたりは知識のある蒼龍がうまく対策を作ってくれるわよね。不当な搾取や貧困なんか絶対に過去のモノにしてやる。皇帝アナスタシアを支持すればかならずそんなロシアにするって約束するわ。


 そして目玉政策。聖女レーニナの加護をロシア国民だけでは無く全世界のあらゆる人々が享受して、世界から尊敬される聖女レーニナになることを訴えた。ロシアを盟主とした世界平和維持機構の設立。この時代の一般人って国威発揚には敏感なのよね。世界の中でロシアが名誉ある地位を占めて、ロシアの“あらゆる力”を使って世界を導くのよ。多分みんなロシアが世界を支配するくらいに思うでしょうね。


 ~ 偉大なロシアの復活 力による平和 ~


 国土を守る為、そして何より世界の平和を守る為に軍隊を整備して強いロシアを作る。私が経験した前世でも、第二次大戦の後の他国の民族紛争なんかに武力介入して多くのロシア兵が死んだわ。そのあおりで国内でもテロが発生し市民に犠牲も出た。他国の紛争に介入するべきじゃ無いって意見もあったけど、でもそのおかげで20世紀後半には戦争や飢餓を歴史上の記録に押しやることが出来たのよ。一応国家はあったけどほとんど自治体のような扱いで、人モノ金の移動に一切の制限が無くなってた。20世紀前半からすればユートピアみたいな世界だけど、一度こういう世界を知ってしまうとやっぱりそこを目指さなきゃって思うのよね。


 一年半前のレナ鉱山事件を題材にした映画「聖女レーニナの戦い」を新聞ミールが製作してたんだけど、その最後に私の演説を入れて各都市で無料上映を行ったわ。地方じゃ半分くらいの人が文字を読むことが出来ないから映画は絶大な効果がある。直接的に親皇帝派の政党を応援するわけじゃ無いけど、私が実現したいロシアの姿を訴えるの。それに感銘を受けた親皇帝派政党が同じ内容を公約にするって感じね。まだトーキー映画じゃ無いから、急遽親衛隊から女性を募って活動弁士として育て上げた。私の情熱的な演説も再現できるようにね。


 さらに、各地域の貴族や資本家に圧力をかけて支持を取りつけた。20世紀後半の選挙制度じゃ完全にアウトな脅迫じみたお願いもしたけど、幸いなことにまだロシア帝国は成熟した民主国家じゃ無い。明らかに法律違反じゃ無いことはなんでもやったわ。


 そして投票が行われた。


 結果は圧勝。21世紀までのあらゆるプロパガンダに精通している蒼龍が味方についているんだもの、当然よね。蒼龍の知識にヤンコフスキー家の資金力、そして聖女レーニナの威光。これだけ揃えば負けることなんてあり得ないわ。


 私たちの躍進に危機を感じた左派系の立憲民主党と社会民主党が急遽合流してロシア改革連合なんて政党を作ったけど、見事に消えて無くなった。ざまぁなのよ。



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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 蒼龍という反則級の参謀とのタッグで、アナスタシアは見事総選挙に圧勝!(祝) その様は、つい最近あった選挙そのものですね(笑) 主義主張の統一もせず付け焼刃な連合なんて、どこの世界…
中革連…⚪⚪な機動戦士な世界ならなんとなくにロシアに居そう
ロ革連、違う世界線でもやっぱりダメだったか:・・・。
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