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鉄血女帝アナスタシア 第三十話

 1912年2月中旬 横浜港


「高城くん、本当にいいのかな?僕なんかが一緒に行って・・」


「大丈夫だよ、有馬くん。ほら、公女殿下にアピールするいいチャンスだよ」


 私はウラジオストクに向かう巡洋戦艦筑波の上甲板で、桟橋に詰めかけている見送りの人たちに手を振っている。横には同じように手を振っている蒼龍と勝巳がいる。蒼龍はいつもと変わらない堂々とした素振りで全然かわいくないんだけど、勝巳はちょっと緊張しておどおどしてるわ。かわいい。


「で、でも高城くん。きみは公女殿下とおつきあいしているんじゃないのかい?公女殿下が高城くんのご両親に挨拶に行ったって噂だよ」


 ん?ちょっと聞き捨てならないわね。誰が誰と付き合ってるですって?耳がダンボになっちゃうわよ。


「あははは!無い無い!ロシアの最新情報を勉強するために来てもらってるけど、オレとアナスタシアが付き合うなんて世界が滅んでもあり得ないよ」


「ちょっと蒼龍!何てこと言うのよ!確かにアンタと付き合うなんて絶対に願い下げだけどね!」


「ほらね、オレとアナスタシアは何でもないから安心しなよ、有馬くん」


「う、うん」


 勝巳が顔をまっ赤にして俯いちゃった。もしかして蒼龍のヤツ、私と蒼龍が付き合ってるって噂を否定するために言ってくれたのかな?それならちょっと見直したかも。


 私たちが乗ってる巡洋戦艦筑波はタグボートに曳かれてゆっくりと離岸する。これから私の最初の戦いが始まるのね。


 私はホームシックにかかった振りをしてお父様に一時帰郷をお願いしたの。そうしたらお手紙じゃ無くて緊急電信で返事が来たわ。留学を切り上げてすぐに帰って来いって。それは断ったけどね。


 そして、私の帰郷に併せて学友から代表で蒼龍と勝巳が一緒にサンクトペテルブルクに行くことになった。一応表敬訪問って形でね。もちろん子供だけじゃ無く、蒼龍と勝巳のお父さんとその他武官が10人くらい一緒なんだけど。


「勝巳、軍艦って乗ったことある?初めて?」


 学校じゃ私が話しかけてもモジモジしてまともな会話にならないのよね。すぐに蒼龍に助けを求めるのよ。別に“今すぐ”取って食おうって訳じゃ無いのに。


「う、うん、初めてなんだよ。だからちょっと緊張してる」


 緊張してるのは軍艦に乗ってるからじゃないわよね。私に見つめられてるからでしょ?顔をまっ赤にしてかわいいわ。この旅の間に勝巳との距離を縮めなきゃね。


 勝巳と蒼龍の同行はお父様に無理矢理お願いして実現した。同行を許してくれないと日本海に身を投げるって言ったらすぐにOKが出たわ。日本陸軍としてもシベリア鉄道沿線の情報収集をしたかったので武官を派遣することになったそうだ。


 日本に来たときに乗ったロシアの巡洋艦はものすごく揺れたけど、日本の巡洋戦艦は全然揺れないわ。さすが1万トン超の船ね。船酔いを覚悟していたんだけど良かった。


 無事にウラジオストクに到着した私たちはシベリア鉄道に乗り換える。そして一路イルクーツクを目指した。イルクーツクにはヤンコフスキー家の私兵20人が、必要な物資を用意して待っているはずだ。


「ルスラン、イルクーツクに着いたら時間との勝負よ。お父様の妨害より先にボダイボに到着しなきゃね」


 ◇


 3月23日 ボダイボ


 信じられないくらい遠かった。何回も死ぬかと思った。イルクーツクまではシベリア鉄道だったから良かったけど、そこからを甘く見ていたわ。ボダイボまで物資を運ぶために道はあるって聞いてたけど、1100kmの距離を軽便鉄道とソリで3週間なんてあり得ないでしょ。ルスラン家の私兵が十分な装備を持ってきてなかったら間違いなく死んでた。


「有馬少佐(勝巳のお父さん)、高城大尉(蒼龍のお父さん)、はるばるシベリアの奥地までご同行いただき、感謝に堪えませんわ」


 3月中旬に入ってからは日中の最高気温が0度を上回る日も出てきたけど、イルクーツクを出発してしばらく夜はマイナス30度、昼でもマイナス10度なのよ。軽便鉄道の区間はすぐに終わって、そこからは幌の無いソリで雪の中を移動よ。野営のテントが天国に思えるくらいだったわ。日本の武官達は最初“これはいい雪中訓練になりますな”とか軽口をたたいてたけど、5日目くらいからは無言になっちゃったもんね。寒さに関してはルスランの家の私兵の方が一日の長があったわね。ウラル山脈近くで生まれ育っただけのことはあるわ。


「いえ、公女殿下、この程度の寒さ、何ほどのものでありましょうか」


 勝巳のお父さん、強がってるけど道中死んだような顔をしてたのを知ってるわよ。お顔が遮光器の所を除いて真っ黒に日焼けしててまるで逆パンダね。ふふ、大人になった勝巳によく似ててちょっとドキドキしちゃったのは内緒よ。


 私は“お爺さま(アレクサンドル三世)から夢のお告げがあったとサンクトペテルブルクのお父様とお婆さま(アレクサンドル三世の妻マリア)に手紙を書いて、イルクーツクからボダイボを目指したの。勝巳と蒼龍のお父さんには”皇帝からの依頼でキレンスクまで護衛を頼みたい“って嘘をついてね。外交問題になるかも知れないけど、どーでもいいわ。もちろん蒼龍の入れ智慧よ。


「アナスタシア、ロシアって本当に広大なんだね」


 この旅の間に勝巳ともかなり仲良しになれたわ。野営の時はみんなで温かいココアを飲みながら、ロシアや日本の民謡を一緒に歌ったりしたの。勝巳はものすごく澄んだ瞳をしていて見てたら心を持って行かれそうになる。でも大人になったらKGBを率いて容赦なく諜報や謀略暗殺を実行するのよね。恐ろしいわ。


 ボダイボに到着した私たちは早速鉱山事務所を訪問した。さあ勝負の時間よ!


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 アナスタシアの一時帰国に同行したのは、勝巳だけでなく蒼龍と2人の父親と武官達もだったのですね。 まあ確かに、いくら男の子とはいえ10歳の子供だけで行かせるわけもないか(苦笑) …
この、アナスタシア・タイムラインはメチャクチャ面白くて、更新が楽しみです。すでに正史ルートからは完全逸脱しているので、かなり長い話になるんじゃないかと期待しています。医学の進歩も早そうなので、和美が助…
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