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私のわがままな自己主張2(プロット)  作者: とみQ
第4章 女の戦い
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田川芽以2

「お疲れ様でーす!」


私は携帯の画面を確認しながら事務所を出ていく。

夕方5時前(といっても真っ昼間のような明るさだけど)になってようやく洗い物とバイキングが片付いた私は上がることが出来た。

おそらく後30分もすればディナー客が押し寄せてまたみんなひーひー言うことになるんだろう。

大変だろうけど、みんな頑張ってね!

私は予想以上の忙しさで、疲労感を体いっぱいに感じながら、牛藤を後にするのだった。


結局最初の挨拶以来、志穂姉と会話することはなかった。

ホールのみんなを休憩に入れて、片付けを1人で受け持っていたのもあるんだろうけど、やっぱり避けられていたんだろうか。

だとしたら、志穂姉は私の事情を知っている。

悪い方に誤解された形で。

そしてそれを伝えたのは陽子さんではなくて・・・。


「もう帰るんだ?」


そんな時、私が裏口から出てきたのを見計らって、声を掛けてきた人がいた。


「こんなところでどうしたんですか?芽以さん。」


私は裏口に立ち止まり、声の主を見つめた。


「めぐみを待ってたんじゃん。」


芽以さんはいつもの雰囲気とは少し違って、勝ち誇ったような、優越感に浸っているような、そんな挑発的な表情に見える。


「私を?どうしてですか?」


とにかく私は極力冷静に相手の出方を見てみることにした。


「ちょっと確認と、話をしたかったから。」


芽以さんは腕を組んでこちらを見ている。


「確認?」


「めぐみ、あんた結局牛藤辞めることになったの?」


唐突な質問。

やっぱりそんな目的か。

自分が仕掛けたことに対しての結果を確認したかったのだろう。


「・・・何でそーなるんですか?」


私は質問を質問で返す。敢えて何も知らないフリを貫いてみるのだ。


「何でって・・・あんたがあーしの財布から二万円盗んだからじゃない!」


芽以さんは眉間にシワを寄せて私に叫んだ。

私の淡々とした態度が気に入らないのか、先ほどから私が見てきた芽以さんとは異なる雰囲気ばかり見せられている。

そして言葉の勢いから私に対してイライラしているのも伝わってくる。

その言葉から陽子さんに今回の件を話した人はこの人だと確信した。

それによって私は少し悲しい気持ちになった。

芽以さんのことを私は好きだったから。

要するに、私にいなくなってほしいという行動の表れを見せられて、悲しいのだ。


「・・・盗んだって・・・。証拠はあるんですか?」


その言葉を聞いて芽以さんは目は笑ってはいないけど、口元はニヤリと歪めて私に言った。


「陽子さんから聞いたっしょ?お札の番号があんたの財布に入ってた一万円札の番号と一致してて、あーしの物だから返せって言われたんしょ?」


「お店で一緒に働くスタッフの財布からお金盗むようなやつ、陽子さんが置いておくわけないもんねえ?」


「芽以さんが陽子さんに頼んだんですか?私が怪しいって。」


私は具体的なことは陽子さんからは聞いていなかったけれど、大体察しはついていたので、芽以さんの話しに乗っかりつつ、情報を聞き出すことにした。


「そうよ。だってあの日あーしの財布からお金を盗めるタイミングがあったのはあなただけだもんね。休憩中に事務所に入ってきたのはさ。」


「・・・というか、私が盗んだんじゃなくて、芽以さんが私の財布に二万円入れたんですよね?」


「は?何で私がそんな足長おじさんみたいなことしないといけないわけ?何のメリットがあって?」


「あの日、私をわざわざ陽子さんに呼ばれたって嘘をついて事務所から出ていくように仕向けましたよね?私が鞄を置いていった隙に財布に二万円いれたんでしょ?泥棒に仕立てるために。」


「ふん。そうね。だからってもう今更覆らないし。あーしがおもいっきり被害者面しといたから。」


芽以さんは意外にあっさりと自分の行動を肯定した。

私としても、聞き出したいことはもう聞けたので、今度はこちらから話していくことにした。


「そうですね。私が盗んだってことを演出したかったんでしょ?私を悪者にして、牛藤から遠ざけたかったんでしょ?普通わざわざ恨んでる人に高額なお金を財布に入れようなんて思わないですもんね?普通は取られた人が騒げば取った犯人探しになりますもんね?わざわざ番号まで控えて、二枚入れとけば一枚は残ると思ったんですか?昔やってたバイト先でお金盗まれたから番号控えるようにしたとか言ったんですか?でもね、たまたまうまくいったからよかったけど、私が浪費家だったり、貯金したりしたらうまくいきませんでしたけど、バカなんですか?随分と回りくどいですね。」


