彼女を知る
ーーチ、チチ
鳥のさえずりで目覚めた。
「ふわぁ…」
伸びをしながら、欠伸する。目を擦りながら、周りを見渡す。すると、そこはもう慣れてしまった可愛いお部屋。ここはどこなんて、もう言いません。
「そろそろ現実逃避は終わりにしないといけないわね」
ふぅと息を吐いて、気合いを入れ直す。
まず、私の名前は、東条 芹那。前世では普通の患者だった。患者な時点で普通じゃないっていうツッコミは聞きません!小さい頃から病院暮らし。家に居た時間よりも、病院にいた時間のが長い。
「ここにいる感覚がある時点で、死んじゃったのかしら…」
そう考えるとかなり寂しい。けれど、家族には愛されていたし、幼なじみ達とも、楽しい日々を過ごせて本当に良い人生だったと思う。
余命宣告を受けた時に『芹那のやりたいことぜんぶやろっ!!』って泣きながら言ってくれるような、そんな人達。私にはもったいないくらい良い人達だった。
かなり無茶なお願いもしてしまったけれど、願ったことはやり遂げてくれた。優しい、私にととってとても大切な人達。
いい人生だったのは認める。けれど、心残りはいくつかある。それを神様が憐れんだのかな。
気がつくと、後悔ばかりだ。でも、今は──
「落ち込んでても仕方ないのだから、頑張らないと…!」
持ち前のポジティブさで無理やり前を向く。どれだけ後悔しても、変えたいと願っても、過去は何も変わらない。だから、未来を変える努力をしたい。
「そういえば、今のわたくしってどんな感じなのかしら…?」
セレスティアと会った時、すっごく美少女!ということしか覚えていなくて…興味が湧いて、部屋の中に鏡を探す。
小さい体には大きすぎる部屋を見渡すと、可愛らしい化粧台を見つけた。私には、少し高い椅子だったが、頑張って登って鏡を見てみる。
「わぁ…!」
思わずそう呟いてしまうほど可愛らしいお人形みたいな女の子がいた。10人中10人が美少女判定するであろう美しさだ。思わず見惚れていると、ずっとその美少女と目が合っていることに気づいて、思わずポカンとしてしまう…
「…え!?」
驚いて、小さな手で顔をぺたぺた触る。そうすると、鏡の中にいる女の子もぺたぺたと顔を触っていて…
「これが、わたくし!?」
鏡に映る儚げな美少女は、シルバーグレーの髪に、形のいいぷるぷると潤った唇。透き通るほど白い肌に、綺麗に整った鼻。極めつけは、儚げに輝くバイオレットの瞳。
大人になったら、絶世の美女と呼ばれるだろうなと思うくらい顔が良い。
(この顔で生きていくの…!?)
*
コンコンコンとドアを叩く音がする。顔をガン見していると変に思われるだろうと思って、急いでベッドに戻る。
「お嬢様。起きていらっしゃいますか?」
私が寝ていると思ったのか、小声で問いかけてくれた。優しい気遣いに思わず微笑む。
「ふふっ、起きているわ。入って」
ごく自然に、入室の許可を与える。セレスティアの行動を体は覚えているようで、少し安心した。
「失礼致します」
扉が開く。声が違うから分かっていたが、彼じゃないことに少しがっかりしている自分がいる。
ちらりと入ってきた人物に目を向ける。見て分かるほど上品で物腰柔らかそうな老紳士だった。さすが公爵家の執事さん。
そんな執事さんは、一歩も部屋に入っていない状態で、私を見て何故か固まっている。
「どうかしたの…?」
思わずそう声をかけると、執事さんはハッとして、美しい動作で扉を閉めると、こちらに近づいてきた。
スっと、ベットサイドに膝を着く。目線があった時、彼の目に、涙が溜まっていることに気付いた。いきなりだったため驚いたが、あまりにも嬉しそうにしているから、つられて笑みが浮かぶ。
「セレスティアお嬢様…お体を自力で起こせるほどご回復なされたようで…何よりにございます…」
しみじみと言われ、少し反応に困る。セレスティアは身体がかなり弱かったのだろう。様子から察するに、執事さんは、彼女のことを心配してくれていたみたいだ。
「ありがとう」
そう笑う。執事さんも嬉しそうに笑い、和やかな雰囲気になる。けれど、本題を忘れてはいけない!
「ところで、わたくしに用事があるからおへやにたずねてきたのでは無いの…?」
「おや、私としたことがすっかり忘れておりました。」
私が緊張しないようにしてくれているのか、和やかな雰囲気のまま、目線を合わせて話を続けてくれる。
「お嬢様、お身体に異変などはございませんか?」
そう聞かれて私は、キョトンとした。少し考えてみる。
「いへんかは分からないけれど…いつもより体がかるく感じるわ」
正直に答えた。最初に目覚めた時よりも、体が圧倒的に軽く感じる。寝て疲れが取れたからかなと思っていたけれど、違うような気がしてきた。
「左様でございますか…」
執事さんは少し思うところがあったのか、考え込んでいる。何かおかしなところがあったのかな、と不安に思いながらその様子を見つめる。その視線に気がついたのか、彼は安心させるように笑った。
「申し訳ございません。少し考え込んでしまいました。お嬢様がお元気なら嬉しゅうございます。それから、ですね…」
今まで、しっかりと私の目を見て話していてくれたのに、少し言いずらそうに目を逸らした。どうしたんだろうか。
「…お嬢様、旦那様がお呼びですが、如何なさいましょう…?」
私を気遣うような声で言われた。もしかしたら、セレスティアと、セレスティアのお父様は仲が悪かったのかもしれない。
けれど、今セレスティアの中にいるのは私。どうなるか分からないけれど、やってみなければ分からない!
「……いくわ」
やらずに後悔するよりやって後悔した方がいいって思うから!




