31話 ある人を彷彿とする一太刀
位置情報に従い、次なるゴーストを追跡していた私たちは、最初のゴーストの戦いの場所から三十分ほど歩き――
「ん。このショッピングモールに二体のゴーストがいる」
臼井先輩が足を止める。
目の前には大型のショッピングモールがそびえていた。エントランスには休館日を知らせる看板が立てられている。
休館日だからか、照明は最低限で館内は薄っすら闇に包まれていた。
「開かないかあ」
休館日なので当然と言えば当然だが、扉は開かず反町先輩の落胆の声が響く。
私は、端末から『学生証』アプリを起動して、タブにある、『鍵』をタップする。
すると、充電部分の真反対から、”角”という名の鍵が生えてきた。
この鍵は”オールマスターキー”と言って、これ一つであらゆる全ての建物の施錠を解除できてしまう。
文字通り、万能キーとなっている。
「私も少しながらお手伝いをします」
「おー! 気が利くねえ。ありがとう」
「ん。ありがとう神崎さん」
二人の感謝を受け取り、私は鍵穴に鍵を突きさし反時計回りに回すとガチャッと音が立つ。
「どうぞ、先輩たち」
私は取っ手を引いて、扉を開けて先輩たち二人を先に入館させる。
二人は感謝を述べながら、開けられた扉に体を通す。二人の後に続き私も入館。
中は静けさが染みわたり、私たちの足音のみが響く。この広大なショッピングモールからゴーストを探し出すのは骨が折れそう……と思っていたら――
「「きしゃああああああああああ!!」」
黒板に爪を立てたような鳥肌の立つ声と共に、上空から二体のマネキンが、どん、どん、と地面に衝撃を与えながら落下してきた。
頭のない二体のマネキンは人間の如くしなやかな動きでゆっくりと立ち上がると、片手に持つ包丁を私たちに見せつけるようにして前に突き出す。
先程のウサギのゴーストと対峙した出来事があったので、私は足が竦むことはなくなっていた。
再び反町先輩と臼井先輩は私の盾になるように互いに肩を寄り寄せ合って刀を構える。
「「きしゃあああああ!!!」」
二体のゴーストは、気性荒い雄叫びと共に駆け出す。
中々のスピードではあるが、目で追えない程ではない。
間合いに入ると、二体のゴーストはそれぞれ別のターゲットに向かって乱雑に包丁を振るう。
カーン!!
ゴーストたちの無作為に振るわれた刃はどちらも相手を傷つけるに至らず、反町先輩、臼井先輩の刃に阻まれてしまう。
「「はあああああ!!」」
次はこちらの番と言わんばかりに臼井先輩と反町先輩は咆哮を発しながら、両者とも受け止めた刃を押し返した。
ゴーストは押し返された反動で、体が後ろに大きくのけ反りバランスを崩してしまう。
致命的な隙を晒したゴーストたちに追い打ちをかけるため先輩たちは、上へにと押し上げた状態――万歳からそのまま刀を振り下ろす動作に鏡合わせで移行した。
――決まった!
そう確信した私。
「「ぎしし!」」
まるで私の確信を浅はかだとでも言いたげな嘲笑いを浮かべるゴーストたち。
彼らは、包丁を持たない反対の手を少し横に伸ばし、疑似的な合掌を作ると、曲げていた肘を思いっきり真っ直ぐに伸ばして、互いを真横に吹き飛ばした。
ひゅんっ!
先輩たちの刃を危機一髪で回避して退けたゴーストたちは、横に滑空する体を、まるで体操選手のように、捻ったり、回転させたりして、軌道修正を施し、壁に綺麗な着地を決めた。
そして、そのまま壁を蹴って、反撃へと転じる。
同タイミングで先輩たちも各々照準したゴーストに向かって駆けて迎撃する。
そこから、戦闘は苛烈さを増し、途切れることのない金属音が館内のBGMとしての役割を果たす。
傍から見たら両者拮抗状態と思われるも、時折、「ぎしゃっ!?」とか、「ぎゃっ!?」などの悲痛な声がゴーストから漏れており、それがBGMの調和を乱していた。
時間が経つにつれ先輩たちの動きは洗練されていき、刃がマネキンに必中する数が増えていく。
気づけば、金属音よりもゴーストの悲鳴が多くなり――
盤面は最終局面へ。
「「きしゃああ!」」
もう何度見た光景か、ゴーストが悲痛と共に壁に叩きつけられる。ただ、さっきと違うのは、ゴーストは攻撃を仕掛けることをしなかったことだ。
「き、きしゃ、きしゃ」
「きしゃ、きしゃ! きしゃきしゃ」
まるで許してくださいと言わんばかりに、熱烈な命乞いをするゴーストたち。
この戦いで先輩たちの強さを身をもって体感し、自分達では及ばないと判断したのか、もう戦意は喪失していた。
コツン!
先輩たちはゴースト二体の前で立ち止まる。それを合図にゴーストたちの鳴き声も止む。
あの激しい戦闘が嘘のように今は静寂に満ち溢れていた。
あれほど狂喜乱舞していたゴーストも、この静寂さに飲み込まれてか、何も発することなく、黙って審判の時を待っていた。
私とゴーストたちが固唾を飲む中、ついに審判が下された。
ヒュン!
振るわれた二刀は同じ音が同時に重なった。
下された審判は無慈悲な一太刀。
その一閃は、息を呑むほど美しく、半年前に見た雫さんの一太刀を彷彿とさせた。
「「きしゃあ……ああ」」
ゴーストたちはどうして? と言わんばかりの哀愁に満ちた微かな断末魔を上げながら、姿を無数の小さな粒子に変えて、天へと召されていった。
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どさどさっと二体のマネキンは地にひれ伏し、それが先輩たちが勝者である確固たる証拠だった。
「どう? どう? 神崎さん。私達かっこよかった?」
倒れたマネキンに一瞥することなく、反町先輩はいち早く私の元へと駆けつけ、おもちゃを買ってもらった子供のようなキラキラした瞳でこちらを覗き込みながら、戦いに臨んだ自分たちの勇姿について再び感想を聞いてくる。
「はい! それはもう、凄くかっこよかったです!」
私は先輩たちの凄さをもっと表現したいのだが、悲しいかな。語彙力が乏しい私には、凄いとしか表現できない
「やっぱり……だめか……」
「?」
「ううん、何でもない! よかったよかった、先輩のカッコいい姿を見せれて」
反町先輩はぼそぼそと何かを言っていたが、私は何一つ聞き取ることが出来なかった。
疑問符を浮かべる私に反町先輩は、今の言葉を誤魔化すように「何でもない」と言うと、私にカッコいい戦う姿を見せれて安堵する。
「ん。学院に任務達成の報告を入れたから、帰還する」
「りょうかーい」
「はい、分かりました!」
臼井先輩の言葉に私と反町先輩は頷くと、私たちは学院に戻るためヘリに向かうのであった。




