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鉄血女帝アナスタシア 第三十一話

「だーかーらー、この皇帝アナスタシアが労働者の待遇改善をお願いしてるのよ!それが聞けないの!?」


「皇帝?」


「あ、間違えた。まだ皇帝じゃなかったわ。大公女アナスタシアがお願いしてるのよ!」


 私はルスランと数人の私兵を連れて鉱山管理事務所に入った。さすがに勝巳たち日本人を管理事務所に入れるわけには行かないので私たちだけだ。一応イルクーツクから先触れの電信を入れていたのだけど、現場では“本当だったの?”って感じで慌ただしく書類の束を抱えて右往左往している。何かを隠そうとしているのかしら?とりあえずこの鉱山の責任者を捕まえて労働環境の改善を直談判してるのだけど、当然そんな事は一筋縄には行かないわよね。


「大公女殿下、我々も手をこまねいているわけでは無いんです。ここで提供される食料はイルクーツクから運ばれる物しか無いんですよ。天候によっては物資も滞りますし。その中でなんとかやりくりしてるんです。しかも、ストライキ中で全く金の採掘が出来ていないにもかかわらず、食糧の供給だけは続けています。賞賛されこそすれ非難される謂われはありません」


「でも、食料の供給を止めたら餓死しちゃうんでしょ?逃げ場所なんて無いんだし。私の大事な国民を殺す気かしら?それに、食料を止めたら確実に暴動が起こって、あなた方も殺されちゃうわね」


「う、たしかにそれはそうなのですが、現状違法なストライキである事に間違いありません!」


 この時代、どこの国でもストライキはだいたい違法なんだけど労働者に銃を向けて何百人も殺すのはロシアくらいなのよね。こんな事を繰り返してたら当然革命だって起きるわ。私が労働者の立場だったら絶対革命してる。蒼龍が怒るのも無理はないわね。


 私たちがボダイボに到着したときにはもうストライキが起こっていた。本当に悔しいわ。まさか到着までこんなにも時間がかかるとは思わなかった。さすがの蒼龍もボダイボまでの詳しい交通状況を知らなかったのと、出発をこれ以上前倒ししても気温が低すぎてたどり着けないだろうって判断だったのよね。無理をしてでも出発を早めるべきだったわ。


「そもそも今回の騒動は1日11時間の労働の後、個人の裁量で(きん)の採取を許していたのを禁止した事に端を発しているんですよ。時間外に見つけた金は会社が別途買い取りますからね。あいつらは給料の出る時間は真面目に働かずに、時間外になったら本気で働いて金を見つけるんですよ。勤務時間内に見つけた金を隠していて、時間外に発見したと嘘をついている疑いもあります」


「それで金の個別買い取りを中止して勤務時間を延ばしたのね。労働者を信じない非道い話だわ。勤務時間中に真面目に働かない労働者が実際に居るのかもしれないけど、それはマネジメントの問題でしょ?あなたたち管理者に問題があるのよ。それに罰金制度って何よ?採掘量が少なかったりケガで仕事が出来ないときに罰金を取るって明らかな違法でしょ。私でもそれくらいの法律は知ってるのよ。これはサンクトペテルブルクに報告させてもらうわ」


「罰金制度は会社が決めたことなので、私にそれを変える権限はないんです。違法なのかもしれませんが、それは本社に言ってください」


「じゃあレンゾロトの本社に私自ら抗議を入れるから電信を使わせてね。あと腐った肉や馬の肉を出したんでしょ?しかも会社が経営する食堂で。あり得ないわ」


 日本人って馬の肉を食べたりするけど、ほとんどのヨーロッパ人からするとちょっと信じられないのよね。馬は人間の次くらいに賢い動物でパートナーだと思ってるから。私も日本では食用の馬がいるって聞いてショックを受けたのよ。


 ※フランスやスイスのフランス語圏では食用にされる場合もある


「大公女殿下。たまたまウジの湧いた肉が混ざっていたかも知れませんが、それはたまたまですよ。我々もわざとしたわけじゃありません。馬の肉については、死んだ馬を現場で解体した可能性もありますが、会社としては未確認です。それに労働者がこのままじゃ無理って言いますが、全然無理じゃないんです。だって今までやってきてたんですよ?無理というのはですね、途中で止めてしまうから無理になるんです。途中で止めなければ無理じゃ無くなるんですよ」


 どっかのブラック企業の社長みたいな事を言うのね。本当に労働者をなんだと思ってるのかしら。


 私の後ろで身長1.9メートルはあろうかという体躯の私兵がにらみをきかせてるんだけど、ここの責任者はちょっとたじろぐだけで条件的には譲歩をしない。なかなか肝の据わったヤツだわ。


 ◇


「アナスタシア、どうでした?皇帝や皇太后からの手紙は来てましたか?」


 管理事務所から出てきた私たちに蒼龍が駆けよってきた。勝巳はお父様達と一緒にトロッコや鉱山設備の見学に行ってるみたい。


「お父様達からはまだ何の連絡も無いそうよ。ただイルクーツクの師団から国軍を派遣するって連絡があったみたい」


「そうですか・・・。もう国軍は出発してるんですね・・・・・」


 蒼龍もちょっと厳しい表情をしている。今のところお父様達への手紙は何の効果も無い。残念だわ。


「俺たちがイルクーツクを出たときには国軍に何の動きもなかったので、ここに到着するまでおそらく一週間から長くても二週間くらいでしょう。その間になんとか労働争議を収めないとならないわけですね」


 残された時間はあまりないわ。あと数週間でロシアの運命が決まってしまうのね。




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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 鉱山に到着したアナスタシアたちは、さっそく責任者たちと直談判を始めましたが、相手の言い分を聞いてるとほんとブラック企業の経営者そのものですね。 国軍は既に向かってきてるようで、到…
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