私は思っていたことを、敢えて挑発的に捲し立てる。

みるみるうちに芽以さんの表情に怒りの色が浮かび出して。


「何よ!?あんたマジ生意気だから!年下のクセに説教とかマジ何様!?早く辞めなよ!そんなこと言ったって結果、うまくいったんだからあんたはもう皆から泥棒扱いされてんの!わかる!?マジウザいんですけど!」


「はー・・・。」


私はそんな芽以さんの勢いに気圧されることなく、代わりに明らかにわざとらしいため息を大きくついた。

それによってさらに芽以さんの勢いがヒートアップする。


「何!?マジ何なの!?ため息とか!バカにしてんの!?」


今にも胸ぐらを捕まれそうな勢いだ。少なくとも大きく詰め寄られて体が密着する距離にはなっている。

だけど私は、そんなこと構わずに胸を張って言い返す。

その拍子に、芽以さんの胸がぽよんと私の体に当たる。


「というか、工藤くんのことが好きなら別に勝手にしてくれればいーじゃないですか。私別に邪魔するつもりなんかなかったし、ただの濡れ衣です。私にこんなことしても無駄です。要は工藤くんが芽以さんと付き合うかどうかってだけで、2人が両想いなら私がいたって関係なくないですか?私がいないところでどうぞご勝手に。」


「なっ!?何言ってんの!?マジ意味わかんない!もう何なの!?」


急に工藤くんの名前を出されて頬を赤らめる芽以さん。

気づかれていないとでも思ったんだろうか。


「いや、こっちが何なのですって!芽以さん解りやすすぎだから!」


ばつが悪そうな顔ではあるけれど、再び芽以さんは怒りだした。


「・・・!?くっ・・・!うるさいのよ!とにかくあんたはもう泥棒扱いでクビだから!もう終わりだから!」


負け惜しみのように頬を赤らめながら言い返す芽以さん。

あくまでも私がクビになるのは確定だと思っているらしい。


「あー。あのー。それにつきましても、多分私もう首にはならないかと。」


私はポケットから携帯を取り出して、画面を見せた。

それを見せられた芽以さんは驚きと戸惑いの表情になった。

それを見せられただけでは事態がうまく飲み込めないらしい。

画面表示には茜ちゃんの文字。もちろん通話中だ。

多分そろそろ仕掛けて来るのではないかと予想していた私は、昨日のうちに茜ちゃんに相談して、この事を伝えておいたのだ。

もし夕方、私から電話があったら私が話さなくても通話中にしたまま話す内容を聞いていてほしいと。

そして録音もしておいてほしいと。


『あー。女の恨みって恐ろしいですねー。でも芽以さん、お兄ちゃんのことそんなに想ってくれてありがたいですねー。ある意味尊敬しますー。』


「えっ!?これは・・・ちがっ、違うからっ!」


ようやく事態が把握できてきたのか芽以さんはみるみるうちに顔色が青ざめていった。

芽以さんが私の発言に対して予想通りの返答をしてくれたので、2人の会話の内容を聞いたら誰だって芽以さんが犯人扱いとなってしまうだろう。

ちょっと意地悪かとも思ったけれど、私も私の生活があるんだし、こんな形で邪魔されるなら、白黒はっきりした上で、嘘のない話し合いをしたい。

やったやってないの水掛け論になるのは御免だ。


「ちなみに茜ちゃんの方で録音済みですからこのやり取りを聞いたらさすがに皆、芽以さんの痴情のもつれだったんだなってなるのが濃厚じゃないですか?キャラ変わっちゃってるし。」


「あ・・・マジ・・・何なのよ・・・。」


芽以さんはワナワナと震えた後、その場にくずおれるように膝を着いた。

あっけなかったけど、正直作戦も稚拙だったし、何よりこの場に芽以さんが現れてくれたことが早期解決に繋がった。


やっぱり私は生意気な年下だと思いつつ、ふぅと小さくため息を漏らす。

私としてはまだこれで終わりというわけではない。

このままだとただやり返しただけの意地悪にしかならないのだし。

そもそも芽以さんに思い知らせるのが目的ではないのだから。


「あの・・・芽以さん。」


「・・・何よ!じゃあもう好きにすればいいっしょ!?」


自分の作戦が全て裏目に出てしまう形となり、芽以さんはもう半ばやけくそ気味だ。


「いや、別に何もしませんよ。」


私は当然のように即答する。


「えっ!?」


芽以さんは驚いて顔を上げた。

そんな顔されると逆に傷つく。私にどれだけ酷いことをされると思っていたんだろう。本当に心外だ。


「だから私別に邪魔するつもりないって言ってるじゃないですか。」


そうなのだ。それでもやっぱり私は芽以さんのことが嫌いにはなれない。


「マジ?・・・あーし。めぐみに酷いことしたのに?」


「こんなの酷いことに入りませんよ。ホントに嫌がらせするならもっとありますって!」


「え?・・・そ、そう?」


目を瞬いて私を見やる。


「そうです!使ってる自転車壊したり、バイキングのコンテナの中にこっそりゴキ○リ入れて私の責任にさせたり、人をお金で雇って私にクレーム入れさせ続けるとかも効果的かもですね!あとは工藤くんに私の中学時代の闇を教えるとかすればもうライバルにはなり得ないですよ!?」


