思いやりの心
ふんすっ!と気合を入れて、了承の意を伝える。すると執事さんは、少し驚いたように目を開いたが、ふっと微笑んだ。
「お嬢様…本当に成長されましたね…」
彼はまた涙目になっている。父親に会うだけでこんな大袈裟な反応されるって、どれだけ会っていないのかな。
「おおげさね」
笑うと、執事さんも微笑んでくれた。そうして、和やかな雰囲気のまま執事さんは退出しようとしたのを引き止めた。
「それでは旦那様に了承の意を伝えに…」
「しつじさん」
「如何なさいましたか?」
引き止めるとすぐに反応してくれる。小さいからと見くびるのではなく、しっかりと対応してくれようとする心意気がわかって、嬉しくなった。
「おなまえ聞いてもいい…?」
と申し訳なさそうに問いかける。すると、彼はきょとりとした後に破顔した。
「おや、申し訳ございません。ソルステラ公爵家の筆頭執事を務めさせて頂いております。シルヴァと申します。」
「しるゔぁさん」
ぐぬ。とりあえず呼んでみたけれど、堂々と噛んだ。そうしたら、執事さ…じゃなかった、シルヴァさんはくっと堪えるように咳をした。今、絶対笑おうとした。
「お嬢様には少々発音しにくい名前ですよね。どうか“さん”などつけずにどうぞシルとお呼びください。」
ナイスフォロー!このフォロー力こそが鍛えられた執事さんなのね!!
「ありがとう、シル」
少しづつ、セレスティアに関わる人達を知っていけることが嬉しい。そして何より、新しく人の名前を覚えれること、様々な人と関われることが、本当に嬉しいことだと改めて実感する。
「……」
そこまで考えてふっと思った。急に黙ってしまったせいか、シルが心配そうにこちらを見た。
「セレスティアお嬢様?もしや体調が優れませんか?」
心配して私のベットの近くまで寄ってきてくれた。
あまりの優しさに、身分があるこの世界ではかなり身勝手だろう、思いついてしまった願いを言いたくなってしまう。
「……わがままを聞いてくれる?」
急にそんなことを言ったのに、シルは優しく微笑んで、目線を合わせてくれる。
「私にできることならば何なりと」
彼は真っ直ぐと私を見て、何の躊躇いもなく答える。その優しさに背中を押されて、恐る恐る言ってみる。
「セレって…呼んでほしいわ」
彼の目は、今までとは比べ物にならないほど、目がまん丸になった。やっぱり身分差の壁は大きいのかな、しょぼんと下を向いた時だった。
「わがままのうちに入りませんよ、セレ様。」
大切そうに私の名を呼ぶ優しい声が聞こえて、顔を上げると彼は涙目…どころではなく、本当に涙を流していた。
「シル!?だいじょうぶ!?」
さすがにびっくりして、ベットの端ギリギリまで彼の方に寄る。そして、きっちり整えられた白髪が混じったグレーの髪をそっとなでる。よしよし
「セレ様…」
ほろほろと透明な涙が流れていく。彼が、セレスティアを大切にしてくれていたことが、痛いくらいにわかった。
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しばらく経った頃
「申し訳ございません。お見苦しいものを見せてしまいました。」
綺麗な刺繍があるハンカチで目元を抑えながらシルは言う。彼がほろほろと泣いている間私は、ずっと彼の頭を撫でていた。先程まで泣いていた彼の目元はほんのり赤かった。
「いいえ、わたくしが泣かせてしまったのだから」
「いえ!私が勝手に泣いただけですので」
「でも、」
「でもではございません」
言い訳をしようにも、即座に否定される。それが可笑しくてふふふっと笑いだしてしまう。それを見て彼もつられたように微笑む。
「これからもよろしくね。シル」
「こちらこそでございます。セレお嬢様」
そう言って、微笑み合った。




