第1話 捕らえる者 6―1
「…暑い」
4月。
学生や新社会人が新たなスタートを切るこんな春先にも関わらず、まるで真夏ような暑さだ。
こんな気温じゃ俺はいつか布団の上で干からびてしまうんじゃないかと錯覚するほどに、とにかく暑い。
…自分の部屋の位置も位置だ。
夏は太陽がカンカン照りで、熱がこもりやすく、冬は逆に冷えやすくなる。
こんな最悪コンディションの部屋があるだろうか…?
いや、絶対ない。あってたまるか。
…しかしながら絶対ないはずのその部屋がこの俺の部屋なのだ。
如何にして気持ちよく寝るかをモットーとしている俺としては、これは由々しき事態だ。なにか対策せねばなるまい。
…あ、だめだ。すげーめんどくさい。
そもそもこのコンディションは部屋の位置が問題なのだ。
二年前から荷物が窓まで積まれてしまって、通気性も悪いこの部屋でもはや対策も何もない。
…そうだ。寝よう。心を無にすれば、何も聞こえないし、なにも感じない。
寝れば全ての枷から、俺は解放される!
そうと決まれば早速寝…
PLL…
その瞬間を狙ったようにスマホの着信音が部屋に鳴り響く。
「んだよっ…人がせっかく寝ようって時に…」
着信表示を見ると「吉井康弘」と表示されていた。
親友様からラブコールってか?勘弁してくれよ…
しぶしぶ俺はその着信を受ける。
「…もしもし?」
『…そのトーンの低さは…広嶋、またお前サボりか?』
…こいつはほんと、人が言いたくもないことをづけづけ言ってきやがる。
確かに今日は平日だ。みんな学校行ってる時間だ。
特に大学は高いお金を払って行ってるんだから行くのが当然かもしれない。
…だが、それは世間一般の考えにすぎない。
俺は他とは違う!常識に縛られてなるものか!
よし、ここは親友様をだまくらかして、見事俺は平日昼間でも寝る権利を確立することにしよう!!
「いや、サボりじゃなくてな?実は今風邪を『風邪なら先週治ってピンピンしてるぜとか言ってなかったか?』…チッ」
野郎…俺の言動を把握してやがる…。
さすがは俺の親友と言ったところか。
…しかし、それで諦める友幸様じゃないんだぜ?親友よ。
「実は今宇宙人が来てて襲われてましてね…?」
『…もうちょいマシな嘘つけよ』
くそう!自分でも思ったことを言われた!
そうですよ!俺は元々嘘が絶望的に下手なんだ!
だからこういう「休む理由を問いただされた時に咄嗟に嘘つく」なんて器用なことができるか!
『…まぁ、確かにサボりたい気持ちはわからんでもない』
お?まさかの答えが返ってきたぞ?
『俺もたまに学校は休みたくなる…難しくて講義聞いてても分からないところはあるし、講師の喋りも早い。…すっごく辛い気持ちはわかる』
お?お?これはまさかの「休みたい気持ちはわかる…今日だけは許してやる」的展開か?
…よし、これに便乗して俺が休む方向に!!
「だよなぁ…正直そんな気分じゃなくてさ…だから今日は休もうかなって…」
『でも広嶋今単位やばい講義じゃないか?今日の講義』
「…へ?」
咄嗟にスマホを耳から離し、学校のホームページからログインして、日程表を確認する。
「休める日数…全部使ってる…」
全体的に今日の講義全ての教授がなにを思ったのか
共通の休める日数の5日を、難しいから聞いておくべきだと理由なしの休みを二日に変更してしまったのだ。
これは…確かにやばい…
留年した時、母さんにドギツイ雷を落とされたことを思い出し、ゾクッと身を震わせる。
『おばさんは忙しいから、この事実は知らないだろうけど…知られた時は…どうなるかな?』
…ふっ…馬鹿だな康弘。
こんなことで、俺が休むことを諦めると思うか?
「…30分くらいでそっちに行きますですはい。」
『よろしい♪』
…うん、そうです。
俺はこういう脅しでへし折れる力無き人間です…。
こうして俺、広嶋友幸は抵抗虚しく、二週間ぶりに学校へと足を運ぶことになったのだ。
これから待ち受ける「めんどくせーこと」に巻き込まれるとも知らずに。
一話目序盤です!
なかなかに構成が難しいですね…
よろしくお願いします!
第1話(1-6)登場人物紹介
・広嶋友幸
本作の主人公。
とあることをきっかけに人と深く関わることをしなくなった青年で、大学二年生。だが年齢は21歳。
普段は引きこもりがちで、講義を休めるギリギリまで使い、なるべく一人でいることを好む。
・吉井康弘
友幸の親友。かなりのお調子者だが情に熱く、親友である友幸を留年させたことを後悔し、積極的に発破をかけるようになる。かなりのオカルト好き。