私はサクッと思いつく作戦を連ねてみた。


「・・・何かめぐみってたくましいわね。あと闇って何よ。」


「うふ。・・・それはまあ秘密ですけど。」


しばらく呆気に取られた顔をしていたけれど、やがて気が抜けたのか、


「・・・ぷっ!めぐみってホントワケわかんない!」


と笑いだす。


ようやく笑ってくれた。


「そうですね。私も最近自分で自分がよくわかんなくなってきました。」


それは本当に本音だ。人の心なんて簡単にコロコロと移り変わってしまうものだ。しかも自分の本位ではない方向に。だから迷いもするし、後々考えるとよくわからないような行動を取ってしまったりもするのだ。だから私は今回のことは怒ったり、芽以さんのことを嫌いになるというようなことではない。


「何ソレー。マジウケるんだけど!」


芽以さんは先ほどとは打って変わって、目に涙を浮かべて笑いだした。私のことを恨んでる位の勢いだったのに、その人にいっぱい食わされた後にそんな笑顔が出来るなんて、中々強者だなと思いつつ、うまく和解出来そうな気もしてきた。

さて、そろそろ今が一番いいタイミングだろうか。


「・・・。あの、芽以さん。この前は生意気言ってごめんなさい。」


私は改めて芽以さんに謝った。

確かに芽以さんに嫌がらせされたことは事実だけど、これを招いたのは私にも原因があるのだから。

年下のクセに生意気に説教じみたことを言ったのも事実だし。

だから、私としてもしっかりと一度謝っておきたかったのだ。


「・・・あー。あーしもゴメン。正直どうかしてた。めぐみのことよく知りもしないで、何焦ってたんだか。」


ぽりぽりと頭を掻きながら、芽以さんも謝ってくれた。

よかったー・・・。

私はここにきてようやく、心の中で安堵の声を漏らしたのだった。


「ホント、焦らないでくださいよ。」


思わず心の声が漏れてしまう私。


「・・・やっぱり生意気。」


とは言え、こうしてようやく本当の意味で芽以さんと打ち解けられたような気がする。


「すみません。・・・でも、芽以さん?」


「ん?何?」


「そんなに好きならいっそのこと工藤くんに想いを伝えたらどうですか?」


私は不意討ちのように工藤くんのことをけしかけてみた。

そう。芽以さんは思ったよりも奥手だから、工藤くんにも好意が全く伝わっていないのだ。まずはそこを改善しないと。


「・・・うん。そうしてみよっかな。」


すると彼女は、意外にもあっさりとOKした。

もしかしたら、どちらにせよそろそろとか思っていたのかもしれない。

私という芽以さんの中のライバルが現れて、いい刺激になり、動き出すきっかけになれたのかもしれない。

そして私は私で、言い出したのはこちらなのに、芽以さんの想いを伝える宣言を聞いてチクリと胸が痛んでしまう。

本当に面倒くさい。


「はい。アイツ、バカだけど、根はすごくいいやつだから。きっと真剣に考えてくれますよ。芽以さんのこと。」


「うん。知ってる。」


即答だ。そしてまたチクリ。


「ですよね。」


「・・・うん!あーし、今度告ってみるわ!」


芽以さんの声が夕焼け空いっぱいに広がっていった。

これで一旦、全て丸く収まったようだ。

胸はチクリチクリと痛むけれど、やっぱり私は、芽以さんのことが好きだなと思った。


「だから最初からそうしてくれればよかったのに・・・。」


再び心の声が漏れてしまう。

だって無駄に疲れたんだもの。


「あっ!?だから悪かったって言ってっしょ!?ほんとマジ根に持つんだから!」


色々打ち解けられたら改めて胃が締め付けられそうだ。女の子の恨みって恐ろしい。ほんとに恐ろしい。


「いや、普通こんなことされたら引きますって・・・。私だったからよかったものの。もうちょっとこう・・・話し合いだけで解決できなかったのかなって・・・。」


「あー。まあ。ゴメン・・・。あーしも頭がカーっとなってどうしたらいーかわかんなかったんだってば。」


でも結局お互いにギリギリのところで和解できたのだからそこはよしとするしかないよね。

2人とも割とあっさりした性格だったのも幸いしたのかなとも思う。

普通だったら一生絶交とかなってもおかしくない気がする。

ただそれでもまだ問題は残っているのだけれど。


『青春ですうー。茜感動ですうー。』


「・・・!まだいたの!?」


なんてやり取りを終始聞いていた茜ちゃんがうるうるした声をあげていた。

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