鉄血女帝アナスタシア 第二十九話
「そんなに・・・非道い環境なんですね・・・・・」
ルスランがほっぺたを膨らませながらもなんとか深刻そうな表情を作って蒼龍を見ている。不思議な表情だわ。ヤンコフスキー家も領地で炭鉱を経営しているから、人ごとじゃ無いのよね。労働者を不当に酷使すると惨いしっぺ返しがくるからね。ちゃんと労働環境を良くするように実家のお父様やお兄様に強く言っておくのよ。
「革命したくなる気持ちも理解できるけど、レーニン達にそれをさせるともっと非道い事になっちゃうからね。それなら本当に蒼龍がロシアに渡って革命する?私と一緒に。全面的に協力するわよ。キューバのチェ・イシワラみたいな感じで」
「チェ・イシワラ?なんですか?それ」
「あ、知らないのか。私の前世では石原莞爾がキューバに渡って革命を起こすのよ。蒼龍の指示で。それでキューバを親日的な民主国家に変えたのよね。で、親愛を込めてチェ・イシワラって呼ばれるの。彼のTシャツなんかも作られて世界中の若者が着るのよ」
「へー、石原莞爾がですか。それは楽しそうですね。じゃあ、俺の尊敬するチェ・ゲバラは活躍しないんですね。それはちょっと残念かも。でも10歳の俺じゃロシアに渡ってもどうしようも出来ないですよ。俺たちが革命を起こす方向じゃ無くて、共産革命を抑えつつ現皇帝から権力の移譲を受ける事を第一にしましょう」
「たしかにそうね。平和的に権力を奪取するのが一番良いわ。じゃあ、お父様(ニコライ二世)に手紙を送ってストライキが起きても軍を派遣しないようにお願いするとかはどう?」
「そうですね。あと大株主のマリア皇太后(アナスタシアの祖母)にも手紙を送っておきましょう。できる限り鉱山労働者の不遇を訴えて下さい。でも、それだけだと確実性に欠けます。軍を派遣しなかったとしてもストライキが起きてしまえば流血の事態になる可能性が非常に高いと思いますよ。労働者が蜂起して現地管理者を殺害するとかですね。そうなると鎮圧せざるを得ないのでどっちにしても革命の原因になります」
「じゃあ、ストライキを起こさせないようにするしか無いのね」
「そうです。マリア皇太后が何かしらの強権を発動して労働環境を改善してくれればいいんですが、大株主がどの程度の影響力を持っているのかわからないんですよね。経営側に労働者の要求を飲むよう圧力をかけるのが一番なんですが、その確実な方法が見つからないんですよ」
「「・・・・・・・・・・・・・」」
ダメだわ。蒼龍が思いつかないのに私が思いつくはずも無いのよね。でもこのままレナ虐殺事件が発生したらロシアの命運は尽きてしまうわ。
「あの、よろしいでしょうか?姫様」
話を聞いていたルスランがおずおずと手を挙げた。何か良いアイデアがあるんだったら是非とも話して欲しいわ。
「ヤンコフスキー家の私兵なら20人ほど動かせます。国軍より早く現地に赴いて、デモ隊と経営者との間に入って仲裁を行うというのはどうでしょう?私も同時に現地に行って陣頭指揮を執ります。これなら、ストライキが起きても最悪の状況を避けることが出来るかもしれません」
確かにそれは有りね。ストライキが起きてしまっても流血事態を避けることが出来れば・・・・・・。
「そうね、ルスラン、良いアイデアだわ。私も行くわ」
「えっ?姫様、それは危険すぎます。それに3月のシベリアはまだ極寒の地ですよ。無理です。不可能です」
確かに極寒で危険なことはわかるんだけど、この虐殺事件を防ぐことが出来なかったら、どっちにしてもロシアに未来は無い。大公女である私が行けばもしかしたら経営側も妥協してくれるかも知れないし。それに、おじいさまからの夢の啓示があったって言えば、今のお父様なら何かしらの手を打ってくれるかも。
「ルスラン、寒くて危険なことはわかるけど、この虐殺事件を防がなかったら私にもロシアにも未来は無いの。だからどうしても行くわ」
「姫様、しかし・・・」
「ルスラン、あなた、マイナス20度の吹雪の中で雪洞を掘って一夜を過ごしたこと、ある?」
「えっ?そ、それは・・・・」
「私ね、両足の小指が無いの。凍傷で腐って落ちちゃった。あ、これは前世の事なんだけどね。17歳の私はルバノフと二人でシベリアを東に逃げたわ。イルクーツクに入る前くらいだったかしら。次の村まで冬の森を歩いてたら夜になっちゃってね、雪洞を掘ってルバノフと二人で夜を明かしたの。そんな事が何回かあったわ。だから、あなたとあなたの私兵20人もいるんだったら大丈夫よね」
「そんな事が・・・」
「だからね、ルスラン、私とロシアを守って欲しいの。これはルスランにしか出来ない事なのよ」
こういう言い方をすればルスランは断れないのよね。この半年間でだいたいわかってきたわ。
「姫様、そこまで私を頼りにしてくださっているのですか。不肖このルスラン、命に代えましても必ず姫様をお守りいたします!」
よし、計画通り!
「アナスタシア、俺もあなたが行くのが良いと思いますが、あなただけ行かせるのはちょっと不安ですね」




